第三話 おちこぼれ王女の仕事
本日3回目の更新です!
イリニたちは迷わず廊下を突き進むと、別の部屋のドアが見つかった。そして、二人はドアをすり抜けた。あっさりと。誰かが見ていたら驚いただろう。だって、そんなこと魔法を使ったとしてもできないのだから。
「アル、いるの?」
イリニは部屋に入るや否や誰もいない空間に向かって話すと、突然目の前に執事服を着た男が現れた。
「はい、我が主。いますよ。」
「ええ、早速だけど、先ほど捕らえた間者に話を聞きたいの。連れて来て」
「かしこまりました」
アルと呼ばれた男は手を何もないところに向けると、そこから黒い装束を着た男を取り出していた。
「……アル。私は取り出せではなくて、連れて来いと言ったのだけど……」
「こちらのほうが確実ですから」
「まあ、そうだけど。あなたのことがばれたらね……」
「大丈夫ですよ。その場合、その者の記憶を消すか、殺しますから」
「……物騒ね」
「それを望まれたのは我が主でしょう?」
「……そうかもしれないわね」
「おや、意外と簡単に認めるのですね」
「ええ。それは、自分が一番自覚していたことだから」
「イリニ様?」
ティアが不安そうに尋ねるほど、イリニの表情はよくなかった。何かを後悔するような懺悔するような気持ちが顔に表れていた。
「大丈夫よ。ティア。それよりもその者を起こして、さっさと始めましょう」
「はい、我が主」
「はい、イリニ様」
?ここは……。その者が目を開けると全く知らない場所にいた。窓すらない小さな部屋。そして所狭しと並べられた拷問に使われるであろうものの数々。
そこでその者の意識は覚醒した。
そうだ!先ほどまで祖国に連絡していたはず。それから……いきなり意識が薄れて……もしかして、捕らえられた?
そう思って自分の体に目を向けると、手足に鎖がつなげられていた。それに気づくと先ほどまでは気にしていなかった鎖の重さがやけに重たく感じるようになっていた。しかも連絡に使っていた魔道具がなくなっていた。
どうにかして抜け出そうと鎖から逃れるためにあの手この手と試すが全く外れなかった。
どうして……?と疑問に思う男。この技で数々の手錠や鎖などから脱出してきたのに、この鎖には全く通用しない。このときになって焦り出す。
くそっ。どうして外れないんだよ!心の中で悪態をつきながら色々と試すが全くと言っていいほど無駄だった。
「ごきげんよう。私のことわかるかしら?」
鎖から抜け出すために頑張っていた男に突如、女の声が聞こえた。男はびっくりしてそちらに目を向けると、そこには先ほどまで観察していた対象の少女だった。
「王女殿下……」
「やっぱり私のこと知っているのね。盗み聞きなんて品のないことをする輩だったから、私のこと知らないのかと思ったのだけれど」
「お前……もしかして、気づいていたのか……」
「あら、私が気づかないとでも思ったの?」
「だって、お前は……」
「おちこぼれ王女だと言いたいの?生憎、今の私はおちこぼれ王女ではないの。仕事をしに来ただけの者よ」
「仕事……!まさか」
「そう、そのまさかよ。残念だったわね。この国の弱点を見つけたなんて、馬鹿なことを言ったものね」
「お前……俺を欺いていたのだな。虚偽の報告をするように」
「正解よ。こんなにあっさりと引っかかるなんて。馬鹿な人ね」
「貴様……」
男は忌々しそうにイリニを見ていた。キーナ国は昔からこの国を嫌っている。何度も何度も戦争に負け、その度ごとに、肥沃な土地を奪われているのだから。今ではもう瘦せた土地や住みにくい森ぐらいしか残っていない。餓死で亡くなる人も多い。確かにこの国を嫌うのは当たり前だろう。だが……。
「あなたが思っていることには、一つ間違っていることがあるのよ」
イリニは男の憎しみの籠った顔に臆することなく話す。
「間違いだと……?そんなのお前たちだろ!そっちからは戦争を吹っ掛けないって言っておきながら、色々と俺たちが死ぬようにしてきたじゃないか!」
「例えば?」
「食料が足りなくなるように、周辺他国から輸入できなくしたり、俺たちの田畑を荒したりしたじゃないか!しかも戦争に参加していない女子どもを攫ったりしたじゃないか!忘れたとは言わせないぞ!」
男がそう叫ぶと、イリニはやれやれと首を振る。
「はあ。……それが間違いだなのよ。」
「間違いだと!とぼけるな。全部本当のことだぞ!」
「そうではないの。やったのがこの国だということよ」
「はっ!他の国がこの国をはめたのだと言いたいのかよ」
「そうじゃないわ」
「だったら、何だって言うんだよ!」
男はイリニの煮え切らない態度に怒りを爆発させる。
「キーナの国王よ」
「国…王…だと」
「そう国王」
「でたらめ言うな!あのお方は、俺たち国民のために色々なことをしてくれた!そんな人が俺たちにあんなことをするわけないだろ!」
「そこまで予定に入っていたとすれば」
「何、わけのわからないこと言ってんだ!そんなはずはない!騙されないぞ、このペテン師め!」
「ペテン師ね……。まあ、あながち間違いではないけどね。これとは無関係よ」
「なんだと!」
「やれやれ、話が続かなくて困るわ。だけど、あなたは証拠を見せればこちらの言うことを信じてくれると思っているわ」
「はぁ。何わけのわからないこと抜かしてやがるんだ!」
「アルここに」
イリニは男が文句を言うのを気にせずただ淡々と指示する。
「はい、我が主」
アルがそう言うや否や、イリニと男の間に一つの箱が現れた。
「これが証拠よ。さあ、中を見てごらんなさい」
「誰が貴様なんかの言うことを聞くか!」
「はあ、しょうがないですわね」
イリニはそう言うと、自分で箱を開けて一番上のものを取り出して男の方に投げる。そのモノはクルクルと回転しながら男の目の前に落ちて、男の視界に入った。
「なっ!これは!……なんで、なんで、お前がこれを持っているんだ!」
男はそのモノを見るや否や、鎖をギリギリまで引っ張りながら、イリニに詰め寄る。
「さて、話せるようになったことですし。取引を始めましようか」
イリニは男に笑顔で話しかけた。