第十六話 キーナの国王たちとの邂逅
本日2話目の更新です!
「お前は誰だ?」
バルドラは内心驚いていることを表に出さずに尋ねる。
「あら、私のことは知っているのでしょう?さっきまで私の話をしていたじゃない」
少女が言ったことから多くのことがわかった。
彼女こそが……ディオースの第二王女なのだと。そして……先ほどの話を聞いていたのだということが。
バカな!どうしてディオースの王族がここにいる?キーナ国に入る際に身元は厳しく確認しているのだぞ。それに妖精族の手助けは受けられなかったはずなのに!どういうことだ?誰か裏切っていたのか?
……それに、いつから話を聞いていたのだ?商品のこと?第二王女のこと?それとも……もっと前から?
だが、これらは今考えるべきことはこのことではなかったのだ。もっと重要な、いや切実なことがあったのだから。それは……
どうやってこの場所に、誰にも気づかれずに来たのか?ということ。
この部屋のドアの前には兵がいる。そして城の至る所にも兵がたくさんいるのだ。そんな中、この場所に誰にも気づかれずに来たということは異常なことなのだから……。
「!ディオースの第二王女か!」
一方、陛下とともにいた男、公爵は思いついたままにイリニが誰であるのかを声に出す。
「そうよ。知っているでしょう?……それにあなたとは通信のやり取りまでしたのよ?知らないほうがおかしいでしょ」
「何のことを言っているんだ?」
公爵にあるのはただ純粋な困惑だ。全くもってそんなことした覚えはないのだから。
「あら、つれない。毎晩報告しましたよ。ディオースの第二王妃について」
「は?だから!」
「あっ、そうだったわ。そう言えば私、この声で話していたわけではなかったのよね。……ほら、この声よ」
公爵は何を言っているんだ?という表情をしていたが、イリニの声が変わった途端、目を見開き驚いていた。だって、その声は……。
「まさか、あいつが裏切っていたのか?」
妹を攫われてディオースを恨んでいたという手下の一人。技術もあり憎しみも人一倍あって重宝していた男。そいつの声に驚くほどよく似ていた。
「いいえ、そんなわけないじゃない。あなたの包囲は完璧だった。……ただ彼には真実を伝えただけよ」
「……真実だと?」
「ええ。妹を攫ったのはそこにいるキーナの国王だということをね」
「!貴様!」
そう言って公爵は腰につけていた剣を取り出し、イリニに剣を向ける。豪華な装飾がついた見栄え重視の剣を。
「女に剣を向けるなんて最低。……それにそんな剣を作るお金どこから出たんでしょうね?」
イリニは剣を向けられているにも関わらず、何も動じることはない。ただ公爵たちを馬鹿にするような、挑発するような目を向けるだけ。
「お前は私たちが敬愛する陛下を侮辱した!その罪は万死に値するとしれ!」
イリニのそんな様子にむかついたのか、はたまた真実を知られて口封じにかかったのかはわからないが、公爵はイリニに斬りかかっていった。
だが、イリニはそれでも動ぜず、ただその場に立っているだけ。
「死ね!」
公爵はこれ幸いと、短い言葉を投げつけながら、イリニを斬りつける。
……だが、公爵の剣はイリニを傷つけることはなかった。
なぜなら、公爵の手にあった剣はいつの間にか離れた床に落ちていたから。
イリニはというと、公爵とは逆に先ほどまでは持っていなかったはずの剣を手にしていた。
「……は?」
自分の頬を触った公爵の手には真っ赤な血がついていた。