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運命の混紡者  作者: Ridge
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中部編8-2

このパソコンでコンマとカンマ使うことなくなったので、この話から句読点になります。

 静寂に包まれた町、レオンたちの休む家にも明かりはついていない。ただ、隠し部屋を除いては。

「彼らが眠っている間がチャンスだ。装備を調べよう」

 帰ってきた機関員が発言する。

「駄目です。心象を悪くします」

「では貸してくれと言って応えてくれるのか?」

「無理でしょう。とにかく、手を付けないでください。下手すれば敵に回してしまいます。積み上げてきた信頼を崩す真似は許しません」

「手段を選んでいて手遅れになったらどうする?」

「手遅れににはなりません。焦って自滅しなければ間に合うのです」

「…了解」


 印刷室.男は台の前の椅子に腰かけ、ノートを台の上に置く。

 台にはアームが2つついており、1つは先がペンになっており,もう1つはカメラになっている。ノートはカメラの下に置かれた。男は指先から小さな火を出してアームの奥にある燭台を灯す。その後、手を触れずにページを浮かせてパラパラパラと捲る。指先からペン先へ向けて通電し、ペンが動きだしたところで電気を消す。

 ペンは下に置かれた紙に高速で書き始める。ドラム状の紙は1ページ書き終わると回転して次々と新しいページを出す。ノートの絵も文字も全く同じものが描かれていく。

 コピーするページの終わりで裁断され、巻き取った方のドラムは反転して紙を出し、今度は裏面が書き込まれていく。両面が終わると手前で裁断され、籠の中に積み上げられていった。

 それを拾い上げて指先で弾くと等間隔の線が縦横に入り、無数の正方形を作る。もう一度弾くとその正方形は順不同にバラバラに並び変わった。すべてのページでそうなっていることを確認した後、封筒に入れて鞄に入れる。明日、それを持って本部へと運ぶ。


 夜が過ぎていく。星空は地表へと沈み、新たな星が対岸から浮かび上がる。夜空は白みを帯び、夜明けが近づく。まだわずかに明るい星は見える。ついに強い光にかき消され、青空が滲み出す。

 レオンたちは目を覚ます。


 2人は身支度を整えていると、ジェーンが家にやってくる。ヴィオラのいる食堂に行く。

「ありがとうヴィオラ。あとは私が引き継ぐ」

「もう終わりね…後はよろしく」

 ジェーンは手のひらを向けて軽く振って部屋をすぐに出た。

「さあ、準備はいい?」

「元気だな。そう急かすなよ…よし!」

 レオンとナレルは今から出発すること、一晩お世話になった礼を言って玄関に行く。ヴィオラは見送るために玄関に立つ。

「おっと忘れ物だ」

 レオンはヴィオラの横を通って寝室の方へ向かう。耳元で囁く。

「ありがとな、守ってくれて」

 ヴィオラは目を閉じて口元が緩む。

 すぐに寝室から戻って来た。

「あった?」

「勘違いしてた。持ってた」

 レオンはポケットのボタン外してプリズムを見せる。

「なんだそりゃ」

「さ、行こう」


「結局、策って何だったんだ?」

「ああ、後で教えると言ったかな…。…そんなものはない。互いに信用できると感じ取った、しかしそれを表に出してはだめだった」

「(そうか、ある程度の権限が与えられているだろうけど組織の一員であるから、その考えに従う必要がある…。より踏み込む余地があると思わせてしまったら、あえて何もしない理由はなくなる。だから黙っているしかなかったんだ)」

「何の話?」

「こっちの話。女の子は聞いちゃダメ」

「へえ、そんな話を朝っぱらから」

「だって話終える前にジェーンが来るから、なあ?」

「そうだね。あと30分遅ければねえ」

「ふーん、悪うござんした。まあいいわ、車に乗って。連れて行くから」

 3人は円盤車に乗り、車は走り出した。振り返ってももう泊まった家は見えない。


 ニークラシュ議員はメジェド議員の家で資料を読んでいる。

「問題を見つけるのは難しい。解決するのはもっと難しい」

「立場上動けて影響力があるのは私たちくらいだ。これは私たちの役割…」

「人口減少幅の大きい西部と北部は生産能力を見ても低い。元々住みにくい場所だったが、国境がなくなるとな…。砂漠ばかりの所や有毒ガスや重金属がゴロゴロしているところでは…」

「そんな環境で暮らす彼らの生活の知恵が絶えると不味いが、それはまだ先の話なので置いといて…減り具合が異常だ。これらの記録によるといずれの町でも、この生産能力ではもっと多くを賄える」

「増やす前に、まずどうやって留まってもらうか。放っておいたら得な方へ、つまり中央へやってくる」

「シンプルに考えるなら、現状の中央へ誘引する力と同等かそれ以上の力を得ることができればいいわけだ。あるいはその誘引する力を制限するか」

「一番はやはり稼ぎだろう。給料が高い方へ行く。が、先進地域である中央が高くなるのは仕方がない。…ただしそれは統一通貨の場合」

「新通貨か。中央の方が栄えていて通貨高になるから、地域ごとの移出入した時に売値が変わらないのなら通貨安の地方の方が給料が増えるということだろう?」

「そんなところだ」

「煩雑になって取引自体が無くなっても困る。全員が増えるわけではないから再配分の仕組みも必要。生産者と消費者の間だけが、差分で損したり得したりするかもしれない。何より中央の商品が高くて売れなくなるのでは賛同が得られるかどうか。必要な経費だと考えてもらえるなら良いが…正直、私の支援者も納得させられるか怪しい。いい落としどころがないものか…」

「うーむ、もう少し手間のかからない方法を探ってみるか。準備だけで力尽きそうだ」

「影響が大きいものはしっかりと調べないとな。失敗したときの立て直しに困る」

「しかしどうにも敵の多そうな役割だなこれは」

「敵ねえ。……」

「…?」

「ああ、いや何でもない。そうだ、喉乾いてきただろう。お茶でも淹れよう」

 メジェドは扉に手をかける。ドアが勢いよく開き、ズカズカと男たちが入って来る。

「誰だ!?」

「黙れ」

 メジェドは突き飛ばされて壁にぶつかる。

「な、何をするッ!」

「俺はどっちでもいいけど、人の金を取ってはいけないって」

「人の金…?何のことだ?」

「ああ?」

 ニークラシュは襟元を掴まれ、足が浮く。両手で相手の手を掴んで離そうとするがまるで岩を掴んだようにビクともしない。握力が押し返される。

「あんたらの作ろうとする法律、中央の金を外に出すような法律は駄目だね」

「馬鹿な、昨日動き始めたばかりだというのになぜ知っている?」

「事務所には半年前から資料を集めさせてはいたが…そもそも成立するかすら全く不明なのに…」

「なるほど、それだけ分かれば十分だ。死んでもらおう」

 もう片方の手で頭に手を伸ばす。

 力が抜け、走馬燈が巡る。人々の怒り顔、喜ぶ姿、言いたいことを飲み込んで受け入れる部下、手を握る若い日の妻、窓の外の雪…。

「(恨みはたくさん買った。誤解も解かずにそのままにしてしまったこともある。ここが限度だったのか…もう取り返しなどつかない…。光の向こうから神の使いが召しに来るのだ)」

 まばゆい光。手から離れて地面に落ちる。顔を上げて扉の方を見る。黒衣に身を包む男が光る剣をもって立っている。前には痺れて膝をついた男、室内には黒い霧となったものたち。

「誰だ貴様!?」

「(やはり来た、死を伝える神の使い…)」

「眠り妨げる霊薬、狩人レオンだ」

「…!」

「そうか、お前が…。お前を倒し、幹部の椅子はこのジーム様のものだ!」

 ジームはガラスの張った机をレオンに向けて蹴り飛ばす。手前で切断され、散ったガラス片が宙を舞う。レオンは目を細め、室内に入って回り込む。ジームは飛び上がって両手を掴んでレオンの頭上から振り下ろす。剣を下に構えて受け流す。地面に穴が開き、建物が揺れる。ジームは両手をついて跳ね起き上がった瞬間に、右肩に剣の突きを受けてバランスを崩して左肘をついて支える。右肘をついて腰を浮かし、左手で刀身を消したレオンに殴りかかる。その瞬間、光線を胸に受けて消滅した。

 レオンは武器をしまってニークラシュ議員を起こす。壁にもたれているメジェド議員はナレルが起こした。

「もう大丈夫。怪我はないか?」

「まだまだ生きられそうだ。そっちは?」

「何とか生きているよ」

 メジェドはよろよろと手を振る。ナレルにお礼を言って無事を説明している。

「ありがとう、助けてくれて。振り返るとまだまだやり残しがある…生きねばな」

「1人では選り好みしないと終わらない、だからあまり急ぎ過ぎないよう」

「…そうだな。ありがとう、まず病院か…この歳になると治りが遅い。あとは私たちだけで大丈夫だ」

 レオンは頷いて扉へ向かう。ナレルは先に入口で待っており、レオンが来たので歩き出した。

「待ってくれ」

「?」

「名前をもう一度教えてもらえないか」

「レオン、狩人レオンだ」

「レオン、覚えておく」

 振り返って外へと出ていった。

「いいのか?所属が分からないのなら謝礼が…」

「そういうことだろう。それにまた会える気がする」

 レオンたちを乗せた円盤車は遠くへと進んでいった。

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