第6話
〈side 葵〉
部活後の更衣室
「はぁー、立花先輩カッコいいなぁー。」
つばさが着替えながら呟いている。
「つばさ、惚れたの?」
早苗が言う。
「い、いえ!そんなことは…」
つばさは顔を真っ赤にして否定する。
「ふふっ、まるで誰かさんを見てるみたい。」
早苗はそう言って、葵に視線を移した。
葵は目を見開き、
「え〜、誰だろう。」
もうっ、なんなの急に。
「葵先輩もそんな感じだったんですか!?」
つばさが興味津々できく。
「え、いや、別にそんなんじゃ。」
やめてよ〜。
早苗がジト目で葵を見る。
「そんなことより!」
そんなことよりって、まあいいけど。
「立花先輩って1年生の時いたんですよね!どんな感じだったんですか?」
つばさが目を輝かせている。
「うーん、それはね〜、すっごくカッコよくてね。それでね、とっても優しくて、あと、ものすっごくハンド上手いんだよ。1年生でレギュラーで、インターハイの優秀選手になったり〜。」
他の2人がポカーンとしている。
まずい、喋りすぎた。
「葵先輩って、立花先輩とどういう関係だったんですか?」
つばさは怪しむようにしてきいた。
「え、えーと、私は別に特別な関係って訳じゃ無かったよ?」
何も無かったから…
「ふぅーん、まあいいです。立花先輩のことよく分かったので。ありがとうございます。」
つばさは先に更衣室を出て行った。
「あんたそれ本気?」
「え?何が?」
「何も無かったって。」
「うん、本気だよ。だって彼氏いるし、」
「あっそ、無理するくらいならやめときなさいよ。」
早苗はそう言って出て行く。
「別に無理してなんか、待ってよ!」
別に無理してなんか…
校門の前に行くと、悠人達が待っていた。
燐はいない。
いつも1人で先に帰ってしまう。
「葵、遅い。」
悠人が言う。
「あ、うん。ごめん。」
2人で並んで帰ることが習慣になっている。
「悠人、チームの調子はどうなの?」
「うーん、ぼちぼちかな。まあ、恥ずかしいことに燐がいるからインハイは安泰だろうけど。」
悠人たちの代になってから、チームの成績は低迷していた。
ベスト4ぐらいには入れるんだけど、やっぱり全国大会に出るのは厳しいみたい。
春の全国大会も準決勝で敗退という結果だった。
あらためて、桜木先輩は立花くんの凄さを実感させられた。
「そうなんだ…」
「ま、心配すんなよ。」
「うん。」
「そうそう、葵は気にしなくていいから、絶対俺らが全国に連れてってやるよ。」
隼人が言う。
「てめー、それは俺のセリフだ!」
「はいはい、キスもできないヘタレのくせに。」
「なんだとーー!」
私達はキスもまだしていない。
と言うか手もあまり繋がない。
私が心の何処かで拒んでいるからかもしれない。
私たちは実際に付き合っているのかときかれたら、答えに困る。
本当は私は悠斗に好きと言ったことがない。
多分思ったことも…
私はズルい女なんだと思う。
立花くんを忘れようとしてこんなことしているのだから。
あの文化祭のあと、私に関しての噂が色々流れた。
あれだけ派手な告白だったんだもんね。
噂は二つあって、
一つが、私が立花くんをフッたって言う噂。
もう一つが、私が他に好きな人がいるっていう噂。
この噂はすぐに消えるだろうと思っていたけど、そうじゃなかった。
私が悠人と一緒にいる事が多いと誰かが言って、私の好きな人が悠人っていうことになった。
それで、私たちは付き合ってるっていうことになってしまった。
私は色んな人に訊かれたけど全部曖昧な返事をした。
このまま、付き合っていることにしてしまえば、忘れられると思ったから。
本当に悪いことをしていると思ってる。
でも、忘れないと…
自分が壊れそうになる。
このままやり過ごせると思ってた、つい最近までは…
さつき先輩も沙織先輩ともあれから全く話していない。
話しづらい、噂まで流れてしまったから尚更だ。
「葵、大丈夫か?」
「え、うん。大丈夫」
「そうか、ならいいや。」
悠人はニッと笑う。
悠人はどう思っているのだろうか。
「おい、あれ燐じゃないか?」
隼人が指を差す。
その方向には燐とつばさの姿が、つばさが燐を振り回しているように見える。
「あいつ、さっそく。マネージャー狙ってんのかよ。」
悠人が言う。
「アホか、ありゃどう見ても逆だろ。」
「悠人の脳みそはどうなっているんだ?」
「うっせ!」
つばさは立花くんのこと好きなのかな?
また胸が締め付けられる。
うっ、うぅ…
イヤだ、こんな思いはもうイヤなのに。
立花くんだって私との事はもう忘れてるから。
だから、
私ももう忘れたから…
忘れたから!
忘れたはずなのに…
葵の息が荒い。
「葵?」
隼人が心配そうに見ている。
「なんでもないから、大丈夫。」
「葵、無理すんなよ。俺はお前の気持ち知ってるぞ。」
「え?」
そうだ、赤井くんには言ったんだった。
「俺は噂なんてハナから信じてないんだよ、葵、本当は燐のことが」
葵が遮るように、
「言わないで!それ以上はもう言わないで…」
葵は大声を出すと、俯いた。
言われると決意が鈍くなる。
「葵…」
「ごめん、私先に帰る。」
葵は走り去る。
「おい、隼人!何したんだよ。」
「別に何もしていない。」
「じゃあなんで葵が帰ったんだよ。」
「うるせぇ、お前が悪いんだろ。」
隼人はそう言って立ち去る。
「俺が悪いって、どういうことだよ。」
「気にするな、そういう時もある。」
旭が悠人の肩をポンと叩く。
「意味わかんねえ。」
「はぁ、はぁ、はぁ…はぁ…」
早く忘れなきゃ、
押し殺さないと、
じゃないと、また苦しくなる。
もうこんな思いはイヤだ。
私は忘れるって決めたんだ…
この想いも感情も全て。
はぁ〜、難しい。




