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Track-22.fight!PartⅢ(魔法少女戦士アテナ4復活編 主題歌)

 銃声の残響の中、天井のシャンデリアが粉々に割れて床に散らばる音が聞こえる。

 一寸先すら見ることが出来ない暗闇、静まり返るホール。

 ステージ上の四人は、頭を抱えてしゃがみ込む。


 

 ホール奥、観客裏の物置場所から、金属の軋むような不快な音が聞こえる。

 

 恐る恐る目を開けた杏子は、闇の中から、次々に現れる赤い光を見た。

 

「収録中のところ、まことに申し訳ございません」


 ホール中央付近から、男性の落ち着いた声が聞こえる。赤い光の中、人のシルエットが浮かび上がっている。


「このホールは完全に我々が占拠しました」


 天井のダウンライトが、一つづつ光を取り戻していく。

 急に光を浴びた眩しさ視界が滲む。

 ようやく正確な像を結んだ視界の先には、天井に向けて拳銃を構える男性、そして、男性の背後には、赤く光を放つ一つ目のロボットが五体。男性を取り巻くように立っていた。巨大な熊の様な体躯のロボットは、両手を観客や、ステージに向けている。手の先には、三つの銃口が黒々と鈍い光を反射していた。


「騒いだりしなければ、危害は加えませんよ」


 銃口を天井から地面に向けた男性が、ステージの前に歩み寄る。黒い長袖シャツ、ズボン。頭には、ぺルメテウスのロゴが入った紺色の帽子。


「こ、こんな事をして、何がしたいんだ」


 番組スタッフが、男性に近づく。


 銃声が連続して響く。


 男性の直近にいたロボットの手先の銃口が煙を上げ、スタッフの足元に巨大な穴が空いていた。スタッフは、衝撃で床に倒れると、腰を抜かし、穴から這うようにして遠ざかる。


 拳銃を持った男性は、スタッフを見ながら、帽子を脱ぐ。


 褐色の肌に、黒い髪の毛。

 

「ぺ、ペルメテウスのプロデューサー」


 ステージ脇に立つ帝国人女性がつぶやく。

 男性は頷くと、ステージに向かって歩き出す。


「私は、ヤクラ解放戦線の戦士です」


 ステージに上がった男性は、杏子達四人を順に見ていく。


「どうして、こんな事を」


 番組スタッフの一人が声をかける。

 拳銃を持った男性は、スタッフの方を向き微笑む。


「先日、帝国執政庁から通知を受けました」


 男性は、目の前に文字が書き連ねられたディスプレイを表示させる。


「帝国執政庁第二十六万二千二百二十八号通達。皇帝令第四十六万五千六百五十八号により、第三渦状橋レイベンスト宙域主星ワルビアス第五惑星ヤクトに対する惑星全天蓋化措置及び当該惑星に対する移住強制準化措置を許可する。…… つまり、ヤクトの資源惑星化が決定したということです」


 ディスプレイを閉じた男性は、もう一度、慈しむような不思議な笑みを浮かべて杏子達四人を見る。


「私は今から命を懸けて最後の直談判に向かいます」


 男性は拳銃を腰のホルスターに納めた。


「ホール内の情報は完全に遮断しています」


 言いながら男性は、五体の武装ロボットに指示を与え、ホールの出口に向かって歩き出す。


「こんな事が許されると思うのか!」


 近くにいたスタッフの一人が叫びながら、男性に体をぶつけた。

 腰を落とす男性。スタッフは、空中を一回転して床に叩き付けられた。スタッフが耳に嵌めていたイヤホンが床を転がる。

 祐子が身を乗り出す。合気道と似た動きだが、型にはない動きだった。ヤクトの武術なのだろう。


「じっとしていてくださいね。奴らは私と違って手加減出来ませんので」


 床に仰向けに倒れうめき声を出す男性の顔面に、ロボットが近づき、銃口を向ける。


「直談判の状況は、ここにも生中継します。では」


 男性は頭を下げると、出口の扉を大きく開けた。男性に続いて、ロボットが一体外に出ていく。


 ホールに残った四体のロボットは、一台が、ステージ上の杏子達四人と番組スタッフ数人に、一台が観客席に、一台がカメラマンなどのスタッフにそれぞれ銃口を向けている。残った一台はホール中央から出入口に向けて手を伸ばす。



「これからどうなるんやろ」


 綾香が、ステージ上で身を寄せ合うようにかたまって座るメンバーにつぶやく。


「私達の事より、ペルメテウスの方が心配」


 杏子は言いながら、ペルメテウスの楽屋に繋がる出入口を見た。



     *



 水浸しの両手をズボンに擦りつけながらトイレから出ようとした田端は、慌ただしい足音に足を止め、壁に身を隠す。

 通路を覗き込むと、露出の激しい服を着た褐色の肌の女性達と、帽子を目深に被った男性が、業務用のエレベーターに入っていく姿が見えた。

 ペルメテウスのメンバーとプロデューサーだという事は分かったが、表情に余裕が見られなかった。


 さすがペルメテウス。特別な会場にでも移動するのだろう。慌てていたのは時間が押しているためか。

 時間を確認しようとディスプレイを表示させた田端の背中に、固い物が当たる。振り返ると、真っ赤な光を放つ目を持つロボットが、銃口を田端の背中に押し付けていた。


 前に歩くように背中を押された田端は、両手を上げてゆっくりと歩き出す。

 エレベーターの表示は最上階で止まっている。

 横目で確認した田端は、ホールへの扉を開けた。


 扉が開くと同時に、ロボットが田端の背中を押す。 床に倒れ込んだ田端の背中で扉が閉まる。

 顔を上げると、別のロボットが、彼の正面から銃口を向けているのが見えた。

 静まり返ったホール内を見渡すと、ロボットに銃口を向けられた人々が心配そうに彼を見ていた。

 立ち上がろうとした田端の指先に何が小さな物が当たる。

 丸い小さなそれを握った田端は、ロボットに促されるまま、番組スタッフ達の集団に合流した。

 ステージ上のTKU5の無事を確認した田端は、拳を開く。

 拾ったものは、小さなイヤホンだった。何気なく、イヤホンを耳に入れる。



     *



 静まり返るホール内、中央のロボットが、赤く光る目をステージに向けた。ロボットの胸部が開き、カメラの様な物が現れ、眩しい光を放ち、TKU5の背後のスクリーンが光り出す。


 スクリーンには、ペルメテウスのリーダー、アンジェラの顔が映し出されていた。


「どうして、どうしてこんな事に」


 彼女は涙をこぼしながら、画面に向かって叫び続けていた。


「仕方ないんだ。こうするしか」


 画面の外から男性の声が聞こえる。


「そんな、私達、やっと、やっとここまで来れたのに」


 アンジェラが、画面に近づき叫び続ける。彼女の後ろでは、ペルメテウスのメンバーがうずくまり、泣いている様子が見えた。


「分かってくれ。もうこうするしかないんだ」


 男性の声にアンジェラが激しく首を振る。


「いやだ! 私達が頑張れば大丈夫だって言ってたじゃないか!」


 画面の外から、男性の手が現れ、握られた拳銃がアンジェラの後頭部に叩き付けられた。

 鈍い音がして、アンジェラは崩れるようにその場に膝を付く。


「アイドルになったら、ヤクトを救えるって……」


 涙声で叫びながら、彼女は床に身を横たえた。



 スクリーンに見入っていた杏子は、体を震わせながら、思わず刀に手をかける。ロボットを振り返る杏子の視線に、立ち上がる優奈の背中が見えた。


 ヒュン


 限界まで引き絞られて放たれた矢は、彼女達に銃口を向けていたロボットの赤い目に突き刺さった。

 火花を散らしながら、目の破片が辺りに飛び散る。


「あわわわ、やっちゃった」


 優奈が涙で濡れた頬を手で覆う。


「ようやったわ! いったれ!」


 叫びながら走り出した綾香が、両手に持ったクラブで、火花を散らしているロボットの頭をおもいっきり叩き続ける。

 ホール中央のロボットが、異変に気付き、銃口を向けながらステージに近づく。

 銃口から放たれた弾丸は、身を屈めた杏子達の頭上を通り過ぎ、スクリーンに無数の穴を作った。

 杏子の横を、風のように、白い胴着を着た祐子が走り抜ける。


 綾香が放った二射目の矢が、銃口から煙を吐き出すロボットの目を貫く。と、同時に、ロボットの真横に取り付いた祐子が、ロボットの手首を握り締める。

 祐子の雄叫びとともに、巨体が宙で一回転し、床に叩きつけられていた。

 体中から火花を散らすロボットの横に立つ祐子に、観客からロボットが銃口を向けながら迫っていた。

 思わず身を屈める祐子。

 しかし、銃声は聞こえなかった。しゃがみ込んだまま視線を向けると、両腕を切り落とされたロボットが、立っていた。切り落とされた両腕が床に転がってる。

 ロボットが振り返った瞬間、細い光の帯がきらめく、と同時にロボットの首から上が、火花を撒き散らしながら床に転がった。

 首を失い倒れ込むロボットの横で、杏子が刀を鞘に納めた。

 

 田端の叫び声が聞こえる。声の方を振り向くと、うごめくロボットの体の上に、スタッフ達が山の様に乗り掛かっていた。

 暴れるロボットに放り投げられた田端は、首を折り曲げ、綺麗な受け身を取り、床を転がる。


 ―― 聞こえるか。


 床に転がる田端は、あたりを見渡す。話し掛けてくる人はいない。すぐに、さっき拾ったイヤホンからの音声だと気づいた。

 その場にあぐらを組み、イヤホンから聞こえる声を聞いた田端は、立ち上がると、ステージ前に浮かんでいるカメラを手に取った。



     *



床に崩れ落ちたロボット達の断末魔の様な火花の音と、焦げ臭い煙の中、TKU5の四人と田端はホール出入口の側に集まっていた。


「とりあえず、ペルメテウスとプロデューサーは、ホテルの最上階に上がっていった」


 田端が、打ち付けた腰をさすりながら言う。


「行くしかないよね」

 

 優奈の言葉に皆が頷く。


「エレベーターの前に、もう一体ロボットがいるはずだ」


 扉を開けようとした杏子に田端が声をかける。


「優奈」


 振り返った杏子に優奈が弓を持ち頷くき、残り一本になった矢を矢筒から取り出す。


「じゃあ、行くよ」


 杏子の合図で、裕子と綾香が扉をゆっくりと開いていく。

 半分ほど扉が開いた状態で、弓の弦を引き絞った優奈が矢を放つ。同時に、刀を抜いた杏子と、クラブを持った綾香が飛び出す。

 目に矢が突き刺さったロボットは、走り寄る二人の攻撃をさけることが出来ず、その場に崩れ落ちた。

 裕子と優奈と田端の三人が煙をあげるロボットの側に駆け寄る。


「もう、刀は使えない」


 杏子は、ぼろぼろに刃こぼれした刀を皆に見せる。綾香も、塗装が剥げ落ち、ひびの入ったクラブを見せた。


「行くよ」


 皆が頷く顔を確認した杏子が、エレベーターのディスプレイを操作する。



     *



 ホテルのエントランスの壁にもたれかかる早紀は、ホテル内の異常に気づき始めていた。あれほど往来が多かった受付前に宿泊客の姿が見えない。従業員の数だけがやたらと増えている。

 不安げに、ちらりと見たホールに続く通路の先から、金属をたたきつけるかすかな音が聞こえた。

 一瞬戸惑うが、周りの従業員に不審がられないように、何気ないそぶりで通路に入る。

 ホール出入口に続く通路の先で、めちゃくちゃに壊された機械を見つけた。火花を散らす機械の前でしゃがんだ早紀は、すぐ側のエレベーターを見上げた。最上階に停止中のランプがともっている。

 何があったのか、辺りを見回すと、エレベーターのすぐ横に、綾香が使っていたクラブが落ちていることに気づいた。見ると、塗装がぼろぼろにはげ、激しく変形している。

 早紀は迷ようことなくエレベーターのディスプレイを操作した。



      *



 最上階でエレベーターを降りた杏子達は、エレベーターホールに直結したスイートルームの扉の前で立ち往生していた。

 頑丈な扉は、施錠され、たたいてもびくともしない。


「杏子、あれ」


 裕子が杏子の肩をたたく。振り返ると、裕子がエレベーターのディスプレイを指差していた。エレベーターが最上階に向かって上昇している。

 応援に駆けつけた味方か、姿が見えなかったヤクトの人か。

 身構えた四人と田端の前で、エレベーターの扉が徐々に開いてく。


 驚きに声を失う四人と田端の前に早紀現れた。


「早紀!」


 四人が同時に声を出す。


「来るの遅くなってごめんなさい」


 頭を下げる早紀に、田端が歩み寄る。


「状況を説明している余裕はない。この扉の向こうにペルメテウスが拉致されている」


 田端の言葉に頷いた早紀は、ポケットからエレベーターの前で拾っておいた金属片を取り出し、扉の前に仁王立ちする。

 早紀は、金属片をこぶしに当てて、腰を落とす。


 気合の声とともに、扉に向かって正拳突きを繰り出す。何度も、何度も。

 扉の塗装が剥がれ落ち、小さなひび割れが走る。さらに繰り出された正拳突きにより、扉が二つに折れ曲がる。



      *



 帝国首都惑星の超高層ビル街を見下ろす広大なリビング。中央に置かれたソファーの上で、男性が、帽子をテーブルの上に置いてうつむいて座っていた。

 部屋の隅から、ペルメテウスのメンバーが杏子達に駆け寄る。


「誰もいやしない。情報はガセだった。まんまと罠にかかった」


 男性がつぶやくと同時に、部屋の中に帝国の軍人が押し寄せた。



「よくやってくれた」


 軍隊の上官と思わしき人物が、田端に話しかける。


「分かっていると思うが」


 軍人は、電子手錠で拘束され、部屋から連れ出される男性を見ながら言う。


「今回のことは、くれぐれも他言無用でお願いしますよ」


 威圧するように鋭い眼光を送る軍人に、田端は無言で頷いた。

  


      *



 文化会館のフロアに集まった五人は、練習を中断し、ディスプレイを眺めていた。

 ディスプレイには、銀河帝国の隠れた名店をお笑い芸人が案内する様子が映しだされている。

 本来ならば、『ご当地アイドル大集合』が放送される時間だった。

 

 優奈がディスプレイを操作し、チャンネルを切り替える。ニュース番組で手が止まった。


「本日、第三渦状橋レイベンスト宙域主星ワルビアス第五惑星ヤクトにおいて、天蓋敷設工事が完了しました」


 ディスプレイに、青い星が浮かびあがる。徐々に金属体が惑星全体を覆いつくしていく。最終的には、銀色に輝く金属に惑星全体が覆われた。


 杏子がディスプレイのスイッチを切る。


 事件後、ペルメテウスから、短い連絡をもらった。

 プロデューサーは、帝国への反逆の罪で処刑された。

 ペルメテウスの少女達は…… 

 全身細胞準化手術を受け、帝国人としての記憶を植え付けられる予定らしい。


「あなたたちのこと応援してるから」


 アンジェラの短い言葉で通信は終わった。



      *



 フロアでふさぎこむ五人をよそに、アンテナショップのレジに座った田端は、鞄から円盤状のカメラを取り出した。

 カメラの中から小さなチップを取り出し、側の機械に差し込む。

 

 送信のスイッチをタップした田端は、取り出したチップを粉々に砕き、ゴミ箱に捨てた。

 ディスプレイに表示された送信先は、『TKU5ファンクラブ』、『リューク』。

 




 


 


 

 



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