第十二話 二人との別れ
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キーナ国のガラス細工屋を出て約10日後。キーナ国の王都に到着していた。
「へえ、ここが王都なのね。ディオースとは雰囲気が全然違うわね」
「ああ、あちらは人に合わせた家だけしかないけど、こっちはそれぞれの種族ごとに建物の作りが違うからな」
ディオースの建物はどれも似たようなレンガ造りの建物であったが、ここキーナではレンガ造りから木造の建物もある。しかも大中小と建物の大きさもそれぞれで、それらが関係なしに建っており、ちぐはぐとした印象を受ける。
「そうなんです。ここに来ると私たちもいても大丈夫なんだって思えるんですよ」
「そうね。ここには本当に色々な種族がいるわね。でもやっぱり多いのは獣人族かしら?」
「うーん。どうだろ?あんまり気にしてなかったからな。獣人族っていっても色々な種族がいるからな。俺らみたいなネコ人族は一般的だが、数が少ない種族も結構いるからな」
「そうなのね。……ところであなたたちは今日の宿はどうするの?家はここじゃないのでしょう?」
「ああ、俺たちは雇い主の家に泊まるから大丈夫だ」
「なら、ここでお別れね」
「まあ、そうなるな」
「イリニ様とお別れするのは寂しいです」
「機会があればまた会いましょう」
イリニはあっさりと別れを告げると早々と去って行った。
「……行っちゃったね」
「そうだな」
「イリニ様も一緒に泊めてもらったらいいのに」
シルヴィは拗ねたように愚痴る。
「そういうわけにはいかないさ。だってここはあいつにとって敵だ。その筆頭とも言える人のところに連れていくのは危険だろ?」
「そうだけど……。宿の場所くらい知っておいてもよかったんじゃない?」
「それもダメだ。もし俺たちが敵国の王女と一緒にいたことが誰かにばれれば、俺たちもあいつも危ない。だからこれが一番よい結果なのさ」
「……兄さんは寂しくないの?」
「まあな」
そう言ったロクの顔は言葉と裏腹に何かを我慢しているようだった。
***
二人と別れたイリニは宿をとり、酒場で情報を集めていた。
「おい、聞いたか。近頃またディオースと戦争するらしいぜ」
「ああ、聞いた聞いた。なんでもディオースのやつらを倒せる秘策があるらしいな」
「その話俺も聞いたぜ。今回でディオースとの決着をつけるって息巻いてるらしいな。俺にも参加命令が来たぜ」
「お前にもかよ!俺もだぜ。今回の戦は参加できる奴は全員参加するんじゃんねえの」
「まじかよ。だったら俺も準備しておかないとな」
「おっ!お前は志願するのか?」
「ああ、ディオースの奴らをぶっ倒せる機会を逃したくないしな」
「……そういえば、お前らの村はあいつらに燃やされたんだったな」
「そうだよ!おかげで俺の女房は……」
「よし!俺たちでやってやろうぜ!バルドラ様のためにも!」
「そうだな。俺たちが今こうしていられるのもバルドラ様のおかげなんだから!」
イリニは酒場の男たちの話を聞きながら、アルと話をしていた。
「それで、あなたのほうは何か掴めましたの?」
「それはもちろん」
「それなら、もう行きましょう。ここでの聞き込みは終わりましたから」
「はい、我が主」
二人は酒場のマスターにお金を払うと酒場から出ていこうとする。だが……。
「お嬢ちゃんがこんなところに来るなんてどうしたんだ?」
「家出か?」
「それなら俺たちと遊ばないか?」
イリニは不快そうにそう声をかけてきた男たち三人を見る。
「結構よ」
イリニはそう言って三人を避けて出ていこうとするが、ドアの前には別の男が立っていた。
「勝手に帰られるのは困るな」
ニヤニヤと笑いながら男が声をかけてきた。それだけで、三人の仲間であることや、私をどうする気なのかが手に取るようにわかる。
イリニは、小さくため息をつくとただこう呟く。
「アル」
その瞬間、四人の男たちの姿はなくなっていた。そして……イリニは指をパチンと鳴らす。
そうすると、先ほどこちらに注目していた人たちは何事もなかったかのように酒を飲んだり食事を始めた。
イリニはそれを確認する間もなく、酒場を出ていく。その後ろにはアルを従えながら。
翌日、酒場の近くで四つの男の死体が発見されたそうだ。何の傷跡もない不可思議な死体が。だが、気にされることはなかった。なぜならそれが問題にならないほど、大変なことが起こったのだから……。