第二十九話 不自然な行動
お久しぶりです!
楽しんで読んでいただけると嬉しいです。
「これが、今日の報告書です」
真新しい燕尾服を着たロクは主であるイリニに紙の束を渡す。
「ええ、ありがとう。確認するから少し待ちなさい」
イリニはそう言うと報告書をパラパラとめくる。本当に内容を理解しているのか信じがたい速さでめくっている。実際、イリニに報告書を初めて渡したときには目を疑って、つい読んでいるのか?と尋ねてしまった。
イリニはさも当たり前だと言うように一語一句間違えずに暗唱した。俺はただ苦笑いを浮かべるしかなかった。
「……順調なことね」
「そうですね」
「では現状維持ということでいいわね」
「わかりました。……ところで、これはいつまで続けるのでしょうか?」
俺は疑問に思っていたことを尋ねる。なぜなら、……この案件が重要なことだとは思わないから。一般的に考えると。……だが、イリニはこれを積極的に行っている。他にもっと重要そうな案件がたくさんあるにも関わらず。
「……わたしが止めていいというまでよ」
イリニは相変わらず表情を動かさずに平然と言う。だが、ほんの少しだけ、わずかに体がぴくりとしたのがわかった。
「そうですか、わかりました」
俺はそれ以上は何も言わずに引き下がった。これ以上聞けば、イリニの逆鱗に触れるだろう。今だってだいぶ機嫌が悪そうなのに。
「……それでは、もう一つの案件についての報告を」
「はい。わかりました」
俺はそう言ってさっきよりも分厚い紙の束を差し出す。イリニはそれを受け取るとすぐに読み始めた。
どれくらい経ったのだろうか?珍しく時間がかかっていたように感じる。
「……これがあなたが調べられたことね……」
「何か不足していたでしょうか?」
イリニが珍しく言葉を濁した。その事実に不安になる。誰かの目がない限りはいつも堂々としているイリニ。そんなイリニがなんとも言えないような顔をしている。
「……いいえ。充分よ。私が想像していたよりはあなたは使える人みたいね。……だけど、一つ気になるところがあるの。……これはどういうこと?」
イリニはそう言いながら報告書の一部を指しながら尋ねる。
そこにはこう記されていた。
“第一王子レクスは書庫によく籠っている”と。
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ロクがその情報を手に入れたのは偶然のことだった。城の隠し通路を使いながらイリニ以外の王族について調べているとき、第一王子レクス専属のメイドと他のメイドが話しているのを偶然耳に入れたのだ。
「最近、殿下の様子がおかしいのよね」
「そうなの?」
「ええ。基本的に政治以外には興味ない人だったでしょう?なのに最近は書庫に籠りっぱなしで大量の本を読んでいるのよ」
「本を?それって政治の勉強なんじゃない?」
「それが違うのよ。歴史、伝承だけじゃなくて、小説までも読んでいたのよ!絶対におかしいわ!」
「それは確かにそうね。小説なんて一番嫌いそうな代物よね」
「ええ、だから心配で」
確かに、とこの話を聞いた時ロクは思った。今まで調べた情報を照らし合わせても、読む本のジャンルは不自然すぎた。何かを探しているのか、はたまた好きなモノが変わったのか。この場で確率が高いのは前者。
ロクは隠し通路を使い、こっそりと書庫へ行く。するとそこには、メイドたちが言うように第一王子がいた。彼は本の中に埋もれながら一冊の本を読んでいた。
“悪魔についての考察”