Track-24.追い風はいつも前からやって来る!(連続ドラマ『アンドロメダから来た女』主題歌)
遥か昔、まだ銀河帝国が光の壁を越えて間が無い頃。新たに発見された恒星系に遠征していた調査船『ギュルイーブ』が帰還した。熱烈な歓迎を受ける乗組員達。しかし、その後謎の失踪を遂げる。厄災の雲と言われる黒い霧が空港のギュルイーブから立ち上る。たまたま空港にいた、様々な惑星から来ていたアテナ達五人の少女が霧に巻き込まれる。
黒い霧は気体状生命体。霧は少女達に力を与え、逃げ出した乗組員を探して欲しいと頼む。
纏った霧を様々なコスチュームに変化させ、襲いかかる謎の集団と戦う彼女達はやがて、銀河帝国内部に秘められた悪意に気付き始める。
「ちゃらちゃらした物語かと思ったら、意外とダークな設定なんだね」
本屋と同じフロアにあるフードコートで、ディスプレイを見ていた祐子がつぶやく。
一日三回のライブ。朝と午後のライブを終えて、残すは、最後の夕方の部のみになっていた。
「マスコットのギュルたんはかわいいけど」
優奈がジュースのストローを口にくわえながら言う。
「変身後の衣装がいかにもって感じ」
ディスプレイの中の少女達は、短いフレアスカートに、チューブトップに翼が着いた衣装を身に纏っている。それぞれの衣装は、五色で色分けされており、頭部には、天使の輪のような輝くリングが浮いている。変身前は、幼い彼女達だが、なぜか変身後は大人の女性になる。ファンの間では、彼女達は既に死んでおり、ギュルイーブにより死後の少女達が具現化されているとの噂もある。
「その衣装の事で話しがあるんだが」
声の方を見ると、田端がテーブルの上に段ボール置いていた。
「すごく嫌な予感がする」
祐子が眉間にしわを寄せて田端を睨みつける。
「まあ、まあ、君達のファンクラブからの贈り物なんだから」
田端は言いながら、段ボールを開け、中からカラフルな衣装を取り出した。
真っ赤なチューブトップに白いフリルが着いたフレアスカート。そして、赤みを帯びた光を放つ輪っか。
「うちらのファンクラブなんかいつの間に出来てんやろ?」
立ち上がった綾香が段ボールを覗き込み、衣装を取り出す。
「君達が始めて歌った日からだよ」
田端は言いながら、段ボールから取り出した衣装をメンバーに手渡していく。
「ファンクラブの一人にコスプレ職人がいて、頼んだらすぐに作ってくれたんだ」
目の前の真っ赤な衣装を手に取り、立ち上がった杏子は、青い衣装を見つめたまま座っている祐子を見る。気がつけば、皆が祐子に注目していた。
視線に気付いた祐子は、顔を上げる。
「大丈夫。アイドルになるためならなんでもやってやる、でしょ」
早紀に向かって笑いかけた祐子が衣装を持って席を立つ。
頷いた早紀は立ち上がり、テーブルの上に置いていた紙コップを掴む。
立ち上がった皆が足を止めて、紙コップを握り締める早紀を見つめる。
離れたごみ箱に狙いを定めた早紀は、肩幅に両足を広げ、腰の位置で紙コップをさらに握り締める。
片足を上げて、振りかぶった手から投げ出された紙コップは、縦回転しながら空中に弧を描いていく。
ストン。
ごみ箱に吸い込まれた紙コップが音を立てる。
「どうしたの早紀、投球フォーム、完璧じゃない」
早紀に駆け寄り、手を叩いて喜ぶメンバー中、祐子が尋ねる。
恥ずかしそうに笑う早紀はぽつりと言う。
「無茶苦茶練習した」
*
「そろそろお願いします」
本屋の事務所で出番を待っていた五人に司会担当の店員が声をかける。
真っ赤な衣装を着た主人公剣聖アテナに粉した杏子が立ち上がる。
片手に巨大なグローブを付けた拳帝ソフィアに粉する早紀が黒いスカートをひらめかす。
いにしえの武術王、青のルティカ、二本のこん棒使い白のエマの衣装を着る祐子と綾香が席を立つ。
最後に、星を射る星穿ラクティーヌに粉した優奈が立ち上がり、皆を見回す。
「ねえ、今、私すごい事に気付いたんだけど」
優奈が言いたい事には皆が気付いていた。
「田端さん、一つだけ教えて下さい」
腰から下げた剣を鳴らしながら、杏子は部屋の隅に立つ田端に向き合う。
「秋山さん、アテナ見てた?」
五人の姿を満足気に見ていた田端は頷いた。
「大ファン」
顔を合わせた五人は誰からともなく、笑い出した。 キョトンとして立ち尽くす田端の横を、五人が笑いながら通り過ぎていく。
扉から顔を出していた店員が、安心したように笑う。
「外、凄い事になってますよ」
店員は言うと、五人を迎え入れるように扉を大きく開ける。
その歓声は、ステージから遠く離れた本屋の奥まで響き渡っていた。
ステージ前の通路には、溢れんばかりの観客。皆が手にペンライトを握り締めていた。あまりの観客に、警備員が誘導をしている様子も見える。
高校生くらいだろうか、若い観客にまじり、アテナのデータボックスを買った人達も、五人の衣装に振り返り歓声を上げていた。
ステージの上で顔を見合わせた五人が頷き合う。
いつも通りに歌うだけ
マイクを握った杏子は深呼吸をして、観客を見渡す。
「地球から来ました。コス☆モスです」
割れんばかりの歓声に、杏子の声が吸い込まれていった。
*
薄暗い店内、カウンター席には三人が座っている。
「ご苦労様でした」
豚と書かれたティーシャツにえんび服を着込んだ男性が、カウンター内から、カクテルを三人の前に置いていく。
「えー、では、新レーベルの立ち上げを祝福しまして」
カクテルを持ち、立ち上がった田端が言う。
「乾杯」
客席の三人と、カウンター内の男性がグラスを合わせた。ガラスとガラスのぶつかる心地好い音が、他に誰もいない店内に響く。
席に座る田端の左横に座る銀髪をリーゼントにセットした男性が笑いながらカクテルを飲み干す。右横には、フサフサの尻尾を揺らす女性が、上品にカクテルに口を付けた。
「みなさんには、本当にお世話になりました」
カクテルに少しだけ口を付けた田端が頭をさげる。
「田端さん、頭を上げて下さい」
カウンター内の男性が、田端の肩に手を置く。
「田端さん、私達はちょっとだけ手を貸しただけですよ。ほら」
リーゼントの男性が、田端の前にディスプレイを表示させた。
『fight!』の演奏をバックミュージックにして、優奈が弓でロボットの目玉を射抜き、頭部に取り付いた綾香がクラブで殴り付け、祐子の前で宙を舞うロボット。目にも止まらない剣さばきでロボットの両腕を切り落とす杏子。扉をぶち破る早紀。
あの時、田端が手にしたイヤホンから聞こえたのは、帝国治安当局の会話だった。完全に罠に嵌められたヤクト。目の前の茶番劇。ヤクトの必死さを嘲るような帝国の振る舞いに、身が震えるような怒りを感じた田端は、この状況をめいいっぱい利用してやる事に決めた。
「ほら、ここ」
リーゼントの男性が、ディスプレイの下部に表示された数字を指差す。
画像の閲覧件数であった。
「百五十、億!」
思わず田端が声を上げる。桁を数えなくては読めない数字だった。こうして見ている間にも、数千単位でカウンターが回っている。
「辺境惑星から発信して、帝国の最果ての星を数十個経由させている」
リーゼントの男性は言いながら、腕を組む。
「帝国も躍起になって消しているみたいだが、ダビングされて拡散される方が圧倒的みたいだな」
画面に見入る田端に、女性が話しかけた。
「帝国の強硬政策にも批判が集まってるらしいわ」
女性は、別のディスプレイを開く。
1 名無しの帝国人
知られざる帝国の闇の姿
⇒動画
2 名無しの帝国人
動画見た やばい
3 名無しの帝国人
〉2 詳しく
4 名無しの帝国人
資源化された惑星のテロ
5 名無しの帝国人
?
6 名無しの帝国人
資源化は対象惑星の同意を前提にしてるはず テロ?
7 名無しの帝国人
これ ペルメテウス映ってる 俺ファンだったのに
女性は匿名掲示板のディスプレイを消した。
と同時に、店の扉が開く。四人が注目する中、ふらつくように、少年がカウンターの椅子に座り込んだ。
「リューク、どうしたのそれ」
女性がリュークの頬を見ながら言う。彼の顔面は、赤く晴れ上がり、所々内出血していた。
「親父に死ぬほど殴られた」
リュークは頬をさすりながら、カウンターに出された水を飲み干す。
「親父の会社のネットワークに侵入したのばれて、学校辞めるって言った」
今回の動画配信には、リュークの父親の会社が使用するネットワークに侵入して、データを辺境惑星に送っていた。
「親父に殴られたのなんて、いつぶりかな」
女性とカウンター内の男性は、店の奥に入り、水で冷やしたタオルと、救急セットを持ってリュークの回りに集まる。
「でも、最後に、学校は卒業しろって言われた」
両頬に湿布を貼ったリュークは、カウンター上のジュースに口をつける。
「君には随分負担をかけてしまった」
リーゼントの男性が、リュークに頭を下げる。リュークは慌てて両手を振る。
「いいですよ。自分で言い出した事だし。それより新レーベルの方は」
リュークの言葉に、リーゼントの男性が頷く。
「倒産したレーベルを買い取った。今のところ、所属タレントはコス☆モスだけだけどな」
グラスをカウンターに置いたリュークが身を乗り出す。
「名前、何にしたんですか」
リーゼントの男性が、ディスプレイを開く。
「ストリート・ミュージック・クラウド、略してSMC」
ディスプレイに、銀河系が映し出され、SMCの文字が銀河系をバックに浮かび上がる。
「メインストリートから外れた辺境の惑星の音楽を銀河中に発信してやる」
リーゼントの男性が拳を握り締める。
カウンター内の男性、頭の耳を揺らす女性、田端がリュークに向いて頷く。
「ほら、名刺も作ったんだ」
リーゼントの男性は、懐から、カードを一枚取り出した。
カウンターの上に置かれたカードから、SMCの文字が浮かび上がり、コス☆モスの五人が踊り出す。
すかさず、田端とカウンター内の男性が、カウンターに顔を付けてカードを下から覗き込む。
「本当によく出来ている」
「ブヒッ」
田端と、カウンター内の男性が同時に唸る。