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第20話

〈side 葵〉


ピーーーッ!


試合終了の合図だ。


葵はスコアをつけるので、ベンチに座っていた。


よし!勝った。

無事に一回戦は突破できた。


試合中に立花くんがまだ私のリストバンドを着けていることに気が付いた。


ズキンッて胸が痛んだ…


観客席に戻りにくい。

さつき先輩と沙織先輩がいる、気まずいな。


なるべく離れた場所にいよう。


観客席に戻る。


「お疲れ様、」


そう言って葵は部員達にドリンクを渡している。


「サンキュー、葵」

「うん、今日勝てて良かったね。」

「ああ、燐のおかけだよ。」


悠人はそう言ってドリンクを飲む。


「そうだね…」


チクリと胸が痛む。


「葵、」

「ん?」


赤井くんだ。


「その…最近は大丈夫か?」

「うん、いつも通りだよ。ありがとう。」


葵は作り笑いをした。


「そうか…」


葵は自分の荷物が置いてある席に座る。

横にはタオルが置いてあった。


これ、誰のだろう。


葵は四つ折りにしてあったタオルを開いて確かめる。


これは!?


そこには古くなった、見覚えのある御守りが


私が1年生の時にあげたやつ…

まだ持っていてくれたんだ。

ありがとう…


ズキンッ


また胸が痛む。


リストバンドも御守りもまだ…


葵は辺りを見回して燐を探す。


あ、いた。


そこには燐と仲良く話すつばさの姿がそこには沙織達もいる。


そう言えば立花くん最近つばさって呼んでるよね。

つばさはさつき先輩達とも仲が良さそうだし、やっぱり私はもう…


葵の頭にはつばさを自分に置き換えた光景が浮かぶ。


どうして、こんなこと考えるんだろう。

私はもうあの場所には戻れない。

戻ることは許されない。


それでもいい、あなたがこれを大切に持っていてくれたから…

それだけでいい…

これ以上のことなんて望んじゃいけないんだ。


でも、どうして?

どうしてこんなに苦しいの?悲しいの?

ズキンッ、ズキンッ、痛い、痛いよ。


涙も出てこない、どうして?


心が切り裂かれたような苦痛。


心が痛い。


誰か、誰か私を助けて…

もうダメ、耐えられない…


うっ、うぅ……

痛い!痛い!イヤだ!もうイヤだ!

お願い!


心が潰れそう。

痛くてクラクラする。


あ、あぁぁぁーー!


─────────────

───────────

─────────

───────

─────

───


う、頭がボーっとする。


葵はうっすらと目を開ける。


誰だろ?


あ、立花くん。


私幻覚でも見ているのかな。


それでも嬉しいな。


徐々に意識を取り戻していく。


あれ?ここはどこだろ。


私寝てた?


完全に覚醒する。


あ、幻覚じゃない。


立花くんがいる!


「桐山、大丈夫か?」


見つめられるその顔に安心する。


「うん、ここどこ?私、どうしてここに?」

「ここは医務室、急に倒れて大変だったんだぞ。」


私何をしてたっけ、

うっ、痛い。


「そ、そうなんだ、立花くんはどうしてここに。」

「俺が桐山を運んだんだよ。そしたらここにいろって監督に言われて。目覚ますまで待ってたんだよ。」

「そうなんだ、ありがとう。」


葵は優しく微笑った。


「ああ、気にすんな。」


葵は上体を起こして、


「持っていてくれたんだね、御守りとリストバンド。」

「ああ、貰ったもんだからな。」

「そう、」


葵は寂しげな表情を浮かべた。


「久しぶりだな、こうして話すのも。」

「そうだね…」

「桐山変わったよな。」

「そうかな。」


変わったか…、やっぱり気づくよね。


「ああ、なんか、落ち着いたっていうか、なんて言うか大人っぽくなった。」

「よく言われる。」


前も楓に言われた。


「そうか、」


燐は少し寂しげな表情を浮かべた。


「つばさとは付き合ってるの?」


葵の表情は落ち着いている。


「え?なんで?」

「そういう風に見えるから。」


ズキンッ、また痛んだ。


「付き合ってないけど…」


(なんで、そんなこと訊くんだ。)


「そうなの、付き合わないの?」


こんな事訊いてどうするの?


「分からん。」

「好きじゃないの?つばさのこと。」


痛い、痛い、

私は何をしてるの。


「桐山には関係ないだろ。」


(何でそんな事言うんだよ…)


「付き合いなよ、お似合いだと思うよ。」


嘘つき、そんなこと思ってないくせに。


「それ、本気で言ってるのか。」

「うん、つばさいい子だし、いいと思うよ。」

「そうか?」

「立花くんも好きなんでしょ?つばさのこと良いって思ってるよね?ほら、つばさって呼んでるし。」


痛い、痛い、痛い、

何でこんなこと…


(何言ってるんだ…、お前は俺のことどう思ってるんだよ。なんなんだよ…、なんなんだよ!)


「うるさい。」

「え?」

「うるさい!お前には彼氏がいるんだから、俺のことなんてどうでもいいだろ!!」


また怒らせた…


「ごめん…、でも、どうでもいいなんて。」

「やめてくれよ!なんなんだよ!お前はあの時俺の事フッたんだろ。そのくせに俺に口出しすんなよ!!好きでもないなら、俺の心を揺さぶんな!」

「ごめん…、無神経だった。」


私は…

また苦しめたの…?


「もういい!」


燐はドアを強く開けて出て行く。


ごめん…、私はまたあなたを…


胸をちりちりと焼かれる思いがする。


痛いよ、痛い、助けて…

苦しい、もう無理…


涙も出ない…

私はもうダメだ…


また、私のせいで立花くんが…

私はどれほど彼を苦しめるの。

もうイヤだ、こんな思いをするくらいなら、

いっそ、もういっそ、死んでしまいたい。


「葵ちゃん…」


誰?

やめてよ、もう誰もこないで。


「葵ちゃん!」


葵は声の方を向く。


え?沙織先輩とさつき先輩…

どうして…


「なん…ですか…、私はもう立花くんとは関わらないし、前にも現れないから安心してください。」


もう私は消える…

そうすれば彼も


「どうするつもりなの?」


沙織が悲しげな顔をして言う。


「もう消えますよ。そうすれば先輩も悲しまなくてすみますから。」

「葵ちゃん、それって…」


さつきが言う。


「はい、そうです。今までごめんなさい。」

「そんな…、」


さつきが目に涙を浮かべる。

沙織が葵に近付き、


え?


抱き締めた。


「先輩…?」

「ごめんね、ごめんね葵ちゃん、私のせいだね。」


先輩泣いてるの?


「違いますよ、私が悪いんですよ。私があのとき逃げたから。」


だから、先輩は悪くない。


「ううん、違うよ。葵ちゃんは悪くない。私知らなかった。葵ちゃんがこんなに追い込まれてたなんて。ごめん本当にごめん…私のせいだ。」


沙織は強く優しく抱きしめる。


どうしてだろう。安心する。

温かい。


「私が忘れろなんて言ったからだよね。ごめんね、辛かったよね。苦しかったよね。もういいよ、無理しなくて。そんなこともう言わないし、思わないよ。もう楽になっていいんだよ。」


違うよ。そんなんじゃ…


「先輩が言ったからじゃないですよ。私が勝手に決めたことですから。」

「うそ、私が言ったからだよね。だから、好きでもない人と付き合ったりしたんだよね?」

「それは…」


先輩は全部分かってるんだ…


「もういいよ。全部分かってるから。好きなんだよね?燐のこと。」


私は…


「あの日からずっと好きなんだよね?忘れられないんだよね?辛かったよね。無理して忘れようとするなんて、もういいんだよ。忘れなくていいんだよ。だからお願い、もう消えるなんて言わないで…、いつもの葵ちゃんに戻ってよ…」


痛みも苦しみも自分の罪も全て…


今まで自分を縛っていたものから解放された気分。


心が軽くなる。


悪夢から覚めたような感覚。


今までずっと抑えていた感情が溢れてくる。


「いいのかな…、私…もう1回…好きになってもいいのかな…、酷いこともしたし、悲しませたし、さっきだって、苦しめたのに…、好きになってもいいのかな……」


葵は唇を噛み締めて、

あの日からずっと出なかった涙が、

恥ずかしいほどに止まらずに流れ続ける。


「いいんだよ。好きになっていいんだよ。だって、ずっと好きだったんだから。」


いいんだ

好きになってもいいんだ

もう我慢しなくていいんだ…


私は、私は…

ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、


「私は、立花くんのことがずっと、ずっと、大好きでした…ごめんなさい、ごめんなさい、沙織先輩。さつき先輩。今までごめんなさい。」

「うん、いいよ。私こそ、」

「なんで葵ちゃんが謝るんだよ。もういいだろ。」


さつきの足元にはポタポタと雫が溢れ落ちている。


葵は途切れること無く泣き続けた。


───────

─────

───


「もう、スッキリした?」

「はい、ありがとうございます。」


葵の目は赤いが顔はどこかスッキリしている。


「良かったよ。いきなり倒れるし、消えるなんて言うから。心配だったんだぞ。」

「はい…すみません。」

「良かった、本当に良かった…」


沙織はまだ泣いている。


「先輩達怒っていないんですか?」

「怒るわけないだろ。むしろずっと心配してたんだからな。」

「そうよ。私のせいでずっと苦しんでるんじゃないかって思ってたんだから。」

「先輩…」

「もうこの話は終わり。それでこれからどうするんだ?」


そうだ、立花くん怒ってるんだった。


「ふふっ、前にもこんなことあったよね。」

「あ、林間学校のとき、」

「そうそう、あの時は葵ちゃんが怒ったんだっけ?」

「そうでしたね…」


許してくれるのかな…

こんな私を


「大丈夫だよ。燐くんなら分かってくれるはずだから。」

「先輩…」

「でも、前みたいに、他の女の子の所で泣いてるかも?」

「え?それって、」

「こら、さつき!」


つばさだよね…


「いや、でも今回は分からないよ?私は何もしなかったけど、つばさはどうするのかは分からない。」

「そうだよね。あの子結構大胆だもんね。」

「やっぱり、私は…」

「葵ちゃん!そんな顔しないの!」

「でも…」

「燐を信じなさい、絶対に大丈夫だから。」


葵は静かに頷いた。


「じゃあ今日はうちでケーキでもたべる?私が作ったやつ。」

「いいわねそれ。」

「ありがとうございます。」


うっ、うぅ……

先輩はやっぱり優しいな。


「うぐっ…ぐすっ…」

「ほら、もう泣かないの。」

「いいんじゃない?嬉し涙なら。」

「それもそうね。」


沙織は葵を優しく包み、さつきは2人を見守った。

葵ちゃん…(泣)

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