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特別授業

 公開練習試合の翌朝、食堂に入るところでフローネを見て、とある女生徒がこれ見よがしに隣の友人に話しかけた。

 明るい栗色の髪をしたその女生徒の襟元には、三年次を示す三本の銀の杖の刺繍があった。

 「三年次を差し置いて代表選手に選ばれるほどですもの、さぞかし強いのだと思っていましたのに、一太刀も入れられなかったなんて、がっかりですわ」

 「そうですわね。ですが、相手は第一師団の騎士ですもの。身の程を弁える良い薬になったと思えば良いのではありませんこと?」

 わざとフローネに聞こえるように大きな声でなされた会話。ここまであからさまなものは珍しいが、三年次生徒の一部がフローネに向ける視線は、好意的なものではない。

 だが、それも今に始まったことではなかった。

 腕の立つ後輩、しかも容姿も優れている平民出身の彼女に対するやっかみは、以前からあるものだったからだ。

 フローネ自身はそんなものは、そもそも気にしていない。

 相手にするのも馬鹿らしいと思っているからだ。

 「馬鹿じゃねえか?」

 だが、後ろからフローネの姿を見つけて声をかけようと思っていたエルは、つい本心が口に出た。

 フローネがどれだけ健闘したか。あの試合のレベルを評価できない程度の実力しかないと、彼女達は自ら暴露しているも同然だ。

 「紳士は思っていても、口には出さないものですわ」

 そのエルを窘めたのは、ネルフィルである。

 「ちゃんとわかっている方もいらっしゃるのですから、いいではないですか」

 一方で、フローネと相手をした騎士の実力を理解し、賞賛と激励の声をかけてくる上級生もいるのだ。

 フローネは自分が妬まれていることも、その理由も理解している。

 上級生を差し置いて、二年次女子のフローネが選ばれたのだ。同じ立場のローレイも、軍務卿の息子であるから贔屓されていると言う輩もいる。

 優秀な存在に対する嫉妬は、どうしてもあるものだ。

 なにしろ、ルディの魔法にすらケチをつける者さえいる。

 氷礫乱舞の壁を見かけ倒しなどというくらいだ。

 王国の魔導士、魔導騎士の中でも、最高クラスの火魔法使いであるデューレイアが本気で振り抜いた炎槍の一撃。そのくらいの威力があって、ようやく斬れる壁。

 しかもルディは、双方の魔法が周囲に被害を与えないように、フォローすらしてのけた。最終的にはブランの防御壁があっても、それは別だ。あてにして対処を怠ったら、指導されていただろう。

 それをたいしたことないというのは、どうあっても文句をつけたいとしか思えない。さすがに、これに同意する者は限られていたが。

 また、陰口を叩くような連中のなかには、事実を指摘されると逆上する者もいる。いらぬ恨みを買うくらいなら、フローネのように無視したほうが賢いというものだ。

 ただし、直接言ってくる遠慮のない、まあ親しいクラスメイト相手ともなれば、話は別だった。それは、いささか方向性が違うものでもある。

 「おっルディシアール。お前アレはねーだろ。尻尾巻いて逃げ出しやがって」

 教室に入るなり、ルディの顔を見たナイルカリアスが、デューレイアが参戦した途端に逃げを決めたことをからかってきた。

 「てめえ、あれはな‥」

 反射的に前に出たエルの肩を叩いて、ルディが引き止める。

 「なんとでも言ってよ。‥‥姉さんの怖さを知らないんだから」

 声を落として言われた後半の本音に、エルは大いに同意する。

 「そうだぞ、火魔法馬鹿が。デューレイア先輩の恐ろしさも知らねえくせに」

 本気のデューレイアを前にしたら、自分だって逃げの一手だ。

 声を大にして言われたそれに、後ろから声がかかった。

 「なあに、わたしがなんですって?」

 一気に血の気が引いたエルと、ルディである。廊下に、ルディに付き添ってきたその当人が、まだいたのだ。そのため、エルが叫ぶほど大きな声をだしたから、聞こえてしまった。

 さっとエルの後ろに移動したルディ。

 「あっ‥この野郎」

 自分を楯にした幼馴染みを責めるより、エルは迫力のある笑みを浮かべたデューレイアを前に、どう切り抜けたものかと冷や汗をかきつつ、どう言い抜けるか必死に考えた。

 「いや‥その‥デューレイア先輩が強くて‥‥だから、この馬鹿に、そう!火魔法馬鹿に指導をお願いします。こいつ、オレ達が先輩に教えてもらって、ずるいって言いやがって」

 エルは元凶であるナイルカリアスを差し出すことにした。

 こいつもデューレイアの怖さを知ればいいのだ。

 「そうなの?」

 「はいっ!俺が美人のお姉様に教えてもらってるからって、ひがんでたんです」

 これは嘘ではない。

 ルディの護衛について、教室に顔をみせるデューレイアの艶やかな容姿と、迫力のある姿態に、一組の男子は軒並みやられているのだ。

 この年齢の男子にとって、年上のお姉様の魅力は抗いがたいものである。

 「ふうん。そこの君、ホントなの?」

 無意識にデューレイアの胸に視線をとらわれていたナイルカリアスだが、声をかけられ顔を紅潮させた。

 「ナイルカリアスです!昨日の炎槍にはシビれました。あの威力!強さ!最高っす」

 火魔法馬鹿は、昨日のデューレイアの勇姿に心酔しているものだから、エルトリードを押しのけ、それは熱く語った。

 「オレにも教えてください!お願いしますっ」

 ここぞとばかりにデューレイアに売り込むナイルカリアスに、横からサルーディが割り込みをかける。

 「火魔法馬鹿!エルトリードだけじゃなく、てめえまで抜け駆けすんじゃねえ」

 自分もと、デューレイアの訓練を志望するサルーディに、哀れみの混じった目を向けつつも、ルディは沈黙を守った。

 ここで下手なことを言って止めれば、ナイルカリアスやサルーディに恨まれるだけだし、せっかく話をそらせられたのだ。

 自ら犠牲者への名乗りをあげたのだから、口をはさむべきでもないだろう。

 それに、エルだって、ボコボコにされながらも、やめるとは言わずに粘っているのだ。ひょっとしたら、魔導騎士を目指すなら、あのくらいの厳しい訓練も当たり前なのかもしれない。

 他を知らないルディだけに、ふとそんなことを考えたりもした。

 「俺はサルーディと言います。魔導騎士を目指してます。俺もお願いします」

 「やる気ありそうね。いいわ。ただし、わたしの指導はちょっと厳しいわよ」

 「望むところです」

 二人ともが、目を輝かせて言い切った。




 予想通りの光景を前に、ルディは隣に立つカウルスとともに、生温かい視線を漂わせている。

 エルもまた、狙ったとおりの結果に、口の端を緩く持ち上げていた。

 場所は競技場である。

 他にも希望者があるなら、まとめて面倒を見ると、デューレイアがクラウディウスの許可を取り付け、競技場を午後いっぱい借り切ったのだ。

 魔法学校の先輩でもある綺麗なお姉さんの指導を受けられるとあって、ナイルカリアス、サルーディ以外のクラスメイトからも、指導を受けたい、見学したいとの希望が出て、午後に急遽特別授業がもうけられたためである。

 ルディは治療担当として、デューレイアに引っ張ってこられた。

 カウルスは護衛ついでに、槍の指導を希望したローレイ、フロアリュネの担当でもある。

 竜騎士志望のフローネは、このところ馬上槍の基礎をカウルスに習っていた。

 「‥‥‥‥‥ぐぇぇ‥‥‥」

 悲鳴にもならない潰れた呻き声をあげ、ナイルカリアスがデューレイアに腹を蹴り飛ばされて転がった。

 これで倒されたのはもう何回になるか。

 剣だけでない、近接戦闘の訓練と言うことで、容赦なくデューレイアにたたき伏せられ続けていた。

 クラスメイト達は蒼白な表情で、息を飲んで見ている。

 ヤジを飛ばす余裕もない。

 そんなことをすれば、次は我が身である。

 競技場の隅で死体になりかけているサルーディのように。

 最初にナイルカリアスが倒されたときに、激励半分でヤジを飛ばしたサルーディは、その場で引っ張り出されたのだ。

 「そうよね。この程度で潰れてちゃ話にならないわね。君の頑張りを見せてあげるといいわ」

 その時のデューレイアの楽しそうな笑みに、ルディなどは喉の奥が引きつったものだ。

 存分にサルーディを叩きのめしておいて、デューレイアは水筒で喉をしめらせると、待たせていたナイルカリアスに疲れも見せずに向き直った。

十分休憩したでしょうと。

 そこでもう良いですと、ナイルカリアスに言えるはずもなかった。

 そんなこと、デューレイアが言わせるはずもないのだ。

 「‥‥‥もう‥‥‥」

 「もう駄目だなんて、情けないこと言わないでしょうね。男の根性、見せなさい」

 男のプライドを刺激してくれるお姉様の叱咤に、ナイルカリアスは泣きながら身体を起こす。

 だが、震える手で持った剣を一撃で弾きとばされ、足払いをかけられて再び地に伏した。

 意識が遠くなるといったところで、ふっと身体が少し楽になった。

 ルディシアールの回復魔法だ。

 「じゃあ、お望みの火魔法にしましょう。せっかくの競技場(広いところ)だからね。全力で火球撃ってみなさい」

 よろよろと立ち上がったナイルカリアスに、デューレイアが当然のような指示をだす。

 「あの‥‥火球‥全力?」

 「そうよ。ルディがいるから、気にせず全力出していいわよ」

 これだけの広さだし、さらにルディがいるのであれば、万一にも施設に被害が行くことはない。遠慮せずにぶっ放せと、デューレイアはナイルカリアスに命じた。

 ナイルカリアスがためらった理由は、もちろん施設を心配したからではない。

 デューレイアの指導を受けて、すでにボロボロなのだ。ルディの回復魔法がなければ、立ち上がることもできなかっただろう。

 この状態で、全力の魔法を放つなど、冗談だと思いたかった。

 「常に万全の体調で戦えるなんて、甘ったれたこと考えてるんじゃないでしょうね。幸いこれは訓練よ。ぶっ倒れても死ぬことはないわ」

 このくらいで音をあげるくらいなら、魔導騎士を目指すなんてやめろと、デューレイアは言う。

 「先生、少し厳しすぎるんじゃ‥‥」

 授業の一環ということで、教師達も立ち会っている。その一人であるスレインに、青い顔をしたクリセルディアが訴えるように言った。

 他にも、同調している生徒達がいるのに、スレインは首を振る。

 「そうですね。わたしたちではあそこまでできませんね。ですが、彼女の言っていることは間違っていません。魔導士、魔導騎士として戦場に立つということは、死と隣り合わせです。これが戦場なら、ナイルカリアス君はとっくに死んでいます」

 それを思えば、この訓練など生易しいくらいだ。逆に、このくらいで挫折してしまうなら、魔導騎士など目指すのはやめるべきである。

 スレインは生徒達にそう言っているのだ。

 もっとも、デューレイアのアレは、愛のムチであることは確かだが、間違いなく楽しんでいる。

 「このくらいで怖気付くなど、わたしたちの指導は甘すぎたかもしれんな」

 ファルニアの厳しい言葉に、生徒達の表情がさらに引きつった。

 「適材適所でしょう。わたしたちと彼女では教えるものが違います。どちらも、生徒達を生かすためには、必要なものではありませんか」

 デューレイアを知っているからこその、スレインの余裕が、落ち着きある思考をもたらせていた。

 つまるところ、止める気はないということだ。

 彼らの視線の先では、デューレイアが眉を軽くひそめている。

 「それとも、もうやめる?」

 デューレイアがさも残念そうに言うと、ナイルカリアスはヤケになったように叫んだ。

 「このくそっ!やってやる」

 美人なお姉様に情けないと思われてたまるか。馬鹿と言われようと、男なんてそんなものだ。

 「我が魔力を捧げ‥‥‥〈火球〉!」

 意地で発現させた全力火球を放った途端に、ぷっつりと意識が途切れ、ナイルカリアスは気絶した。

 「公開練習試合でも思ったんだけど、見事なまでの力押しタイプよね。考えなしっていうか、まあ、性格とも合ってるから、下手な小細工するより良いか」

 やらせたデューレイアは、ぶっ倒れたナイルカリアスを見下ろし、平然と評価を述べた。

 傍目から見ると、なんとも酷い。

 さすがに同情したルディが、即行で回復魔法を使う。

 「‥うう‥‥お姉様‥‥」

 ただ、気がついたナイルカリアスが譫言のように口走ったそれには、ルディも引いた。

 「ルディならともかく、君にそう呼ばれてもね」

 はっきり合わないし、嬉しくないと、デューレイアは容赦がなかった。




 その後、デューレイアは忘れずにエルやルディにも稽古をつけ、その間、カウルスがローレイ、ネルフィル、フロアリュネに槍の稽古をつけていた。

 「僕達は魔術師だし、あそこまで、やらなくてもいいと思う」

 自己の保身の気持ちを隠せないクリセルディアの言葉だが、同意を求められたクラスメイトも頷くばかりだ。

 入学当初に比べれば、格段の上達をみせているルディだが、相変わらずデューレイアの指導は容赦がない。

 フローネやエル達のように、もともとの下地があるわけではないのだ。まして剣の才能は、魔法とは違い優秀とはいえないルディである。厳しい訓練をしていても、一年や二年でまともにデューレイアの相手ができるような腕になれるはずもない。

 剣で斬られ、殴り飛ばされたり、組み伏せられるルディに、ここまでやらなくてもと、見ているクラスメイト達の心情は、すでに同情の域に達していた。

 「ルディシアールも魔導騎士志望ではないのだろうに、ナイルカリアスのとばっちりを食ったようなものだな」

 自身は魔導騎士を目指すアルヴァーンは、実家の男爵家では幼児期から武芸を教えられていたが、ここまで厳しいものではなかった。大体、まともに真剣で切りつけるなど、到底普通の指導ではありえないものだ。

 「アイツの場合、治癒魔法で治せるから、余計にデューレイア先輩も容赦がないんだよな。だけど、今日が特別ってわけじゃねえぜ。ルディはずっと、あんな訓練を受けてるんだ」

 先程、デューレイアに打ちのめされたエルが、座り込んだままアルヴァーン達に言ってやる。

 「ルディは異名持ちの卵で、魔力も俺たちとは比べものにならないくらいすごい。俺たちが全員でかかっても負けたよな。けど、最初から強かったわけじゃねえ」

 それこそ血反吐を吐きながら手に入れた強さだ。

 デューレイアに連れられ、ブランの訓練を受けるルディの姿をみた時のことを、エルは思い出す。何度も、自身の力のなさを思い知らされた。

 だからこそ、鍛錬で手に入れられるであろうものなら、掴まずにはいられない。精一杯手を伸ばす。

 「なあ、剣で切りつけられれば、詠唱する暇なんてない。魔導士志望だからって、剣も格闘技も馬鹿にしたもんじゃねえぜ」

 「エルトリードの言うとおりだ。別に、魔導士に剣を取って戦えと言っているわけではない。いざという時、身を護る助けになるように、学校も教えているつもりだ。‥‥‥あれは少し過激だがな」

 嬉々としてルディを追い詰めるデューレイアに、ファルニアは軽く嘆息する。それでいて、生徒達には相手をして貰うようにと勧めた。

 「二つ名持ちに竜騎士だ。せっかくだから鍛えて貰え。もったいないぞ」

 殲滅の紅焔(デューレイア)竜騎士(カウルス)も、王国軍では上から数えた方が早い手練れだ。

 デューレイアは、たまたま指導者として騎士養成学校に出向いていたところを、丁度良いとリュレに依頼され、ルディを教えることになったという経緯があった。

 しかし、一時的に通常任務から外れていただけで、いざという時には第一師団の魔導騎士として、即刻戦場へ赴くことになっていた。

 カウルスは王都の守備についていた竜騎士だ。

 どちらも本来なら第一線にいる立場と腕の持ち主である。魔法学校の生徒であっても、直接教えを受けることは、望んでもなかなか難しい相手だといえた。

 ただ、それで「はい」と即答するには、デューレイアの訓練は容赦がなさすぎた。

 「おーい、生きてるかルディ」

 「‥‥‥なんとか‥‥‥エルはもう復活?」

 「おう。‥‥‥なんとか、な」

 自身に回復魔法をかけてなお肩で息をしているルディと、エルは互いに顔を見合わせて力ない笑みを浮かべた。

 「さあ、次は誰? わたしが恐いなんていう情けない男の子ばかりじゃないわよね」

 相変わらず元気に男のプライドを刺激する挑発をかけるデューレイアだ。

 魅力的なお姉さんにやる気を見せろと言われ、生徒達、特に男子は、互いに顔を見合わせては無言で、相手を促し合った。

 それでも、ようやく二人ばかりが覚悟を決めたように、前に出る。

 その時、ルディがはっと南西側の出入り口の方を振り向きざまに、全力の魔力楯を展開した。

 「姉さん!お願いっ」

 ルディが叫ぶ。

 三本同時に襲いかかり、ルディの楯を揺るがせるほどの雷穿牙を、上手く角度をつけて威力を上に流す。

 その衝撃が収まるや否や、ルディの姿が消えた。

 「全員退避!」

 「皆、逃げなさい」

 鋭いローレイの号令とデューレイアの声が被さる。更に、フローネが真っ先に身を翻しながら声を上げた。

 「皆、自分を護って!逃げるよ」

 ローレイとフローネの二人は躊躇なく、攻撃がきたのと反対側に走り出す。

 ローレイの声に突き動かされるように、まずエルとネルフィルが続き、フローネ達と合流する。

 それにつられるように、数名の生徒が戸惑いながらも彼等の後を追う。

 「逃げなさい!早く」

 デューレイアとカウルスが剣を抜き、突然のことに固まっている生徒に命じた。

 攻撃の来た方向に向けて構え、カウルスが教師に声をかける。

 「先生方は生徒の誘導をしてください」

 すでに南西の出入り口から剣や槍を手にした者達が、こちらに迫ってきていた。

 広域にばらまかれるように襲ってくる水刃や風刃を、できる範囲で叩き落としながら、デューレイアは彼等を見据えた。

 「‥‥‥全部で六人か」

 「御大は顔を見せないようだな」

 デューレイアと並んで迎え撃つ体勢を取りながら、カウルスは一旦は抜いた剣ではなく、訓練用の槍を構える。

 「あの男なら、わざわざ出張らなくても十分でしょ」

 全員が煌びやかな祭用の仮面をつけた襲撃者達は、あっという間に剣を交える距離まで攻め寄せてきた。

 「デューレイアさんっ俺と一発」

 そう叫びながら突撃してきた男の槍をかわしたデューレイアの横から、カウルスが槍を振るい、足を掬う。

 「ふざけるな」

 「カウルス、てめえ‥‥」

 体勢が崩れたところを、カウルスに鳩尾を突かれ男はあっさりと沈む。

 「馬鹿」

 「馬鹿ね」

 呆れた女の声が重なる。

 デューレイアと、小柄な襲撃者の声だ。

 「アンタの相手はアタシに決まってるでしょ」

 「懲りないわね」

 嬉々としてデューレイアに向かってくる女の襲撃者と、嫌そうな顔をしてデューレイアは切り結ぶ。

 だが、彼等の後方にも馬鹿な行為をしている者達がいた。

 「〈火矢〉」

 「〈雷弾〉」

 ナイルカリアスとサルーディの、最短の詠唱で放たれた魔法だが、十分に人を殺傷できる威力だ。

 当たれば、だ。

 それらは二つとも風刃の一撃で、即座に消滅してしまった。

 「逃げろと言ったはずだ」

 顔を顰めたカウルスが怒鳴り、彼等の元に向かおうとするも、足を絡め取ろうとする土の触手に、後ろへ飛び退く。

 別のところでは、他にも生徒が競技場に留まって戦っていた。

 否、ほとんど戦いにはならない。

 「〈氷矢〉」

 必死で発動した魔法は、ことごとくを風刃に消滅させられるか、襲撃者の刃に叩き切られ、あるいは楯で防がれてしまった。

 「勇気と無謀は違うんだけどね」

 輝く金髪の襲撃者が、生徒、アルヴァーンと数回切り結び、剣を弾きとばしてしまう。

 「はい、おしまい」

 襲撃者の口が笑みを浮かべたと思ったら、アルヴァーンの意識は闇に落ちた。

 「デューア!」

 カウルスがデューレイアと女襲撃者の戦いに、加勢する形で介入する。

 わかってると行動で応えたデューレイアと、呼吸でタイミングをあわせた。

 カウルスの介入に生じた余裕で、デューレイアは火矢を女襲撃者の足元を始めとして数カ所に撃ち込んだ。

 そして、そのままカウルスと息を合わせて後退する。

 二人で魔法をばらまき、剣と槍で襲ってくる者達を蹴散らし、退避した生徒達の後を追った。


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