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Track-23.STAR BURST!

 シルバリオンによるお手本画像に、シルバリオンのリーダーアスカと、サブボーカルリョウの顔が映し出される。


「お疲れ様〜」


 二人が同時に言って笑顔で手を振る。


「今日はゆっくり話しが出来るんだ」


 アスカの言葉にリョウが頷く。


「アスカがね、プロデューサー脅したからね」


 ピースサインをするアスカに聞こえないように、リョウが画面に近づいてささいた。


「ちゃんと教えてくれないなら、もう歌わないって」


 リョウのささやきに気付いたアスカが画面に顔を寄せる。


「だってさ、今までの歌や曲聞いてるとさ、どんな子達が歌ってるのか気になるじゃん」


 アスカがリョウと目を合わせながら言う。


「正直、いい歌多かったんだよね。なんなら、私達が歌いたいくらい」


 リョウとアスカが同時に笑顔を作り笑い合う。

 が、笑い終えたアスカは、俯きながら、画面に語りかけた。


「すごい遠い所で、地球のみんなの為に頑張ってるって聞いた」


 リョウが頷き、切れ長の瞳を画面に向ける。


「具体的な場所はプロデューサーも知らないみたい。解散ちらつかせても吐かなかったわ」 


 アスカが顔を上げて画面を覗き込む。


「今回の歌で、録画は最後って言われた」


 言いながら、アスカは目を擦る。


「なんかさあ、最初は訳わかんなかったけど、ダンスとか、歌とか、私達も一生懸命考えて指摘とかしてたらさあ」


 アスカは、涙で濡れた瞳を画面に向けた。


「いつの間にか、同じメンバーの様な気になっちゃって」


 小さく舌を出してアスカが笑いかける。


「大切なメンバーにもう会えなくなっちゃうと思うと……」


 瞳からポロポロと涙をこぼすアスカは、顔を伏せて嗚咽をはじめた。

 リョウが、ハンカチをアスカに手渡す。


「私達も、いろいろあったんだ」


 アスカの背中を撫でながらリョウが画面を見る。


「喧嘩して口聞かなかったり、酷い批判受けて落ち込んだり」


 遠い記憶を思い出すように宙に視線を向けるリョウ。


「でもね」


 リョウは、視線を画面に戻す。濡れた瞳がまっすぐ画面に向けられている。


「メンバーがいたから、乗り越える事が出来たの」


 リョウが言い終えると同時に、ハンカチで鼻をかむアスカが顔を上げる。


「あなた達は、私達のメンバー。だから、頑張ってほしい」


 アスカが返したハンカチを指で摘んで受け取るリョウは、アスカの顔を二度見する。


「あんた、これからテレビ収録なのに」


「ほえ?」 


 顔を上げたアスカの瞳から流れ落ちたマスカラが、頬に真っ黒の筋を作っていた。リョウはハンカチでアスカの頬のマスカラを拭き取る。


「今日、ミュージックステージの収録なんだよ」


 ハンカチで頬をこすられながら、アスカが画面に笑いかけた。


「来月には、憧れの舞踏館大ホールでライブなんだよ」


 白い歯を見せてアスカがピースサインを画面に向ける。


「あなた達が、どこで、どんな風に歌っているのかは分からないけど」


 ハンカチを綺麗に折りたたみながらリョウが言う。


「一度アイドルを目指したのならば」


 リョウとアスカが目を合わせて頷き合う。


「トップとったれ!」


 二人は人差し指を突き立てて笑いながら同時に叫ぶ。


「アスカ、そろそろ」


 画面の外から女性の声が聞こえた。アスカは頷くと、画面を見つめる。


「これで、お別れ」


 まっすぐ画面を見つめるアスカ。

 それまでの少女の物とはうって変わり、その瞳には、星の数程存在するアイドルの頂点に立つ者にしかない、強い光が宿っていた。


「日本、ううん、地球くらいは私達がなんとかしてあげるから」


 アスカは目を細めて微笑む。


「めいいっぱいアイドルしちゃえ!」


 手を振る二人を映していた画面が消えていった。




     *




 杏子は、体に降り注がれる温かさで目を覚ました。 眩しさに思わず手をかざす。

 枕元から電子音が鳴り始めた。

 目を擦りながら体を起こした彼女は、枕元に浮かび上がるディスプレイをタップして、目覚まし音を止める。

 ベッドから足を投げだし、大きく伸びをする。

 窓から、朝日の光が帯状に差し込み、部屋中を明るく照らしている。

 杏子は、両手で頬を叩くと、勢いよく立ち上がった。



 早朝の並木道。等間隔に並んだ街路樹が、道路に規則正しく長い影を降ろしている。


「おはよう。今日も頑張ってるわね」


 灰色長い毛に全身を覆われた丸い動物を散歩させる老女が、杏子に声をかける。「おはようございます」杏子は立ち止まり、頭を下げる。杏子の足元に老女に紐でつながれた動物がまとわりついた。腰をかがめた杏子は、丸い動物の背中をやさしくなでる。一瞬、毛をそばだてた動物は、しばらくすると元のように体を丸め、気持ちよさそうな目を見せながら、地面に寝転ぶ。


「看護師さん」


 老女は、動物をなでる杏子に言う。首を振るを見て、老女はため息をもらす。

 毎日ジョギングで出会う老女は、杏子が帝国で何をしているのかに非常に興味を持ち、一日中考えた答えを杏子に伝えていた。


「もう降参。お願いだから教えて」


 最初の回答は、留学生。あながち間違えともいえないが、正確な解答ではなかった。エンジニア、宇宙船の操縦士、トリマー、軍隊、実は女スパイ、何かのスポーツのプロ選手…… 老女の想像は次第にエスカレートしていった。地元の老人の集まりでも話題にしていたらしい。

 立ち上がった杏子は老女に笑いかけると、頭を下げて走り出し、すぐに立ち止まり、老女を振り返る。


「私、アイドルです」


 胸を張って、まっすぐ老女を見た杏子は言うと、くるりと向きを変えて走り出した。

 自然と笑みがこぼれた。




      *




 家に帰り、シャワーを浴びた杏子は、髪の毛を拭きながら、リビングに向かう。リビングでは、グレイズ家の全員が朝ごはんを食べていた。


「ご苦労さん。あんたもちょっとは見習って運動しなさい」


 杏子の席の前にパンとコーヒーを並べながらマーサが、ディスプレイを見ながらパンを口に運ぶリュークに言う。


「ちっ」


 リュークは舌打ちし、マーサに背を向けてパンを食べ続ける。


「どうだ、順調か?」


 ヴェルがコーヒーを飲みながら尋ねる。熱々のパンの耳を口に入れる杏子が大きく頷く。


「次のライブの場所は決まったのか?」


 ヴェルはコーヒーカップをテーブルに置く。口の中のパンを飲み込み、コーヒーを流し込んだ杏子が頷く。


「本屋さん。アニメのイベントに呼ばれたの」


 相変わらずのドサまわりだが、杏子は胸を張って答えた。五人揃っての久しぶりのライブ。場所は関係なかった。


「うちの会社で宣伝してやってもいいが」


 ヴィルは帝国広告という会社で働いていると聞いた。銀河中にネットワークを持っているらしいが、企業相手の仕事が主らしく、依頼料は個人で払える限界を超えている。


「じゃ、行ってくるわ」


 リュークが言いながら鞄を持ち立ち上がる。


「行ってらっしゃい」


 皆が見送る中、リュークはリビングを出て行った。



 リビングを出たリュークは、すぐにディスプレイを表示させる。検索窓を表示さた彼は、小さな声でディスプレイに向かってつぶやく。


「アニメ、イベント、本屋」


 ディスプレイに、回答結果が並ぶ。文字列を読んだリュークは、目ぼしい検索結果をタップすると、扉を開けて、家の外に出た。




「エコも早く食べないと遅刻するよ」


 ディスプレイを注視し、ほとんど食事に手をつけていないエコにマーサが言う。


「ねえねえ、すごいよこれ」


 ディスプレイを表示させたエコが言いながら、ディスプレイを指差す。


「木プレの人、とうとう最終ボス倒して、皇帝になったんだけど」


 木プレ―― ゲーム、ソードインベクターで、木製の剣のみで戦う凄腕プレイヤーのことである。


「皇帝特典で奴隷制度無くしちゃった」 



       

      *




 田端が、大きなくしゃみをする。


「きたない」


 裕子が、ティッシュを田端に手渡す。受け取った田端は、頭を下げながら鼻をかむ。

 練習が終わり、帰り支度を始めた五人を田端が呼び止めた。


「今日は、寝てばかりだし、集中力欠いてるじゃないですか」


 腕を組んだ早紀が、さげすむ目で田端を睨みつける。ティッシュをゴミ箱に捨てた田端があわてて、五人の元に戻る。


「いい年こいてゲームで徹夜してしまった」


 目をこすりながら言う田端。五人はため息をつく。


「で、用ってなんなん?」


 ドラムのバチを鳴らしながら綾香が聞く。田端は頷くと顔を上げた。


「シルバリオンのお手本ビデオも終わっただろ。日本政府の計画はもうここまでなんだ」


 田端の言葉に、五人が顔を見合わせる。そういえば、この先、アイドル活動はどうなるのか。全く指示がなかった。田端は、持っていたファイルを皆に見せる。

 ぼろぼろになり、汚れたファイルの表紙には【全国世論誘導実験結果に立脚する軌道惑星資源化阻止計画書(内閣内務省案】の文字が微かに読み取れた。


「地球のもの差しで考えたら想像もつかないことなんだけどね」


 銀河帝国は、局部銀河系への遠征に当たり、数十個の惑星を資源化する予定らしい。惑星一つを天蓋で覆い、移動させるなど、地球では想像もつかない事である。ましてや、一つだけでなく、数十個。日本政府も例に漏れず、資源化される惑星は一つだけと考えていた。

 よって、今回の計画は、先日、ヤクトが資源化された時期を想定して起案されたものである。最近の帝国内での政変による影響も大きいが、銀河帝国の規模を想像できなかったことが要因である。


「だから、これからは、君たちが自分で考えて、アイドル活動を続けてほしい」


 彼女たちが銀河帝国に降り立ったとき、秋山は、一夏の間と期間を区切っていた。

 頷いた五人は、手に持っていた荷物を床に降ろし、輪になり向かい合う。


「これ」


 床に置いた鞄から、早紀が二つ折りにされた白い紙を取り出した。


「私、毎日これ見て元気もらってる」


 早紀は慎重に紙を開いていく。


 そこには、ピンク、白、赤の三色の花びらで作られた押し花が一輪の花を作っていた。押し花から視線を上げた皆は、フロアの端のプランターを見る。

 小さな窓の下のプランターには、杏子がもらってきたコスモスの花が咲いていた。


「コスモス」


 杏子がつぶやく。


「そういえば、あのチョコバーもコスモス食品製だったよね」


 優奈が懐かしそうに目を閉じる。


「コスモス、五枚の管状花の周りを八枚の舌状花が取り巻く。花言葉は『乙女の純真・真心』」


 裕子が、ディスプレイを表示させて読み上げる。


「私たちは、コスモスに導かれて集まって、コスモスのおかげで立ち直れた」


 言いながら杏子は、植物園でみたコスモスの花を思い出す。地球から持ち込まれたコスモスの種。宇宙線にも負けず、この星の大地に根ざしていた。地球と銀河帝国を結びつける小さな花。コスモス、語源はギリシャ語で『宇宙の調和』。




      *




 ショッピングビルに入居する本屋の前に簡単なステージが設営されていた。入り口には『魔法剣士少女アテナ コンプリートデーターボックス販売記念』の垂れ幕が下がる。垂れ幕の後ろの壁には、チラシが貼り付けられていた。垂れ幕で半分以上見ることができないが、『特別イベント 五人組アイドル』の文字がかろうじて読み取れた。

 ステージの前では、データボックスを目当てに来た帝国男性たちがまばらにステージを見上げている。


「では、ゲストの紹介です」


 司会を勤める本屋の店員が、マイクを持ち、ステージの横に立つ。


「アイドルグループ、コス☆モスの五人です」


 まばらな拍手の中、司会者がめくったカーテンから、杏子達五人が現れる。

 マイクの前に立つ杏子と早紀。裕子はベースギターを、優奈がリードギターをそれぞれアンプに繋ぐ。ステージ後方の椅子に座る綾香の前に、ドラム型のディスプレイが表示された。


「地球から来ました。コス☆モスです」


 杏子がマイクを握り、話し始める。雑談していた数人の帝国人達が何気なくステージを見上げている。


「リーダーの杏子です」


「サブボーカルの早紀です」


「ギターの優奈です」


「ベースの裕子です」


「ドラムの綾香です」


 振り返った杏子と早紀、五人が笑顔で目を合わせる。ステージ前を向いた杏子がマイクに叫ぶ。


「みなさん、楽しんでいってください」


 持ち時間は、たったの5分。自己紹介で時間を食うわけにはいかない。できるだけ短く自己紹介を終えた。すぐに、綾香がドラムでリズムを刻み、優奈すでにチューニングを済ませたギターの弦を弾く。

 曲目は、『fight!』。激しい楽曲に、本屋の前を歩く人々が、思わず足を止めてステージを振り向く。

 




 

 


 









 


 



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