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運命の混紡者  作者: Ridge
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中部編2-2

「こっちです」

 ケムは部屋の中に案内される.

「この部屋は楽器の演奏のために防音加工された部屋.外には漏れない」

「話とは何だ?エンタ・エフレイン」

 並んだ楽器の奥からエンタが出てくる.

「なぜ警戒をしない?お前を憎んでいる奴が目の前にいるというのに」

「…俺には憎まれる理由がある」

「そういう悲劇に酔ったことを聞いてるんじゃねえんだ.直球で言うなら,俺を恐れないのはお前が強いからか?と聞いている」

「……」

「そのようだな.なら最期までそうしていろ」

 エンタはケムに歩み寄る.ケムは透明な壁を目の前に出す.拳が壁を破壊しケムの首を掴んで体を持ち上げる.

「馬鹿な…」

「クク…ゆっくりと死を実感させてやる」

 エンタはケムを見上げながら舌なめずりをする.

「……」

 エンタは異変に気付く.

「どうした?抵抗してみろ,全てねじ伏せてやる」

「あの日…,俺が気づいていれば…遊んでなんかいなければ….すまない」

「?…何のつもりだ?今更善人ぶって命乞いか?」

「命乞いではない.お前はこんな力を得てまで….俺は殺されても仕方がない,だから最期に俺の誠意として後悔を伝える」

「そんなことをして何になる?…そうか,姉の死の重さを分かっているということか,しかし!ならば!どうして!?」

「死因は知っているな?毒が回って死亡.通常は成人であれば死ぬような毒にならないし,不味いのに気づいて吐き出すものだった.しかし,弱っていれば話は別だ.彼女は気づかずに食べた」

「お前がそうさせた!」

「そうだ…俺のせいだ.不味い薬を飲みなれた彼女にとっては危険なものとそうでないものの区別は難しかった.だから俺が気を配らなければならなかったのに…」

「何を…何を言っている!?」

 エンタはケムを上に振る.ケムはぐったりとしている.

「あの日,俺は町へ遊びに出かけた.宮廷歌劇団の剣舞を楽しみにしていた俺は,それを見ることが楽しみで仕方なくあいつの体調が優れないのに気づきながらも,大丈夫だろうと根拠なくそう思い込んでいた!」

「お前が殺したのではなかったのか─ッ」

「殺したようなものだ.俺が救える立場にいて,助けられなかったのだから」

「そ,そんな…」

 エンタはケムの首を絞める力が弱まる.

「俺は一体何のために…,……!な…なんだこの恐ろしい力は?これが俺なのか…?」

『困るよエンタ,ここで立ち止まっていたら次に続かない』

 脳裏に声が聞こえ,エンタは再びケムの首を絞めていく.

「何だ?誰だ?助けてくれ!誰か!誰か俺を止めてくれ!」

『防音の部屋を選んだのは君じゃないか?抵抗せずに楽になれよ.驚くほど簡単に一線を超えられるものなんだぜ?』

 ジュッと焦げる音がして扉が斬られる.黒い影が部屋に飛び込み,エンタの腕に光る剣で斬りつける.エンタは手を放してケムは地面に倒れこむ.光る剣を持った男はケムを支える.

「誰だ?」

「悪夢断つ剣,狩人レオンだ!」

 レオンは剣を突き出して牽制する.

『そうか,こいつが…』

 レオンは切り傷のついたエンタの腕を見る.

「お前は魔族か?いや,魔王軍ではないのか?」

『体を貸せ』

「彼に代わって答えてあげよう」

 レオンはケムを後ろへ押しやる.

「誰だお前は?」

「僕は魔王軍特務イリトット.彼の体を借りて話している」

「通信できる上に動かせるのか,便利なものだな.が,他人の体を使うのは趣味が悪い」

「何とでも言うがいいさ.君が望むなら君はお行儀よく戦えばいい」

「あーあ残念だな.そのつもりだったんだけどなー,言われるとなー.お前たちに言われたら従うのが嫌だ」

「言っておくが,僕はアイロコのように挑発に負けたりなんかしない」

「へえ」

 レオンは肘を引いて剣先を後ろに構える.

「…こいつに感じる違和感,分かるんだね,すごいすごい」

「何をした?」

「彼は元々は人間だ.さて,君は人間相手にどうする?」

「…質問の意味が分からないな?」

「君だって人間を味方に付けて僕らに対抗しようという気だろう?」

「お前たちがそうだからといって俺たちが同じだと思わないことだ.俺の役目はお前たちを魔界へと送り返すこと」

「ふうん…」

「人間の味方をするのに陣営や勢力といった考えは関係ない.人助けだよ,ただそれだけだ」

「人助けか.僕らは助けてくれないんだね…?」

「敵に助けを乞うとは落ちぶれたものだな.袋小路に入ったお前たちを救う方法など1つしかない」

「…そうか,なるほど.ふうん….…….しかし間違いがある,その小路は登れば超えられる.僕らの目は壁の向こうにある桃源郷を見つめている!」

「そんなものはない.無が広がるだけだ」

「それを誰が見たんだい?君の目では捉えられない光だったわけさ.そして改めて実感したよ,君とは話が合わない」

 エンタは急に動き出してレオンに殴りかかる.レオンは剣で受ける.右手の指が剣に食い込み骨で止まる.右足を軸にして右腕を後ろに引きつつ左足でレオンに蹴りかかる.レオンは後ろに跳ねてかわす.

「さあどうする狩人レオン!?相手は人間,それも訓練が済んでいない半端者だ!障害となれば殺すのか?」

「やめてくれ!彼は関係ない!」

 ケムは物陰から体を乗り出して叫ぶ.

 レオンは剣を消して柄を前に向ける.

「やる気になったか!」

「だめだ!」

「……」

 レオンは光線をエンタに放つ.エンタの胸に光線が照射され黒い霧が噴き出す.

「へへへ….……!」

 エンタの周囲の霧が消え,人間に戻りうつ伏せに地面に倒れる.

「うぐっ!」

 離れた部屋の一室.イリトットは頭痛がして,腕で頭を抑える.エンタとのリンクが消えている.もう通信も操作もできない.

「くそっ!あんな芸当ができたのか…!」

 イリトットは地面をダン!と踏んで椅子に座り込む.そのまま静かに頬杖をついて虚空を眺めた.


 ケムはエンタの体を仰向けにして抱え上げる.

「生きている…」

「当然だ.俺だって無駄話していた訳じゃない,その間に解析は済んだ」

 レオンは2人の方へ歩み寄る.

「お前は力に胡坐をかいている.本気で誤解を解こうと,理解してもらおうと思っていない.文句を言われようと押し通す力の差があるから」

「それは….…そうかもしれない」

「俺だって押し通す時はある.しかし少なくとも,これは理解してもらおうと努力すれば防げた」

 ケムはエンタの額に手を当てる.

「いつからか…特別な力で黙らせようと…分かってくれないのに説明なんて無駄だ,だから省こうとする癖がついていた.…俺は一体何人傷つけてきたことだろう?」

「……」

「俺はクズだ.なんてことを…」

 レオンはケムの肩を引いて起こす.

「気づけたお前はクズなんかじゃない.ただ急ぎ過ぎた」

「どうすれば急がずにいられた?」

「無理だったんじゃないんかな?」

「そんな…」

「急いでどうにかなるものとならないものを体感して知れば,急ぎ過ぎない.だから今,それを知ることができた.言ったろ,お前は急ぎ過ぎたと」

「…ハハ,そういうことか」

「人の一生は学び.俺も君から学んだ.これは終わりであり,しかし続きでもある」

「そうか分かったよ,ありがとう.後は任せてくれ」

 ケムはエンタを見る.

「俺が話をする.俺がやらなければいけないことなんだ」

「…そうだな」

 レオンはケムの目を見た後に背を向け,服を正して去っていった.ケムは下を向いてその先を見る.

「俺は話が得意じゃないんだ,でも頑張る.お前を蔑ろにしない,だからお願いだ,また俺の話に耳を傾けてくれ」

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