第二十三話 疑い
楽しんで読んでいただけると嬉しいです。
その理由はすぐにわかった。
城の中を進むうちに壁に細い線があるのを見つけた。しかもその線は四角形を形作っていて、隠し扉にみえる。これは何かある!と思い、俺は昔の傭兵仲間数人で、その扉らしきものを押した。すると、くるりと扉が回転し、俺たちは壁の中に入った。
そこは真っ暗で何にも見えなかった。……だが、
「何かいるな」
傭兵仲間の人がそうぼそりと呟く。
確かにその通りだ。何かの気配がする。人なのか動物なのか、そこまではわからないが。でも、明確な敵意はあるようでこちらに殺気を飛ばしている。
「気を付けろ。おそらく強い」
一人がそう呟くと同時に何かが襲ってきた。俺は腰に隠していた短剣を取り出してはじく。
大丈夫。腕は落ちていない。昔のままだ。
「おい!大丈夫か!?」
仲間の焦った声が聞こえる。
「ああ、大丈夫だ!俺が押さえておくから火を準備しろ!」
俺はそいつの攻撃に耐えながら言う。
相手はおそらく動物。狼か犬か。さっきから牙らしきもので噛みつこうとしてくるからな。
「よし、合図しろ!」
これは準備完了の合図。火をつけたということだろう。だが、この辺りはまだ暗い。つまり、火で強襲するつもりなんだろう。狼か犬なら炎が苦手なはず。
「今だ!」
相手の牙を弾き相手の態勢を崩すとすぐに叫ぶ。すると、火がついた棒が飛んできた。相手に向かって。
そのとき初めて俺はその姿を見た。恐怖した。
禍々しい。ただその一言につきる。生き物の形は狼。だが、輪郭がはっきりしない。まるで燃える炎のようにゆらゆらと動いている。そして体の色は全身真っ黒。
しかも投げつけられた火を飲み込んだ。木の棒ごと。
普通の生き物ではない。
呆然としていたのは僅か数秒だけだったと思う。だが、それが命取りだった。相手は俺の様子にお構いなしに攻撃してきた。
がぶりと俺は腕に噛みつかれてしまった。もの凄い激痛が走った。
「 !」
仲間が俺の名前を呼ぶ声がする。だが俺は痛みで気を失いそうだった。いや、痛みだけではない。何かが俺の中に入ってきていた。
「そこまでです」
男の声が聞こえてきたと同時に牙の感触が消えた。
ドサッ。何かが壁にぶつかった音がする。
「傷を見せてください」
そんな声が聞こえてきたと思うと、腕を掴まれた。
「ふむ。過剰な魔力が送り込まれたようですね」
男はそう言うと俺の傷口をそっとなでた。
「これで大丈夫ですよ」
男にそう言われるとなぜだか安心できて、俺は僅かに開けていた目を閉じて気を失ってしまった。
****
目を覚ますと、目の前には妻と娘がいた。
ここは?そう思いながら辺りを見渡すと、傭兵仲間の一人と目があった。
「 気が付いたか!」
俺の名前を言いながら俺に抱き着いてきた。むさくるしい。言葉に出したのは仕方なかったと思う。だって大の大人、しかも男が抱き着いてくるんだ。嬉しいわけがないだろ!なのにあいつときたら、俺が言った途端に頭をグーで殴ったんだからな!信じられるか?
だが、気を失う寸前のことを思い出せばそうは言ってられなかった。嚙まれてその後、気を失ったとあれば誰だって心配するもんだ。
俺が嚙まれたところは包帯で包まれていた。誰が手当てしてくれたのかとあいつらに尋ねてみると、わからないと返事が返って来た。不思議に思い、詳しく聞くと思いもよらない説明がされた。
曰く、俺たちもあの後気を失ってしまって気づいたら城の廊下に戻っていた。曰く、そのときにはすでに手当がされていたと。
一体だれがそんなことしてくれたんだろう?と思う。それに……誰かが助けてくれた。そのことは思い出せるのに誰だったかなんて思い出せない。男か女かでさえも。
お礼を言いたかったんだが。
助けてくれたことも手当てしてくれたことも。
そんなことをぼんやりと考えていると、あいつらから衝撃の話を聞いた。
「みんなは王を引き摺り下ろそうと躍起になっているんだ」と。
そう言われると頭に浮かぶさっきの生き物。あれは絶対に自然に生まれたものではない。……人工的に作られた生物だと。
……そしてもしかしたら王によって作られたものじゃないかと。……だから城に人が入らないようにしているのではないかと。
俺たちに初めて王を疑う気持ちが生まれた。