表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/125


目が覚める。どれくらい眠ってたのだろうか。

時計の針は12を指していた。


「5時間も寝ちゃったのか…」


そう言うと俺は急いで身支度をする。

家の中を見渡してみるとそこには蒼空ちゃんの居た証は綺麗さっぱりなくなっていた。


「やっぱり、夢じゃなかったんだな。」


口から自然にこぼれ落ちた言葉だった。

現実が押し寄せてくる。


目覚めることがないと言われた息子

記憶を消した妻

そしてその妻を騙そうと決めた自分。

それでも俺はやらなくちゃいけない。妻まで失うわけにはいかないんだ、絶対に守らないと。



病院につく。俺は先に渚の病室に行った。


「渚ー?おはよう。体調は大丈夫かい?」

大丈夫。昨日よりかは明るく振る舞えているはずだ。


「……おはよう響。朝には来るって言ってたけど、寝坊かしら?」


「あー…うん。ごめんな?油断したらこんな時間だったんだ。」


「いいわよ。響も疲れ溜まってたんでしょう?なんだったら夕方でもよかったのよ?迎に来るの」


「いや、早く渚に会いたかったからね。」

また嘘をつく。本当は会いたくない。

会ったら嘘をつかないといけないから。嘘をつく度に心が押しつぶされそうになる。

全てを背負っていくと決心したのになんて弱気な事を思っているんだろう俺は。


「寝坊したくせによく言うわよ!まぁ、嬉しいけどね。ありがと響!」


そう言って俺に笑いかけてくる。

やめてくれ渚。そんな笑顔を見せないでくれ…

渚が俺を信じてくれてると感じる度に罪悪感が生まれる。

守ろうと決めた笑顔を見る度に鋭い針が心に深く突き刺さっていく。


「検査、もう済んだのか?」


「あ、それなんだけど、ごめん響。来てもらったのに私これから採血しに行かないとなの。 」


「そうなんだ。タイミング悪かったんだな。それじゃあ俺はお昼食べてくるよ。気にしないで」


「うん、ありがと。いってらっしゃい響」


「行ってきます、渚。」


そう言って病室を出た俺。きっと今ひどい顔していると思う。

すると先生が通る。昨日の精神科の医者だ。


「あ、野上さん。おはようございます。」


「おはようございます先生。昨日はありがとうございました。無理言って妻を泊めてもらって…」


「大丈夫ですよ。これくらいの協力はいくらでもさせてもらいますから。検査が必要なのは事実ですし。それよりも野上さん……お辛くないですか?」


「ありがとうございます………はい。妻に嘘を付くというのがこれほどとは。でも、自分で決めたことですから。」


「そうですか…ですが、無理をなさらずに。これで野上さんまで倒れてしまったら元も子も無いんです。……キツくなったら、いつでも言ってください。私でよければいくらでも話を聞きますから。」


「ありがとうございます。……助かります、ほんとに。」

本心だった。

そんな社交辞令であろう言葉でも今の俺にとっては癒やしとなっていた。



先生と別れたあと俺はNICUに来ていた。


「蒼空ちゃんおはよう。パパ来たよ?わかるかな?」


ガラスの向こう側で管に繋がれている息子に話しかける。

返ってくるのは人工呼吸器と心電図の音だけ。


「大丈夫だからな…絶対に目を覚ませるからな…」

そう蒼空ちゃんに向かって喋りかけるがこれは蒼空ちゃんに向けられた言葉じゃないんだろう。

きっと俺自身にそう思わせるために言ってるんだろうと思った。


しばらく蒼空ちゃんに喋りかけたあと俺は渚の病室に戻ってきた。


「検査お疲れ渚。結果はどうだった?」


「おかえり響。異常なしよ。昨日の検査がやっぱり間違ってたみたい。」


「そうだったんだ。何もなくてよかったよ。もう、帰れるの?」


「ええ。家に帰っていいって。来週また検査あるけどね」


「それはしょうがないよ。地道にやっていこう?」


「そうね…。ねぇ、響?…………私、ほんとに妊娠なんて出来るのかな?」

ドキッとした。そうだよな。蒼空ちゃんのことを忘れている渚は妊娠する前までの渚なんだ。

自分がほんとに身ごもれるか不安だった頃の渚。


「……大丈夫だよ渚。絶対に赤ちゃん作れるから。ゆっくりやってこう?」

これは本心だった。いや、本当のことを言っているだけだ。

渚は忘れてるからわからないだけ。蒼空ちゃんを覚えている俺には自信を持って渚を励ますことができた。


「うん…ありがとう。」


「あ、でも帰ってすぐエッチはダメだからな渚?」


「なっ!そ、そんなこと考えて…ました。もう、いいじゃない1回くらい。響は私としたくないの?」



「そんなわけじゃないよ。先生にお腹のことで言われたんだ。何が原因かわからないけど無理な運動はさせないようにってね。身体が急に変わったのならそれに対応しきれないだろうからって」


「ふーん……じゃあ仕方ないか……はぁあ、ひとつ屋根の下に響がいるのに出来ないなんて先生も女に酷な事言ってくれるわよね本当」


正直に言って、出来ないなんてことはない。出産してもうすぐ1ヶ月が経とうとしているんだ。体の調子も後一ヶ月しないで元に戻るだろう。


だけど、今の俺は渚に抱かれたくなかった。渚と子供を作るということをしたくなかったんだ。

蒼空ちゃんのことを忘れて、新しい子供を作るなんて俺にはできない。

スキンを使えば渚はそれに疑問を持つだろう。

だから、その行為自体を俺は避けた。

ごめん渚。俺に決心がつくまで待っていてくれ………


「そうだ。仕事なんだけどな渚。しばらくの間休んでいていいそうだ。」


「え?それは嬉しいけど…どうして?」


「お腹…というか身体の事で先生が連絡をしてくれていたらしい。それで休んでしっかり治すようにって。あ、心配するなよ?お腹が出たから~なんて事は言ってないみたいだから」


「なるほどねー。ま、まぁお腹のことは良かったわ。そんなこと同僚に知られたら恥ずかしくて顔合わせられないもの。でも休めるのかーうふふ。これでしばらくは響とイチャイチャできそうね!」


「うん。でもエッチは禁止。わかった?」


「えーーー。い、一回くらいな『だ!め!』…はい。」


「うん。…それじゃあ帰ろうか?」


「そうね。早く家に帰ってゆっくりしたいもの。」


そうして俺達は家に帰っていった。

3人の場所であるはずだった家に。

2人っきりになってしまった我が家に。



ブクマ30件突破!

ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ