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運命の混紡者  作者: Ridge
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西部編5-4

 吹き荒れる天候の下、レオンは部屋の外に出る、ナレルも続いて外に出た。灯台の上層階、外の足場に2人が慎重に歩き、立ち止まる。

 レオンはナレルに指示して目隠しをつけさせ、背中を壁に着けて左手に持った双眼鏡をのぞき込む。右手に柄を持ち、親指で双眼鏡に光カットのレンズを降ろす。右腕を突き出して手すりに乗せると、ぐっと全身に力を込めて僅かな揺れを止める。

 突風が吹き、左に傾くものの足を押し返して留まる。

「ナレル、絶対にそれを外すなよ」

 レオンは視界から余計な色を落としてぼやけた白黒の世界へと没入し、柄から光線を放つ。

 沈黙を突き破る光線は町の端から外へと向かい、ズチの横に照射され、陽炎で曲がりつつも横に寄っていく。ズチに命中するも日傘で防がれ、曲がった光が上下左右に暴れまわる。

「防いだぞ!見知らぬ敵!」

「まだだ!」

 線を引くように当たった光線は日傘に穴を空け、ズチを削り取るようになぞる。

「くそっ…」

 ズチは前に伏して倒れた。遠く離れた町の上、分厚い雨雲は霧散していく。

「やった…」

 レオンは力尽きて、光線が止まる。左腕はだらんと垂れ、双眼鏡は首にひっかけた紐に吊られる。右手から柄は零れおち、右腕に紐で吊られて宙に揺れている。足が滑り、尻餅をつき、手すりの下から足が飛び出す。

 ザザザと体が滑り出す。

「レオン!」

 ナレルは目隠しを外してしゃがむと、両手でレオンの右腕を掴んで止める。

「すまん、助かったナレル…」

「手が滑りそうだ。左手で僕の手を掴めないか?」

「駄目だ…、掴むほど力が入らない」

「分かった。今引き上げる」

「頼むぜ。王手寸前で事故死なんてダサすぎる」

 ナレルは手すりの柱に片足をかけて引き上げる。力を加えた瞬間に柱は折れ、素早く足を離す。

「うわっ」

 手に冷や汗がにじむ。鳥肌が立って呼吸が乱れる。

「大丈夫だ。お前ならできる。落ち着いて。それと、その姿勢は腰を痛めて力も入らない。膝をついて」

 ナレルは片膝をついてレオンの腕を手繰り寄せる。脇に腕を回して抱え上げて立ち上がり、足場の上へと引き上げた。

「良かった…」

「心配かけてすまない。少し座って休んだらそっちへ行く。先に行ってくれ」

「分かった。気を付けて」

 レオンはその場に座り込んで、周りを見渡す。雲の切れ目からところどころに光が差し込み、水たまりが町を映してキラキラと輝いている。


「よし」

 2,3分休んで血が巡ってきたレオンは立ち上がって歩き出し、灯台の中に入った。

「もう大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。事前に沢山食べたし、体は元の状態に戻りつつあるから」

「では送ります。ズチが回復する前に砂漠を突っ切ります」

 レオンとナレルはペルタの案内に沿って階段を下りて、早足で町を突っ切り砂防林に入る。しばらく進むと眩しい砂漠の前に出た。

 ペルタは道祖神らしき石像を回してずらし、受話器を引っ張り出してボタンを押す。受話器のランプがつく。

「ペルタです。船を出してください」

 砂漠の中から見上げる高さの直方体が出現する。サラサラと砂が零れ落ちてくる。側面が開き、車輪つきの台に乗った船のようなものが外に出てきた。

「乗ってください。主に気圧で浮く船です」

 3人は出入り口から乗り込む。壁に長椅子がついており、そこに座った。運転席とは真ん中が開いて繋がっている。

「行先は光炎の宮、打ち合わせ通りお願いします」

「了解。これより発進する」

「ええ、お願いします」

 船は振動と共に浮かび上がって進む。通り過ぎた後には、砂が押しのけられて模様ができていく。

「30分もすれば着くでしょう。運転はプロの軍人なのでご安心を」

 レオンは遺跡を双眼鏡で覗いたが、魔族たちは全員建物の中に隠れているようだった。

「さっき石像を動かしていたようだが罰が当たらないか?」

「何とも無いですよ。一般人には触られにくそうなデザインにしただけで、何か曰くつきというわけじゃありませんから」

「なんだそうなのか」

「何か飲みますか?その扉を開くと色々入ってますからお好きなものをどうぞ」

「それじゃあ遠慮なく。しかし、合わないものを飲んで腹壊しても嫌だな」

 扉を開けて棚に並んだ飲み物を眺める。何が何か全く分からない。

「この前飲んだこれでいいんじゃない?」

 ナレルはその中から、透明なガラス瓶に入った水を指す。薬草らしきものが沈んでいる。

「ああ、あれと同じ奴なのか」

 軽い素材のコップに注いで一口舐める。少し塩と甘味を利かせてある。

「うん、いいんじゃない?」

「僕も貰おうかな」

 レオンは立ち上がってナレルのコップに注ぎ、再び栓をして棚に戻して椅子に座る。

 水を飲みつつ着くのを静かに待つ。着くまでもう何か喋るのでもなく、目を閉じて待つ。


 祭壇に座り込む男の側で、通信機に音が入る。

「こちらはワイクです。魔王様、何者かがやってきます。おそらく先ほどの攻撃の主かと思われます」

「そうか。建物内に誘い、接近戦に持ち込め。だが奥へは進ませるな。遮蔽物は用意してあるな?」

「準備完了しております」

「よし。遠距離であれば身を隠し、近づいてきた時にだけ攻めろ。以上だ」

「了解。以上」

 通信が終了し、通信機を下に置く。再びノートを開いて考えに耽る。ノートには無数の×印とそれを繋げる曲線や直線が描かれ、数字もその線の上に書かれていた。

 ノートを閉じて机にしまい、机の上の音叉らしきものを見た。


 遺跡の大広間、魔族たちが整列していた。一段高い所にズチが立つ。首から下へ火傷の跡が走っている。

「諸君、これから始まるのは戦いだ。遠く離れた異郷の地で、我らの本義は戦うためにある。戦いのための存在、ならびに戦いこそが最も得意とすること。思い返せば長い月日、数々の困難を乗り越え、勝利し、そしてここに立っている。ここを本拠としている!もう恐れることなど何もない。なぜなら、我々ならば何でもできる、不可能などないからだ。お前たちはもはや誰にとっても無視できない存在なのだ。強さも影響力も十全に認められている。風化させてはならない、今までの積み上げをより高く、忘れることさえできないほどに!さあ、さらなる勇姿を長き歴史の一幕に遺すチャンスだ。持てる力の全てを使って戦え!」

 オオオオオと雄たけびが響き渡る。

「そして──人間共は我々に牙を向けた。先祖を同じとする不出来な弟妹と扱っていたが、それは今日限りだ。その蒙昧さ、もはや同族と扱うにはあまりに低劣で違い過ぎる。この砦での戦いの後、奴らの下等な種を断ち、我らの血を交えて高みへと引き上げるのだ。これは人の道理ではなく血そのものが求める血の道理だ。聞こえるだろう?この高鳴りが!分かるだろう?この高揚が!待ちに待った戦いだ!相手は十中八九あの狩人、我らの仲間を屠ってきた宿敵!仇を討った者は未来永劫その名を遺すことだろう、行くぞ!」

 ズチは拳を突き出し、部下たちも突き出して雄たけびを上げる。ズチは向きを変えて下に降りて奥へ下がった。部下たちは打ち合わせ通りに配置へついていく。

「(さあ、飛び込んでくるがいい仇敵。もうすぐ能力も使えるように戻る。相まみえたら叩き潰してやる)」

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