純潔悲恋
第一話
「そうか、また女にフラれたのか」
向かいでハンバーガーを何の心配事もなさそうに頬張りながら、金崎久志がカウンターパンチのようなセリフを沢島海斗に食らわしてきた。
海斗はS高校の二年生で、久志はクラスメート。、まあ、一応、親友だった。
もっとも、海斗がそう思っているだけで、久志がどう自分の中で海斗を位置づけているのかはわからない。
聞こうとも思わないし、聞きたいとも思わない。
まあ、どうでもいいことだった。
海斗は身長1メートル八十センチ。容姿端麗でカッコいいのだが、どういうわけか女にまったくモテなかった。
なぜなのかはわからない。原因不明だ。
自分的にはモテないはずはないと確信しているのだが、やっぱりモテない。
結果がすべてだった。
久志はチビでデブで、御世辞にもイイ男とはいえないが、どういうわけか女にモテまくっている。
らしい。
だいたいが、自慢話ばかりで、実際に久志が女と一緒にいるところなど海斗は一度も見たことがなかった。
だが女にモテまくっているというのが、本当だとすると、なぜなのかはわからない。
理解不能だ。
「すっごく堪えるんだけどな」
海斗はテーブルに頬杖を突きながら、小声を出した。
「えっ?何が?」
久志はキョトンとしたような顔をして、ハンバーガーを食べることを一時中断した。
「いいよ。いい。いい」
海斗はどうせ無神経極まりない久志にどんな文句をつけても無駄だと思い直し、目を瞑って首を左右に振った。
日曜日のハンバーガーショップは、大勢の人で賑わっていた。
海斗は改めて自分の周りの人々に目をやった。
楽しそうに燥いでいる女の子たち。恐らく女子高生だろう。
親子連れらしき人々も目立つ。もちろんひとりで来ている人もいるが極、少数だ。
皆、幸せそうな顔をしている。
いや、そう見えるだけかもしれない。
今の海斗にはどんな不幸せな人々でも自分よりはマシだというように思えて仕方がなかった。
「なあ、どうやったら女にモテるんだ?」
海斗は屈辱を押し殺して、久志に尋ねた。
久志は口の回りについているソースを紙ナプキンで丁寧に拭き終えると、コーラを飲み、小馬鹿にしたような目で海斗を見た。
「なっ、なんだよ」
海斗は少しムッとして、声を荒げた。
「いや、かわいそうだなと思って」
久志がフフフと嫌な笑い声を出した。
コイツ殺してやろうかと海斗は思ったが、殺したら女にモテる方法を聞き損なうだろうから、取り敢えず女にモテる方法を聞き出してから、殺してやろうと思い直した。
もちろん冗談だが。
「なっ、頼む。教えてくれ」
海斗は手を合わせて、拝むようなポーズをした。
「どっしようかなあ」
久志は頭の後ろで両手を組んで椅子に凭れ掛かり、ニヤニヤと笑っている。
コイツ本当に殺してやろうかと思わず椅子から立ち上がり、本気になりかけたが、必死の思いで何とか堪えて仕方なくまた腰を下ろした。
「まず、東海道新幹線の指定席に乗車することだね」
久志がいきなりわけのわからないことをいった。
「何だ、それは?」
海斗が質問すると、「東海道新幹線の指定席には心の寛容ないい女がおまえなんかでも何とかしようとして必死に待ち構えているんだよ」と久志がニヤッと笑って微妙に気になる表現で詳しく説明した。




