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運命の混紡者  作者: Ridge
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西部編4-1

 レオンとナレルはセナの家でお茶を飲んでこれからの話をしていた。家族は仕事中で家にはおらず、セナは商店で働いているが、今日は担当ではなく休みなので散歩中だったとのことだ。

「庁舎にはどうやって入るつもり?」

「様子を見てから決めようかと。やはり許可証が要るのか?」

「ええ、職員と招待された者以外は入れない」

「もう事情を言って通してもらおうか」

「彼らが敵についていたら情報が筒抜けで罠に嵌められるかもしれない。さすがに敵の最重要地点を無防備にするとも思えない」

「何か知らない?」

「うーん、知らないな。そもそも行く用事が無いから。あ、お茶のおかわり持ってくるから待っててね」

 セナはティーポットを持って台所へ行く。

「中央政府に対しての姿勢で武器を持ち出すほどに対立していると聞いていたが…」

「あれは極秘情報だからまだ見つかってないのかもしれない。それに、魔族絡みであれば情報庁から使者が来ることだろう。おそらくこれは囮」

「囮?」

「魔族は邪魔されたくないから、変な噂で庁舎から離すんだ」

「しかし西部で調査が進み、元庁舎の一部が誰にどのような経緯で売られたのか分かれば、厳密にはそれらがはっきりしない、または不自然だと分かればそちらに意識が向く。これは西部以外から目を逸らすために…?」

「連携が取れてないということかな?いや、むしろ本命は門ではないんじゃないか?」

「そんなことが…」

「お待たせー」

 セナは戻ってきてお茶を淹れる。

「考えていたのだけど、私の職場に職員さんも来るらしいから聞いてみる?」

「らしい、とは?」

「私には見分けがつかないんだけど、店長や先輩に同期がいるからそれで分かるって」

 レオンとナレルは視線を感じて振り返る。ドアの隙間から誰かが覗いていた。

「お父さん!なんでこんな時間に?」

「誰だ?」

 父親はバッと部屋に入り、壁に掛かった槍を掴む。

「旅の者です。来たばかりでよく知らないので、教えていただいていて」

「この人たちは命の恩人よ。悪い人じゃない!」

「知らない人を俺の家に上げるわけには…」

「ここは母さんの家よ!次は私が継ぐけど!」

「んんん…」

「いやあ、お父さんの家でもあるんじゃないかな」

「不用意に知らない人を連れ込むんじゃない!」

「いい人たちだから大丈夫だもん!私はあんたのトロフィーじゃない、人間よ!自分で考えられるわ!もういい、行こう」

 セナはレオンとナレルの手を引く。

「行くってどこへ?」

「私の働いている店に行こう。そこで話をする」

 セナに引っ張られる形で2人は外に出て、少し歩いて店の裏の庭に来た。竿には制服や雑巾が干されている。

「しまった、ついカッとなっちゃった。お茶がまだ残ってた…」

 2列に置いてある長椅子に座りこむ。

「もう少し感情をコントロールする術を身に着けた方が良さそうだな」

「何か言った?」

「何も」

「ここに来たからには誰か庁舎に入れないか聞いてみよう。待ってて」

 セナは立ち上がって小走りで店へ裏口から入っていった。

「元気な人だ」

「感情を抑えないから、そりゃ元気になるさ」

 少し待つと、若い男の人を連れてきた。

「この人はスルト、庁舎の職員だよ」

「はじめまして。レオンさん、ナレルさん」

「はじめまして」

 握手を交わす。

「東部から来たって聞いて。ということは学者?ザークは学者が多いからなあ」

「割合が他より多いと言ったって、全体から見ればほんの一握り。僕は門番…というより墓守が近いかな。掃除や造園、保険や金貸しもやっている。ここへは旅のお供として」

「違うのか、これは失礼。そうだ最近、ザークでもスナビエと似た習慣があると知って少し親近感が沸いたんだ」

「似た習慣?気候も食事も違うのに?」

「幼少期に神話や伝承を覚えるだろう、リズミカルな文章だ。覚えると褒美でおやつが貰える」

「ああ、そんなことがあったかな。全部で何十時間言えるだろう?もっとか?今思い返せば、よくあれだけの量を覚えたものだよ、今じゃ無理だね」

「その経験が自信となり、他のものも覚えるための枠ともなる。新しいことを当てはめて考えたら理解しやすくなるし、同じリズムを見つけ出すとワクワクさせてくれる」

「おやつが褒美だったのは糖分摂取のためだったのかな?」

「そうなんじゃないかな。頭を使うと消費してしまう。…おっと、いつまでも雑談をしていてはいけなかった」

「そうしてくれ。庁舎の中にあるバーク門へ行きたい」

「門や鐘の塔への出入り口だが、西部政府庁舎の敷地内にある。許可が取れるか分からないから許可証を偽装する」

「えっ?」

「いいのか?君も巻き込んでしまう」

「すぐ横で悪だくみをしているのに、どうすることもできずに目を背けていた。どこか遠くなら知らないのに首を突っ込んではいけないと思う。しかしこれはよく知る庁舎の話だ。時期を伺っていた。あの塔を取り戻す」

「俺たちは初対面だ。なのに、いきなり賭けてしまってもいいのか?」

「少しだけだがセナから聞いた。俺はあんたたちに賭ける、もちろん俺もできる限りのサポートをする」

「……。分かった、よろしく頼む」

「いつから入れそう?」

「これから一度戻って書類を作って来る。片道20分くらいと工作に20分はかかるから、まあ40分後くらいに庁舎前で。あんまり早くついてうろついていると怪しまれるから、それまで待っていてくれ」

「分かった」

 スルトは庭を出て道路を歩いて行った。

「半端な時間が出来た。どうしよう」

 セナは前に座る。

「次々とやることがあるんだよね。じゃあこれが会うのが最後かもね」

「…そうだな」

「時間切れは嫌だから先に言っておくね。短い間だけど会えて良かった」

 セナは返しを聞くまでもなく続ける。

「私は散歩は好きだけど、旅はやる気が出ない。ここでの生活に慣れているから、外に行くと落ち着かないからかな。慣れたベッドや食事でもないし、温かい部屋に居られるとも限らない。遠出は勉強になるというのはなんとなく分かるんだけどね。ねえ、次はどこに行くの?」

「気が早いな。さあどうだか、故郷に帰るかもしれないし、ザークに戻るかもしれない」

「それなら…」

 セナは言い澱んで顔を見る。

「やっぱりいいわ。もし余裕があったら旅立つ前に湖をぜひ見に行って。キラキラと輝く波紋、浮島に実や花をつけた草が群生していて、釣り人たちが波止場にぽつぽつといて釣り竿を投げていて、それで…ええと…」

「分かった、是非行こう」

「ありがと。そうだ、王都には行った?どうだった?」

 レオンとナレルは王都の話をする。観光していないので、有名どころの話はできなかったが、色々と話せた。

「さて、もうそろそろ向かうか」

「もう時間…。私は旅をしないから別れに慣れていない。さようなら、気を付けてね」

「さようなら、元気でな」

 2人は道へ出て庁舎へと向かった。


 庁舎の前でスルトに案内され、入口で係員から受け取ったゲストのバッジを服に着けて建物に入った。

 外気温の影響がほとんどない温度の保たれた快適な建物で、壁や天井、床下の至る所に配管が走っていた。天窓と白く反射させた球で建物に明かりを取り入れていた。

「こっちだ。西部政府の土地ではないが、この廊下から繋がっている」

 大きな廊下を通りかかる。途中で階段から降りてきた人にスルトが話しかけられる。

「スルト、聞きたいことがあるのだが…」

「何です課長?」

「この書類は何だ?1週間前にこんな書類にサインした覚えは無いが?」

「あ、いや、忘れただけじゃないですか?」

「お前は覚えているのか?」

「ええもちろん。天窓の修理ですよ」

「昨日終わった。マヤが出した書類にある」

「え?その…私は知らなかったので二重になってしまいました」

「私が二重になるようなチェックをすると言いたいのか?」

「いや、そんな訳では…」

「そこの2人だな」

「大変だ!バレた!走れ!」

 スルトは2人を廊下の奥へ押す。

「捕らえろ!」

「走るんだ!その奥までは追ってこれない!俺に構わず行け!」

「何のつもりだスルト!」

 ナレルが扉を引くとチェーンが向こう側からかかっていて開き切らない。背後に警備兵が走り寄って来る。レオンは刀身を出してチェーンを切断し、2人は扉の向こう側へと転がりこんだ。警備兵たちは立ち止まってそれ以上は追ってこなかった。

 ついに門と鐘のある塔へと踏み込んだ。

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