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運命の混紡者  作者: Ridge
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西部編1-1

 大河を下る船の中、個室でレオンとナレルは寛いでいた。レオンは横になって頬杖をついて、机の上においたおもちゃを見ている。長さの異なる細い木の棒の先に重りがつき、船の揺れによって揺れるだけのものだ。ナレルはミセオドアで買った本を読んでいる。

『連絡。まもなくトークスに到着します。トークスに到着後、本船はタオライへ向かいます。バール行きのお客様は3番乗り場へお乗り換えです』

 艦内アナウンスで寝ぼけた頭を覚ます。

「乗り物に乗って思うんだけど、知らない場所の地名で〜方面と言われても分からないと思わないか?東西南北で言ってほしい」

「言われてみればそうだね。ま、僕は両方とも知っているけど」

 ナレルは得意げにフフンと笑う。

「どうした、本に影響されたか?」

「まあ、そんなところか。荷物を準備しよう」

「それで、タオライとバールについて説明してくれ」

 上着を着て鞄に荷物を入れつつ、話を聞く。

「大河は分岐や結合を繰り返しているが、トークス駅より下流は西に流れる大河と南に流れる大河があるんだ。西に流れて、西海岸に行くのがタオライ行き、南海岸に行くのがバール行き、どちらも港湾都市だよ」

「ここで降りないとだめなのか?もう少し西に行った方が近そうだが」

「ここより西に行くと、延々と続く山脈が広がって西部地方に入るのは厳しい。大雑把に言うと、その山脈から南が南部地方、北が西部地方だ。トークスからは山脈の切れ目の谷を通って西部に入れる」

「山道は迷いそうだ。普通に先人の引いた道を歩こう」

 船は港に着き、2人は船から降りる。揺れない地面に気持ち悪さを感じたが、歩くうちに元に戻った。

 雄大な山々が目の前に連なり、その存在感を肌で感じ取れる。ところどころの山の天辺を雲が隠している。緑に覆われているところもあれば、岩石が向きだしているところ、高原となっているところもある。

 蛇行する谷の入口に風の町トークスがある。扇状地の扇頂部に町はあり、その下に果樹園、その外側に畑が広がっている。

「停船場から少し歩くけど、町は見えるから迷うことはない」

「町に到着したんじゃなかったのか?」

「あれは駅名だよ。この辺りの名でもあるからね。でも中心市街地はあっちだ」

「ややこしいことをする」

 2人は長い坂道を歩いてトークスに到着する。風が吹きおろしてくる。

「行政区分ではこっちが南部の町で、谷の出口にあるのが西部の町でランジュ。3か4時間くらいで行けるけど、今から行くと真っ暗な中を歩くことになって危険だからここで一泊しよう」

「…そうか、それじゃあ仕方ないな」

 宿をとって荷物を置き、町に出る。町中には風見鶏や風車、旗があり、大きな風車の下では製粉しているようで、袋を抱えた人が出入りしていた。

 大きな風車の周囲に歩道橋があり、メンテナンスや観光ができるようになっていた。橋の上には、無機質な橋に潤いをもたらすようにか道の両端に花を植えたプランターがあり、様々な色の花を咲かせている。その橋の上から谷の奥を見ると、斜めに山の上部だけ照らす日の光と、曲がりくねった川と道、奥を遮るように山がたたずんでいる。緑の葉がゆらゆらと揺れている。風が来ると木が波を作るように揺れる。

 階段を下りて行く途中、曲がり角の踊り場。

「おわっ」

 壮年の男が上から踏み外して踊り場に落ちてくる。レオンとナレルは手すりを掴みつつ、その男を受け止める。

「すまない、助かった。ありがとう」

 男は手すりを掴んでバランスを整えて立つ。

「いえいえ、何事も無くてなによりです」

「もしよければお礼にお茶でも。近くに家があるので」

「何もそこまでしなくてもいいですよ」

「魔女の占いで、遠方からの客人を招くとよいと言われた。お礼をさせてくれないか」

「なんだか情報庁のメティスみたいだ…」

 ナレルはぼそりと呟く。

「どうせ明日の出発まで予定はないからいいんじゃないか?」

「そうだね。それじゃ、お世話になります」

 男は家を指さし、レオンとナレルは男について行き、家に入る。男は妻にお茶の用意を頼み、手を洗って茶菓子を棚から出して箱に入れて机の上に運ぶ。

「自己紹介が遅れてしまったな、私の名前はフィスク。以後よろしく」

「レオンです。こちらはナレル」

 お茶が差し出される。

「この町へはやはり通り道で?」

「はい、スナビエへ行く途中に。明日の朝に発ちます」

「やはりそうか。いい町なんだが、宿場町としてか」

「フィスクさんは何をしてられるのですか?」

「私?私は学者だ。研究をしつつ、少しだけ教師をしている。財源は中央政府の研究関連費から」

「何の研究を?」

「魔力について。理学的な研究をしている。中部にいた頃は、それが何に役立つのかとかどうやって投資分をリターンさせるのかとか、そういう工学的なことばかり聞かれて来た。王都から物理的に離れたら問い合わせが減ったので気分がいい」

「それで予算が出るのですか…?」

「色んな考えの人がいるのだ。組織とは派閥は強い方が主導権を握る。魔力そのものの研究、何の役に立つか分からない、金になるか分からない、世界そのものの探求は研究する価値ありと組織としては結論付けていたわけだ。個別でどう役に立つのか聞く人はいたが、その派閥は組織の決定に影響を及ぼす強さではなかったということだ」

「すみませんね、主人は根に持つタイプのようで、何度もその話を」

「いえ、初めて聞く話です。参考になります」

「魔力について詳しく知らないので、教えて貰えますか?」

「ああ、もちろん」

 フィスクはお茶を飲んで一息置いて説明を始める。

「魔力はおそらく最上位の高いエネルギーだ。あらゆるエネルギーに効率的に変換可能なものだ。どこにでもあるが、とてつもなく少ない。ただし、人間を含むいくつかの種は魔力を作り出すことができる。その力が優れているのが魔術師で、彼らは訓練によって本来の約100倍の魔力を作ることが可能。理論上はさらに上があるが、体が持たないので作らない。で、問題はこの魔力、どういうものなのか、いつできたのか、何のためにできたのか分からない。作って使えるなら問題ないじゃないかと言うかもしれないが、それは半分その通りだし、半分は違う。やはり知るべきなのだ。例えば、酸性の泉の側に住んでいて、その水を使って暮らしているとする。何に使えて何に使えないのかとか、道具をどれくらい使えば腐食するから採算をとるにはこれだけで売らないといけないとか、過ごしているとしよう。金になるか使えるか分からないけど、泉に注ぐ上流を見に行こうとする。そうすれば、もしかしたら、中性の水が手に入るようになって、今まで使えずに諦めていたことができるようになったり、腐食が遅くなって採算がとれるからこれもやってみよう、という風に豊かさを広げられる。上流への探索の途中で、調べ方が進歩したり、道端にいいものを見つけることがあるかもしれない。無ければ、得はしないが、進まなければ見つけられない。…おっと、話が長くなってしまった。まあ、とにかく、魔力そのものがどういうものなのかよくわからないし、分かったら多分いいことあるから調べようというものだ。探求は楽しいからやりたい、そういうもっと根源的な欲求によるものもあるがね」

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