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Track-21.fight!PartⅡ(魔法少女戦士アテナ3 断罪編メインテーマ)


「みなさん、こんにちは〜。特別企画『第二回ご当地アイドル大集合』の時間です!」


 宙に浮く小さなマイクの前で、帝国人の女性が、手を振っている。


「今回も、銀河各地から来たご当地アイドル達に集まってもらっています」


 画面に踊るペルメテウスが映し出される。


「前回出場してもらったペルメテウスも出場予定です。そして、なんと、この放送を機にメジャーデビューみたいですよ。おめでとー」


 画面が切り替わり、再び女性が現れる。

 

「さて、舞台の上では、今回トップバッターのピンクキャップさんがスタンバイしています」


 映し出された舞台には、ピンクの頭巾を被った緑の髪の女の子が映し出される。


「ピンクキャップさんは、こう見えても結構なお年なんですよね」


 女性がしゃがみ込み、女の子に視線を合わせる。


「非常に失礼なインタビューじゃな」


 静かな、しかし、威厳を感じさせる少女の声が流れる。


「すみません。で、ピンクキャップさんはどちらから」


 気を取り直したピンクキャップが、睨みつけるような視線をカメラに向ける。


「レビテタントから来たんじゃ。いい星じゃよ」


 少女のような笑みを見せるピンクキャップ。画面下に、レビテタントの説明文が表示された。


 銀河系を構成する八本の腕の内、じょうぎ腕に位置するレビテタントでは、銀河帝国人に比べ、身体の成長が遅い知的生命体が存在しているらしい。


「では、ピンクキャップさんで、曲名は『見た目に騙されるな!』です」



     *



 控え室に設置されたディスプレイにホールの様子が映し出されている。慌ただしく人が行き来する内、TKU5の四人が、最終の歌合わせを行っていた。

 今回は持ち時間が少ないため、楽曲は二曲のみ。番組からの要請でパフォーマンスを行うことになっている。

 地球の歌ということで、一曲目は、『chocolate attack!』を、二曲目には、『fight!』を歌うことにしていた。

 メインボーカルの早紀がいないため、『chocolate attack!』は杏子をメインボーカルとし、杏子の思い出を歌うバージョンを新たに作詩した。『fight!』は早紀が抜けてから練習を始めた楽曲である。


 進行は現在十番目。ディスプレイには、カルナスティア星のBーGirlSの三人が映し出されている。性差が少ないカルナスティア出身の彼女達は、一見男性の様に見える外見と、引き締まった体で激しい踊りを披露していた。


「そろそろだね」


 優奈が、衿を整えながら言う。


「ローカル放送っていっても、三十近い惑星に放送されるらしいわね」


 紙コップの水を飲み干した祐子が言いながら、空になった紙コップを丸める。

「何人くらいに見てもらえるんやろな」


 机の上に置いた手鏡を見ながら、お団子頭を整える綾香が笑う。


「日本の全国放送とは比べもんにならへんな」


「綾香」 


 優奈が綾香の脇腹を肘で突き、杏子の方に視線を送る。そこには、放心状態でディスプレイを眺める杏子がいた。


「杏子。大丈夫?」


 優奈が恐る恐る、杏子の肩に手をかける。

 我に帰った杏子が、引き攣る笑顔を優奈に見せた。


 全国大会個人戦決勝。体育館の中央には、床に貼付けられた白いテープで試合会場が作られている。それまで体育でブロック毎に試合が同時進行し、われんばかりの歓声が、息を殺したように無くなり、沈黙が体育館を覆う。

 床に正座し、面タオルを頭に巻いていく。手が震えた。一度、面タオルを外して、体育館を見渡す。

 観客全員が彼女と、対戦相手に注目していた。

 激しくなる鼓動を抑え付けるように、深呼吸し、息を吸い込み、天井の水銀灯を眺める。


 目を閉じると、闇の中に、水銀灯の残像だけが浮かび上がった。

 息が止まりそうな緊張感。

 目を閉じたまま面タオルを頭に巻き、面を被る。紐を締め上げる度に集中力が高まっていく。

 竹刀を持ち、立ち上がった杏子には、もう、四角い試合会場しか見えていなかった。

 この緊張感は、ここに辿り着いた者だけが知る事ができる、ご褒美である。




「TKU5の皆さん、スタンバイお願いします」


 番組スタッフが声をかける。


 前を向く杏子の目に迷いは見られなかった。

 安心したように笑顔を交わした三人が杏子に続いて歩きだす。


「あっ」


 控え室出口で祐子が立ち止まる。右手に潰した紙コップを握ったままだった。

 随分離れた所で口を開けているごみ箱に狙いを定めた祐子は、大きく振りかぶり、紙コップを放り投げた。

 立ち止まった三人が見つめる中、紙コップは僅かにごみ箱をそれていく。

 諦めた祐子が背を向けようとした時だった。


「あ痛っ!」


 勢いよく放たれた紙コップは、横に立っていたピンクキャップの頭にバウンドして、ストンとごみ箱に入っていった。

 頭をさすりながら、睨みつけるピンクキャップに背を向けた四人は先を争うように、控え室を飛び出した。

 通路で待っていたスタッフが、大笑いながら走っていく彼女達を慌てて追い掛ける。



     *



 四人は照明の落とされたホールの隅で、音を立てないように、それぞれの道具を田端から受け取り確認していく。

 研き抜かれた刀を鞘に入れ腰に差した杏子は、観客席の端からステージを覗き見る。


 スポットライトの中、歌い踊っていたのは、分厚いコートを着て器用に踊る極寒少女だった。毛皮のコートがひらめく度に七色に色を変えていく。


「相変わらず暑苦しそうやな」


 杏子の横から顔を出した綾香がつぶやく。確かに、締め切られたホール内、舞台に降り注ぐスポットライト。彼女達の出身惑星の平均気温がいくら高いとはいえ。

 バタン! 舞台上で大きな音が起きる。

 杏子と綾香は思わず身を乗り出し、舞台に駆け寄る。


 舞台の上では、極寒少女の一人が仰向けに倒れていた。

 直ぐにメンバーが駆け寄り、倒れた少女のコートを脱がせる。

 コートの中からビキニを着た真っ白の体があらわになる。全身から汗を吹き出し、体を揺するメンバーの呼び掛けにも応じない。

 直ぐにスタッフが舞台に駆け上がり、応急措置を施していく。


 彼女の横にしゃがんだスタッフは、ディスプレイを表示させると、画面を素早くタップしていく。

 やがて、ディスプレイから小さな光の球体があらわれた。

 球体は、倒れた少女の小さな胸の膨らみの上にしばらく留まると、そのまま落下し、彼女の体の中に消えていった。

 直ぐに、少女は痙攣を起こし、意識を取り戻した。


     *



 ホールに照明が灯り、倒れた少女は椅子に腰かけて、水を飲んでいた。


「私たち、帝国の準化手術受けてるの」


 極寒少女のリーダーが、横に立つ杏子に話しかける。フードを脱いだ彼女は、美しい金髪をかきあげた。


「でも、ほら」


 金髪の少女は、自らのコートのボタンを外し、ビキニに覆われた豊かな胸を杏子に見せた。

 胸の膨らみの下に円盤状の金属が体に埋め込まれていた。


「体の構造が、この星に合っていないみたい。だから、機械の心臓を付けてるの」


 杏子は言葉を失い、金属の円盤を見つめる。少女の鼓動に合わせるように、赤い小さな光が点滅している。


「あんまりの激しく動くと直ぐにオーバーヒートするの」


 少女は、悲しそうに笑いながら、金属の円盤を指でなぞり、コートの前を閉じた。


「そんなにまでして」


 思わず呟いた杏子は口に手を当てた。


「星の命運を背負っているからアイドルは辞めれない」


 少女は両手を握りしめる。


「私たちの心臓、もう駄目かもしれないんだ」


 少女は、握った拳を胸に押し付けた。


「でも、こんな体じゃ星にも帰れないし、どうしたらいいんだろ」


 少女は、一杯に涙を溜めた目で杏子を見る。

 杏子にもその答えは分からなかった。

 ただ、目を逸らすことなく、涙で滲む少女の透き通る様な金色の瞳を見つめ続けた。



     *



「…… という訳で、歌えるのは一曲だけになった」


 緊急スタッフ会議から戻って来た田端が、四人に伝える。


「パフォーマンスを止めて歌には出来ないんですよね」


 杏子の質問に田端が頷く。極寒少女の処置のために収録が止まっていた。とりを飾るペルメテウスは、収録後、記者会見と別番組への出演が決まっているため、今後の出演者の持ち時間を削ることになったらしい。


「パフォーマンスだけにしてくれって言われたけど、なんとか一曲だけと頼み込んだ」


 四人は田端の言葉に唇を噛み締め肩を震わせた。


「…… しい」


 小さく吐き出された言葉に三人は杏子を見つめる。


「悔しい」


 もう一度呟いた杏子は、唇を噛み締め震わせた。


 閉じられた杏子の瞳に過去の光景が浮かぶ。


 ディスプレイの中、病院のベッドで笑う秋山の顔。


 悲しそうに小さな花を触るエルザの姿。

 極寒少女の涙で溢れた金色の瞳。


 そして、捨てたはずの地球での思い出の数々。


 その思いに答える事が出来ないふがいない自分。


「悔しいから」


 杏子が目を開けると、皆が、不安げな表情で彼女を見つめていた。


「絶対にアイドルになってやる」


 杏子の言葉に皆が頷く。



     *



 スポットライトの中、ステージに上がった四人は、中央に集まり、円陣を作る。


「TKU5、ファイト!」


 差し出した片手を合わせて大声で叫んだ。


「では、収録始めまーす」 

 スタッフが叫ぶと同時に、ステージ以外の照明が落とされる。


「緊張してトイレ行きたい」

 メンバーそれぞれの道具を調整終えた田端が言いながら、ステージから走り降りて行った。


「プロデューサーが緊張してどないすんねん」


 吐き捨てられた綾香の言葉に皆が笑う。


 暗闇の中、ステージの前方に浮かんでいるカメラに収録中の赤いランプが灯る。

 指定された位置に立つ杏子の側に、帝国人女性が歩み寄る。

 

「続いて、TKU5の演奏です」


 カメラに向かって話し始めた女性が杏子に視線を向けた。


「出身はどちらになりますか?」


 杏子が女性の質問に答えようとした時、突然ステージの照明が消えた。


 そして銃声が一発。


 ホール天井のシャンデリアがパラパラと崩れた。

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