第二話 おちこぼれ王女
本日2度目の投稿です。
夜会があった翌日の王城のとある一室ではティータイムが行なわれていた。
「ティア。…お父様は何か言っていたかしら?」
ティアと呼んだ少女はお茶を飲んでいた手を止めて、恐る恐るといった具合に傍に控えていた侍女に尋ねる。
尋ねられた侍女は一瞬、顔をしかめた後、渋々と答え始めた。
「いえ、いつものこと以外は何も。夜会のことすら聞かれませんでした」
「そう、今回はあれでよかったということね」
少女はホッとした様子で胸をなでおろす。
「まあ、あの人たちにとってはそうでしょうが、イリニ様のお披露目も兼ねていたというのに壁に放置とは何事ですか!しかもそれが『お前みたいな出来損ないを貴族たちに会わせられるか!』ていう理由でしたものね」
「いいのよ、ティア。自分が出来損ないってことは一番わかっているから」
「そんなことないです!あんなこと言う方が最低です!」
「ティア、いつものことでしょう。あなたが気に病む必要はないわ。あなたが心配してくれるだけで私は幸せだから」
「イリニ様・・・」
ティアと呼ばれた少女は泣きそうになりながらイリニ様と呼ぶ少女を見る。
「それにね。王族であるにも関わらず、何の挨拶周りもしなくていいというのは随分楽だと思うのよ」
そう、イリニ様と呼ばれている少女はこの国の第二王女。王族だ。だが・・・。
「ですが、その分扱いも…」
ティアの言う通り、昨日の夜会の扱いを含めて、王族として扱われることはない。貴族としても見られていないかもしれない。現にこの部屋も王城のずっと奥にある。誰にも会わないようにするためらしい。
しかも、この部屋には必要最小限のものしかないし、家具は使われなくなったものを使い回しされているにすぎない。装飾品なんてもってのほかだ。殺風景な部屋。この部屋を見た者がいれば、絶対に第二王女の部屋だとは気づかないだろう。侍女の部屋か、あるいは物置と思われるかもしれない。他にも第二王女であるにも関わらず、お世話をする者はティアただ一人だ。他の王子や王女にはそれぞれ何十人といった侍女や護衛がいるにも関わらず。
「そうね。でも、私はあなたさえいてくれたら文句はないわ。…まあ、あなたには肩身の狭い思いをさせているのだけど……」
「そんなことはないです!イリニ様がいなければ、私はもうすでにいない人ですから。感謝こそすれば、文句を言うことなんてありません!」
「そう言ってもらえて嬉しいわ」
その後も会話を続けていると、突然、ティアが立ち上がった。
普通だったら、何事かと思うだろう。だが、イリニは全く動じていなかった。
「イリニ様」
「ええ、わかっているわ。もう盗み聞きしている輩はいないのよね」
「そうです」
「ごめんなさいね。今度はどこの間者かしら」
「恐らくですが、キーナ国の者だと思います。戦争で負けてから王都でも度々姿を目撃していましたので」
「そう。……それで私の演技は通用したのかしら?」
「ええ、それはもう。面白いぐらいに信じていましたよ。“第二王女は出来損ないだ”と。”だから、傀儡にするのは容易いことだ”とも。先ほどキーナ国に魔道具で連絡を取っていましたから。……まあ、連絡を切った直後に捕獲させましたが」
「そう……」
イリニは呟くと、次の瞬間にはさっきまでの自信がなさそうな少女から一変。瞳に強い意志を宿した少女に変わった。
「では、その間者のところへ行きましょうか」
「はい、イリニ様」
イリニが変わったことに驚きもせず当たり前のように返事をするティア。
二人は部屋から勝手に出るのを禁止されているにも関わらず、気にせずに出ていく。まあ、見張りも何もないのだけれど。自信のなさそうなイリニを知っている者ならば、イリニが命令を破って部屋を出ることなんて考えられないから。
王族をはじめとする者たちに見せるときのイリニは、自信がなさそうでいつも下を向いてすぐに泣いてしまう。怒られないようにといつもビクビクして縮こまり、誰かに反抗することもできない。何をやらせてもうまくできない。そんなおちこぼれ王女なのだから。