あるPK兄妹の話~ハッピーバッドエンド~
読みにくかったらすみません。
***
不思議の国に迷い込んだような高揚感。大好きな人と手を繋いでそのアーチをくぐる。
これから一体何が起こるんだろう?
こんなに素敵な場所だから、きっととっても素敵なことが起こるに違いない。
そんな期待を膨らませて。そんな希望を膨らませて。
アリスは不思議の国に入っていった。
***
どうしてこうなってしまったのか。
こんなはずではなかった。こうなるとは思いもしなかった。
寒空を仰ぐ目から涙が溢れそうになる。
「お兄ちゃん?」
不思議そうな顔でこちらを見ている妹の手を優しく握り
込み上げた涙を引っ込めてなんでもないよと笑って見せる。
俺には泣く資格も、隙もあってはならない。
俺はこの幼い妹を、生き難くなった世界でなんとか守らねばいけないのだから。
…本当に、なんでこうなってしまったんだろうな。
現実逃避とわかっていても、やり直したくなる過去を思い出す。
*
『英雄達の揺籃』
電脳化(*脳に生体コンピュータを組み込むこと。脳のコンピュータ化とも言う)が進み
バーチャルリアリティ(以下VR)を謳うゲームはいくつも出た。
しかし未だオンラインゲームとしては存在していなかった時ふっと沸いてきたゲームだ。
無名の会社、無名のゲームクリエイター、前代未聞のVRMMO。
勿論最初は誰も信じていなかった。
ゲームのページが現れたのが四月一日という時期も時期であった。
その発想はあったwなどの反響、知名度こそあったがただのネタとしか思われていなかった。
しかしそのページはいつまで経っても消えず、むしろ徐々にシステムやゲーム画面など公開され
半年過ぎたある日、その項目は現れた。
『クローズドβ開催のお知らせ』
その時点でも誰もそれがネタと疑っていなかった。
さらにβテスターには無料で配布とはいえ
ゲームには専用のカプセル端末(*カプセル型の機器。例をあげるならば中に物を入れて起動すると特殊な液体が中に注入され、入力された情報通りに修復、変形させるものなどある)が必要ときた。
対応電脳性能が高いというのが止め。
再加熱どころか炎上といえるほどネット上は盛り上がり
勇気ある愚か者はそのテストに申し込んだりもした。
…まぁその一人が俺な訳だが。
勿論俺も実際にカプセルが送られてきた時でさえネタとしか思っていなかった。
もしくは罠、か。
さて、一体何が出てくるやら。
ファイアウォールや迎撃システムをいくつか組んであるしいざというときのダミーデバイスもある。
そう思いながらゲームを起動した俺の目に飛び込んできたのは
あまりにも美しい世界であった。
テストが終わってもまだ俺の心はあの世界に囚われていた。
オープンβには参加したし、抽選漏れしてしまったがオープンαにも応募した。
もう誰もネタとは思っていなかった。
誰もがそのゲームが『本物』であると確信した。
本始動の抽選、最初とは段違いの競争率の中
多く応募したとはいえ俺は2枠も手に入れることができた。
「ねぇ、お兄ちゃん!遊んで~。」
2枠手に入ったものの、一緒に遊ぶ約束をした友人は全員枠を手に入れたようだし
アカウントを売ろうにも他でも使っているアカウントだから出来ない。
さてどうしよう。
そんなことを悩んでいた俺にそう妹の幸代は声をかけてきた。
とても丁度いいタイミングで。
クローズドβとは違って専用カプセル端末は買わなくてはいけなくなったが
そう(俺にとっては)高い物ではなかったし、今から取り寄せたら十分間に合う。
対象年齢は兎も角(5歳…アウトか?)対応電脳性能はクリアしている。
この時ばかりは
健康に悪いなどの理由で幼少期からの電脳化が推奨されていないという世間の波に逆らって
俺たちを電脳化させた親に感謝である。
(*電脳化の手術は子供の体に負担をかけ、更に何度も『更新』するとなると大人でも負担となり、寿命を縮めると科学的にも証明されている。しかし幼少期からの電脳化=将来の出世の速さというのも確かであり、エリートやお金持ち程子供を電脳化させる傾向が強い。今は目立った問題は出ていないが、大きな問題となることは想像が難くない)
そして妹は何故だかやたら俺に懐いている。
懐いている奴を無碍にできる程俺も酷い人間ではないが、
『英雄達の揺籃』が始まれば間違いなく俺はゲームに掛かり切りになるだろう。
つまり、だ。
「なぁ、幸代。」
お前、ゲームやってみたくないか?
サクサク準備は整う。
妹にゲームの概要を教え、端末の注文、友人たちへの紹介。
ゲーム開始までにここまで一通りすることが出来た。
電脳性能=ゲームの腕の良さではない、というのはゲームをやる人なら誰でもわかることだと思うが
妹は幸いにも結構腕がいいように思える。
…もしかしたら俺よりも上手いのではないだろうか。
そんな言葉すら頭に浮かんでくるほどには上手かった。
少々兄として矜持がぐらつく所ではあるが癇癪を起すほど子供でもない。
出来る限りの技術を妹に教えた。
そうして訪れたゲーム開始の日。
「じゃあまたゲームの中で。」
そう言って妹の頭を撫でる。
妹の髪はさらさらしていて撫で心地がいいし、妹も撫でられるのが好きだから
つい俺は事あるごとに妹の頭を撫でる癖がついてしまった。
「うん!またね!」
妹は元気よく返事して端末の中に入る。
それを見届けてから俺も自分の端末の中に入る。
ワクワクする。あの美しい世界をまた見ることができる。
そして俺はゲームを起動した。
サクサクとキャラメイクをする。
キャラコンセプトは狂戦士。防御紙の火力特化の結構ピーキー性能であるが問題ないだろう。
要は使いこなせればいいのだ。
当たらなければ問題ない。死ななきゃ安い。
そんなキャラを俺は愛しているし、実際使い慣れている。
見た目やボイスは今までのテストの時に使っていたものをそのまま流用することにした。
友人達からは似非クール系wやら見た目暗殺者wやら言われているが結構気に入っている。
日本人なんだから黒髪黒目をチョイスすることは何も可笑しいことはないと思う。
全て選び終えてさっさと世界に入る。…想像以上に重い。
少々イライラしたが
一体何人の人間が今このゲームにinしているのだろうか、と想像すると
意外と面白かったので気長に待つことにした。
『Hello World!』
そんな言葉が視界一杯に現れたかと思うと
『おかえりなさい、小さな英雄様。』
そんな言葉が耳元で囁かれた。
クローズドβの時からお決まりの始まりの合図。
ああ、ただいま。そう心の中で呟いて俺は世界に降り立った。
「おそいなぁ、お兄ちゃん…。」
ゲーム開始の町の広場の噴水前…の武器屋の裏路地、ぶーたれている女の子が一人。
金糸のような金色の髪、エメラルドのような碧の瞳、白い肌に華奢な体。
現実世界ならば見惚れるような姿だけれど、どっこいここはゲームの中。
この程度はゴロゴロいるし、それ以上の者もゴロゴロいる世界なのである。
十五程の年頃の美しい娘が人気のない裏路地にいようが気にする人は殆どいない。
…まぁその娘が恐らく俺の妹なんで俺が超気にする訳ですが。
何故裏路地を会う場所に指定したし、俺。
「チヨ。」
妹らしい娘にそう声をかければがばっとこっちに振り返ってきた。
やはり妹だったらしい。ちなみにチヨというのは幸代から取った呼び名である。
美少女が振り返るとかだとすごく絵になりそうなものなのに
まるで飼い主に呼ばれた犬のように振り返られるとなんだがとても残念な気分になる。
「おにいちゃーん!」
喜んで抱き付いてくる妹を受け止めて頭を撫でてやる。
頭をすりすり擦り付けてくるのはとても可愛らしいが
現実なら兎も角今それをやられるとただのいちゃついているカップルのようで
大変恥ずかしいのでやめて欲しいと思う。切実に。
「すごいね、あれ本で見た『桜』でしょ?すっごい綺麗!」
目を輝かせながら広場の方を指さして言う妹のはしゃぎっぷりに苦笑してしまう。
俺も初めてあれを見た時には興奮したけどな。
しかし時間が押している。
友人たちと待ち合わせしているのだ、早く準備を整えて待ち合わせ場所に行かなくては。
「じゃぁ行くか、チヨ。」
さっさとフレンド登録して行こう。そう暗に言って手を差し出す。
それを笑顔で妹は手に取る。
俺たちは手を繋いで歩きだした。
***
不思議の国に迷い込んだような高揚感。
『やぁやぁ皆さん楽しんでいただけているかな?』
大好きな人と手を繋いでそのアーチをくぐる。
『楽しんでいただけているなら恐悦至極、こんなに喜ばしいことはない!』
これから一体何が起こるんだろう?
『こうして挨拶するのは初めてかな?初めまして。プログラマーのメアリー・Y・スーンだ。』
こんなに素敵な場所だから、きっととっても素敵なことが起こるに違いない。
『さて、楽しい楽しいゲームをもっと楽しくさせようとワタクシは提案する!』
そんな期待を膨らませて。そんな希望を膨らませて。
『最も君たちに拒否権はないのだけれどね。』
アリスは不思議の国に入っていった。
『ここにデスゲーム開催を宣言しよう!』
***
友人達と合流していざ冒険、という所でその宣言は行われた。
嘘と断言する材料も確かめる術も何処にもない。
ただ確かなことはこのゲームに俺たちは閉じ込められて。
あいつの言うことが正しいのならばこの世界のラスボスを倒すまで出られない。
そしてここで死んだ者は
現実でも死ぬ、と。
『テンプレートって大事だよね。
ワタクシは決まりきった展開、定められた道筋が大好きだ!
整然とした物ほど美しい、未完成なものの美しさは否定しないけれどね。
だからこそワタクシはそれらが壊れる瞬間がどうしようもなく愛おしいのだ!
勿論死によって強制的に壊れるというのもそれはそれでいいが、スナックの範疇を出ない。
このゲームの対応電脳性能からわかるように、ここにいる君達はそれはそれは優秀なんだろう。
でもここを出る頃には君達より優秀な者が沢山いて
期待していた身内から白い眼で見られて
最悪失意の中でここで死亡?素晴らしい!
想像するだけで脳内麻薬が致死量に至りそうだよ!
VRMMOといえば閉じ込められてデスゲームというテンプレート。
君たち順風満帆な出世街道の破壊。
二粒で二度おいしい!さすがワタクシ天才!
…まぁワタクシの理由付けはおいといて。
もう一度宣言させてもらおう。
デスゲームの開催を宣言する。
君たちはこの世界に閉じ込められた。
この世界から出る条件はこの世界のラスボスを倒すこと。
そして制限はこの世界で死んだら現実では死ぬこと。
実に簡単だね?
安心してくれたまえ、カプセル端末によって君たちは凡そ20年死ぬことはない。
外からの干渉もばっちり不可能だ!やったね皆!人を殺しても邪魔されないよ!
ラスボスを倒すもよし、隠者の如くひきこもるもよし、全てよし!
ワタクシが許す、好きにしたまえ!
ではそろそろ時間が押しているので〆ようか。
まぁ、なんだ。グッジョブ!』
…今でも思うがふざけた発言だと思う。
しかし実際ログアウト不可となるとその発言にも真実味がある。
死んだら本当に現実でも死ぬのか?…試そうとする勇気ある愚か者はいないだろう。
「…う?ねぇお兄ちゃん、どういうこと?」
幸か不幸か、妹には先ほどの話は今一つ理解できなかったらしい。
最近電脳化したということに加えて、周りが成績に関係ないことを教えなかったからだろう。
しかし知る必要のないことだ。
俺は死なない。妹も死なせない。そしてこの世界から脱出する。
それで問題ないことなのだから。
「どうすんだよ、十夜。」
友人の一人が声をかけてくる。その顔は厳しい。
ちなみに十夜は俺の名前、透哉からとったものだ。安直?シンプルイズベストだろう。
そして俺は友人に笑って返す。
「決まってんだろ?RPGみたいにさ、悪いラスボス倒しに行くしかねえだろ。」
悪いことが続くことを何と言うのだっただろうか。
泣き面に蜂?
でも今の状態はそんなものじゃない。
「さっきの奴じゃないけどさ、簡単なゲームだ。」
二度轢きされた上でトラックが目の前って感じだ。
「殺し合え。生き残った二人は助けてやるよ。」
要するに俺の運はどん底で、命は風前の灯という奴だ。
宣言後、俺たちはすぐに行動を開始した。
早くラスボスを倒そう。そしたらここから出られる。そう信じて。
しかし本当に俺たちはとびきり運が悪いに違いない。
捕まってしまったのだ、PK集団に。
俺たちは10人、相手は35人(もしくはもっといるかもしれない)。
宣言中も狩っていたのだろう、レベルは上、数は上、おまけに囲まれている。
穴ひとつも見つからない完璧な包囲には脱帽するしかない。
気が違っている奴らに何を言っても無駄だろうけど、俺はなんとか言葉を捻り出す。
「さっきの奴の言葉を聞いていたならわかるだろう。これは人殺しになるかもしれない。」
睨みながら言った言葉をリーダーらしい人間がそれがどうしたと笑い飛ばす。
「なら、尚更いいじゃねえか!それぐらいのスリルがなきゃ面白くない。」
満足そうに言う奴は完全にイカレテいる。
こういう奴らは関わらないようにする、関わってしまったら諦めるが鉄則だが…
ここでの諦め=死と繋がる訳だからそういうわけにもいかない。
なら、どうするか。
俺は静かに妹の手を引いて自分の後ろに隠し、友人全員の動きが見えるようにさりげなく移動する。
自然体を装いながら戦闘準備をする。自慢じゃないがこういうことは得意分野だ。
熟練の友人たちにも見破られない自身がある。
さて先ほどの問題を振り返ってみよう。
どう考えても勝てない集団に殺すことを強要される。
残念ながら仲が良いとはいえ漫画の如く一致団結して敵に立ち向かうほど俺達は熱い人種じゃない。
こういう時に真っ先に動いた(殺しにかかった)人間が袋叩きにされる。
ならやることは一つだろう。
誰かが動くまで山の如く泰然と待ち続ける。
いやな沈黙が場を支配する。
「ねぇ、お兄ちゃん。」
それを破ったのは妹であった。
「今何が起きているの?」
仕方なく背中に隠した妹の方を見て答えようとしたとき。
「う、うわあああああああ!」
顔を真っ青にさせた友人の一人が襲い掛かってきた。
俺、いや正確には俺と妹を狙っての攻撃。スキルの発動も何もない、大剣での大振りの攻撃。
冷静にそれを捉えていなそうとする前に
「『チャージドライブ』」
横からの一撃で相手の体が吹き飛ぶ。
茫然としたその方向にいた男諸共吹き飛んだそいつに槍の連続攻撃が入る。
ここまで容赦ない攻撃をするのはアイツしかいない。
槍の主を見れば、無表情の男。チャラ男のような見た目に無表情はちょっと怖い。
しかしそんな俺の友人は一人しかいない。
カイン。
ゲームに関していえば天性の才能を持っているんじゃないか?という男だ。
現実でも武道を嗜んでいるらしい奴の動きはある意味人外だ。
俺と妹が両方この殺し合いで生き残る最大の敵であり…一番の親友でもある。
カインの名前が真っ赤に染まると同時に俺に襲い掛かってきた奴の体が光となって弾け飛んだ。
思ったより幻想的な死に様だ。テストの時は段々薄くなって消えるだけだったのに。
「う、ぁ?」
一緒に吹っ飛んだ奴は目を白黒させている。
そいつを無視して俺は近場にいるもう一人に狙いを定めた。
ハンマー持ちの戦士。
大剣よりも大振りだがその威力は脅威だ。早めに消しておくに越したことはない。
「ごめん。」
使い慣れた大剣を切り上げる。
「…十夜っ!?」
驚いたように言う相手に謝りながら一切の反撃も許さず殺す。
まだレベルも1だ、隙さえつければこっちのもの。
殺すと同時に名前が赤く染まる。説明書にも書いてあったPKの印。
消えることは…決してない。
しかし目下の脅威は排除できた。
あとの脅威はカインぐらいだ。
しかし流石カイン、隙は欠片もない。
最初の一人を始末したような目立った動きはしていないが死角には誰もいさせない。
位置取りも立ち回りも…本当勝てる気がしない。
三人きりという事態は避けたい。妹を守る俺の方が確実に不利だからだ。
しかしやはり事は思うように進まず…。
あれから4人殺した頃、ついに恐れていた三人きりになってしまった。
また沈黙が流れる。
「…5人も殺した、か。やはりお前は強いな、十夜。」
ふ、と泣きそうな顔で笑いながらカインは言った。
確かに止めこそ俺が刺したが、カインに大分削られていたという者も少なくない。
と、いうか強い云々はお前にだけは言われたくない。
「お前は溺愛してる妹を絶対に見捨てない。少なくとも友人と妹なら妹…だろ?」
カインは槍を構えて淡々と言う。
あっさりとしていて、勘が良くて、空気も読める。深い所には絶対突っ込まない。
…そんな奴だから、俺はこいつのこと好きだったんだなぁ。
「恨むな、とは言わねえよ。」
俺も大剣を構える。
他の奴らも…仲が良くなかったわけではないけれど。
きっとこいつが特別…一番仲がいい奴で。間違いなく一生の友達とも言えるやつで。
本当…妹が背にいなかったら、剣を下ろしたくなる程好きな奴で。
「お前こそ恨むなよ?」
仕方ねぇな、と結構安請け合いするようなお人よしで。
物わかり良すぎてこいつ大丈夫か?って心配するような奴で。
「…俺が負けたら妹をよろしくー。」
なんでこんな時になって、殺し合うような時になってこいつのいいところばっか思いつくのだろう。
普段だったら間違いなく悪い所だけ挙げられる自信があるのに。
「俺が負けたら…俺のこと忘れんじゃねぇぞ。」
馬鹿野郎、大好きだよこん畜生め。
俺は剣を振り上げた。
結果は、俺の負け。
生命値の危険域まで来ているという警告の赤く染まった視界の中
剣を弾かれて無防備になった俺の懐にカインの槍が迫る。
やっぱりこいつは強いなとぼんやり思って、妹にごめんと謝って目を閉じようとして。
「お兄ちゃんをいじめるなぁ!」
ぱんっと
カインの頭に
矢が突き刺さった。
妹の職は射手だ。
一先ず同じ職で実力を抜かれるという心配がなくてこっそり安堵した。
名前の通り遠距離からの攻撃がメインで、近距離では滅法弱い。
FPSなどで慣れている人間でない限り、慣れるのに時間がかかる少々癖のある職…らしい。
初心者は先ず攻撃が当たらないらしい。何故らしい、というかというとやったことがない。
ゲーム初心者で射手と聞いて友人達が苦笑いしていたから結構地雷といえるレベルかもしれない。
まぁゆっくり慣れればいいさ、と俺は主張し
友人達もうわー姫プレイか?楽しそう、許せる!とか言って一緒に遊ぶことに問題はなかった。
後ろを振り向いた。
妹の名前は赤く染まっていた。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
心配そうにこちらを見る妹。
赤い名前は、PKの証。
俺の予定では妹を守ってなんとか生き残り、妹は全うなプレイヤーになれるよう逃がす。
俺は…さて、野垂れ死ぬか正しく隠者のように隠れて生きるか。
そうする予定だったのに。
「麗しき兄妹愛の勝利!…てか?おめでとう、お前らは助けてやるよ。」
茫然としている俺に、PKのリーダーは手を差し出す。
「さて赤い名前になったお前らに優しい俺が一つ道を提示してやろう。」
俺たちの仲間になれ、と。
底なしの沼に嵌ってしまったみたいだ。
霧の、行く先も見えない森の中を出口を探して歩いて嵌った底なし沼。
片足が引き込まれて、もう片足でバランスを取ろうと前に踏み出したら後は沈むだけ。
唯一救いなのは
一緒に沈んでいく妹が、沼に嵌っていることも森に迷ってしまっていることも気付いていないこと。
遠い昔のような、つい一年前の出来事。
忘れられないあの世界の出来事。
PKKとの戦い、ラスボスとの戦い、色々あったけれど。
それよりも何よりも鮮烈な思い出。
「お兄ちゃん、お家帰らないの?」
妹が首をかしげて聞いてくる。
帰らないんじゃない、帰れないんだよ。
…そうは言えずに曖昧に笑う。
ラスボスを倒して何とか現実世界に戻ってきた俺を見る家族の目は冷たかった。
ゲーム内の状況を動画として放送!
……本当に余計なことしかしない、碌でもないクリエイターである。
個人情報何ソレ?といった感じでご丁寧に顔、家族構成、来歴、友人関係まで明らかにしていくつかのゲーム内の状況を実況するという勿論犯人による動画。ここまでして未だ犯人捕まっていないのも凄いが。
そして俺達は悲劇の喜劇的なPK兄妹として有名だったらしい。
画面の中なら面白半分軽蔑半分、実際にいるとなれば唯軽蔑のみ。
殺人鬼の家族として世間から白い眼で見られた家族の俺たちへの扱いが冷たい目で済んだのは
元々淡泊な関係だったからだろうか。
目に耐えきれなくて、逃げるように妹の手を引いて外に出てから一時間。
冬であったのが幸いして顔を隠す程の厚着でも気にされない。
しかし夜になれば話は別だ。
5歳の少女を連れた若い男。注目は勿論浴びる。職質されようものなら目も当てられない。
「………あーぁ。」
どうしてこうなったんだろう。
一番の親友を殺して。
世間から白い目で見られて。
何の罪もない妹も巻き込んで。
「………。」
これから、どうすればいいんだろう。
「よぅ。」
そんな俺に、誰かが声をかけてきた。
まるで昔からの友人に声をかけるような気安さで、しかし俺の全く聞いたことのない声。
声の方を見れば、浅黒い肌の金髪の男が一人。
ライダースーツにガチムキの外国人…心なしか周りに人が少ないのは決して気のせいではない。
「久しぶり、いや三時間振りか?」
ニヤニヤ笑っていうその態度に既視感を覚える。
人を馬鹿にしたようなこの態度、そして三時間振りという言葉。
そしてちらりと見たPK集団のリーダーの現実の顔…。
「何の用だ、ケイ。」
睨んで言えば、おぉ怖いとお道化た様に肩をすくめる。
相変わらず気に障る奴だ。
一年少しの付き合いだが気に障るのは変わらない。
「そう睨むなよ?世間からのはみご同士、仲良くしようぜ?」
そしてあの時のように手を差し出してきた。
「優しい俺がお前らを掬ってやろうじゃないか?」
仲間になれと暗に言ってくる。
底なし沼に嵌っていく。
誰も救ってくれない。誰も掬えない。
それでもこの泥の中で目を閉じるには繋いだ手が暖かすぎて。
この暖かさを守るために底の底まで沈むこともよしとした自分がいるから。
「地獄まで一緒に行ってやるよ、糞野郎。」
妹の手を握り締めながらその手を掴んだ。
カプセル端末はオーバーテクノロジーでモース硬度17(ダイアモンドが10)ぐらいで干渉できないってことで(適当)
冗談は置いておくとして装置内の液体は『何にでも変化できる』液体でありこれによって生きるには十分な要素は勿論、筋肉が衰えることも防止するご都合液体です。これによってゲーム内で死亡したとき、現実の体も速やかに破壊しつくします。ご都合液体だから仕方ないね。
*あるPk兄妹の話の手直し中に思いついたガラクタのような話で思うが儘 (いつも通り?)書いた結果こうなりました。手直しの方はもうちょっと自重する予定です。具体的に言うと読みやすさを重視して小難しい単語が必要そうな所全部ばっさり切り捨てようと思います。今回のように兄だけの視点ではなく元々の妹、第三者など視点を変えて心情などわかりやすくできるといいな、と思っています。伏線やら詳細が投げっぱなしなのも回収…予定。助言、感想いつでもお待ちしています。公開は…未定です。
本来二人とも生存するルートは存在しないので作者による二次創作みたいな自己満足小説です。読んでくれた人にはスライディング土下座しながらお礼の言葉を言いたいです。本当にありがとうございます。
本当にありがとうございます!