中部編8-1
レオンとナレルは門の鍵を開けて敷地内に入る.家の扉の前でベルを鳴らすと,目の模様がベルの上に浮かび上がる.
「何だこれは?」
「目を合わせろということかな?」
「何かのセンサーなのか?」
レオンとナレルはじろじろ模様を見る.ベルの下の穴から声がした.
「あの…これはマイクがつながったというマークです.喋っていただければ…」
「ああ,そういうことか.ジェーンからの紹介できたレオン」
「と,ナレル」
「お待ちしてました,どうぞ」
鍵が開き,扉がひとりでに開く.建物の中には若い女性が立っている.
「どうしました?入ってください」
「いや扉が勝手に動いたので驚いて…」
女性は安心していいですよと優しく微笑む.
「それでは失礼」
2人は家の中に入る.扉が自動で閉まる.
「私はヴィオラ.この家についてジェーンはどこまで説明しましたか?」
「支部とだけ」
「そうですか,ではまず簡潔に.ここは情報庁の持つ中継点で大した設備も無く,いる人も多くは知らされてません.主に休憩する場所です.寝室に案内しますね」
2人は寝室へ案内され,荷物を置く.ベッドは6つあり,それぞれの間に仕切り台がある.
「ここに着替えがあります.サイズの合うものを選んでください.そうしたらシャワー室へ案内しますね」
「信用していいのか?」
「はい,もちろんです」
「根拠が欲しい」
「あなた方は魔族を狩る旅をしている.私たちは魔族を追い出すたい,しかし見分けが困難でしかも戦力が不十分.私たちの情報や入場許可証とあなたたちの力と技術.合わせれば実現可能.合わせなければ貴重なチャンスをもしかしたら永遠に失う.それは嫌.こんなところですか?」
「では,俺たちに毒や洗脳の類をしないという理由」
「異種族に効くのか怪しいので,変に疑われて協力できなくなっては困ります」
「……」
「(だがもしレオンが断る余裕すらないのだとしたら,条件を釣り上げてくる可能性もある.ともかく安心できなければ休めない.ダウン一族の時はレオンから来たのに対して,今回は情報庁からレオンに接触した.信用できるかが難しい)」
「俺のことを誰も知らない所で寝た方が休まる」
「こちらは私たちが見張るので2人とも十分に休めますよ.敵対する気はありません,小細工もしません.何なら私の命を担保にしましょうか?」
「いや,君らのボスの命だ」
「それは無理ですよ,困りましたね」
「僕が見張ろう,それで休める」
「必要ない,大体分かった.ここで休もう」
「…大丈夫なのか?」
「ああ,策がある.また後で教えよう」
「よろしいですか?それじゃあシャワー室を案内します」
2人を案内して別れた後,ヴィオラは本棚のファイルを抜き,その奥のスイッチを押す.壁に光で線が引かれる.線は長方形の形を作り,四角の内側に円で星座が描かれる.その円の1つを2度叩くと扉が向こう側へ開き,ヴィオラは奥へ進む.扉は閉まり,光が消えて壁に戻る.
奥で通信台に座り,摘みを回して通信暗号化をリセットし,ボタンを押して本部へと接続する.
「ヴィオラです.セントラル,聞こえますか?」
「こちらはセントラル.どうぞ」
「狩人たちがやってきました.今夜はここに泊まります」
「了解.予測にも泊めることは可能であり,それとセットで明後日の王都の事件を未然に防ぐと出ている」
「では十分に休ませます」
「予測には,彼らは分が悪くても協力をせざるを得ないだろうと出ている.具体的には,脳を麻痺させる薬を食事に混ぜたとして,怒りはするものの協力を打ち切らないだろうと.そこで…」
「そうでしょうね.しかし,私はそれに反対です」
「何を言っているんだ?」
通話の相手は予想外の反応に早口に聞き返す.
「そんな手を抜いたことをして戦いに勝てると思うのか?その結果,民を守れなかったら責任を取れるのか?」
「予測は予測です.それは今まで集められた情報から導き出されたもの.直に接した私の方が正しい判断が可能です」
「今まであの狩人たちについての予測はほとんどを外していないじゃないか.それよりも君の考えの方がより正確だと言えるのか?」
「はい.彼の動きを予測できたのはジェーンと共同で動いていたことによるものが大きいのです.単独で動いている今となってはその予測結果に頼るのは危険と判断します」
「…….いずれにせよ現場の君の判断に委ねられている.…が,考え直す気はないか?」
「ありません.彼らが仇なすものとなった時は私が命を賭して止めてみせます」
「…何がそこまで君を動かすのか,通信機の向こう側にいる私にはわからないな.…了解した.健闘を祈る」
ヴィオラは通信を終えて部屋を出て調理場へ行く.
レオンとナレルは着替え終わって,ヴィオラに呼ばれて食堂に来る.
「他に人はいないのか?」
「いつもはいます.ジェーンが連れて行ってしまったのでまだ帰ってきてないのです」
「ヴィオラは食べないの?」
「私は後で食べます.客人に振舞わなければいけませんので」
「そんな特別扱いしなくても…」
「いえ,仲間とのシフトの都合もありますので」
「そうか….うん,うまい.上手だな」
ナレルはレオンの方を見る.香辛料の利いたスープを食べ始めている.もはや今更気にしても毒盛られていないのかとヒヤヒヤしても無意味と悟る.
「…!本当だ….上手く調和されている」
「お褒め頂きありがとうございます」
ヴィオラは淡々と答えて盆を持ってすぐ横の調理場へ行く.
「もう少し喜んでくれてもいいんじゃないか」
「立場上それは仕方ない.今はそれでいい」
「?」
その後,ヴィオラは料理を追加して食事を続ける.
2人は食事を終え,椅子にもたれかかってくつろぐ.ヴィオラは皿を洗っている.
「それで策というのは…?」
「眠い…あとで…」
レオンは椅子にもたれて天井をぼーっと眺めた.ナレルは喋る相手がいなくなり,眠くなって机に左肘をついて丸めた左手の上に頭を置いてうとうととする.
ヴィオラは片づけが終わりレオンたちの前に座る.2人は気配に気づいて目の前に座った女性に目線を向ける.
「もう寝られますか?」
「そうする.ああ,でも道具を確認してから」
「当分の間,私か代わりの者は基本的にここにいますので何かあったら呼んでください」
レオンとナレルは寝室に行き,荷物を確認して,茶を飲んだ後に眠りにつく.
「ヴィオラさんもどうぞ.東部で採れるお茶です.よく眠れるようになります」
「ありがとうございます.しかし,お茶はさっき飲んだばかりですので,また後でいただきますね」
夜の街.高級旅亭にて政治家たちが訪れる.
「メジェド議員,ニークラシュ議員ですね.お待ちしておりました」
「君は?」
「今席にてお手伝いをさせていただくジリオーラ・ヘルメスと申します.以後お見知りおきを」
ジリオーラに案内され,2人は部屋へ着く.席に着くと酒を注文して待つ.
「何か弾きましょうか.ただ,手先が器用ではありませんのであまり難しいものは弾けませんのでお許しください」
「そう謙遜することはない.スローテンポのもので適当に」
「畏まりました」
ジリオーラは腰を下ろして弦を弾いて弾き始める.
ほどなくして酒とお通しがやって来る.2人は飲み始める.
「さて,話とは?」
「中央と地方の問題について手伝ってほしいことがある」
「というと?」
「現在の中央を支えているのは地方から移出された若者の労働力.しかし,このままではまずい,というのも地方から人口を吸い上げすぎて供給源が崩壊し,中央への供給が途絶える兆候がある.そのまま続けば国全体の破局だ.聞いたことはあるだろう?」
「知っているとも.それに,都市というのは集約して節約するものだが,度を過ぎれば浪費になる」
「うん.そこで新たに委員会を作って対策をしたい.私が会長,メジェドくんにはその委員会の副会長をやってもらえないか」
「願ってもないことだ.それで親睦を深めるためにこの催しを?」
「そういうことだ.地方派の我々で団結して中央派を切り崩していこう」
「その雑な分け方は今後もう少しいい呼称に変えた方がいいかもしれない.今のところはとりあえずはそう呼ぼう」
「コミュニティの供給機能を超えないように人口増加を抑えるために世継ぎを作れるのは限定されている.それ以外の兄弟姉妹は出稼ぎとして主に中央,あるいは南部へ向かう」
「人間の一生で大きくリソースを割くことになる出産と育児をしない者であれば,その分仕事に多くのリソースを回せるため中央の経営者たちは喜んで雇う.雇う条件にそれをつけるところまである」
「中央に偏りすぎた人口によって地方コミュニティの供給能力自体が低下し,人口が減っていく.上手く分散すればもっと多くの人が生まれても生きていけるというのに.これではこの国はいずれ自滅してしまう」
「中央派は,この現象は今までなかったことゆえに危険性が分かっていない.…当然だこんな広い国でしかも各地と繋がっているなど今までなかったのだから.世界中探せば前例はあるかもしれないが….今までなかった問題に対する解決策を受け入れてもらうというのは難しい」
「彼らにとっては財産が減るのだから反対するだろう.が,対策する上で多かれ少なかれ覚悟してもらわなければならない」
「さて,どうしたものか…」
「悪いねジリオーラちゃん,こんなつまらない話を聞かせて」
「いえ.裏側を覗いたみたいで面白いです.すごいです,皆さん難しいことをしてらっしゃるんですね.私には現行か介入かどちらが正しいのか難しくて良く分かりません」
「私たちが全部じゃない.だからまだ答えは出すのは早いよ.違う立場の人と討論だってまだしてないんだから」
「なるほど….そういう余裕があるというのは素敵ですね.どうしました?私の顔に何か?」
「留学した娘と同じくらいだ.元気にしてるかな」
「留学ですか!いいですね.外国か…ちょっと怖いけどいいことあるかも.どちらへ?」
「それはだな,この大陸の東の先の…」
3人は話を楽しみ,2人の議員は店を出て家へと帰った.
ジリオーラは伸びをして裏へ戻る.
「リオちゃん,お仕事ご苦労様.また明日もよろしくね」
「ありがとうございます店長」
外にでると空には満点の星が浮かび,音を失ったかのような町が辺りに広がっていた.




