飛竜
エール=シオン王国の王都より西南に馬で四日といったところに、飛竜の里と呼ばれる山間の村がある。
正式な名称はウル=ゼロス村というが、人里離れた山間にあり、ただでさえ村に至る道は険しいことに加え、王国によって護られ、人の出入りが非常に制限されていた。
それは、通称の通り、王国の竜騎士の騎竜が飼育されている特別な村であるからだ。
竜騎士の騎竜となるのは、基本的に産まれたときから人の手で育てられた飛竜である。野生の飛竜を従える例外もないではないが、気性が荒く、気位の高い飛竜が、人に従うことは滅多にない。
だが、その例外中の例外が、村の上空を飛んでいた。
「アレを預かれだと。冗談だろう」
黒光りする鋼色の鱗は、力に満ちた輝きを宿し、鋭い視線は眼下に集う飛竜を威嚇し、その格の違いを悠然と示している。
村で飼育されている普通の飛竜より一回り大きな身体と翼、纏う魔力も桁違いであり、今はゆったりと羽ばたいているが、本気で飛べば並の飛竜では追いすがることもできないだろう。
「アレは人の手に負えるような奴じゃねえ」
飼育に携わる飛竜の扱いに長けた者達の中でも、一番の調教師であるエリオール・ダールが、長杖を手に施設の管理者である役人に声を荒くして抗議をする。
邪魔だと、短く刈られた金の頭髪、鋭いがどこか愛嬌のある、少し目尻の下がった金茶の瞳。やせ気味ではあるが、よく見れば鍛えられた筋肉のついた身体は、竜を飼育するために必要な体力を有していることがわかる。
エリオールの調教師として手腕は、飛竜の里で最高であるといわれていた。ゆえに、彼の判断は常に尊重され、多少の無理も通せる力があった。
つまり、彼が飼育は無理だというなら、他の誰にも不可能であるのだ。
それを圧して、あの竜を預かれという王宮の要求は無茶ともいえた。
「済まないな。だが、ここを護れと命じておいた。ねぐらを離しておけば、迷惑もかけないだろうから、よろしく頼む」
基本的に餌も自分で狩るし、敵意を向けなければ他の飛竜に無為に喧嘩を売ることもしない。いっては悪いが、格が違う。調教師が扱いを間違えなければ、他の飛竜もあえて争おうとはしないはずだ。
「テメエがアイツの主か?」
声の主に顔を向けたエリオールは、はたと、思考を停止してしまった。
漆黒の髪に紫の瞳。身なりはありふれた騎士服といったこざっぱりとした格好であったが、その容貌が普通ではなかったからだ。
正直、ここまで整った顔の男を、エリオールは未だかつて見たことがなかった。
年齢はよくいって二十歳といったところだが、妙に落ち着いた空気を纏っているのもおかしいと思う。
いや、竜という力に満ちた相手と常に向き合っているからこそ感じられる押さえ込まれた気配の異質さに、背筋がゾクリとあわだった。
人の皮を被った竜だといわれれば、素直に信じただろうというくらいの違和感が、エリオールには感じられた。
「光魔法の使い手だったな。済まない、これ以上抑えるのは逆効果だろう」
抑えられた魔力と、わざと漏らせた気配のバランスは、ここの竜への影響を考えてのことだという。
光魔法には、精神へ影響を及ぼす魔法がある。適性のある使い手は、数少なく、更に相手の魔力の強さによっては、逆方向、つまり術者へ返る負担が生じることがあった。
竜へ影響を及ぼせる調教魔法の使い手であるエリオールは、魔法を発現していない今でさえ、おそらくは竜達を通して、この男の異質さを感じ取ってしまったのだ。
意識してこの状態を作り出している男の素性を、エリオールは察した。
噂には聞いていたのだ。
エール=シオンの二人の異名持ちのひとり、黒の魔法殺しの名を。
だが、まさかとも思った。
黒の魔法殺しがこの国に帰属したのは、エルオールがまだ子供の頃だという。エリオールは今年三十三歳だ。目の前の二十歳位にしか見えない男が、黒の魔術師であるととっさには信じられなかったのは当然だろう。
「黒の魔法殺し?」
だから、その名が疑問形で口にでた。
「そうだ。ニールをよろしく頼む」
「ニールっていうのか、アイツは。じゃねぇ!なんでアイツをここに預けるんだ?アンタの騎竜だろう」
黒の魔法殺しは竜騎士ではないだろうが、それでも飛竜が従うことを認めた主だ。
飛竜に対する情熱が畏れも敬意も吹っ飛ばして、エリオールはブランに迫った。
「訳あって軍から身を引くことになった。魔法学校の講師に飛竜は必要ないだろうと、王宮に言われてな」
要するに、軍に縛れない黒の魔法殺しに、飛竜という脚を与えておくのを好ましくないと、王宮が判断したわけだ。
「放つことも考えたが、ニールも王宮も承知しなかった」
王宮はともかく、当の飛竜が天地の壁に戻ることをどうしても受け入れなかったのだ。
「当たり前だ。騎竜をなんだと思っている。あいつらにとって、一度認めた主は特別なんだよ。裏切ったりしねえし、主が死んだって、そう簡単には次の主を決めたりしねぇんだ」
冷静に説明するブランに、エリオールは腹の中から怒りが沸く想いだった。
竜の寿命は人より長い。ワイバーンでさえ百年以上、騎竜となる飛竜種でも三百年以上を生きるものもあるといわれている。更に上位の属性竜ともなれば、寿命は五百年以上とも推測されるのだ。
もちろんこれは寿命を全うすればであり、強者たる竜といえど、成竜になれずに淘汰されたり、人や他の魔物に狩られたりすることも珍しくない。
ここには育成中の飛竜や、繁殖用の飛竜、そして主に置いて行かれた騎竜もいる。
ともに戦場で討ち死にすることもあるが、多くは人が騎竜を置いて逝くのだ。
だからこそ、主に置いて行かれた騎竜も、騎竜を置いて逝く竜騎士の想いも、エリオールは知っている。
中には後継者に自らの騎竜を託せる騎士もいないではないが、それは決して多くない。
それなのに、この男は騎竜をここに預けるというのだ。
「アンタ、アイツを捨てる気か」
「迎えには来る。次の主を見つけていなければ、だが」
「馬鹿野郎!」
とっさに殴りに行くのを、エリオールはギリギリの理性で止める。
いや、相手が貴族だろうと、軍の偉いさんであろうと、知ったことではない。いつもなら、考える前に手が出ていただろう。
今だって、かなわないと、圧倒的な力の圧力に身体が無意識に屈していなければ。
竜をも抑える魔力と、彼を遠巻きにする飛竜達との力の均衡の間にあって、身体が固く強ばっていたことに、エリオールは気づき、つばを飲み込んだ。
なまじ、光魔法で飛竜達と感応することに慣れていたから、彼に対し無意識にエリオールは飛竜寄りの位置に自分を置いていたのだった。
「アレは魅力的だからな。王宮も放っておかないだろう」
ニールを手に入れれば、ただでさえ強力な竜騎士の上を行く力を得ることになる。目の色を変えて求める者が出ることも、王宮がそれを後押しすることも、予想するまでもなかった。
薄い嘲笑を口の端に浮かべたブランに、エリオールは更にムカムカと腹が立つ。一言で言えば気に喰わない、だ。
「テメエ‥‥」
それがわかっていて手放すのか。
王宮のやり口も気に喰わないが、飛竜の主としてのコイツにも一つどころか、山ほど文句を言いたい。
そんなエリオールの刺すような目つきを、ブランはまるっと無視してのける。
今更だ。
飛竜への思い入れが高じて、自分が気に入らないのはわかるが、はっきり言えばブランには迷惑でしかない。
「ここに預けることは、王宮の命令だ」
もとより拒否は許されないのだ。グダグダと文句を垂れられても困る。
だが、少なくともニールを預けるに足る人物と場所であることは、否定できなかった。
「よろしく頼む」
もとより命令に文句の一つもなく従ったブランだ。らしくない、ともいえるが、実のところニールを放つことができなかった時点で、他に選択肢はなかった。
竜騎士の騎竜クラスの飛竜を預けられるところは、ここしかないのだから。
「絶対迎えに来い」
手続きを終えたブランに、エリオールは憮然と言い放った。
それが十七年前のことだ。
空を舞う翼が真っ直ぐにこちらへ向かってくるのを、ブランはやれやれと見詰めた。
「あれは怒ってるな」
鋭く風を切る飛竜の瞳が見る先で、ブランはカウルスの操る騎竜から飛翔で飛び立った。
「先に行っていてくれ」
「了解です」
素直にカウルスは愛騎を飛竜の里へ向ける。
ブランが背から飛び立った時点で、彼は一気に下降し、影響圏を脱出しようとした。
こうなることは予想できたため、予めブランに言い含められていたし、とばっちりはゴメンだったからだ。
こちらに向かってくる鋼色の鱗を持つ飛竜も、自分達は眼中外であるらしく、真っ直ぐに宙を飛ぶ黒髪の魔術師目がけ、突っ込んでくる。
「げっ竜の吐息吐きやがった」
危ないと、焦って逃げの一手をうつカウルスは、容赦のない攻撃に冷や汗をかいた。
口から魔力の固まりを吐き出す、竜の必殺技だ。並の飛竜では一発放てば戦闘能力が確実に低下するほど消耗するが、威力はそれに相応しい切り札でもある。
だが、その魔力の固まりは黒の魔術師に届くことなく消滅した。
魔法殺しと呼ばれる、彼の固有魔法で魔力を消し去ったのだと、カウルスは目を瞠る。
滅多に使わない魔法であり、たまに教え子との組み手で披露することもあるが、実戦においては琥珀の影絵使いとの対戦で見ただけだ。
竜の吐息すら容易く相殺してみせる黒の魔術師の実力に、改めて戦慄を覚えつつ、カウルスは速度を緩めず戦闘圏内からの離脱を計った。
「勘弁してくれよ」
カウルスの見たところ、黒光りする鱗を持った飛竜は、それだけ怒り狂って渾身の竜の吐息を吐きながらも、戦闘意欲が落ちていない。
再び上空で炸裂する魔力の波動を感じながら、カウルスは一目散に飛竜の里に逃げ込んだ。
「飛竜と空中戦やるなんて、非常識にも程があるだろう」
今更だけどと、カウルスは地に降りた自身の愛騎の首筋を軽く平手で叩きながら、アレに加わるつもりはないから安心しろと言い聞かせる。
普通なら戦闘中に飛竜を地に降ろすなどしないのだが、飛竜の里に被害が及ぶような戦闘を、ブランがするはずもないとわかっているから、今回はここが一番の安全地帯なのだ。
そもそもあれは、はた迷惑なじゃれ合いに近いものである。
攻撃も圧縮した風球を、飛竜の周囲で破裂させるなど、飛行の妨害を主にしているあたり、ブランも本気ではないのだろう。
時に、派手に直撃したりしているが、黒光りする竜の鱗には傷一つつかない。
そのくせ、明らかに飛竜の体勢は崩れ、次第に地上へと引きずり下ろされる形になっているのだから、力加減は絶妙だ。
飛竜の方も、たまに竜の吐息を吐こうとしているのだが、ためを作る暇が与えられない。そのため、弱い魔力球、それでも人間に当たれば致命的な威力の吐息擬きしか吐けず、それは風楯や、風球を当てられて弾かれていた。
「派手な挨拶だな」
「まったくです」
うっそりと、空を見上げながら呆れた顔をする飛竜の里の調教師に、カウルスは素直に同意する。
「まあ十七年だ。アレも仕方ないだろうよ」
再会した主に噛みつきに行った飛竜の世話をしてきた男は、あれでも甘いくらいだと呟いた。
睨み合う飛竜と少年の姿に、周囲は何とも言えない視線を向ける。
ブランもまさか己の騎竜と教え子が、初対面で険悪な空気を纏い、一触即発といったことになるなど考えてもいなかった。
いつもの研究室裏の荒れ地に、カウルスの騎竜が付き従う形で降り立った見慣れぬ鋼色の飛竜を、ルディと幼馴染み達、それにデューレイアを始めとするいつもの顔ぶれが出迎えた。
そこでいつになくルディが、険しい表情で師の降りた飛竜を見詰めているのに、エルがまず気がついた。
竜騎士志望のフローネは、もともとカウルスの騎竜には興味津々で、少しずつ近づくために質問や助言を得て、知識を増やしている。机上の知識だけでは足りず、実際の竜騎士の経験を交えた知識を貪欲に吸収しようと、せっかくの機会を生かしているのだ。
あこがれはあってもマナーを守って、常から無防備に飛竜に触れたりしないフローネの節度ある態度は、カウルスも非常に好感を持っている。
彼女に対する飛竜の反応も悪くなく、将来が期待できると評価もしているのだ。
そのフローネは、初めて見る鋼色の飛竜に興奮して、目をまん丸にしていた。そこで小さく声を出すにとどめる冷静さを保ったのは、褒められていいところだろう。
一方でエルは珍しく慎重さを忘れたように、歓声を上げて足を踏み出した。
「すっげー‥‥‥ぐえっ」
「はい、そこで止まれ」
フローネの横で、駆け寄りかけたエルを手荒に引き留めるリステイルの姿があった。
軽く腹に入った拳に、かろうじて膝をつけることなく持ちこたえたエルは、幾分涙目でリステイルを見る。
「気持ちはわかるけどさ。ちょっと落ち着こうな」
不用意な行動をとってしまったことは理解するが、できれば実力行使する前に言って欲しかったと、自業自得なエルは腹を押さえながら訴える。
言い訳するならエルだって、一応触れるほど近くに行くつもりはなかったのだ。せいぜい、数歩前にいる銀の髪の幼馴染みの横くらいまでのつもりだった。
この人、なんか最近手と口が出やすくなって、デューレイアさんに似てきてないかと思いつつ。
竜騎士の許可なく飛竜に近づくなというのは、基本的なルールだ。
主である黒の魔術がいるのだから、即危害を加えられるようなことはないだろうが、飛竜を刺激するような、誤解される行動をとったのは、エルのミスである。街中の少年とは違う、魔導騎士を目指すと公言しているエルであれば、軽挙と責められても仕方ない。
しかし、つい歓声を上げるくらいには、鋼色の鱗をしたこの上位飛竜は、男の子には魅力的で格好良かったのだ。
「‥‥‥済みま‥‥‥あ?」
そこで謝罪や言い訳をする前に、エルはほんの少し前で飛竜と睨み合う幼馴染みを見てしまった。
「ぐるるる‥‥‥」
敵意を隠すことなく唸る飛竜と、厳しい瞳で魔力を立ち上らせる銀の髪の幼馴染み。
「‥‥あ‥え?」
思わず指さしてしまったエルに、リステイルもその様を見て表情を引きつらせた。
「あちゃあ‥‥‥相性っつーか、あれって」
「あはは‥アレね」
笑い飛ばすデューレイアに、やっぱまだまだと、ついリステイルと比べてしまったエルである。この剛胆さは女性特有なのか、ちょっと追いつかないだろう。何しろ後ろから、面白がっているネリーネの声も聞こえたりする。
「やる?やるよね」
「竜は本能でしょうけど、ルディもブランに関しては譲らないからね」
案の定、ルディの目が見事に据わっていた。
「先生、やらせてください」
許可云々以前に、翼を広げ飛び立つ飛竜と、宙に舞い上がった銀の髪の少年。
デューレイアは仕方ないわねと、実力行使にでた一頭と一人を視線で追う。
「‥‥‥ったく、あいつら」
問答無用で始まった闘争を止めることなく、けれど呆れたように、ブランはため息をつく。
いきなりの竜の吐息を至近距離から魔力楯で防ぎ、突っ込んでくる飛竜を躱して、ルディは上を取った。そのまま特大の風球を叩き付ける。
さすがに至近距離の竜の吐息にはひやりとしたが、受けきって直ちに反撃に出たルディに、地上の観客はまずはほっと安堵の息を継いだ。
「竜相手じゃ、実力で上下つけなきゃ済まんだろう」
「いや、そんなのは明白だろうが」
今のルディとニールの魔力は、戦わずともわかるほどの差があるのだ。
いくらニールが飛竜としては上位種たる重厚な黒光りする鋼色の鱗を持つ竜であっても、まともに戦えばルディが勝つ。
「竜の矜持だな。あいつも喧嘩売られた以上、受けて立たなきゃ示しがつかん。こればっかりはな」
ルディが十七年間待った主人にとっての特別な存在であると、直感で悟ったのだろう。
主人持ちの飛竜は、そういった感覚は非常に鋭いと、竜騎士たるカウルスは経験で知っている。
まして、自分以上に主人の近くにいることを許された存在など、嫉妬の対象にするなと言う方が無理だ。
それが主人と同じように、竜に匹敵する魔力の持ち主とあっては、飛竜の性質からして戦うという儀式なしには認められない。
「殺し合いになる前に、決着がつけられれば良いが」
カウルスもルディが負けるとは思っていない。ただ、ニールにあまり酷い傷を負わせずに決着をつけられるかは心配だった。
何しろ竜は魔法耐性が高い生物だ。そして、竜騎士が操っているならともかく、手加減というものがまずできない。
戦っているうちに、興奮状態になり、なりふり構わぬ生死をかけた戦いに発展しかねないのだ。
現に、明らかに優勢でありながら、ルディは暴れるニールを抑えきれずに手こずっている。殺すわけにもいかず、手加減した攻撃は防がれ、耐えられてしまう。
「アイツもまだまだだな」
思い切った手を取れずにいるルディの戦いを見ながら、ブランは苦笑する。
その声が聞こえたわけでもないだろうが、さすがにこれ以上時間をかけるのは不利であると悟ったルディは、竜の頑丈さを期待して攻撃を切り替えた。
竜の吐息で吹き飛ばされることを前提に、向かってくるニールの目の前に巨大な火球を撃ち込む。
案の定、竜の吐息で派手に飛び散った火球に、構わずニールが突っ込んだ。だが、ルディはその時すでにニールの後方上空に位置していた。
ニールの尾を狙って襲いかかったのは今までとは違い、直撃すれば竜の鱗をも灼く威力ある雷撃だ。体勢を崩したところに、圧縮した風球を撃ち込めば、たまらず失速するが、空中で立てなおそうとする。
だが、ルディはそこに加減した雷撃を纏わせ、風槌を打ち下ろした。
「うわっ」
わりと容赦ないというか、並の魔物なら致命的な攻撃に、エルがあっけにとられて声を上げた。
「手間取ったわねぇ」
地に落ちた飛竜を、地縛で捕らえ、ようやく決着がついたのに、デューレイアの評価は、ブラン同様イマイチだ。
相手の力量、耐性を読むのに要した時間と、思い切るまでの甘さが、未熟の証拠だという。
飛竜の里でのブランの戦闘を見ていたカウルスは、風球の威力、放つタイミングと位置取りに、なるほどまだまだ格段の差があるとしみじみ思った。最初の魔法殺し以外、ブランは風球と風楯だけで、余裕でニールを追い詰めたのだ。
「大怪我も欠損も無し。まあ、こんなところだろう」
風槌も全力で打ち下ろしたならともかく、麻痺を狙った雷撃と組み合わせて落とすのを目的にした威力である。打撲と、尾の一部の鱗が焼けた程度で、飛竜にとっては大した怪我でもない。ブランのほぼ予想通りの戦闘結果だった。
それこそ翼を切断するなど、欠損を構わなければ、もう少し早く決着はついただろうが、かかった時間と合わせおおむね合格圏内だ。
気が済んだだろうと、ブランがニールを回復させるのに、ルディがその横に降り立つ。
指導者達の辛口の評価に、エルはちょっと違わねぇかと口にはしなかったが、しみじみと思ったという。
普通、竜を下した奴にする評価じゃないだろうと。
前に火竜を引っ張り出したのは、特別です。




