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運命の混紡者  作者: Ridge
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東部編9-3

 遡ること約18時間.

 基地の中層には攫われた人々が働いている.彼らは主に手先の器用さを活かして機械を組み立てている.午前は教育を受け,午後は仕事に従事している.また,そのうち少数が彼らの指揮官としてアイロコから権力を渡されている.その権力には私刑も認められている.

 魔族によって連れ去られた若い女性が広間に運ばれる.広間には捉えられた人間たちが集められていた.

「ジェリド!」

「は,御前に」

 魔族に呼び出された男は前に出る.

「こいつが新入りだ.これからここのルールを教えてやれ」

「承知いたしました」

「それでは後は任せる」

 魔族は女を手放してその場から去っていく.

「お前が新入りか?」

「はい,メイといいます」

 ジェリドはメイの頬をはたく.メイは地面に倒れこみ唇から血が流れる.

「な,何を…?」

「質問は許可していない」

 ジェリドはメイの右手を踏み,グッと押さえる.周囲の人々は目のやり場に困った様子でおろおろする.

「いいか,ここではこのネクタイをつけた俺たちに逆らうことは許されない.ちなみに殴った理由なんてない.ただ殴りたいだけだった.返事はどうした!?」

「は…はい!

「フン,そうだな…手始めに椅子にでもなってもらおう」

「優しいじゃないかジェリド?」

「いい返事だったので甘くなった」

「そこのお前,何か芸でもやってみろ.つまらなかったらそのでかい鼻をへし折る」

「ぐ…,いい加減にしろジェリド!」

 1人の男が声を荒げる.

「何だ?命知らずがいたようだな」

「正気に戻れジェリド!昔のお前は…」

「黙れ!誰に命令をしている!?俺たちはアイロコ様に任命されたのだぞ.お前たちに命令することはあってもされることはない!」

 ジェリドたちは男につかみかかる.背の低い男が制止に入る.

「待ってください.彼に悪気があったわけではないのです.ただ言葉が粗暴になってしまっただけで…」

「貴様….…….フン,今回は許してやろう.興も冷めた,お前たち,この女に仕事を教えておけ」

 ジェリドたちは広場から出ていった.人々はその後ろ姿を恐る恐る見送り,見えなくなったことを確認して肩を下ろした.メイも安堵する.その後,人々は背の低い男の方を睨む.

「何でテメエらは酷い目に合わねえんだ!?テメエらの姉貴が魔族たちによろしくやっているからか?ああ!?」

「俺たちがこんな目に遭うのにこいつらだけ…クソッ」

「サイテー,とっとと死んじゃえば?」

「あの女むかつくのよね.一人だけキレイに着飾ってさ」

 2人の男を周囲の人間たちが殴り,蹴り,怒鳴りつける.

「あ,ああ…」

 メイは再び震えだし,しかし止めることもできずにその光景を見届けるしかなかった.


 レオンは階段を上って扉を剣で裂いて破壊した.穴から基地内へ飛び出す.円状の廊下が広がり,中央の吹き抜けの向こう側にも廊下が見える.所々に階段や扉がある.

「やはりそこから来たか!やれ!」

 物陰に隠れていた魔族たちは爆弾を投げる.レオンは階段に戻り,,扉を盾にして爆風を受ける.周囲に煙が舞う.

 レオンは煙に紛れて光線を放ち,構えている魔族たちを消滅させていく.

「あの中だ.投げ続けろ!」

 物陰から隠れて爆弾を投げ続ける.

「やったか?」

「サーキュレーターを持ってこい.煙をどける」

 1階廊下は爆風の飛び散った破片でズタズタになっていた.

「いない…どこかへ消えた.アイロコ様,見失いました」

「あれで殺せないか.威力は十分なはず….こっちでも兵器が動けば楽なのだがな.…分かった.班を再編して散れ,見つけ次第集結させて力押しだ.敵は1人だ,数で押し潰す」

「了解」

「アイロコ様,奴はおそらくダウン家の者を救出に向かうはず.奴を人質にして始末することができるのでは?」

「それは奴も想定済みだろう,よって救出方法を考えているはず.逆手に取られる可能性が高い.ネズミ捕りの餌として使うに留めた方がいい」

「了解」


 レオンは吹き抜けの壁の窪みに捕まって上の階へ登った.人気のない階段を駆け上がり,中層へとたどり着く.人間の波長を感知し,扉の鍵を破壊して部屋の中へ入る.

「ひっ」

 部屋の中には多くの人間が所狭しと詰められていた.奥の区切りの先には制服を着た人間たちが広々と座っている.

「誰だドアを開けたのは!?ここに隠れて動くなと命令だぞ!」

 部屋の奥から怒号がする.人々はざわつき始める.

「お前たち,もしかして連れてこられた人か?」

「そうです!助けてください!」

「何?侵入者か!そこをどけ!」

 奥から制服組が人を掻き分けて出てくる.

「誰だお前は?」

「俺は救出者,狩人レオンだ.直に敵を全滅させ,君らを救出する」

「そうはさせるか!」

「何!?」

 ジェリドはナイフを抜いてレオンに遅いかかる.レオンは突きを避けて腕を掴み,体重をかけて地面に叩きつける.肘で手を叩きナイフを引き離す.

「何の真似だ?」

「今だ!やれ,お前たち!」

 レオンの上から3人が棍棒で遅いかかる.レオンは光線を放って3人を麻痺させ,ナイフに手を伸ばすジェリドも麻痺させる.

「何だ?洗脳されているのか?」

「や…やった!ざまあみろ!」

「今まで威張ってきたがここまでだ!」

「あんたたちに汚された恨み,ここで晴らす!」

 人々は麻痺しているジェリドたちを蹴り始める.

「止めろ!」

 レオンの一喝で人々は止まる.

「俺はお前たちの暴力を認めるためにここに来たんじゃない.恨みがあるのだろうが裁くのは後だ.ナレル・ダウンがどこにいるか知らないか?」

 人々はざわつき始める.誰も知らないようだ.

「ならば別の場所か?上か,下か….分かった.脱出の準備をして待っていてくれ.終わらせて来る.そこで伸びてる奴らは縛っておくんだ.そうとう恨みを買っているようだが,処置は後だ.でなければ皆狂気に飲まれてしまう.落ち着け,人の尊厳を取り戻すんだ」

「……」

「レオンさん,まだ上にも人がいます.僕たちの姉さんです.1人だけまるで姫様のように扱われています」

「なぜ?」

「分かりません.でも絶対に姉さんは裏切っていない,敵の策略に違いない!救い出して来てくれませんか?」

「フフ…」

 レオンは少年たちの頭に手を置く.

「当然だ,全員助け出す」

 レオンは踵を返し,部屋から出て上の階へ向かった.

 道中で見張っている魔族たちを光線で消滅させ,上へと進む.扉を勢いよく開けて部屋の中を見る.

「こちらへ来たか.見張り共は何をやっていたのやら」

「あなたはもう終わりねアイロコ」

 指令室にはアイロコを含む数名と首輪で首と柱につなげられたジンジャがいた.

「隠れていろ,私が相手をする」

 レオンは光線を放つ.アイロコは光線を避けてレオンに歩み寄る.

「驚いたか?私は魔王軍の幹部の1人だ.幹部にのみ魔王様より頂いた力がある.それは…」

 レオンは光線を連射する.いずれもかわされる.

「この世界の薄い魔力を高濃度で集めることのできる力.十分な魔力さえあれば特別な力が引き出せる.私の力でお前の動きは,もう,すでに,見た」

 アイロコは姿勢を低くして踏み込み,レオンに殴りかかる.レオンは光の剣で拳を受ける.剣が軽くなり,拳は反動で後ろに戻りもう片方の手でレオンは腹を殴られて吹き飛ぶ.衝撃で吹き抜けの手すりがへし折られ,レオンは下の階へと落下していった.

「軽くてよく跳ねる.仕留め損ねた」

「あの高さから落ちれば奴も…」

「待て,あいつは私の攻撃を読んで衝撃を逃すために飛んで行った.私には見えたのだ.まだ油断はできない.下の奴らに知らせろ」

「了解」

 アイロコは指令室の自席へと戻る.

「終わりだといったかジンジャ?それは見当違いだったな.私はまだ生きているぞ」

「一瞬だけ先読みができるようだけど,私はもっと先が見えるわ.あなたが惨めに地に伏せる姿がね」

「勇ましいことだ.まあいい,この特等席で希望が潰える瞬間を味わってもらうぞ」


 レオンは透明になって最下層にふわっと着地して姿を現す.

「ケホッ,さすがに一筋縄ではいかないか.…でもやるべきことに変わりはない」

 レオンは階段を探して歩き出した.

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