第十三話 酒場の情報屋
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イリニと別れたロクたちは、イリニとは別の酒場にいた。
「おっす。マスター」
ロクはすぐにカウンターでグラスを拭いていた男に挨拶する。
「おお!ロクじゃねえか。久しぶりだな!仕事の方はどうだ?」
「まあ、ボチボチだな」
「お前がそう言うなら、うまくいったってことだろ?よかったな」
「ああ」
「……で、そちらのお嬢ちゃんはどちらさんだ?お前のガールフレンドか?」
マスターと呼ばれた男はニヤニヤしながらロクに尋ねる。
「ちげーよ。俺の妹。ほら、前に話していただろ」
「!攫われていた妹か!?」
「そうだ。今回の仕事の最中に再会してな。連れて帰ってきたんだ」
「えっと、初めまして、シルヴィです。いつも兄さんがお世話になっています」
「おお!礼儀正しいお嬢さんで。俺のことはマスターと呼んでくれ」
「はい。よろしくお願いします。マスター」
「ああ、こちらこそ。それにしても無事に見つかってよかったな。ほとんどの奴らは見つけられていないからな」
「そのことなんだが……。ちょいと調べてほしいことがあるんだ」
「……わけありか」
「まあな」
「……中で待っておけ。すぐ行く」
「ああ、わかった」
ロクはそう言うと、お金をいくらかマスターに渡し、シルヴィを連れて、カウンター傍のドアから奥の部屋に行く。
***
「ねえ、兄さん。ここには何の用で来たの?」
「ああ、シルヴィは知らなかったな。……ここのマスターは酒場の主兼情報屋なんだ」
「情報屋?」
「そう、依頼を受けてどんな情報でも集める仕事で、マスターはここら辺では凄腕の情報屋なんだ」
「へえ。凄い人なんだね」
「まあな。俺には真似できないことだからな」
「珍しいね。兄さんが認めるなんて」
「……そうか?」
「うん。だって基本的に家族以外は信用なんてしないでしょう?」
「……」
図星だったのか黙ってしまうロク。
だが、沈黙の間はマスターの登場で霧散した。
「待たせたな」
マスターはそう言いながら、どかどかと歩きロクたちの前に座る。
「それで、お前はどんな情報が欲しいんだ?ディオースの王族のことか?生憎新しい情報はないが」
「いや、そうじゃない。俺が知りたいのは……キーナ国の国王バルドラ様だ」
「はっ?バルドラ様?一体どういうことだ?」
マスターは珍しく困惑する。なぜ自国の国王の情報が欲しいのか訳がわからない。
「……それはまだ言えない。というよりお前には言えない、と言った方がいいかな」
「……ほんとうに訳ありなんだな」
「ああ。このことがばれたら間違いなくやばいことになるのは重々承知している。だが……それでも俺は知らなければならない。真実が知りたいんだ。……だけど、マスターには俺よりも危険をさらさせることになる。だから断られてもしかたないと思ってはいる」
ロクは申し訳なさそうにしていながら、何かに怯えている。だが、それ以上に何かを決心しているのがわかる。何か重い決断を。
「わかった。引き受ける」
「ありがたいがいいのか?だって……」
「俺は情報屋だ。客が求めることならどんな情報だって集めるぜ。……だから、心配するな。それで、国王のどんな情報が欲しいんだ?」
「国王と裏で繋がりがある者たち」
「それはまた……。お前まさか、国王のこと……。いや、俺が聞くことではないな。わかったよ。引き受けた。情報が入り次第連絡する」
「ああ、わかった。ありがとよ」
そう言ってロクはシルヴィを連れて酒場を出ていった。
「お前は国王の何を疑っているんだ?」
マスターは依頼された仕事とロクの表情から何かが起きている、そう思った。