中部編12-2
レオンとナレルはその情報に混乱している。
「何だと?指揮官が自らスパイみたいな真似を?」
「信用できる部下に恵まれないということ…?いや、幹部クラスなら特殊能力を授かっているから…?」
「理由は不明だが、おそらく工作に動かせる駒は少ないということだ」
「奴らの狙いは王室と政府…。迎撃準備は?」
「もう手配した。これで潜入は無理だろう、やるなら強襲しかない。挟み撃ちにできるように別動隊も用意した」
「俺も出よう。彼らの魂を魔界へと還す」
「力になってくれるのはありがたいが…、足並みを揃えられるかどうか…」
「副長、大変です!」
職員があわてて駆け寄ってきた。
「何か動きがあったか?」
「現地の報告ではモーシンドール首相が誘拐されました。警備には何の異常も無かったのですが、執務室を見たところ、もぬけの殻となっていて…」
「そんな馬鹿な!」
「なぜ誘拐と分かった?」
「離れた宿から監視していた者の報告で、円盤車に乗せられて運ばれるのが見えたとの報告があったからです。しかし、現場は誰もその様子は見ていないと。円盤車は幾つか来たものの、官邸に入るのも出ていくのも閣僚ばかりだったとのことです」
「変装か何かか?それも近くで見る人にしか見えない特殊なもの…。作戦変更だ!外に展開した部隊は移動の準備だ。移送された場所に侵入して奪還する」
「了解。そう伝達します」
職員は足早にその場を離れて席に戻って操作を始める。
「これほど早いとは…次は王室」
ジェーンは目くばせを受けて説明を始める。
「現在、王室はほぼ全員がミセオドアより北西の湖畔都市スギディングス、不知火離宮にいます。狙うとすればそこでしょう。最速の移動手段である鉄道を止めますか?」
「いや、変装のようなもので偉い人に化けて動かされる可能性がある。レオン、行ってくれないか?私たちに魔族と人間の見分けができないが、君ならできる」
「承った。案内にナレル、それと俺たちよりも相手のことをよく知るジェーンも連れて行きたい」
「ああ。ジェーン、それでいいか?」
「私は大丈夫です」
フォルスは全員の顔を確認して、問題ないことを確認する。
「ではそっちを頼む。健闘を祈…」
「ああ、待った。執務室からいなくなった辺りを正確に聞きたい。わざわざ正面から出て行ったのには何か理由がある。亜空間を通って外に出るでもなく、裏口から出るでもなく正面からには何か意味がある」
「出発後に分析結果を連絡しよう」
「移動中に遭遇する可能性もある。先に知りたい」
「すぐに分かる確証は無いが、聞いてみるか。ジェーン、現地に繋げてくれ」
「了解」
フォルスの指示に従ってジェーンは回線を繋げた。
相手からの返答があり、レオンは質問を開始する。
「執務室に入る者と出る者はどうだった?」
「通る時に見張りがいます。その記録では、首相が1人残るはずです」
「誰かが通ったのか?」
「首相が最初に部屋に入ってから、外務大臣と金融大臣が執務室へ行きました。その後で、その外務大臣と金融大臣が出てきました。警戒の連絡のために、伝えに向かったところ、部屋の中には誰もいませんでした。部屋の中で争った跡もありません」
「ん?」
フォルスは疑問からつい声が出た。普段であれば、このような迂闊なことをしないのだが、深く考えていて、余裕が無かった。
「いや、私の勘違いだ。ところでメジェド議員はいなかったか?」
「一度来ましたが、官邸に入ることなく戻りました。山林大臣を連れてきた後、もう1人姫君を迎えに行くとかで」
「では、離れたところから見張っていたというが、異常については首相が連れていかれるところだけか?他の時間は見ていないか?」
「代わります。私が監視を始めたのは、連絡を受けてからのことですので見たのは首相が連れ去られたことだけです。準備は私たち情報庁の方が早く、官邸内の準備には総軍省を経由してからのものだったもので」
フォルスはレオンの肩を叩いて、マイクから離す。後ろで小声で話し始める。
「官邸にいる情報庁職員が誰かは知られてはいけない。そのため、情報庁しか把握していないことを伝えるわけにはいかず、総軍省を経由して現地の警備兵に伝えた。一方で、現地の情報庁の職員にはすぐに伝えたので、周りの目を気にしなくていい官邸の外にいた者たちの動きが早くなったということだ」
「なるほど。承知した。俺はもう聞くことがない」
「私も十分だ。では通信を切る」
ジェーンは通信の合図や今後の連絡をした後に通信を切った。
「フォルスさん、聞きたいことが…」
ナレルは席を離れようとするフォルスを呼び止める。
「手短に頼む」
「外務大臣と金融大臣のことで何か思い当たることでも?」
「なぜその2人と考えて時間を浪費させようとする相手の策だろう。それほど意味があるとは思えない」
「気になったのは他のことでは?」
フォルスは言うか少し迷った後に、目を閉じ息を吐いて、目を開いて小さな声で話す。
「…これは極秘情報だが、外務大臣は今日レムノール邸にいる。外国の要人と打ち合わせだ。非公式のな。それを知っているのは極僅か。今日は官邸にいると事務上はしているが、本当は違う場所にいる。だから官邸に現れるのはおかしい。ただ、私たちも完璧に居場所を把握しているわけではないから、もしかしたら予定が変わるなどして本当に官邸に行ったのかもしれない」
「そうですか。だとすると不思議ですね」
「もう十分だ。他の作業を中断してまで考える時間はない」
レオンが考える2人の前に手を振って止める。
「相手の力は要するに変装に近いものだ。それで騙している。とりあえずそこまで分かっていればいい。これから北西へ向かう」
レオンたちはエレベータを下りる。
部屋から出ると慌ただしい雰囲気は消え去り、外には何も変わらない町が広がっている。
「おい、1階はこんなに長かったか?」
「そんな訳ないじゃないか。ジェーン、どこへ向かっている?」
「地下室。王都には円盤車があるでしょう?あれは浮かべるのは主に道路に仕組みがあったけれど、ここにあるのはその仕組みを車の方に乗せて、足りない分を加えて空高く飛べるようにしたもの。アホみたいに金がかかるので、限られた数しかない。それにこの辺りは川が近いから地下水が染み出してくるので、地下室作るにも金がかかったそうよ。今のところ定期的に準備運動に動かす以外使ってない。非常時ではないからね。金をかけた分、活躍してもらわないと…」
口調こそ淡々としたものだが、声には興奮が隠せない。存在を知りながらも、満足に動かす機会のない物だったのだ。情報庁の本当の拠点がある塔、その地下深くに空高く飛べる乗り物が隠されている。それを今から動かせる!
「表に出す時に目立たないか?」
「定期的に出す時は広報の垂れ幕を付けてた。出したところで、それほど騒がれない」
地下室に到着し、扉が開く。それに反応するように、緑色の炎が部屋の壁際にある燭台に手前から奥へ波のように灯される。部屋の中央にある直径7mほどの円盤型の乗り物は、その表面に揺れる炎を映す。
「さ、行きましょう」
ジェーンは先導しつつ、ポケットから鍵を出す。
乗り物の横に背丈ほどの石板がある。ジェーンの正面側は、つるつるになっており、それ以外の方向は原石といった様相だ。
中央よりやや上に鍵穴があり、そこに鍵を刺して回すと石板に白い文字でコードが浮かび上がり、高速でスクロールされる。ジェーンの顔は白い光に照らされ、丸い目にはコードが映り、輪から棒になって輪になっていく。最後に横線の白い列が止まる。
乗り物の内側に照明がついて、駆動部がうねり声をあげる。
ジェーンは鍵を抜き、鍵の輪に人差し指を刺してくるくる回す。
「これでよし。ほらほら乗って、操縦は任せてね」
「これから戦いだってのに浮ついてないか?」
「いいさ、あの屈託のない笑顔を見たら元気が出てくる」
「姉や仕事で責任とか我慢とかあっただろうね」
ジェーンは運転席に、レオンとナレルは後ろの円状の席に座る。
「ん?何か言ってた?」
「乗るのが楽しみだなあと。行こう」
ジェーンはロックを解除してエンジンキーを回して動かす。円盤が浮かび上がり、地面に魔法陣が浮かびあがると天井が消えて魔法陣の上に厚い層が現れる。一番上には塔横の庭の草が生えていた。
円盤は上へと浮かび上がり、明るい光が横からも入る。
なおも高く浮かびあがり、塔を横目に昇っていく。
ついには塔の先端が見えるまでに上がった。
上から見る塔は小さく、他と変わらぬ町の一部だった。




