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予選受付

 書類を手に、厳しい顔をしてマルドナーク皇国皇城の廊下を歩く宰相の側近を、警備の兵は無表情で見送った。

 軍に肩入れする側近が不機嫌な顔をして上司である宰相の元へ向かうのは、珍しいことでは無いと、城に勤務する者であればよく知られていることであるからだ。

 「またあちらから苦情でもでたのかね?」

 執務室に彼の側近を迎えた宰相は、やれやれといった表情を浮かべた。

 内政を司る宰相が、軍と折り合いがよろしくなく、かつ軍に肩入れしているこの側近と、よく険悪な討議をしていることは有名である。

 「ウルスラ港の使用権です」

 マルドナークで貴重な不凍港における、商船と軍船の使用権については、過去何度も問題となっている事案だ。

 「やれやれ、また蒸し返すつもりか」

 つい先頃、今期の使用権について険悪なやり取りの末、一応の決着がついたはずだと、宰相は苦々しい顔を隠せない。

 「そちらの手配を進めよ」

 執務室にいた文官には、今まで差配していた事案についての手配を進めるように指図し、退室を許す。そのうえで、執務室に残ったのが腹心たる秘書官のみとなるよう、仕事に託けて人払いを済ませた。

 「さて、あまり良い話ではなさそうだな」

 本題を聞こうと、宰相である皇弟クランス太公は声を落とした。

 「銀の雛が魔法学校の訓練時に襲撃を受けたようです。しかも、現場にはカレーズ侯の息子も居合わせたと」

 伝聞という形での報告だが、皇都イルセリアと王都エリオンの距離を考えれば、この知らせが普通の手段で伝えられたものではないことがわかる。

 すなわち、空魔法による伝達であり、マルドナークでそれを使える者の名として第一に上がるのが、ミーティ侯爵その人だ。

 しかも、このような知らせを、特別な手段をもってまで入手したという事実は、その背景を宰相に悟らせるには十分なものであった。

 「なんという馬鹿な真似を。エール=シオンと戦争をするつもりか」

 愚かにも程があると、温厚という評判の宰相をして激昂するのも無理はないと、報告をもたらせた側近も大層渋い顔をしていた。

 今は専守防衛の姿勢を取っているエール=シオンではあるが、それは戦争をしないというわけではない。

 「招かれざる客が巣に踏み込み、寛いでいる竜の横っ面をひっぱたくような真似をすれば、一変して咆哮を響かせるだろう。それがわからないのか」

 宰相は、侯爵達の頭の中でのエール=シオンの評価がどのようになっているのかを考え、その愚かしさに頭を抱えたくなった。

 彼の国は皇国の顔色を伺い、頭を下げるような小国とは違うのだ。軍事大国たるマルドナークとて、戦えばただでは済まない国力の伯仲した大国である。

 「銀の雛に万一のことがあれば、金と黒の竜とて黙ってはおりますまい。特に黒は銀の師でありますれば」

 かつて琥珀の魔術師は、彼に向かい、彼の師弟は怒らせなければ噛みつかれないと言った。しかしそれは、愛弟子である銀に万一のことがあれば、黒は国を捨てても報復にでると示唆したも同然である。

 金の魔術師とて、銀の雛を自らの養子として迎える程に、慈しんでいるのだ。

 「ハルセル」

 あまりに凶悪な指摘に、思わず宰相は引きつった声で側近の名を口にした。

 「幸いと申しましょう、銀の雛もカレーズ侯の子息も無傷とのことです。侯爵もさすがに証拠を残す落ち度はなかったと、聞き及びます」

 「まこと、幸いというべきだな」

 唯一、胸をなで下ろせる事実であるとクランス太公は受け止めたが、少しばかり側近ハルセルの顔色が優れないのが気に掛かった。

 懸案があるなら言うように水を向ければ、彼は言葉を選びながらそれを口にする。

 「わたくしも彼の国の矜持について、侯爵閣下にお気づきくださるよう申し上げました。しかるに、閣下もようやく報復の可能性に考えが及んだようで‥‥‥それでも、やはりエール=シオンが確たる証拠無しに戦に踏み切ることはないと、楽観はしておられるようでした。ただ、最も危ぶまれるのは、ご自身のなされたことが返ってくることと思い当たられたようで‥‥‥」

 「ミーティ侯爵夫人か」

 そんなところだろうと、宰相も納得する。

 銀の雛の力が余りに規格外であるために、標準的な魔術師としての魔力でしかない夫人に、近頃では苛立ちをぶつけ、軽んじる言動が目につくようになった侯爵であるが、ユユレナ・ミーティが三人しかいない稀少な空魔法の使い手であることに変わりはない。

 ミーティ侯爵の権威が今ほど強化された原因は、間違いなく夫人の存在にある。

 万一失われれば、彼の力は確実に落ち、第二王子派にとっても大きな痛手となることは明らかだった。

 だから、侯爵はエール=シオンが報復として、ユユレナの暗殺に及ぶのではないかとの恐れを抱いた。

 「まったく、もう少し早く気づいていただきたかったものだ」

 舌打ちを堪え、宰相は苛立ちのままに踵を返し、ドサリと執務机の椅子に腰を下ろした。

 「夫人の住む館の警護を増加し、琥珀殿に使者を立てたようです」

 琥珀の影絵使いに、夫人の身辺警護を依頼するつもりだと聞き、宰相は腹心たる秘書官に視線を向ける。

 「夫人が見いだされた直後は、皇王陛下のお許しにより、琥珀殿を招請しました」

 秘書官は自らの記憶を辿り、過去、侯爵が琥珀の魔術師を招請した事実を述べた。

 「ああ、そうであったな。今回は招請したとして、応じると思うか?」

 宰相の問いかけに、側近と秘書官は顔を見合わせた。

 「琥珀殿は、銀の雛と黒の魔術師には少しばかり思うところがあるようですが、なにぶん、縛られるのを嫌う方ですから」

 ハルセルは直接琥珀と話をしたために、彼がエール=シオンの師弟に対し、少なからぬ屈折した思い入れがあることは承知している。しかし、ミーティ侯爵の招請に応じるかと言えば、可能性は低いと思わざるを得なかった。

 「琥珀殿は気まぐれなところがおありと伺っています」

 腹心の秘書官もまた、基本的には彼の気に添う依頼であるとは思わなかったようだ。

 ユユレナには気の毒ではあるが、琥珀はミーティ侯爵の自業自得だと切り捨てそうな予想が、三人の脳裏にはあった。

 しかし、国としても貴重な空魔法の使い手をみすみす失うわけにもいかない。ミーティ侯爵の恐れた報復が、事実となる可能性は、低くはないのだ。

 しばらく後、来た時と同様の不機嫌な顔をした側近が、宰相の執務室を出て行ったのを、警備に立っていた兵士は目撃したのだった。




 公開練習試合の参加希望受付が始まった。

 去年は一年次であり見学のみであったが、今年からは希望制で予選に出られる。

 その中で、ローレイとフロアリュネは大多数の予想通り、推薦枠で槍と剣の魔法学校代表に選ばれた。

 また、ルディは昨年同様、ブランと共に試合での安全面を一手に担当することになっている。


 食堂で朝食を食べながら、ルディは眠そうに目を擦る。

 昨日も魔法鞄の作製で遅くまで工房に詰めていたのだ。

 「エルは予選にでるんだろ?」

 「ああ、二年次の火魔法の模擬戦部門だ。火魔法馬鹿には負けねぇ」

 威力で押し切るナイルカリアスと、技術と手数に勝るエルトリードは、勝率として五分五分といった好敵手である。

 風魔法では、雷命のサルーディに勝てるのが、最速と言われるフロアリュネと、攻撃は水魔法の方に比重をおいているが、魔力制御の鋭さと戦略に勝るローレイだ。その両名が魔法部門には出られないので、風は本命のサルーディで決まりだろうと言われている。

 「あいつ(ナイルカリアス)、威力あるけど単純なんだよな」

 既に予選の申込を済ませたエルが、ルディにぐっと拳を握りしめてみせた。

 「今年は騎士学校での開催なんだよね。魔法部門よりあっちの方が優先されるから、厳しいんじゃない」

 自身は剣での出場が決まっているフローネが、騎士学校の種目である馬上試合や集団戦といった騎士の種目が優先され、魔法部門の出場者が抑えられていることを指摘する。

 「魔法部門の種目が絞られてるし、ぶっ放し系は三年次優先だもんな」

 ナイルカリアスやエルですら、まだ炎竜嵐を筆頭とした上級魔法は、習得に手をかけたところだ。

 そのかわり、今年度の二年次トップクラスは、ルディの影響で基礎たる初級魔法に力を入れ、地力は確実に上がっている。

 「わたしも大規模殲滅魔法は暴竜嵐に絞ってるけど、まだまだだしね」

 魔力の成長と、制御を学ぶ時機であると、フローネは思っていた。見た目の派手な大規模殲滅魔法に憧れる気持ちもないではないが、自身に必要な魔法を彼女は確実に手に入れたいと考えているのだ。

 その彼女の目の前の一番の目標は飛翔の習得だった。竜騎士を目指すなら必須の魔法である。

 飛翔は浮かぶだけなら中級魔法であるが、自身や他者を自由に飛ばせられるとなれば、上級魔法になる。

 今のところ、フローネはようやく短い時間宙に留まれるようになったところだ。それでも、二年次で飛翔の修得に手をかけているのは、ルディを除けば彼女だけであった。

 「中級魔法がお前の初級魔法に、片っ端から破られてんだ。実用面での初級魔法を軽くみられるか。実戦で使える魔法を、鍛える気にもなるってもんだぜ」

 エルの言うとおり、風楯と風刃だけで、ルディは精鋭たる一組を抑えてしまうのだ。模擬戦で、魔導騎士を相手取れるほどである。

 実戦では、中級や上級の威力ある魔法を放つ前に、防御を抜かれ、風刃に討たれれば終わりなのだ。

 威力に勝る上級魔法を軽んじるわけではないが、対人戦を考えれば、先手を取れる一手を習得しておきたいと思うのは、魔導騎士を目指す身としては当然と考えていた。

 「デューレイアさんだって、実戦では炎刃や炎槍で押し切ることがほとんどだって言ってたもんな」

 「でも、上級魔法がいらないわけじゃないよ」

 場合によっては、大規模殲滅魔法の出番もある。撃てるなら、手数として得ておくべきだと、ルディはあえて忠告した。

 「わかってるさ。必修は炎竜嵐ってとこだろ。炎穿牙も撃てるようになったし、炎竜嵐は、みてろ、火魔法馬鹿より先に修得してやるぜ」

 実際、炎竜嵐が撃てる魔術師は、トップクラスの魔術師であり、王国でも第一級の魔導士である。エルが王都魔法学校の戦闘科一組であるからこそ言える台詞であり、彼等は紛れもなく一流の魔術師となる才を持っている。

 「うん。だけど、エル。無理は駄目だよ。デューア姉さんも、この頃はちょっとやり過ぎだと思うし」

 このところずっと、デューレイアに剣の稽古をつけてもらっているエルに、ルディは心配そうな顔を向けた。

 「強くなりたいなら、あれくらい当然だろ。お前だって、ブラン先生にズタボロにされてんじゃねぇかよ」

 「それは、そうだけど」

 「仕方ないよ、ルディ。やりたいだけ、やらせてあげた方が良いよ」

 遮二無二修行に励むエルの気持ちは、フローネにはわかる。

 「おう。今やらなきゃ、いつやるんだ」

 後のない、強い瞳で言い切られては、ルディも頷くしかなかった。


 「あ、サーニファ!おはよう」

 久しぶりに朝食の時間と食堂が重なったのか、友人と連れだって食堂に入ってきたサーニファに、フローネは声をかけた。

 本当に、彼女と顔を合わせるのは久しぶりだと思う。

 「おはよう」

 さすがに無視はしないが、素っ気なく挨拶を返したサーニファに、フローネは話を振ってみた。

 「サーニファは公開練習試合の予選、申し込みした?」

 「しないわ。どうせ、わたしまで出場枠がまわってこないもの。そういえば、フロアリュネは剣の代表ですってね。さすがじゃない」

 ルディを見ないようにして、サーニファはそのまま友人と離れた席に向かった。

 「なんか、暗くねぇか」

 サーニファがあからさまにルディを避けていることに気づいていたが、それはさすがに口にしない。けれど、エル自身もずっとサーニファに避けられている気がするのは気のせいではないだろうと思う。

 「わたしも、この頃サーニファとお話しできてなかったから」

 学生街でルディのことを話してから、サーニファもあえてフローネ達に近づこうとはしなかったのだ。

 そのまま食器を片付け、教室へ向かう時も、ルディはサーニファについてなにも言わなかった。

 一年次の時、クラスで孤立していた自分に声をかけてくれた彼女と、距離を持ってしまったことを、寂しいと思いつつ、仕方ないともルディは理解していた。

 ローレイにも、他国の、特に女性が自分の側にいることは望ましくないと聞かされていたから、下手に近づいて彼女の立場を危うくすることを恐れたのだ。

 エルとフローネは、サーニファ自身の口から、彼女がマルドナークの空魔法使いユユレナの姪であることを聞いていたが、それはルディには言っていない。

 それでも、彼女の立場を考えれば、このまま離れてしまうこともやむを得ないと受け止めていたから、フローネも挨拶はしても、それ以上引き留めようとはしなかったのだ。




 サーニファと一緒にいたマリナレティは、朝食を食べながら、フローネに素っ気ない態度を取った友人を気にしていた。

 いや、サーニファが鬱屈した態度を取るのも無理はないと思ったから、逆に声をかけてきたフローネが無神経にすら感じられた。

 「サーニャ、やっぱり気にしてる?」

 「‥‥‥ごめん、レティ。やっぱりね。仕方ないってのはわかっているの。こういうのって、僻みみたいで嫌なんだけど‥‥‥駄目だよね」

 「ううん。無理ないよ」

 ましてさっきは、ルディシアールが彼女達と一緒にいたのだ。

 ルディシアールはもはや別格だが、フロアリュネもエルトリードも、このエール=シオンで将来の魔導騎士たることを嘱望されている生徒だ。マルドナークの留学生である自分達とは違う。

 それをマリナレティの友人は思い知らされたことがある。


 定期試験の結果が出た数日後、二年次の各クラス間で、幾人かの顔ぶれが入れ替わった。

 中には、戦闘科から技術科に変わった生徒もいたが、戦闘科二組では五名が別のクラスに変わり、新しく五名が入ってきた。

 「やっぱり納得出来ないわ」

 サーニファが拘ったのは、二組と一組の間で一名ずつの入れ替えがあったことだ。

 理由を聞きに来たと言いながら、納得出来ませんと抗議するサーニファに、学年主任であるクラウディウスは落ち着いた態度で対応する。

 クラス替えの対象となった生徒には、事前に面接するが、その他の生徒から疑問の声が出ることも珍しくは無かった。特に、サーニファのように上のクラスを目指す者の中には、自分が対象にならなかった理由を聞きに来ることがある。

 「わたしは試験の模擬戦でラフレイド君に勝ちました。それに、筆記試験も総合成績もラフレイド君より上でした」

 それは事実である。サーニファはラフレイド自身にも確認を取っている。だからこそ納得出来ないのだ。

 「サーニファ・モニカ。確かに君は優秀な生徒だ。しかし、クラス分けについては、必ずしも成績順というわけではない。技術科が志望する専門分野によって組み分けされているように、戦闘科も将来の志望が考慮されている」

 年度当初こそ戦闘科一組は、上位から選別された生徒が揃っていたから、ルディシアールという例外を除いて、生徒の認識と実情が一致していた。

 ただ、今度の試験でも大体の成績と本人の志望の傾向での入れ替えはあり、三年次には能力と適性から、きっちりと選別された組み分けになるはずだった。

 「わたしは魔法剣士を目指しています。一組はその最上級です」

 「君の言いたいことはわかる。君の成績は一組生徒と比較して遜色ないものだろう。君が留学生でなければ、希望通り一組への移動も考慮されたと思う」

 サーニファは治癒科からの転科であり、一年時の指導内容の違いもあったから二年次のはじめは二組への配置となったし、それは本人も納得していた。実力でいずれ一組へ上がることができると思っていたからだ。

 だが彼女はマルドナーク皇国の国費留学生である。エール=シオンの国民でないため、その希望は叶えられないと、クラウディウスは隠すことなくサーニファに告げた。

 留学生を広く受け入れてはいるが、この学校は王立の魔法学校であり、将来のエール=シオン王国を担う人材の育成を第一としているのだ。

 戦闘科一組は、成績上位の生徒が集められており、生徒達からも魔導騎士・魔導士候補のクラスだと言われているが、それは事実であった。

 基本的に一組に在籍する者は、ほとんどは三年次が終了した時点で、騎士養成校の編入試験を受けるか、魔導士養成コースに進むかのどちらかを選ぶだろう者である。

 「わたしが留学生だというのなら、ウェリンさんも」

 「今年度に限り、彼女は特例と思って欲しい」

 過去には留学生でも一組に在籍した者がいたし、現に一組で唯一の留学生であるウェリン・アスギの名を言ったものの、クラウディウスはウェリンが特別なのだという。

 ウェリンの出身国ユルマルヌ公国はエール=シオンの友好的な隣国であり、彼女は四属性の使い手として、特に公国の推薦を得て留学してきた。実力的にも五指に入るといわれるウェリンを、特別な理由なく一組から外すことはできないのだろう。

 現在は交戦国でこそないが、潜在的な敵国に近いマルドナーク皇国からの留学生である自分とは、扱いが違って当然だと思い、サーニファは口惜しそうに口をつぐんだ。

 「二組も、将来有望な魔術師となる生徒が集まっているし、我々もそのつもりで指導している。君のような留学生もいるし、むしろ君にとっては学びやすい環境にあると思う」

 他国からわざわざ留学してくる生徒は、学校でも優秀な成績の者が多い。戦闘科においても、一組に次ぐ優秀な生徒が集められている二組に、他のクラスと比較しても留学生が多いのはそのためだ。

 一組は確かに特別なクラスではあるが、クラウディウスは魔法の授業において、他のクラスも手を抜くような指導をしてはいない。

 もちろん魔法は良くも悪くも才能が前に出るものである。いくら努力しようとどうにもならないところがあるため、生徒の習得状況による差別が皆無であるとまでは言い切れない。また、出身国による偏見が皆無であるともいえなかったが、少なくともクラウディウスは留学生だからと、指導で差別するような教師ではなかった。

 クラウディウスは教師として、できるだけのことはしているつもりだった。

 「わかりました」

 もし、クラウディウスが教育熱心な教師として知られていなければ、サーニファももっと反発しただろう。

 逆に、このように率直に対応されれば、これ以上駄々をこねることはできなかった。


 これで嫌なら学校をやめろと言われても、サーニファの立場であれば仕方ないこともわかっているのだ。

 「戦闘科一組は、この国の魔導士や魔導騎士を目指す人ばかりで‥‥‥でも、サーニャだって負けてないんだもの。悔しいって思うの当たり前だと思う」

 「フロアリュネに負けたくないって、ずっと思っていた。今だって、かなわないなんて思いたくない」

 「うん。サーニャは負けてないよ」

 「一組に上がることだけ考えてたから、余計に悔しくて。でも、良く考えてみれば無理だって‥‥‥だって、今の一組にはルディがいるから。元からいたウェリンさんはともかく、他の国の人は入れたくないだろうって、レティだって思わない?」

 「‥‥‥そうかあ、それもあったわね」

 サーニファが留学生だからという理由で一組に上がれないことに、マリナレティも憤ったものだ。けれど銀の雛と呼ばれるようになった少年の存在を考えたら、諦めるのも仕方ないと思わざるを得ない。

 それに、ルディシアールの名を出したサーニファの気持ちもある。サーニファは、いつの間にかルディシアールを避けるようになった。その理由を詳しく問い質してはいないが、それもやはり自分達が留学生であることにつながると、薄々は察していた。

 「ねえ、一組に上がれないのは留学生だからで、サーニャに実力がないわけじゃないってことでしょう。だったら、実力をみせつけてやりなさいよ。やっぱり公開練習試合にも挑んでみるべきじゃない。予選勝ち抜いて、サーニャが強いってみせつけてやればいいじゃない」

 マリナレティの嗾けるような激励に、サーニファは少しだけ笑みを見せた。

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