第二十八話 シュタインの悩み
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イリニはいつもと同じように王族らしからぬ態度だった。それが俺をさらに苛立たせる。
「おい!聞いたぞ!新しくメイドを雇ったらしいな」
「はい、そうですが……」
「いいか、お前にかけられる金はないんだ。それなのに、人を雇うとはどういうことだ?お前には必要ないだろう。外に出ることさえないんだから」
「ですが、彼女が困っていたようなので」
イリニにしては珍しく反抗的な態度を取った。驚いた。あいつでもそんな反応をするのか……。イリニはいつもオドオドしていて人に意見することはない。それなのに……。
そんなに新しく入ったメイドのことが好き……なのか?
……いやいや、何を考えているんだ俺は。まるでショックを受けているみたいではないか。……そんなんじゃない。俺はびっくりしすぎただけ。ただそれだけだ。
こっそりと深呼吸をすると、頭がすっきりした。さっきまで考えていたことなんて些細なこと。気にしなくて大丈夫。
俺は再びあいつの方を見る。
「じゃあ、どうするっていうんだ?」
「えっと……」
ほら、いつも通り。いい案なんて出せない。役立たず。
「民衆からの税を何の役にも立たないお前に使うのか?」
「それは!」
あいつは今にも泣きそうな顔で下を向いている。
「泣いたって解決しないぞ」
俺がそう言うとあいつは益々泣きそうになった。
「勝手にしろ!」
俺はそう言ってあいつの部屋を出た。
……俺はなぜか昔からあいつが泣くのは我慢できなかった。あいつの泣き顔を見るのがつらい。……おかしいな話だろ。嫌いな奴なのに、泣いているのが嫌。
あいつと関わると碌なことにはならない。だけど、第一王子のようにあいつを無視するのは無理だった。昔やろうとしたけど、一日も無理だった。なんでだろう?
俺は自分の気持ちがよくわからない。相談できることでもないし、どうしたらいいのかもわからない。しかもそれはイリニのことだけだ。他はこんな気持ちになることもない。俺はもう一杯一杯だった。
俺は自分の気持ちから逃げるようにいつもの秘密の場所に向かっていた。
「どうして泣いているんだ?」
声が聞こえた方を見ると、そこには名前を知らない使用人がいた。
「これで涙を拭けよ」
そいつはそう言ってハンカチを差し出してきた。
俺が第二王子だと思っていないのだろう。そいつははっきりと俺の顔を見ても何にも反応せずにただ俺が泣いていたことを心配していた。
「良ければ、俺の話聞いてくれないか?」
俺は初めて自分のよくわからない気持ちを人に話した。そいつは俺のことを馬鹿にせずに話を聞いてくれた。
このとき初めて王子としての身分に関係ない友人ができた。