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おちこぼれ王女とアルビルの書  作者: kymmt
第一章 キーナ国
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第十七話 一人退場

本日3話目の投稿です!

「わあああ!」


 公爵は自分の頬に一筋の切り傷がついていることを確認すると絶叫していた。


 愚かしい人。ただその一言につきる。

 公爵は昔は戦場をかける戦士だったにも関わらず、少し傷ができたぐらいで泣き叫ぶ。愚かしいだろう?


 怠惰をむさぼり、民衆から搾取するばかりで自分を鍛えようともしない。そんなやつに私を傷つけることなんて出来やしない。

 血反吐を吐いて耐え忍んだ私の努力にかなうはずなんてないのだから。


「あらあら、大の大人がそれぐらいの傷で泣き叫ぶなんて。……恥ずかしい人」


 相手を馬鹿にするようなことを言えば……


「なんだと!この私を馬鹿にするなど!」


 公爵は剣を拾い再び私に斬りかかってくる。


 さっき私の動きが見えなかったくせに。イリニは内心ため息をつきながら公爵が自分に近づいてくるのを待つ。


 遅い。剣を振る速さも足の速さも目をつぶってでも避けられるぐらいだ。


 さっきは剣を弾き飛ばすのと同時に頬を切ったが、今度はもっと痛みを与えよう。こいつは罰を与えられるべき者なのだから……。


そう思って、公爵が斬りつけてくる寸前に、私は剣を持っている公爵の肘から先を切り落とした。


 「うわあああ!」


 公爵は先ほどよりも大層大きな声を上げる。さらにそれだけでなく、床に這いつくばる。


 ……醜い。公爵のこの反応もそうだが、それよりも醜い者がいる。それは……キーナの国王だ。ただ淡々とこちらを見ている。自分の国の者がなぶられているというのに。その目には公爵のことは駒としてしか見ていないようだ。いつ死んでもいい。……そう思っているのだろう。


 許せない。私はそれが一番嫌いだ。


 私の感情が高ぶるにつれ私の体温がどんどん上がる。それに伴いイリニの目が……。


 ふう。危ない危ない。感情に任せてしまってはダメ。あの時のようになってしまう。


 イリニはこっそり心を落ち着けるため、深呼吸をする。


「ねえ、公爵。あなたが受けるべき痛みはこんなものじゃないのよ」

「き……さま」


 先ほどまでとは違い弱々しい様子の公爵。しかも、かすかにだが震えてさえいる。


「あなたは一体どれほどの人たちを虐げてきたのかしら?」

「は?」


 公爵はまるで心当たりがないとでも言うような表情を浮かべる。


「税の横領、誘拐、脅し、……気に入らないからと言って殺したことさえあったわね」

「何言っているんだ?そんなの当然だろう?」

「犯罪行為が当然?何を馬鹿なこと言っているの?」

「私は公爵なんだぞ!何をしても許されるんだ!」

「……何をしても?そんなわけないでしょう?だいたい公爵なんて王族よりも身分は下でしょう?そんな権利があると思って?」

「ある!私は英雄だ!このキーナを作った英雄なんだぞ!」

「あら、キーナを建国したときに多少活躍した戦士であったというだけでしょう?英雄なんておこがましい」

「そんなことはない!私は英雄!だから何をしてもいいんだ!」


 あまりにも幼稚な考え。それに英雄だから何をしてもいいというわけではない。


「……ねえ、もうこの人殺してもいい?」


 イリニはぽつりとそう呟く。もう公爵の言葉なんて聞きたくなかった。そしてその存在を許したくはなかった。


「ええ、別に構いませんよ。国王以外はすぐに殺してもよいと言っていたでしょう?」


 ここにはいなかったはずのアルが当たり前のようにイリニの横にいる。


「そう」


 イリニはそう言うと公爵につかつかと近づいていく。


 私を誰だと思っている!許されないぞ!など公爵は叫ぶがイリニは全く気にしない。


「じゃあね。さようなら」


 イリニは公爵の目の前に来るとそう言って剣を公爵の胸に突き刺す。


「殺さないでくれ!」


 それが公爵の最後の言葉になった。


 イリニは血が自分につくのも構わず剣を引き抜く。そして部屋の奥にいる国王の方を向く。


「お待たせしましたね。次はあなたの番ですよ」


 イリニは血がべったりとついた顔でニッコリと笑いかけた。

 


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