第18話
〈side 葵〉
放課後、葵は机の上で教科書を整理している。
「あーおいちゃん。」
楓がひょこっと後ろに手を組んで顔を出す。
「ん?なあに?」
「今日から部活ないでしょ?」
「うん、ないよ。」
楓はニッと笑い、
「葵ちゃんの家行ってもいい?」
「いいけど、どうして?」
「勉強教えて!」
楓は手を合わせ、片目をチラッと開く。
「うん、いいよ。」
「やっほーい!」
楓は飛び跳ねた。
葵は椅子から立ち上がり、
「じゃあ、行こっか?」
「うん、」
電車に揺られ、最寄り駅に着く。
駅を出たとこで、
「葵ちゃん、あれってさ。」
楓が指を差しながら言う。
「ん?あれ?」
葵はその方向へと目を向ける。
あれは、
ドックンと心臓が警告を告げるように鳴る。
つばさと立花くん
「あれって、初恋の人だよね?横にいるのは彼女かな。」
楓の言葉は頭の中を右から左へと流れた。
葵の顔は真っ青になり、目に怯えた色がある。
どこ…に、行くの…?
ここにいるってことは、
立花くんの家…?
あぁ…、またこの感覚、
胸が張り裂けそうな感覚
またあの吐き出したいような自己嫌悪
自分を消してしまいたくなる。
心臓が張り裂けそうなくらいに鼓動が速くなる。
怯えで瞳が揺れている。
あなたがいない事が怖い。
行かないで…
もうどこにも行かないで……
私ももう逃げないから…
燐がだんだん遠くなって行く。
葵はよろめき、近くの柱にしがみついた。
「葵ちゃん!?」
私は…何を考えているの?
そんな資格、私にはないのに。
自分の浅はかな考えに吐き気がする。
自分が嫌になる、こんなことを考える自分が…
逃げ出したのは自分なのに。
都合が良すぎる。
「葵ちゃん、大丈夫?」
「うん、早く家に行こ。」
葵の取って付けたような笑顔は目が笑っていない。
顔には汗がにじみ出ている。
「うん…」
「ごめんね。」
2人はゆっくりと葵の家へと向かった。
2人で勉強している間も楓の表情は晴れない。
「葵ちゃん…」
楓はペンを止めて、呟いた。
「どうかした?」
「やっぱり変だよこんなの。」
「え?何が?私は普通だよ。」
「だって、ずっと変なんだもん、1年の文化祭の日からずっと、葵ちゃんが心から笑ったところ見たことないもん!今はましだけど、前なんて死んだような顔してた。」
葵は何も返せない。
涙を流しながら、
「私に話してよ、誰にも言わないから。ずっと心配してたんだよ?」
楓の涙なんて初めて見た。
私はまた知らないうちに人を苦しめた…
「葵ちゃん、お願い…」
葵は重たい口を開き話す。
今まで誰にも話さなかった想いも感情も全て
「私は、ずっと苦しかった。だって、私が逃げたことで大好きな人を苦しめたから…」
───燐のあんな姿初めてみたもの、私はそれに耐えられない───
「そして、同時に他の人も傷つけた。」
「どうすればいいのか分からなかった。どれだけ願ってもあの日には戻ることができない、会うことも…、想いを伝えることも…」
「会いたいと思えば思うほど胸が張り裂けそうになる。自分を消してしまいたくなる。」
「だから、私は忘れようとした。そうすれば楽になれると思って、だから付き合ったふりなんかしたの、ほんと、最低な女だよね。」
「でも、彼に会えた。そのときは嬉しかった、でも、同時に辛かった。私はどんな顔をして会えばいいの?会って伝えれば彼を苦しめる。私にはそんなこと出来ない。」
───もし、燐が帰って来て葵ちゃんに会ったときに、燐が葵ちゃんのこと忘れてたらどうするの?葵ちゃんは耐えられるの?───
「ううん、私も傷付きたくなかった。多分もう私とのことなんて忘れているから…」
「だから、この感情も想いも全て押し殺して、忘れてしまえば、全てが上手くいく、楽になれるそう思った。」
少女の告白
「ごめんね、こんなこと言われても困るよね。ごめん…」
葵はうつむく。
「葵ちゃんは、それでいいの?」
いいわけがない。
いいわけがないけど…
「うん、私は立花くんが苦しまないのならそれでいい。」
無理に押し出したような葵の笑顔
「そうなんだ、ごめん、私には何も出来ないや。本当にごめん。」
楓は何も出来ない自分に悔し涙が込み上げてくる。
「ううん、大丈夫。私は平気だから。」
(平気なはずないじゃん。)
「楓、今日はもうお開きにしていいかな?」
「うん…、ごめん。」
楓は部屋から出て行った。
「ごめんね、楓。私なんで言っちゃったんだろう。バカだな。」




