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運命の混紡者  作者: Ridge
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中部編4-1

 移動中の車の中でレオンはナレルとジェーンから説明を聞いている.レオンは外を眺めつつ話を聞く.

「都立魔術学院は,魔術師たちの育成機関.適性のある人材を全国から集めて教育を行う.生徒は寮生活を行っている.あの使い方を誤れば世界を大混乱に陥れかねない力は,国の敵であってはならず国のために無ければならない」

「でも国立ではなく都立?」

「権限の違いが影響している.ややこしい話だが,国王は政治の実権を持たず国の所有者ではなく元首だが,王都の所有者ではある.ただし,王都の政治にかかわることは無い」

「そしてあの学院での教育の1つは国王への忠誠.魔術師の身分は,生活が保障されているが政治に口出しもできない.忠誠を誓うのは国王であって政府ではない.強力な力が政治力学のバランスを壊さない措置なのよ」

「万全という訳でもないけどね.政治が乱れれば国王を御旗に暴れ出す可能性はある.しかし同時にその理屈であれば,国王が声をかければ止めることもできる.尤も…そういう時は供給が足りてないんだ,十分に争ってから現れて止めることになるだろう,でも争いの当事者は止めるタイミングが無いから国王の声がその理由になるのならばそれでいい…」

「とにかく魔術師は扱いが別格だ.その力を持ち込むべき場所へ持ち込まないように,悪い方向へ向かないようにと注意を払っている.教育もその1つね」

「そうそう,都立の理由だけど国王とのつながりがより強く,国の政治から遠い王都が立てたということさ」

「なんとなくわかった.それで,その学院で何があるんだ?」

「事件はいくつか起きることが予測されている.ただレオン,あなたがいればそれを解決できる.魔術師の卵たちを敵に渡すわけにはいかない」

「同意だ.ところで,俺たちでも入れるのか?」

「私たちは国家機関,それを可能にできる.手を組んでよかったでしょう?」

「結論は保留しよう」

「そう….それもいいわね」

 白っぽい構想建造物に囲まれた敷地へ入る.内側にも建物がありその前に駐車する.建物の間に橋が架かっており,10代らしき子供たちが制服を着て歩いている.橋の下から向こう側に整備されたグラウンドが少し見える.目の前でジェーンが腕を伸ばす.

「この校舎に階段がある.そこを昇ったところが受付.ついてきて」

 3人は降りて受付へ歩く.ジェーンが手帳を見せて学院の中へと入る.

「あっさりだな」

「何度か来ているから」

「ナレルは?」

「僕は初めてだ.ダウン家には魔術師はいないから」

 校舎は廊下と外付けの廊下の2つとその間の教室が基本の作りで,レオンたちは建物内の廊下を歩いていた.

 空き教室に着く.机が隅に隙間なく並べられている.

「ここは予備の部屋.試験のように席の間隔を開けないといけないときや,汚染で使えなくなった時の代わりに使うくらい」

「誰かいるようだが?」

 レオンとナレルは胸の前で指さす.ジェーンはその先を目で辿り,しゃがんで机の下をのぞき込んだ.少女が隠れていた.

「あら?なぜここに?」

「何だ,君が呼んだわけじゃないのか」

 レオンはジェーンの横でしゃがみ,少女の目を見る.

「出ておいで,大丈夫だから」

 少女は机の下から出て後ろで手を引いて体をひねる.

「あなたは誰?どうしてここに?」

「私は2年生のキアラ,ここは静かだから」

 キアラは黒いケープのフードを外す.金色の髪が顕わになる.

「真っ黒だな,ほとんど透過しない」

「何を見ているんだ君は」

「武器持ってたらと思うと危ない.誤解しないで欲しい,ジェーンだって隠し持っていないか見た.あえて口にしていないだけ」

 ジェーンは無言無表情でレオンを見る.

「ああ!これはこの地方の伝統的な服なんだ.なるべく楽に快適に暮らそうとした先人の知恵」

「というと?」

「この地域は夏になると湿度が高く,強い風も吹かない.人工的に採風の作りはあるけど.以前にも話したよね?」

「うん」

「湿度が高く湿球温度が高いということと,風が吹かないということは,汗が渇きにくく体が冷めにくいということ.そこで,服装は少しでも風通しを良くする必要がある.しかし,着ないと輻射熱で体が熱せられる.このケープの表は黒色で日の光を受け,裏地は熱を反射する合成素材でできている.つまり,ケープの内側に日の光を通さない.そして通風性が高い.背中を見せて」

 キアラは後ろを向く.

「この肩あたりから弧状のひらひらがあるだろう?ここで上と下で別れているんだ.間には網があって風が通るようになっている.そして,このひらひらが網を覆って日光を遮っているんだ.フードの方にも同様にある.前に歩くと,前から入った空気が体の表面を通って,後ろの網から抜けるんだ」

「なるほど.理に適っているんだな.裏地が赤いのは?」

「遮熱機能に関しては無いよ.その方がお洒落だから」

「俺も赤にしよう」

「このフードも被れば首が日に焼けない優れもの.全体的にブカブカしているけど,風を通すためさ」

「伝統服って面白いな.多様化されずに画一化されてたらこういう生活の知恵は残らない」

「そうだね.これは湿度の高い地域の服だけど,逆に乾いているところだと乾燥を防ぐために一枚の布の切れ目が無いようなものが多い.西部に行くときはそこに意識すると分かるよ」

「もういいですか?」

「ああ,すまない.もう行っていいよ」

 キアラは出口へと小走りした.廊下に出た後に振り向く.

「イリトット様を追ってはいけない」

「まて!なぜその名を…!」

 レオンは追って廊下に出るが姿が消えていた.

「困った…魔術師の学校だから普通の人には見えない道を通ったのでしょうね」

「探せないのか?」

「放送で呼び出せば分かるかもしれない」

「それは危険な予感がする.もっと内密にできないか?」

「ホームルームで待ち伏せはどう?」

「相手にも対策されているかもしれないがいけるかもしれない」

「問題は彼女が偽名を使ったのなら…」

「名簿を確認すればあるいは…,職員室へ」

 3人は捜索を開始した.


「そうか,外部の奴にそう言ったのだな」

「はい,私はちゃんと「イリトット様を追ってはいけない」と言いました」

「よくやった.これで広まればみんなが幸せになれるんだ」

「私はいいことをしましたか?」

「そうだ,君はよい行いをした.これからも頼むよキアラ」

「はい,ジーシチ先生」

 キアラは国語教員研究室を後にした.他の教員たちは机に突っ伏し,椅子にもたれかかり,床に倒れ,気絶している.

「さて,奴ももう頃合いか…」

 ジーシチは部屋の窓から外を見る.夕日が向かいの校舎に沈んであたりが暗くなっていった.

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