第二十話 追いかけっこ
20話目です!
今回はちょっと長めです。
「もう少しだ!シルヴィ。頑張れ」
「うん!」
ロクとシルヴィは現在雇い主の家の中を走り回っていた。
なぜなら屋敷の至る所で燃えている火から逃げるため。ロクたちを含め屋敷にいる者たちをまるで一か所に集めるかのように燃え広がっているのだ。窓や玄関の辺りが最もよく燃え、人を奥に奥にと押し込めるように火が迫ってくる。
そんな危険な追いかけっこを先ほどからずっと続けていた。
「……本当に隠し通路なんてあるのかな?」
「信じるしかないだろ。逃げ延びるためには」
「……そうだね」
ロクとシルヴィはちらりと前を走る人物を見る。その人物はロクの雇い主の子ども。いつも豪華な服装を身につけ、横暴な態度をとるいけ好かないやつ。(年は確か二十歳ぐらいだったはず。)雇い主には感謝をしていたが、こいつは嫌いだ。
自分がすごいやつだと言い、ちやほやされることを望むくせに、自分では何にでもできないそんな人だ。……しかも、あいつは妹を邪な目で見やがった!確かに妹はかわいいさ。だが、あんな下種野郎が、妹をあんな目で見るなんて許せない!……おっと、熱くなってしまった。反省反省。また、王女にシスコンと言われてしまう……。
いや、そんなことはどうでもいい。……で、その雇い主の子どもが言うことにはこの屋敷には避難用の隠し通路があるそうだ。屋敷に繋がっており逃げることが可能。しかも屋敷の奥、雇い主の書斎に入口が設置されているらしく、逃げ延びるためにはそれを使った方が確実だということで向かっていた。
火も書斎までのいく廊下はほとんど燃えていない。普通ならその廊下の窓から逃げられると思うだろう。……だが、この廊下があるのは2階。しかも外には飛び移れそうな木もない。女やお坊ちゃんが多い中で2階の窓から飛び降りるのを選ぶことはできなかった。
ロクだけならできる。だが、シルヴィがいる中ではできない。それに屋敷の者を残していくのも気が引ける。だから、いけ好かないやつの言葉を信じてその隠し通路とやらを目指していた。
まあ、場所や開け方がわかるというのだから問題ないだろう。
「おい!見えたぞ!」
先頭を走る屋敷の者の声につられて前を見ると、書斎のドアが見えた。
そして、その者が鍵を開けたので逃げてきた者たちはみんな中に入る。
書斎には火が燃え移ってないようで中は静かでヒンヤリしていた。
「こっちだ!」
雇い主の子どもはそう言いながらの屋敷の者を連れて書斎の奥に向かう。もちろんロクたちも一緒に向かっていたが、途中でロクの足は止まった。
「兄さん?」
ロクが止まるともちろんシルヴィも止まる。だが、ロクはシルヴィの方を確認することもなく、フラフラと一つの本棚に向かう。
「兄さん、どうしたの?」
シルヴィはそう大きな声で言いながら後を追う。その後を何人かの屋敷の者もついてきた。彼らは等しくロクと親しかった者だ。荒れていたロクに対しても嫌な顔一つせず、面倒を見てくれていた者たち。
シルヴィの声でロクが変なところに行こうとしているのに気づいて連れ戻すため追いかけてきたのだ。
隠し通路の開け方は雇い主の子どもしか知らない。だから一緒に行かないとそこから逃げられない。早く連れていかなければ、と思っての行動。
だが、屋敷の者たちの中にはロクのような手下に屋敷が使われるのが我慢ならないという者もいる。そういう者は迷わずロクたちは切り捨て自分たちだけでも助かりたいと思っていた。
雇い主の子どもはというとそんなこと全く気にしていなかった。今回屋敷の者たちに隠し通路のことを教えたのはただの気まぐれ。別に彼らが助かっても助からなくても構わないのだ。彼らの代わりはいくらでもいるのだから。
……だが自分の代わりはいない。だから自分だけは助からないといけない。例え彼らを炎からの盾にしようとも。
そんなことを考えながら隠し通路への入り口を開く。方法は簡単だ。一番大きい本を本棚から取り外せばいいだけ。そうすれば隠し通路への入り口が開く。
昔、雇い主の子どもは親からこう教えられるとすぐにその本を探した。だって心躍るではないか。隠し通路なんて!
書斎の本を一つ一つ見て一番大きい本を探した。小さいときだったので、棚の上段を見るのは大変だったが、遂に一番大きい本を見つけた。
僕は見つけるだけでは飽き足らず、実際にその本を動かしてみた。……すると、父の言う通り、隠し通路が現れたのだ!早速探検を、と思い中に入ろうとしたが、止められた。……僕のお世話係に。開けるまではよかったらしいが、中に入ってはダメらしい。
なんで!とそのときは不満だったが、今現在ではその理由がよくわかる。……ああ、あれを見られたくなかったんだなと。
隠し通路の中を歩いて最初に見たものは牢屋のような部屋に閉じ込められているたくさんの獣人たちだったのだから。
だけど、そこで意識は途切れた。その場にはいくつかの首が転がっていた。