第二十六話 新しい取引
第一章はこれで終わりです。
楽しんで読んでいただけると嬉しいです。
「さて、あなたには聞きたいことがあるのでしょう?」
そう聞かれたとき、俺は言い知れぬ恐れを感じた。俺の質問しだいでは殺されてしまうかもしれないと言うことを。
だが、俺は最も知りたいことを思うままに話すことにした。ここで色々と策を講じたってうまくはいかないだろうから。
「王女様たちが王を殺したのか?」
「ええ、そうよ」
イリニは表情も変えずに言い切った。
「……どうやってだ?」
「あら、それは教えられないわ。死にたくないでしょう?」
「……じゃあ、なんで殺したんだ?俺たちを助けたかったからってわけではないんだろう?」
俺がそう言った瞬間、王女の纏う雰囲気が変わった。
「私のことを詮索するのかしら?」
ゾッとするような声色で答えるイリニ。だけど、彼女はすぐに雰囲気を変える。
「……では、取引しましょうか」
彼女はあのときと同じ笑顔で言う。
「取引だと……?」
「ええ、取引。私の条件を飲めるのならば今回のあらましを教えても構わないわ。だけど私の条件を飲めないのであれば、話はここまでよ」
これは悪魔の囁き。きっと王女たちは何かを俺に求めているのだろう。確実に。俺にとってよくないことかもしれない。だが、俺は知りたい。
「わかった。じゃあ、その条件とやらを教えてくれ」
「私の手駒になることよ。私の手足となりなさい」
イリニははっきりとそう言った。
俺は一瞬迷った。なぜなら、それは俺が雇い主のところでやっていた仕事をやれということなのだから。いや、それよりも危険なことかもしれない。それでも……。
「わかりました。俺はあなたの手駒になります」
俺はいつもは崩している言葉遣いを正す。そして、片膝をつき頭を下げて言った。王女のことを新たな雇い主、自分の主としたことを示すために。
「いいでしょう。あなたを私の手駒とします。そして私が今回行ったこと、その理由について話しましょう」
そうしてイリニは話し出す。
その話はロクの想像を上回るほど遥かに重要な話でありながら、突拍子もない話であった。……そして彼女が抱えているものを知った。
それを知ったとき、俺はイリニという人物について理解した。彼女は必死なのだ。自分の仕事をやり遂げるために。
……だけど、それは間違いだった。彼女は本当のことを話していなかったから。しかもそのために俺は大きな間違いを招いてしまった。
王女が死ぬという事態を。