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運命の混紡者  作者: Ridge
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西部編6-2

 隙間だらけの白い世界。そこに様々な糸が膨大な数走っている。糸は近くで見ると太い線で、そこに特殊な記号が映っている。その線の先を辿るとはるか遠くに柱、さらに先に光源がある。


 あの糸は光源と柱によってできた影と言われるが、便宜上の呼び方で正確じゃない。糸らしく絡むことも編み込まれることもある。自然に絡むこともあれば、何らかの作用によって編み込まれることもある。まだ分かっていないことは多いが、分かったところで得られるものはあるのだろうか。知っても余計に虚しくなるだけ、そんな気がする。

 

 結局のところ、真理とは非情なものだ。人間が生きる意味を大層なものだと誤魔化し、覆った愛のベールを取ればそこには虚無しかない。全生物の中で人間に何らかの優位性を見つけようと思うことすら真実の世界からすれば何の意味もないこと。ましてやさらに小さな単位である個に意味などあるはずもない。そもそも、個や全体を考えること自体が社会生物としての本能に基づいた思考法であって、それを言うなら思考すら意味が存在しない。意味を求めるのは生物の本能に基づいたものだ。

 何も意味は無い。私には全てが見えている。その人がどう生きるのか、これを見れば分かる。あとは書かれた文字をいくつかの公式に当てはめて人間世界での役割という表現に変換するだけ。占いを聞いて上手くいったと聞いたところで何の驚きもない。分かっているのだから。何も感じない。彩度を失った視界の中でとるに足らないものが動いただけ。

 私の心はきっと死にたくないという本能が、真実の世界を受け入れることを避けようとしているのだ。ここに見えるのは私とは地続きの出来事ではなく、のぞき込んだ壺の中だと考えている。これだけの力を得ていながら、やりたいことが目を背けるだなんて、力を得るべき素質なんて無かったのかもしれない。

 彼らは魔族と名乗っていたか…?人間の敵のようだが…まあ、誰に協力しようが等しく意味は無い。ただ時間を過ごしているだけ。怖くて死ねないから。

 失敗を責められるのはいい、私が悪いのだから。そこで関係の無いことまで口出しされれば腹は立つ…いや、腹が立っていたか。それはもう思い出せない。成功したものや努力したものを無意味だったと言われる、見せつけらえる、分かるのが一番気力を奪われる。それゆえに意味はあったのだと思いたくなる。この世界は私に全て意味などなかったと知らしめる。気晴らしに快楽を得ようとしても、もう思い出せない。綺麗な色、美味しい味、それって何だったかな?


 なぜ私は今になって色々と考えているのだろう。与えられた仕事と仕事の間、向こうの集計が終わるまですることのないこの時間が、立ち止まることで内省の時間となって考えたのだろうか。過去に懸命になっていたことすら、無意味と分かった今となってはただ恥ずかしいだけ。掘り起こしたくない記憶。私はどうしたいのだろう?未来は分かる。決まった役割を演じるだけ、それしかない。成功も失敗も関係なく役割を演じるだけ。それこそ、糸が編み込まれてより上の領域にでも行かない限り。

 …そういえば、最近になって編み込まれた糸を見かけるのが増えてきた。少しずつ増えてきたから、思い返さなければ気づかなかった。何かが起きている…。私は心を躍らせたのかもしれない、変化、刺激、不安定、そういったものを目の当たりにして解き明かしたい性分の私を突き動かす。分かっても虚しくなるだけじゃないのか、そう脳裏によぎったとしても、探求心に飢えた私の本能がそれに勝る。いや、もしかしたら流れというものを感じ取ったのかもしれない。いい流れが来ている、今ならきっと後悔するような答えを見つける羽目にはならないと。未来は見えてはいても、どこに当てはまるかだけの違い。喜べるかどうかは見えない。これくらいは喜ばせてもらう。


 編み込まれた糸たちの前に移動して文字を読み取る。

 ……、そうか…なるほど。そうだったのか。そんなこともできたんだ。私は無理だと思っていた、でも違ったんだ。ここに働いている力は勇気。ある人、その勇姿に勇気づけられ、本来はあり得ない領域へ自らの運命を高めていく。これが、運命の糸を混ぜ紡ぐ者、狩人レオン…。

 フォルトゥナは鈍っていた感覚が戻り、手を引かれていると感じ取る。沼へと引き込むような邪心は感じられず、温かさと安心感を与えるものだ。足元にとどまろうとする力を抜き、手を体を委ねて引っ張られ世界の出口を通り抜ける。


「ん…」

 フォルトゥナは目を覚まし、頭のシートを取り外す。扉の前で見張る男が気づいて振り返り、目の前で手を握っている男は安堵の表情を浮かべる。

「おはよう、そしてお帰りフォルトゥナ」

「初めましてレオン、会いたかった」

 フォルトゥナは上半身を起こして両手でベルトを取り外し、膝を垂直に立てる。

「馬鹿な…目を覚ますなんて…」

 スピーカーからは声が聞こえてくる。

「…欲張らずに壊しておくべきだったか。お前は元から死んでいるような奴だった」

「残念でした。魔王、私はもうもうあなたに従わない。それが私の望みだから」

「望み…お前が?…なるほど」

 フォルトゥナはふらっと倒れかかり、レオンは受け止めて支える。

「ごめんなさい…起きたばかりで体の調子が…、栄養も切れかかってて…」

「ここまで来れたら十分だ。お前はよく頑張った」

 レオンはフォルトゥナを椅子に下ろす。ナレルは水と携帯食を彼女に渡す。レオンが刀身を出してコードを切断すると機械は音も発熱も無くなり、沈黙した。

「…来い、狩人レオン。決着をつけよう。ナレル、貴様も決着を見届けろ」

「その勝負受けて立つ」

 2人は無機を変えて廊下に向かう。

「動けるようになったら外に出るんだ。船がある」

「私も行く」

「……」

「大層なことはできない。でも、私も決着を見届けたい」

「危険だ、やめておいた方がいい」

「邪魔にならないから!魔術師だから護身もそれなりにできる」

「それにしたって…」

「…分かった。一緒に行こう」

「あるがとう」

 部屋から出てレオンとナレルが先導して廊下を進んでいく。

「本当にいいのか?危険な目に遭わせる意味華いと思うが…」

「終わりを見せよう。それで彼女は本当に解放される」

「高い対価だ。……。…頼んだよ、レオン」

「俺に任せろ、決着をつけて戻って来る、必ず」

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