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運命の混紡者  作者: Ridge
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中部編12-5

「ハッタリだ!罠を仕掛けたなら仕掛けたなんて言うものか!」

 レオンの周囲には逃げ遅れて戸惑う人たち、正面にはリオグミカ。

 天井からレオンの周囲に光が降り注ぐ。何人かが光を避けるように後ろへと跳んで下がった。

「そこだ!」

 レオンは柄から刀身を消して、後ろに下がった人たちを光線で撃ちぬく。光線を受けた者たちは黒い霧が噴き出す。

 レオンは事前に人々にこの罠の説明をして、その際にはしゃがむように1度実演した。怯えて下がるのは魔族だけで、仮に人間が驚いてもしゃがむようにすることで別の動きを取れないようにした。

「チッ…」

「レオン!海の間で合流しよう!」

「俺はしばらく陸に残る。先に行け!」

「ああ!」

 おじさんがレオンに手を振って、部屋から出るように他の者を誘導する。

「(奴らが記憶しきる前に、認知される対象を組み替えなければ…。この人数で時間がない、ランダムに並び替える)」

 景色は一瞬で変わる。壁に掛かっていた絵や、シャンデリアが人に代わって吊られ、しゃがんだ人々は場所が変わったり、椅子や絵、石ころになったりしている。その椅子などはカタカタと動き出す。

「逃がしはしない!…くっ…!」

 部屋に強い光が溢れてリオグミカは目が眩む。


 強い光が収まり、部屋は元の明るさに戻る。

 部屋にはレオンとナレルが残り、所々に人が吊るされたり横たわっている。

 ナレルはレオンに歩み寄る。

「レオン、リオグミカを逃がしてしまった。でもまずはあの人たちを助けないと」

「海の間か?」

「海の間?ああ、きっとそうだよ」

 レオンはナレルの胸に光線を撃つ。ナレルはのけぞりつつ地面に転がり、丸い石になって転がっていった。倒れた人に当たって止まり、石からネズミに代わった。

「残念だったな、狩人レオン。正確に場所が分からないからずれて見える。私は少し掠っただけ」

 どこからともなく声が聞こえる。

「(肩を掠っただけだ。あと一押し…あと一押しなんだ。魔族の腕力で奴の背でも頭でも殴れば殺せる。今やらないと後で大変だと勘がそう言っている!)」

 リオグミカはレオンの背後に回って重心を前に落とす。前に倒れつつ、地面を蹴って上へと起こしつつ走り出す。

 リオグミカはレオンの顔を見てこの踏み込みを後悔する。しかし止まることはできない。 

 レオンは上を見ていた。口元が緩み始める。

 その目線の先には、天窓。両手で大きく丸を描くジェーンがいた。この場に逃げ遅れはいない、巻き込む者はいない。


 レオンは長い光る刀身を柄から出して、右足を軸にして両手で大振りに剣を横に振る。

 リオグミカは両腕を前で交差させて頭を防ぐ。剣は頭上を通り抜ける。が、角度をつけて一周した剣を受けて腕を切られつつ横に体が反れる。続けざまに周回する剣を全身に受け、弾き飛ばされて地べたに叩きつけられる。

 リオグミカの能力が解け、妙な景色は消え、元の世界に戻る。

 レオンは刀身を消し、左手と左膝をついて倒れた敵を見る。

「私が負けた…。一体誰に…」

 レオンは立ち上がってリオグミカに近寄り、柄を構える。

「……。俺は導く光、狩人レオンだ」

 リオグミカは顔が緩み、胸に光線を受けて黒い霧となって消滅した。


 エンド砦。モーシンドール首相は捕らえられ、部屋に軟禁されている。部屋の中と扉の前に見張りがいる。

「…それで首相、考えてくれたかな?そう難しい話じゃない。俺たちの生活の場を用意してくれれば、異界の技術で繁栄を約束しよう」

「そんなことができるなら、こんな真似をする意味は無い。その程度ということだ」

「不器用なもので。だが技術は本当だ」

「お前たちは誤解している…。首脳の一人や二人、抑えればどうこうできるとでも思ったか?空席は代わりに誰かが継ぐ。候補はまだまだいるのだから…」

「さて、継いだ人が不審死を続けたらどうなるだろうね?」

「ワイク君、君は本当にそんなことができると思うのか?」

「1人目はこの通り、誰にも気づかれずに連れ出すことに成功した。いくらでもできるさ」

「知らないと言うのは不幸なものだな」

「何だと?」

「戦力を見誤ったとしか思えない君たちを憐れんでいるのだよ」

「虚勢は張らない方がいい。あの狩人に頼っているというのに」

「嘘ではない。それに、そういう視野の話ではない」

「お前の話は虚仮威し文句ばかりだ、何ら実のある話にならない。生かしておく価値はないな」

 ワイクは斧を手にして立ちあがる。

 窓から煙玉が投げ込まれ、煙幕が立ち込める。その中に人が飛び込み、誰かを連れ去っていった。

 魔族たちは壁を壊して通風し、煙が消えた後に見たのは消えた首相と残された人影を作る人形だけだった。

「逃げられた!追え!」

 爆音が砦の下から響く。

 砦は傾き、天井の亀裂から砂埃が零れ堕ちていく。

 床を滑って壁に当たった魔族たちは外を見る。周囲の森は逃亡者たちの姿を隠す。

「分かれて追跡を…」

「いや、もう手遅れだ。作戦は中断、撤退だ」

「中断…撤退…?」

「たった今、連絡が入った。…リオグミカ様が討たれた。もう作戦の続行は不可能、撤退する」

「奴らは逃走中だから追ってはこないかもしれない…」

「まだ負けじゃない。再起可能だ、撤退せよ」

 ワイクは部下たちに命令して撤退を始めた。中部地方での魔族の作戦は終了した。


 その後、モーシンドール首相は魔族対策チームを作成。その情報を得た魔族は中央から遠ざかっていった。


 湖畔都市スギディングスの宿の一室、レオンは連戦でできた傷と疲労から休息を余儀なくされていた。

 誰かがノックをする。

「どうぞ」

「ここで話をしたいのです。扉は開けずに」

 落ち着いた若い男の声がする。

「俺の目なら見ようと思えば見えるが…」

「できれば見ないで欲しいですね。私は怪しい者ではありませんよ」

「……。話を聞きましょうか」

「今回のことでお礼を伝えに来ました。助けていただいてありがとうございました。館についた傷は直せるが、命は失われたら戻せない。多くの命が助かりました」

 レオンは目を閉じて耳を傾ける。

「そしてもし、情報庁に戻る機会がありましたら、フォルスにこう伝えてください」

 男は一度止めて、息を吸う。

「まずは、この度は助かりました、ありがとうございます。副長、私はあなたの部下です。火をお使いくださいと」

「……。火を使わない理由は何でしょう?」

「恐ろしいからでしょう。しかしそう怖いものではありません」

「そうでしょうか?いや、そうかもしれません。しかし、燃やすのは派手過ぎるということもありますし、時期が合わなかっただけかもしれません。話し合ってみなければ分かりません」

「そうですか…。あなたへ言伝を頼みましたが、やっぱり無かったことにしてください。私が直接聞きましょう」

「分かりました」

「では、これで以上です。ありがとうございました。さようなら」

「さようなら。お元気で」

 レオンは扉から離れて壁にもたれる。開けた窓から湖が見える。雪の被った山も木々も湿原も青空も反転して水面に写っていた。手前の方でそよ風に揺れて小さな波がキラキラと輝いていた。

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