第一話 プロローグ
「お前はいったい何者だ…」
燃え盛る炎が辺り一面を焼き尽くしている中、向かい合った者たちがいた。片方は先ほど発言した身なりのよい男。そしてもう一人は周りの炎と同じ色の瞳を持った少女。
「私は よ」
少女が発した言葉を聞いた瞬間、男の目は大きく開かれた。
「ま、…まさか、そんなはずはない!だって…」
「その続きは言わなくて結構。聞きあきたから」
この言葉以降、二人の間に言葉が交わされることはなかった。
後日、その場所には一人分の焼死体が見つかったそうだ。
***************
―ヴェニアス王国
このガルデゼ大陸で一番大きな国である。肥沃な土地を多く持ち、豊かな国だ。その分周りの国から戦争を仕掛けられることも多いが、戦術に長けた者、剣技に長けた者などが多くおり武力行使においても絶大な力を持つヴェニアス王国は負けなしだった。逆に戦争を仕掛けてきた国を取り込むこともしばしばある。
今代の国王ノーゼアナ国王陛下も戦争での戦略に長け、近隣の二国ほどを取り込んでいた。小さな国であるが、豊かな土地を持つ国を。退けた国の数は指の数に納まらないぐらいだ。
そんなヴェニアス王国の王城では夜会が開かれていた。
この夜会は先日の戦争の勝利の祝賀会を目的としたものだ。
しかし、王族の内情を知る者たちには別の目的があることもよく知っていた。それは……第二王女のお披露目。通常、王族や貴族は12歳になると夜会デビューをする。しかし、件の第二王女は現在14歳。通常より実質2歳遅れた夜会デビューになる。
もちろん、それには理由がある。それは……国王たちが第二王女を表に出そうとしなかったから。今になって夜会デビューをさせたのは、先日、第二王女を知らなかった者に存在が知られてしまったことが原因だ。見知らぬ少女が第二王女と呼ばれているのを偶然聞かれてしまったのだ。まあ、それだけなら、その者が黙っていたらそのまま第二王女の存在を秘匿できたが、その者は嘘が嫌いでしかも公爵と身分も高い者で国王としても第二王女の存在を秘匿することを強制できなかった。
だが、話はそれだけでは止まらない。その者はなぜ第二王女を隠していたのかと国王に詰め寄り、あわや殴りかかろうとした。これに慌てたのは周りの者たち。いかに立場のある公爵と言っても国王に逆らえば、その命がなくなる恐れがある。しかし、その者はこの国を成り立たせるにはなくてはならい程にこの国の中枢に深く関わっていたので、いなくなるのは非常にまずい。
現にこのため国王は第二王女の存在を秘匿させることを強制することができなかった。もし、他の国にその者が行ってしまえば、途端にこの国の中枢は麻痺し、攻め入られる隙になってしまう。しかも、他国の力を強めてしまうことにもなりかねない。
だから、国王は今まで第二王女の存在を秘匿していたのは、第二王女は体が弱く外に出ることができなかったからで、最近は外に出ても大丈夫なくらいには体が強くなったのだという話をした。
公爵は一応、その話には納得し、それならば、と今度の夜会で第二王女のお披露目をしようと提案し、承諾された。
ちょうどよい機会だと、国王は第二王女と親しい者が聞けば、反吐が出るほどの大嘘をついたことで、第二王女の遅い夜会デビューが決まったのだった。
そんないきさつがある夜会ではあるが、夜会は順調に進んでいた。…まあ、何にでも例外はあるもので…。それは話の話題だ。
いつもならば、やれどこの令嬢や令息が婚約しただの、どの家が成功しているのだの、お話という名の情報収集ばかりだが、今回は昨日の火事のことばかりが話題に上がっていた。
「ねえ、聞きました?昨日の火事のこと?」
「ええ聞きましたわ。ルトラック伯爵の家が燃えたそうですわね」
「私も聞きましたわ。跡形もなく燃えたらしいわ。なんと恐ろしいことなのかしら」
そんな中、全く誰とも話さずに壁の花となっている者がいた。
銀髪で黒い目の色をした小柄な少女だ。着ているドレスは流行を抑えているがいかにもお金をかけてはいません、というのがわかる作りのドレス。ほとんど装飾がなく、色も控え目で全く目立たない。
彼女に声をかけようとした令息もいたが、彼女の格好を見るや否ややめていた。彼女はまだ貴族になったばかりで大した後ろ盾もない家の令嬢か没落しそうな家の令嬢なんだろうと、判断されたためだ。今回の夜会の参加者は比較的出世欲が強い者たちが集められていたので、その子どもたちも同様だということだろう。あんな爵位の低そうな少女に声をかけるぐらいなら、自分よりも爵位の高い家の令嬢に声を掛けるに決まっている。
結局、その夜会でその少女が言葉を発することはなかった。
だが、その少女に名前を尋ねる者がいれば、きっと驚いていただろう。
なぜなら、彼女こそが第二王女なのだから……。
更新はノロノロとしか進まないと思いますが、楽しんで読んでいただけると幸いです。