付き合おう
七海先生の笛が鳴ると一人ずつ泳ぎ始めた。
みんなそれぞれ得意な泳ぎ方で泳いでいくのだが、早い。
前世の小学生の泳ぐスピードよりも早かった。
今泳いでいるのはみんな女の子なのだが、その誰もが早かった。
そして途中で足をついたり、泳ぎが止まってしまう子もいなかった。
ものの数秒で15m泳ぎ切り向こう側に到達していた。
前世では泳げない子や途中で立ってしまう子、水に潜れない子もいたのに対してこのクラスは実に優秀だった。
泳いでいた全員が向こう側に着くと七海先生の笛は再び鳴り次の生徒が泳ぎ出す。
次の生徒の中には杉田くんと石川くんもいた。
女子に混ざりながら泳ぐ2人。すると、女子にくらべ2人が遅く感じ取れた。
女子が着き終わり10秒程してから二人は泳ぎきった。
その光景を見て僕は赤ちゃんの時に見たテレビを思い出していた。
【女性の筋肉は非常に発達しており、男性の筋肉に比べ効率がいい】と。
決して杉田くんや石川くんが特別遅いというわけではない。2人ともクロールでしっかりと泳ぎきっていたのだ。
僕は番組で言っていたことを目で確認することができたのだった。
次の笛がなる。
僕の番が来ていたので音と同時に泳ぎ出す。蹴伸びで勢いよく進み、それからクロールをしようとした。
しかし、蹴伸びを仕切ったところで問題が発生した。
足がつってしまったのだった。
準備運動は抜かりなくやっていたのに。
僕は油断していたのだ。退院してから1年以上が経って、歩くのが当たり前のようになっており運動も当たり前のようにできると思い込んでいた。
しかし、8年という歳月はやはり大きかった。
水中という地上よりも負荷がかかる状況ではまだ完全に動けるとはいかなかった。蹴伸びをした時点で足の筋肉は悲鳴をあげてしまった。
不幸な事に僕は自分が泳げるイメージしか考えていなかった。前世と同じように泳げると考えていて、不意につってしまった足に対応できなかった。
小学生のプールとはいえ深さはある程度はある。そして、僕は他の子よりも成長が遅く身長が低い。
つった痛みで水を思い切り飲み込んでしまい息が詰まる。立ち上がって息を吸おうと考えたがつっている足では立てずに沈む。
自分でもこの状況は溺れていると実感できた。
苦しい。助けを求めるように手をもがく。
すると、ふわっと身体が浮くのを感じた。同時に手を引かれ水面の上に引き上げられる。
顔が水から上がり呼吸ができる。飲み込んでしまった水を吐きながらゴホゴホと咳き込みつつ息を吸う。
背中を手で支えられながら呼吸を落ち着かせ、ふと顔を上げると微笑む舞桜ちゃんの顔が目に入る。
「大丈夫?蒼空くん」
「げほっげほっ……う、うん……ありがとう…」
「ううん。ゆっくり息吸ってね?スーハーって」
手で背中を支えつつ、呼吸しやすいように摩ってくれる舞桜ちゃん。
七海先生が慌ててプールに入ってきて近くにくる。
「大丈夫?!野上くんっ!」
「げほっ…は、はい。もう、大丈夫です。」
「念の為保健室に行きましょう…岡部さん、よくやったわね。ありがとう」
「私は大丈夫ですよ。当然のことしただけです。それより、はやく蒼空くんを保健室に」
「そうね。みんなー!先生ちょっと保健室へ野上くんを連れていくから、戻ってくるまで自由行動!絶対に危ない事しちゃだめよー!」
七海先生はそう声をかけ、僕を抱えてプールから上がる。
ひょいっとなんでもないかのようにされた七海先生のそれは、女性の筋肉のすごさを痛感させた。
「岡部さん、悪いんだけど一緒に来てもらえるかしら?」
「はい、わかりました」
七海先生と舞桜ちゃんに連れられ僕は2回目の保健室へ運ばれていった。
保健室で処置してもらったあと、七海先生は授業へ。保健室の先生は職員室へ書類を取りに行ってしまった。
次の時間まで休んで行きなさいと言われた僕は付き添いの舞桜ちゃんと二人っきりになっていた。
「足、まだ本調子じゃなかったんだね」
「うん、そうみたい…ごめんね、また助けてもらっちゃって。」
「いいよ、気にしないで。それよりも、無事でよかった」
包み込むように舞桜ちゃんは抱きついてきた。優しく、それでいてしっかりと。
「ま、舞桜ちゃん…ちょっ…」
「よかった…ほんとに……」
耳元で聞こえる声は微かに震えていた。
「ま、舞桜ちゃん……?」
「……ごめんね、蒼空くん。痛かった?」
「あっ…ううん。それは大丈夫だよ」
声が戻ったと同時に舞桜ちゃんは離れていく。
「それより……舞桜ちゃん、泣いてた?」
聞いてしまった。舞桜ちゃんのそういうところを見るのは初めてだった。
なんていうか、女の子の部分というか…
「…ちょっと、嫌な事思い出しちゃって。でももう大丈夫だから、絶対」
「思い出したって……僕のこと?」
「……………内緒っ」
そう言うと舞桜ちゃんはにこりと笑ってみせた。
「それよりも蒼空くん!そろそろ私のこと好きになった?」
「えっ?!えぇっと…なんていうか……」
「まだかな?」
「い、いや!そんなことないよ!そんなことないけど…」
果たして僕は舞桜ちゃんの思いに答えてしまっていいのだろうか?
杉田くんから聞いた事がよぎる。
女の子の思いを受け止めるということは、つまり……
「……ねぇ、舞桜ちゃん?……もし僕が好きって答えたら…どうする?」
「こうするっ」
「ーーっ!」
3回目だった。
これまでと違うのは、軽いものじゃなかった。
前世でも経験したことがなかった、深いキス。
貪られるように、情熱的なキス。
驚いて離れようとしても、舞桜ちゃんに肩を掴まれていて離れられない。
次第に苦しくなってくる。限界だと感じたとき、ふっと唇が離れた。
透明な糸が伸びる。クスッと笑う舞桜ちゃんは妖艷で、同い年とは思えない。
「………わかった?蒼空くん?」
「っ!……ダメだよ、舞桜ちゃん。」
「なんで?」
「なんでって……それは…」
「好きなんでしょ?私のこと」
「それは…」
「だったらいいじゃん。ね?」
そう言ってまた近づこうとしてくる舞桜ちゃんを僕は手で制止する。
「舞桜ちゃんっ!…待って、待ってよ……」
「……うん、待つよ。それで、どうしたいの?蒼空くんは?」
「……舞桜ちゃんの言う通り僕は舞桜ちゃんが好き………なんだと思う。」
「うん。なら――――」
「でも!…いや、だからこそ、こういうことはちゃんとしたいんだ。」
「ちゃんとって?」
「しっかりと恋人関係になって、それから…」
「なら恋人になろ?そしたらっ」
「それだけじゃダメだよ舞桜ちゃん…。僕は、もっとゆっくりと……」
「ゆっくり?」
「うん。……段々仲良くなって、デートとかして、手を繋いで…そういう、順番をちゃんと…」
「………ねぇ?蒼空くん。女の子がそういうの我慢できないっていうのは知ってる…よね?」
そう言って舞桜ちゃんは僕をジッと見つめる。
「……うん。わかってる。でも……僕は、そういうのちゃんとしたい。だから、もし舞桜ちゃんがダメだっていうなら……恋人にはなれない。」
舞桜ちゃんはジッと見つめ続けている。
何を考えているのかわからない目。なんでも見透かされているようにも感じた。
「……そんなの、我慢するしかないじゃん。」
「え?」
「我慢するよ私。蒼空くんがそういう付き合いしたいっていうなら、私はその通りにする。だから、私と付き合ってください。」
「……こんな僕でよければ、よろしくお願いします」
そう返事をすると、舞桜ちゃんは涙を流しながら抱きついてきた。
泣いている舞桜ちゃんを見たのは、この世界では初めてだった――――
ようやく蒼空くんが答えてくれた
その言葉を聞くのに私はどれほど待ったんだろう。
でも、これは始まったばかり。
私はここで満足しちゃいけない。もう、2度と…
交際開始やでー!
そしてコミケ1週間切ったー!
コミケの三日間の更新どうしよ……書ける気がしない……




