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運命の混紡者  作者: Ridge
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西部編3-3

 レオンとナレルは石庭の前に戻った。セナはすでにどこかに行ったようで、そこにはいなかった。揺れる木漏れ日が庭の砂利で描かれた渦に投げかけられ、砂利の起伏で陽だまりの形を急激に変えている。

「セナはもう帰ったのかな」

「だといいが。それで、あれがその建物か…」

「何の変哲もないものだけど…。いや、こっちの文化はよく知らないから、どれも変わったものに見えるのだけど…」

「行ってみよう。少なくとももう少し近づけば何か分かるかもしれない」

 その庭の向こうにある鳥の紋章がある建物へ向かう。道沿いに高く等間隔に並ぶ旗や木の葉は、風を受けて波を描くようにゆっくりと揺れていく。


 ピリピリとした空気の建物の中、庭の前で人々が話している。

「エスハチ様、門の方、終えました」

「分かった。これで後は魔王様からの合図を待つのみ」

「あの狩人とやらを潰しに行かないのですか?」

「まあ待て。散っていてはこちらが不利になる。奴が門で何かするのは想定される。門前で足踏みしている間に背後から襲い掛かろう」

「それに、あえてこちらに寄り道することは無いでしょう」

 男が扉を勢いよく開ける。

「失礼します!侵入者を捕まえました!」

「侵入者?まさか奴が…」

 男は足と腕を後ろ手で縛ったセナを地面に投げる。服が破れ、埃や煤が至るところについている。

 うつ伏せで倒れたところを、エスハチの側近は蹴って仰向けに転がす。服の前は裂けて、右側は地面に広がっている。

「誰だお前は?何をしに来た?ここが組のものだと知ってのことか?」

「中の様子が気になって来た」

「はあ?偵察か何かか?同業者では無いな?」

「一度にそんなに聞かれたって答えられるわけないじゃない」

 エスハチはため息をついて椅子に座る。

「全くどこから入ったのか…、見張りは何をしていたんだ?」

「阿漕な商売をしているようね」

「暴力で金を集めたのはガキ共だ。俺は知らんよ」

「お前たちがその子たちを暴力で従わせた」

「それで?それが本当だとしたら、今更あいつらの罪が消えるのか?」

「いいや、消えない。しかし、これ以上続ける動機は消える」

「戯言だ。俺がいなくたって、こいつらはやっていたさ。それくらいしかできない出来損ない共だ」

「ただの一般人にしか見えない。侵入者がどうなるか見せしめにしてやりますか?隣の部屋で不良のガキ共がこの女を待ってますよ」

「ああ…」

 エスハチは脅威ではないと分かると興味を失ったように頬杖をついて時計をいじりだす。

「だがこの大事な時期に面倒ごとは御免だ。大々的に示さずに噂話になる程度にしておけ」

「了解」

 セナを転がして腹に腕を回して持ち上げ、扉へ向かう。

 廊下の扉を開けると、目の前に何者かが立ち、片手で刀身の無い柄を構えていた。

「お前は…」

 眩い光線によって、胸に穴が開き、急速に穴は広がる。力を失った腕から離れたセナはもう片方の腕で胸へ引き寄せられ、刀身の現れた剣で腕と足の縄を切断される。

「全くどこから入ったのか…、見張りは何をしていたんだ?」

 エスハチは時計を投げ捨てて立ち上がり、膝を曲げて踵を浮かせる。

「一足先に魔界へ送ってやった。お前たちもこれから送ってやる」

「者共、出てこい!侵入者だ!」

 不良たちは庭や廊下に出てくる。

「聞け!俺は破壊者、幻想の檻を砕くもの、狩人レオンだ!たった今からこの組織を潰す。取り上げられていたものを拾い上げろ、良心と誇りを取り戻すんだ!」

 じりじりと動き出すが、剣を振って天井を切り落として廊下を塞ぐ。その砂埃は部屋に届く。

「邪魔するんじゃない、黙って見ていろ!」

 不良たちが足を止めるのと対照的に、魔族たちは庭に後退する。レオンはセナを離して立ったことを確認すると部屋に進む。魔族は散らばって隠れていた。

 短槍を持って物陰から飛び出す。投げる構えの前に光線が当たって消滅する。

 匍匐で草むらの中に姿を隠して機を伺う。目が合った後、光線が当たって消滅。

 物陰に隠れるも、僅かな隙間からの光が回折して消滅。

 皆が皆、さっきまでいたところに霧が出ている。

「くそっ、やりたい放題じゃないか!」

 エスハチはレオンの側面を回り込んで逃げ出し、扉を押し開けるもののナレルの剣の突きで部屋に押し戻される。その奥で片手で服の前を留めるセナが怯えた目から緩んだ目に変わる。足元の人影に気づいて振り返ると柄を構えたレオンが立っていた。掴みかかろうと手を伸ばしたが、直後に胸に光線を受けて霧となって消滅した。


「もう用は済んだ、と言いたいところだが、さっさと散れ。戻ってくるなよ」

 レオンが柄を構えると、不良たちは散り散りに逃げ出した。

 レオンはナレルとセナの前に歩み寄る。

「2人とも、助けてくれてありがとう。思慮の足らない私の行いのせいなのに…」

「本当、危なっかしい奴だな」

「大事に至らなくて良かったよ」

「兄を連れ戻すにはこの組織を潰さないといけないと、そう思ってまずは様子見に忍び込んで…。これからはもっと慎重になるように、気を付けるようにする」

 2人は頷く。

「さ、行こうか」

「?」

「どうした、驚いた顔をして。家まで送ろう」

「これ以上あなたたちの邪魔をしちゃ悪い…」

「気にするな、好きでやってるんだ。妹なら甘えるのは得意だろう、甘えてみろ」

 レオンは上着を投げかける。セナはずらして頭を出す。

「うん…エスコートお願い」

 3人はその建物を後にした。建物は静まり返った空気となっていた。

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