中部編12-4
スギディングス駅、都市名を冠するここは1つの終点駅。大湖の右下あたりの点のような町の駅。駅は橋の上にあり、下は道路や店となっている。この地区は駅によって分断されることなく、むしろ駅を主軸として町が発展している。
その駅に列車が到着する。
「着いたようだ。ジェイツ、見てこい」
車の停止と駅のアナウンスからリオグミカは到着したと感じ取った。彼らは、窓が無く扉の閉まった貨物車におり、音くらいしか外を知る術がない。
ジェイツは「了解」と言って扉を開けて外に出た。車内に眩しい光が差し、爽やかな風が吹き込む。
「……」
ジェイツが戻って来るまでのほんのわずかの間、リオグミカは目を閉じて口を軽く開けて、新鮮な空気を視覚以外の五感を使って楽しむ。
聞き覚えのある足音がして目を開く。ジェイツが戻って来た。
「異常ありません。降りましょう」
「そうか、ご苦労。さあ速やかに降りろ。客が荷物を取りに来ると混んで面倒だ。お前たちに掛かっている能力を解いている。だが、荷物を持った客人が外に出たようにしか見えないはずだから安心しろ」
魔族たちは外へと出ていく。
外がチカッと光ったと思ったその時には、扉の外の魔族が黒い霧に変わっていた。
「馬鹿な…!」
「狩人だ…あの狩人が見ている…」
「先手を取られているんだ、もう勝ち目は無い…」
「黙れ!こちらには魔王様から授かった力がある、切り抜けてやる」
リオグミカは能力を発動する。周囲の魔族全てを貨物室の中にいたネズミに見えるように変えた。
「これで相手に魔族だと気づかれない、それに遠くなら見えない、行け!」
列を組んで走りだす。
扉から出る直後に連続で光線を受けて消滅していった。
7人目で立ち止まり、光線は止む。
「奴には利かないのか…?いやそんなはずは…目ではなく脳に作用する…そうか、能力範囲外か!」
「どうします?」
「車両と車両の間を狙い撃てるのなら、そう離れていないか、そこを狙える位置に陣取った遠い場所ということになる。後者であれば、そこらへんの壁に穴をあけて脱出すればいい。だが前者だった場合は無駄どころか狙い撃ちの機会を与えることに…」
「人ごみに紛れて脱出しましょう。奴が人間に当たるのを恐れて撃たないはず。遠くであれば尚更」
「いい考えだ。それに少し手を加えてこうしよう。我々は散開する。そして一部が客の人ごみに紛れ、それ以外が別方向へ。相手が構えているのなら、のろのろと待っているのは危険だ」
「了解」
リオグミカたちは扉から外へ出て、散開する。一部が人だかりへと近づく。
近づく途中で上からの光線で消滅し、黒い霧となる。
反対側へ逃げた者たちは攻撃を受けなかった。
「駅の屋根。ここが死角か…」
駅の屋根の上、レオンたちは場所から動き出す。
「敵のボスは女と聞いていたが、たくさんいて…本命に当たったのかな?」
「多分外した…透過しても見えなくなった。奴の能力圏内に入ったようだ」
「もしかしたらレオンの目なら効かないと思ったけど、無理のようだね。距離を取ろう」
「私もここから離れるのは賛成だけど、駅にとどまるべきだと思う。これで仕留められなったのだから今度は敵が人質を取るかもしれないから助けなければ」
「いや、相手は変装ができるのなら、なるべく静かに素早くここを出るだろう。俺たちはそれよりも早く奴らの目的地で迎撃する」
駅の下で魔族たちは一度結集する。
「散開して狙われた者の位置と死角から大体の場所は分かった。この上だ。少なくとも、ここにいた」
「攻撃に向かいます!」
「待て!そこにはもういない!」
「狙撃手は移動するのがセオリーですが、奴がそんな慎重なことをしますか?」
「それもあるが、私の能力圏内に入ったことで、私たちがどこにいるのか相手には分からなくなった。だったら、距離を取ろうとするだろう。だからもういない。登るのは時間の無駄だ」
「これからどうします?」
「決まっている。当初の予定通り不知火離宮だ。敵は私たちより先に動いて待ち構えようとしているはず。だが、私たちも素早く動けば準備の時間を与えない。狩人レオンはここにいたのだから、最初から向こうで退屈に座って待っている訳がない。急げば迎撃準備中に乱入可能だし、あわよくばこちらが先に辿り着くことも。そうすれば奴らに成りすまして侵入可能だ」
不知火離宮。正門が開き、衛兵2人が正面に立っている。小鳥が群れを作って正門前に飛び降り、群れはぴょこぴょこ跳ねながら正門に入って再び飛び上がって宮殿へ向かう。
「ジェーン、全員上の階へ逃がしている。あと3分もあればできるだろう」
この離宮に潜入している情報庁職員がジェーンに話しかける。こそこそ話すより堂々とやる方が寧ろ自然に見える。
1階の広間。大きな窓に、丁寧な刺繍の絨毯、エネルギーの迸る大きな絵画、均整の取れ柔らかそうで、しかし緊張感を醸し出す椅子、寸分の歪みの無い扉と異界観漂う部屋にレオンたちはいた。
レオンとナレルは力を抜いて、来るべき時に備えている。
「3分…間に合うだろうか…」
「いいや、間に合わない」
どこからともなく声が聞こえ、突風が吹く。
レオンは刀身のない柄を構える。
「その即死光線、撃たない方がいい。味方に当たったら大変じゃない?」
リオグミカは部屋の中央に突如現れ、ゆっくりとレオンに向かって歩く。胸に光線を受けるも通り抜け、姿がもやとなって消える。
残った足元に磨かれた球状の石が止まっていた。
「私が魔王様から授かった力は対象の誤認。五感全てを欺く…逃げ場などない」
ナレルは突然手のひらに箒を逆立てて持ち、倒れないようにゆらゆらと動く。
「どうしたんだナレル?」
「ほら…」
箒はリオグミカに姿を変え、ナレルの手の上で片足立ちし、倒れて地面に傾く。その顔は無表情に目は虚空を眺めたまま地面に叩きつけられる。しかし何ともない様子で喋り続ける。
「下手に撃たない方がいいよ」
倒れたリオグミカはジェーンに変わり、ジェーンは何が何だか分からないと言った顔で目をキョロキョロさせている。
「ハハハハッ」
リオグミカは椅子に足を組んで腰かけて下を向いたまま肩を震わせて笑う。
「さて、ここにいる私は本当に私でしょうか?」
「……」
レオンは刀身を出して構える。
「フフ…そうだろう狩人レオン、もう撃てまい。あれは、魂の牢獄たる肉体を破壊するもの…解き放たれた魂は膨張を繰り返し、宇宙に広がっていく…。そして星々の法則を抜け、大きいもの=小さいものの次元に達したときに転生する」
「……」
「魂は分裂と結合を繰り返す。通常ならば…、しかし、その光線にはマーカーの役割もあり、魂の分裂も結合も遮り、魔界へと辿り着くように印をつけていく。こうすることで宇宙を守るとかほざいているのがお前たち光闇の民だ」
「物知りだな。話したことは無かったはずだ」
「あんたらが務める渡し守、そいつを解体すれば分かること。馬鹿なの?」
リオグミカは神経を逆なでするように
「色々言いたいが、とりあえず大きな間違いが1つある。俺は宇宙を守るなんて考えちゃいない」
「何…?」
「俺もお前も人間も何かしたところで宇宙が壊れるものか。俺たちがいようがいまいが、宇宙は何ら変わりなく回り続ける。…宇宙バランスや宇宙環境を守ると言うのなら正しい。俺たちは奇跡のバランスの上に存在している。あとほんの少し違えば生物は生まれなかっただろうと聞いたことは無いか?そんな奇跡のバランス…俺たちが生きていけるためにバランスを保とうとしているのだ。宇宙を守ろうなんて大仰な目的じゃない」
「そして私たちは、そのバランスを崩す者…」
「朧界で散るお前たちの魂を魔界へと還すことでそのバランスは保たれる」
「でも今まで人類は滅んでいない。お前のそれは恐怖を煽る戯言だ。私たちの力を認めず、魔界へと閉じ込める詭弁だ。狂信者共には、強者こそ支配者という理…弱者が支配者として存在する今の歪みを正すのは絶対だと蒙を啓かせてやる!」
「その思考こそがお前の信仰では無いのか?狂信者はどちらだろうか?その野望、叶えることはできない」
リオグミカは椅子から立ち上がり、右手で前髪を後ろへ流す。
「そう、随分お喋りね。準備は整ったわ」
「…ああ、それを待っていたんだ。俺は狩人レオン、獲物を仕留めるのに罠だって使う」




