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おちこぼれ王女とアルビルの書  作者: kymmt
第一章 キーナ国
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第十四話 夜の始まり

ブクマありがとうございます!

第一章もいよいよ大詰めにさしかかろうとしています。

楽しんで読んでいただけると嬉しいです。

 酒場を出てからロクとシルヴィは雇い主のところへ向かった。


「ねえ、兄さん。どうしてバルドラ様のことを調べるよう依頼したの?」


 シルヴィは先ほどから気になっていたことを尋ねる。それは当然だろう。自分たち獣人にとって恩人な人のことを探ろうとしているのだ。感謝しているころの自分を知っているならばなおさら。

 現にこの仕事を引き受けたのだって、バルドラ様の役に立てるからということだったし……。それに、あのことが真実なのか調べる必要がある。……王女が言っていたこと。妹の誘拐が王によって行われていたかどうか。


 だが、このことをシルヴィに言うつもりはない。こんな悲しいことを経験する必要なんてどこにもないのだから。


「仕事でね。その情報がいるんだ」


 仕方がなかったんだ、とでも言うような表情を浮かべながら言うロク。

 一方、シルヴィはそんなロクの言葉を聞くと、突然立ち止まる。


「……噓つき。兄さんが嘘ついてるかなんていつもわかってるんだよ」

「……何を言ってるんだ?」


 突然投げられた言葉に動揺する。それではまるで……。


「昔からそうだよね。私を守るために嘘ついて一人で抱え込んで。……でもね、今回ばかりはいつもみたいにごまかしてもダメ。無理だよ。知らないふりをするなんて」


 そんなことを言ったシルヴィは泣いていた。ポロポロと涙を流して……。


「何のことを言ってるんだ?俺にはよく『私聞いちゃったの』」


「……何を?」

「イリニ様と兄さんが話していたこと」


 その言葉を聞くや否や、ロクは頭の中が真っ白になった。


 やめろ。聞きたくない。


そう思っているが、口が勝手に動く。


「なんのことだ?」

「あのね。私の……」


 やめろ、聞きたくない。

 そう言いたいが声に出ない。さっきは勝手に口が動いたというのに。

 だが、無情にもシルヴィの口から予想できていた言葉が飛び出す。


「……誘拐をしたのがバルドラ様の指示だったかもしれないということ」


 ……ああ、なんと無常なことか。


***


「ごめんなさい。たくさん泣いて」


 謝るシルヴィの目は泣きはらしたことが一目でわかるくらい真っ赤だった。


「俺のほうこそ、ごめん。黙っていたことが余計にシルヴィを苦しませていたんだな」


 ロクはそう言ってそっとシルヴィを抱きしめる。


「ううん。兄さんが私のためにしていたことも知っているから」


 そう言うと、シルヴィは再び泣きそうになる。そんなシルヴィを宥めるロク。

 そんな二人が今いるのはロクの雇い主の家の一室だ。


 シルヴィが泣き出した後、泣き止まらせるのは大変だった。現に今また泣きそうになっている。


 一時的に泣き止まらせるとロクはシルヴィを連れて急いで雇い主の家に行った。周りに誰もいなかったとはいえ、誰かに聞かれていたらまずい話をしていたから。

 そのことに気づいた後は、できるだけ人目につかず、かつさらに急いで向かった。


「……シルヴィはいつの間にか大きくなったんだな」

「どうしたの急に?」

「いや、シルヴィは世の中をしっかり見れるようになったのだと思ってな」

「……そんなの今更よ。兄さんはいつまでも私を子ども扱いしてたけど」


 シルヴィは少し拗ねたように言う。


「……それで、……今回のことに関わらせることが泣き止む条件だったよな」

「うん」


 実はシルヴィを泣き止ますためにロクがとった行動とはシルヴィのお願いを一つ聞くということだった。その内容というのがロクが言ったことに繋がるのだ。


「本当はシルヴィに関わってほしくなかったんだけどな……」

「私は本気よ。兄さん。私にだって知る権利はあるわ」


 ロクはシルヴィの目をちらりと見るが、そこには一点の曇りもない澄んだ瞳があるだけだ。だけど、その中から絶対に譲らないとばかりに強い決意がにじみ出ていたが。


「本当にいいんだな?例えこのことがどんな結末になろうと受け入れられるか?」

「ええ、もちろん」


 シルヴィはやっといつものように笑顔を見せてくれた。

 

 シルヴィをこの件に関わらせることは望んだことでは無かったが、シルヴィの笑顔を見れるならしょうがないかと思える自分もいた。

 



 だが、そんな時間は長くは続かなかった。誰かが廊下を走って来る足音が聞こえたかと思うと、誰かがノックもなしにロクたちがいる部屋のドアを開けたのだった。


「に、逃げてください!お屋敷が燃えています!」


 この屋敷の者の言葉はただ長い長い夜の始まりの合図に過ぎなかったのだから……。


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