第24話
〈side 葵〉
準決勝は立花くん無しでなんとか勝てた
でも、明日の決勝はそうはいかないと思う
だから、今日しかない
今日ちゃんと私の想いを
あの時伝えることが出来なかった想いを伝えなきゃ
どこにいるんだろう
全然見つからない
葵はホテル内を探し回ったが燐の姿はどこにも見当たらなかった
そうだ、あの時、
───こうやって月を眺めてると落ち着くんだよな───
葵は外に向かって走り出した
あ、
海岸沿いの手すりに身を乗り出して、
真っ暗な海の向こう側で輝く夜景を眺めている姿が見える
あれは立花くん、
すくむ足を自制して、歩き出す
あと数歩で近付く距離に達し、足を止める
声が出ない…
すぐそこにいるのに、
手を伸ばせば届くのに、
また私は言えないの?
それじゃダメ、
もう繰り返してはいけないんだ
粘つく潮風が葵の髪を揺らす
胸に込み上げてくる不安を押しのけ、
覚悟を決めて声を捻り出した
「立花くん!」
肩を一瞬震わせて、ゆっくりと振り向いた
生気の抜けた表情をしている
「ごめん、ホテルに戻るわ、ありがとう。」
そう言って、葵を一瞥もせずにスタスタ歩いて行く。
待って…
違う、呼びに来たんじゃない
2人の距離が離れて行く
「待って!」
足が止まる
燐はまだすぐ後ろにいる
「行かないで…、もうどこにも行かないで…、私も逃げないから」
2人はうつむいたまま背を向けている
「私まだ何も言ってない、何も伝えてないよ」
「え?」
(そうだまだ桐山の口から何も聞いてないんだった、なんだそういうことか…、だから消えなかったんだな。これでやっと、消えてくれる。)
葵は身を翻し、燐の背中を見つめて、
「立花燐!!」
「私はあなたが好きだ!!」
夜空に響き渡る少女の告白
(え?桐山が俺のこと…好き…?)
葵は立ちすくむ燐を背後から優しく包み込んだ
「私は立花くんのことがずっと大好きでした…」
そして、もう一度呟いた
(これは…夢か…?)
背中に感じる温もり
「ごめんね…、あの時逃げて、本当はずっと好きだったんだよ、でも私恥ずかしくなって、本当にごめん、」
2人を夜風が吹き抜けた
(そうだったのか、じゃあ俺はフラれてない?なんだ、俺の勘違いかよ…)
喜びと安らぎが心を満たしていく
「俺も、葵が好きだ…」
小さな声を、振り絞って出した
え、葵って、今葵って言った
燐の言葉がスーッと心の中に溶けていく
胸の膨れるような心地よさに笑みがこぼれ、
瞳からもこぼれ落ちた
「葵?俺、葵の顔が見たい。」
「ダメ、もう少しこのままがいい。」
「ああ、」
「もう、いいか?」
「うん、」
2人は近くのベンチに並んで腰を下ろす
「なあ、悠人はいいのか?」
「うん…、もともと付き合ってなかったから。」
「えっと、それは、」
「本当はね、告白も何にもしてないの。私が立花くんを忘れようとして、勝手に振る舞っていただけだから。速川くんは優しいからそれに合わせてくれていたんだよ。」
「そうだったのか…、ごめんな。」
「ううん、私があの時逃げずにちゃんと伝えていたらこんなことになってなかったもん。立花くんは悪くないよ。」
「ありがとう、」
「うん、私こそ、」
2人は夜景を眺めた。
「あのさ、さっきの告白って…」
「あ、ばれた?」
「うん、俺がやったのと同じだよな。」
「うん、恥ずかしいな。」
葵はそう言って、両手で顔を覆った。
「ふん、どっちがだよ。」
燐は頬を赤く染めた。
「ごめんね、医務室でのこと、」
「ああ、気にすんな。あれが無かったら自分の気持ちに気付いていなかったからな。」
「そうなんだ…、私たちずっと遠回りしてきたんだね。」
「面倒くさいくらいにな。」
葵は不安そうな顔で
「あの日さ、つばさとは何も無かったの?」
「あったよ。」
「え?」
「でも、何もしてない。」
「そうなんだ。」
「おい、信じてないだろ。本当だからな。」
「うん、分かった。信じるよ。」
葵は満面の笑みで笑ってみせた
(この笑顔だ、俺が初めて惹かれたのはこの愛おしい笑顔だ。)
春の夜のようなときめき
胸がきゅうとなる
苦しいような心地良いような感覚
この胸の高鳴りはもう抑えられない
燐は葵を息が止まるほどギュッと抱きしめた
え?
嬉しい…
葵は一瞬驚いた後、綻んだ
「葵、俺もずっと、大好きだったんだ…、どれだけ忘れようとしても忘れられなかった、」
「うん、私もだよ。」
「明日、絶対勝つから。」
「うん、信じてる…」
「おーー!お熱いね、おふたりさん。」
2人は声と同時に離れた。
すぐそこに黒と金のよく知る2人組が見える
「さつき!姉ちゃん!見てたのか?」
「うん、バッチリ」
さつきは指で丸を作り目に当てて言った。
「どっからだよ。」
顎に指を当ててから
「葵ちゃんの、告白あたり?」
「え!?」
「結構、序盤だな!」
「いや〜、ごめんね?邪魔すんのもあれだし。ね?」
さつきは両手を合わせて言うと、沙織に同意を求めた。
「ふふっ、まあね、でも良かったわ。」
「ほんっとそれよ!何年かかんのよ。面倒くさすぎ。」
さつきは両手を軽く広げて、肩をすくめる。
「いや、でも、さつきだって絡んでんだぞ。」
「あー、いやそれは、まあ置いといて、」
「置くな!」
「それにしても本当に良かったよ。私はあんたら2人が心配だったんだかんな。葵ちゃんなんて、死ぬとか言いだすんだもん。」
「え?それ本当か?」
「ちょっと、さつき先輩!」
葵は頬を膨らませて、さつきを睨んだ。
「ごめんごめん、」
「それは本当なのか?」
「いや、まあまた今度話すから。」
「そうか、」
「葵ちゃん、聞いてよ。燐くんなんか家に帰ってきて泣いてたんだよ。」
「おい!余計なこと言うな!」
「嬉しい…」
さつきはニシシと笑っている。
「こら、さつきそのへんにしなさい。」
「はいはい、ごめんねー。」
「心配してたのは本当だからね。本当に良かった…、」
さつきは目に涙を浮かべて微笑み、
沙織は大粒の涙をこぼした
「姉ちゃん…、泣くなよ。」
「先輩…」
「本当に良かった。2人とも…」
「で、燐くん、これでハグするの3人目だけど抱き心地はどうだった?」
さつきはニヤリと笑って言った。
「ちょっ、おい!さつき!て言うかなんでつばさをハグした、あっ!」
燐は慌てて口を手で塞ぐ、
葵はムッとした表情で燐を睨んだ
「へぇ〜、つばさちゃんを、なるほどねぇ〜。」
「くっそ!カマかけやがったな!」
「そんなことより、横みてみなよ、」
「横?横って、え!?」
葵は口をへの字にして頬を膨らませ、気の立った目つきで燐を見つめている。
「いや、違うんだって、その…怒った顔も可愛いね、なんちゃって。」
「えっ?ボッ、」
葵の顔から蒸気のようなものが噴き出した。
「恥ずか死ぬ…」
「あはははははは!」
「おい、さつき、笑うな!」
「いや、だって、早速バカップル、やっぱり、姉弟は似るんだね。」
「さつき!いい加減にしなさい。」
「うげ、ごめん…」
「あんたたちも、ほら、そろそろホテル戻らないと、明日がまだ残ってるでしょ。」
「あー、そうだな。まあ余裕だ!」
「さっきまであんなだったのに。」
「それ言うな!」
葵はチョンチョンと燐の服を引っ張って、
「ん?」
「これ、」
そう言って、新しい御守りを手渡した。
「ありがとう…」
「うん!」
「はやくしろーー!」
さつきが叫び、燐と葵は走って戻って行く。
よかったね葵ちゃん




