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運命の混紡者  作者: Ridge
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西部編4-3

 もしかしてこれは死んでいないのではないか。それでも、これから死ぬ。

 異形の者は何かに感づいて動きを止めた後、天井へと浮かび上がって姿を消した。直後にドアが開く。廊下には2人の人がいた。

「来ては駄目です!」

「何?」

「化け物が天井に!」

「…何も見えない」

「幻覚…?それならとにかくこっちへ」

「あ、ああ…」

 ダイヤは廊下に出て自分のことや化け物のことを説明した。

「なるほど、あの門を通ってやってきたのか?それにしても、こっちの環境に耐えられるとは…」

「そうか、門の周りに誰もいなかったのは見張りが不要だからじゃなくて…」

「となると、そいつが現れてからそう時間は経ってないのか?異変に気付いてたわけではないようだから」

「姿が見えない…レオン、見えるか?」

「いや全く。どこかへ行ったのか、見えないだけなのか分からない」

「彼を狙わなかったということは人間を狙わないのかもしれない」

「これは勘だが楽観的に考えるべきではないと思う。誰かが来たことで一旦隠れただけで、脅威でないと判断されたら再び姿を表すだろう。それに感覚器が目や耳とは限らない、門の近くへ行こう」

「部屋に入った虫を窓の近くに連れて行って出ていくのを待つように?」

「そんなところだ。迷っているのならいいが、自分の意志で進んでいるのなら困るな」

「この塔から出る前に何とかしないと」

「無茶だ!相手はこの世のものじゃない。関わっては駄目だ、逃げないと」

 2人組はダイヤに顔を向けて微笑む。

「名乗り忘れていたな。俺はレオン。狩人にして魂をあるべき世界へと還す者。その怪物も元居る世界へ帰してやる、場合によっては魂だけでも還す。もう慣れっこだ、だから安心して後は任せろ」

「僕はナレル。一緒に一階に下りて、ダイヤ君は外に出て」

 破片がパラ…と降ってくる。ナレルは後ろにダイヤを引きつつ後ろに下がり、レオンは後ろに跳ねつつ刀身の輝く剣を振り上げる。異形の者は羽に身を包み、剣でざっくりと切れていく。

「ぐっ…」

 その剣に触れた先から電撃が周囲に迸る。レオンは麻痺したところを羽の凪払いで壁に弾き飛ばされ、階段の上に落ちる。異形の者は地面の中へと溶け込んで姿を消した。

「大丈夫か?」

 ナレルとダイヤが階段の方へ走り寄る。レオンの左腕が凍り付き、右手で逆手持ちした柄から熱線を出して解凍する。

「詰めの甘い奴…、麻痺も凍結も解けた。もう動ける、大丈夫だ」

「実在するとは…、門の方へ誘導しないと」

「察するところ、壁や床の中を移動しているようだ。空気中に出ている間は自然落下を利用して動くのでは?」

「ん?ということは…」

 今度は階段の上段に落ちてきた。そのまま滑るように下る。

「下まで走れ!踏み外すんじゃねえぞ!」

 3人は階段を一段跳びで走り降りていく。体全体を使ってリズムを作り、着地時にバランスを完全に崩さず、しかし止まらないようにある程度前に崩しながら降りる。加速する相手に合わせて徐々にスピードを上げていく。階段の高さや広さが乱れる踊り場や修理された階段を踏む時に体と脳が違う感覚で気持ち悪くなる。もう一階は見えた、後少し…。

「あっ…」

 ダイヤは足を出すのが早すぎて階段に足を引っかけて転げ落ちる。地面を転がって受け身を取るものの、壁に激突した。体が動かない。軌道上に迫って来る。

 レオンは前に跳んで宙で反転し、柄から光線を出して階段を溶かし崩す。異形の者は道をそれて地面へと落ちた。レオンは着地して光線を放つ。光が羽に触れると放電しながらも穴をこじあけ、本体へと光が届く。黒い霧が噴き出し、やせ細って地面の中へと溶け込んでいった。

 ナレルはダイヤに肩を回して引き上げる。

「レオン、上だ!」

「任せろ、想定内だ」

 レオンは光線を門に向けて放つ。門の周囲から発生した電撃が異形の者に直撃し、電撃を通じて門の方へと吸い込んでいく。凍界の内側に入った後、置いてあった機械を倒して門の奥へと進んでいき、見えなくなった。

「え?どうして?」

「もしかしたら電気を浴びているのが普通の世界で、感覚器はそれを捉えて動いているんじゃないかと思って。当たって良かった」

「恐ろしいことを…、とにかく解決して良かったよ」

「ナレルさん、もう大丈夫です。立てます」

「そうか?じゃあ、気を付けて」

 ダイヤは肩を離して立つ。

「痛…。腕を痛めたみたいです。腕は商売道具だってのに…」

「頭や背骨じゃなくてまだ良かった。きっと治るよ」

「未来は一本道じゃない。大丈夫さ」

「ありがとうございます、励ましていただいて…。僕は病院に行きますね。その後で、この上にあった芸術品も回収に来てもらうように頼んでみます」

「一人で大丈夫か?」

「ええ、大丈夫です。ありがとうございます」

 ダイヤはお礼を言って出口へと向かった。


「何か静かだねえ。こんな広い場所に誰も残っていないというのだから」

「バーク門を守るために何人かいたのに、さっきのに全て取り込まれてしまったんだろう。また出てこないように凍界との接続を切りたい」

「あの箱、さっきので倒れたから入れるかも。ちょっと試していいかな?」

 ナレルは階段の破片を手に持つ。レオンはそれに頷いた。

 ナレルは破片を投げると、何のこともなく箱に当たった。もう一度投げるが、やはり前にあった変な現象は起きない。

「行ける!」

「待て、近づく前に完全に破壊しよう」

 レオンは光線を箱に当てる。箱は爆発して破片が飛び散った。

「よし、門を閉じよう」

 2人は門へ近づき、扉を閉じる。レオンは上から鍵をかけた。

「凍界との繋がりは切った。それにこれで魔界からこちらへ来ることはない。…その気になれば故郷にだって戻れる。長かった…ここまで、本当に…」

「まだ終わってないよ。こっちにいる魔族がまた開けるかもしれないのだから」

「そうだけど、そうだけど…」

 レオンは頭をガリガリとかく。

「もう少しばかり旅に付き合ってもらうぞ」

「元よりそのつもりだよ。さ、調べに行こう」

「その前に風呂と夕食。力を使い過ぎたんだ。いいところ案内してくれ」

「ああ、任せてくれ」

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