第二十二話 王都の住民A
楽しんで読んでいただけると嬉しいです。
今日の出来事のことを話そうと思う。
俺はキーナ国の王都に住むごくありふれた平民だ。パン屋を営みそこそこの生活をしている。妻もいて娘もいる。我ながら幸せな生活をしていることだと思う。
しかし!今日ばっかりはそんなことは言えなかった。なぜかって?……それは王都のあちこちで火事が発生したことだ!
本当に突然だった。夜、いつものように子どもを寝かせていると、外が騒がしいことに気づいた。そこで何か胸騒ぎを覚えた俺は窓を少し開けて外の様子を見るつもりだったんだ。
……だが、そんな考えは吹っ飛んだ。なぜなら俺んちの目の前が燃えていたんだから!俺は窓をがばっと開けてがばっと閉めた。だってそうだろう?目の前が燃えているんだ。それに……うちは燃えやすい木造の家なのだから!
早く逃げないと。俺は妻と娘を連れて外に出た。妻も俺が最初言ったときは何を言っているんだ?っていう顔をしたが、外の様子を見たらすぐに俺の言わんとすることを理解してくれた。(俺はパニックってうまく喋れなかったのだ……)
外に出てみると燃えているのは俺んちの前の家だけではなかったようで、王都は混乱の最中にあった。
あちこちに逃げ惑う人たち。俺たちもどこに逃げればいいのかわからなかった。取りあえず、火事がないところへと向かった。
……だけど、そんな場所なんてなかった。いや、あったのはあったのだ。だけどどこも既に人でいっぱいで俺たちが入れるスペースはなかったのだ。
俺たちは途方に暮れた。どうにかして娘と妻の安全は確保しておきたかった。……俺?俺は別に大丈夫だ。これでも昔は傭兵をやっていたし、危険と隣り合わせなときなんてざらにあった。
そんなときだ。誰かの声が聞こえてきたのは。
「王城だ!王城に避難しろ!王城の中は安全だ!」
その言葉を聞くと何がなんでも王城に行かなければ!と思った。それは妻も同じなようで。しいて言えばそこにいた人全員だった。火事がないところにいた人たちもこぞって王城に向かった。俺たちも負けじと王城を目指した。
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王城の門の前についた俺たちを待っていたのは数え切れないほどの人だった。人、人、人。どこを見渡しても人。俺は妻や娘と離れないように手を強く繋ぐ。
ここにこんなに人が集まっている理由は王城の門がなかなか開かないからのようだ。聞こえてきた話をもとに推測すると、なんでもバルドラ様の確認が取れないかららしい。
別に確認取れなくてもいいじゃんか!と俺は思うのだが、門を守る門番たちにとっては許可なく入る者を排除する仕事は大切らしい。バルドラ様から承った大事な仕事だから。
そんなこんなで門が開かず人が集まってくるばかりなんだ。
すると何かトラブルがあったようで門の辺りで騒ぎが起こっていた。
何があったのかと俺たちは顔を見合わせていたのだが、前の方から大きな声が聞こえてきた。
「突撃だ!」と。
俺たちはその声につられて門に押し寄せる。そっちが開けないのなら、無理矢理でも入ってやる、という理屈で。
門番たちは想定してなかったのだろう。あっけなく俺たちに押されて門が開いた。俺たちは迷わず中に入っていく。
「待て!」「まだ許可が!」
そんな門番たちの声は聞こえてくるが構わず俺たちは城の中に入る。
……そういえば初めてかもしれない。俺が城の中に入るのは。いつもバルドラ様は王城から出てきて俺たち民の言葉を聞いたりしていたから。貴族様もあんまり入っていくのはみたことがない。それにあまり兵士もいない。王城の中に入ってからは誰も見なかった。
……そういえば王城の中で雇われている人なんて知らないな。
そこで初めて生まれる疑問。なぜ王城には人がいないんだ?なぜ王城に人を入れようとはしないんだ?