第十話 イリニの冷酷な面
本日2話目です!
来週はあんまり更新できなさそうなので……
できるうちにやっておきます!
「どうしたのかな、イリニ様?」
「さあ?あいつって何考えているか分かんないしな」
そう呟くロクとシルヴィが今いるのはキーナ国のガラス細工屋である。
「もしかしたら、弟と何か話しているのかもしれません。我らのことを知っていたのなら、聞きたいことなんてたくさんあるでしょうから」
そう言って二人の前にお茶を差し出す店主。
「わざわざすみません」
「いいえ、お客様におもてなしをしてこそ店主ですから」
「……失礼ですが、ユナンさんと兄弟なんですよね?」
「そうですけど」
「いえ、すみません。大した意味はないんですけど。ただ……」
シルヴィは慌ててそう言い訳するが、店主にはシルヴィの言いたいことがわかっていた。
「ああ、私たちは性格が全く似ていませんからね。弟はやんちゃで、お客様に色々むちゃぶりをすることもあるそうで……。ディオースから来たお客様はあちらとの違いによく驚かれます」
店主の言葉に何かを思い出したかのように死んだような顔をするロク。
「そうなんですか。……でも、何かわかります。私も兄さんとはあんまり似ていないですから。兄弟といっても似てないことなんてざらですからね」
一方、シルヴィはそんなロクの様子に気づかず、店主との話を弾ませる。
「ごめんなさい。待たせたかしら」
そう言ってやって来たイリニ。
「大丈夫です、イリニ様。ユナンさんのお兄さんとお話していましたから!」
「そう、それならよかったわ。では早速、キーナ国の王城近くに向かいましょう。確かそこまで案内してくれるのよね?」
「ああ、そうだ。俺もそこに用事があるからな」
「そうだったわね。仕事の報告に行くのでしょう?」
「……なぜそう思う?」
「それは……あなたを捕らえた後、私があなたの代わりに定時報告していたから」
「はあ?」
ロクはそれほど考えて尋ねたわけではなかった。いつものごとく躱されるだろうと思っていたのだから。それなのに……。
「お前!なんてことしてくれたんだ!」
「だって、あなたが目を覚ます前に追加連絡が来たのよ?ここで連絡をとらなければ敵国に捕まったのではないかと思われるでしょう?」
「だが、その連絡が別のやつの声に変わっていたら同じだろ!それよりもやべえ……。魔道具を盗られたとあれば雇い主が黙っていねえ……。どうすればいいってんだよ……」
そう言って頭を抱えるロク。
「心配することないわよ。だって別に私は私の声で報告したなんて言ってないでしょう?」
「……何?」
「私ね。人の声をまねるのが得意なの。だから、あなたの声で報告をしたわよ。あなたが調べていたことをあなたの声で。だから、あなたは堂々としていれば問題はないわ。それに昨日、もう戻ってきてよいという連絡が来たから」
「おまえ……自分の国の情報を言ったのか?」
ロクは信じられないものを見たかのような顔で恐る恐る尋ねる。
「ええ、それがなにか問題があるかしら?もちろん、あなたが調べていた情報しか話してないわ。あなたが知りもしないことをペラペラと話したら後であなたと入れ替わったときにばれるでしょう?」
さも当たり前のように話すイリニ。
一方、そんな彼女の様子を見て恐ろしく感じるロク。
こいつには愛国心っていうものがないのか!?確かに家族である王族たちからは酷い扱いを受けていたようだが。それほど家族が憎いということだろうか?いや、それよりもそんなこと平然としているのはどういうことだ?こいつは第二王女だぞ。そんな非日常的なことを当たり前のように考えるあいつの頭の中って……。
「だから、あなたは心配する必要はないの。あなたが調べていたことを私と出会う前の価値観で報告すればいいのよ。問題ないでしょう?」
「……ああ、問題ない。……ありがとう」
イリニを得体の知れないモノであるかのように見ながらも、ロクは一応お礼だけは言う。確かにイリニがそんなことをしなければ俺は捕まった愚か者として扱われるだろう。……仮に逃げ出してきたとしても。そんなことになれば俺の家族に危害が加えられる可能性だってあった。
「俺たちには危害は加えない」そんな約束はこんなところまで守られているのかと思った。
こんな俺たちのことを考えてくれる優しい面もある一方で、先ほど聞いたような冷酷な面もあるイリニ。
本当の彼女はいったいどっちなのだろう?