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帰校

 デューレイア達がたどり着いたときには、すべてが終わっていた。

 子供達は何やら揉めているようだが、ここは口出しをすべきところではないだろう。

 全員が無事であると確認をし、落ち着いた頃を見計らって声をかけた。

 「ごめん、遅くなったわ」

 途中で複数の狼と遭遇したおかげで、足止めされてしまったのだという。他の生徒達のことを思えば、時間がかかろうと殲滅する以外にはなかったのだ。

 「大分派手にやったね」

 襲撃の現場と周囲を見て回っていたネリーネが、納得した顔をして戻ってきた。

 普段から掃討されており、数が少なく、用心深い狼たちが興奮したような獰猛さで襲いかかってきたのは、戦闘の気配に追い立てられてきたのだろう。

 「ねえ、こいつら警邏の制服だけど」

 兵士達の手で、襲撃者の死体が一ヶ所に集められ、その死体の半数ほどが、王都警邏の制服を着ていると気付いたネリーネが、どういうことだろうと口に出した。

 「最初の襲撃後に、王都警邏第六部隊ユーザック・ブリストラを名乗って接触してきました」

 状況をローレイが代表でデューレイアに説明する。

 「貴方から見て、不自然さは感じられなかったのね?」

 「身のこなし、言動は訓練を受けた騎士のものでした。フロアリュネ君が気づかなければ、危なかったでしょう」

 ユーザックの動きに、フローネがとっさに反応して動かなければ、おそらくローレイは殺されていた。

 「そう。貴方が騎士であると思ったのなら、間違いないのでしょうね」

 デューレイアが渋い表情を見せる。

 「僕の判断で、ルディ君に殲滅を命じました」

 「わかった。ありがとう」

 身元の確認の結果次第では、全責任を自分が負うとローレイは言っているのだ。

 「ルディ、よくやったわ。後始末くらいはわたしたちに任せてちょうだい」

 集められた死体の検分を行うデューレイア達を見ていたルディの肩を、ポンと叩いて、デューレイアは少し休むように言った。

 「姉さん、あの」

 「襲ってきた以上、敵よ。彼の判断は間違っていない」

 ルディにその先を言わせず、デューレイアはきっぱりと断言した。

 相手にどんな理由があろうと、戦いの場で対峙したからには倒すべき敵だ。

 仮に、彼等が本物の警邏兵であったとしてもである。例え、欺されていた、脅されていたなどの理由で、荷担していようと、倒すことを躊躇する理由にはならない。

 ルディの躊躇いを押し切り、万一の時には命令を下した立場を得るために、フローネのことも含め、ローレイは責任を取ると宣言したのだ。

 明らかな正当防衛だが、更に付け込まれないために。何より、ルディの負担を少しでも肩代わりするために。

 実際、カレーズ侯爵家子息の名は十分以上に彼等の楯になり得るものだ。

 「撤収します。夜が完全に明けたら、拠点に移動するわ」

 現場の見張りとして、リステイルと兵士を二人残し、デューレイアは拠点に移動することを宣言した。

 「あの、姉さん」

 思い出したように、ルディがおずおずとデューレイアに声をかける。

 「何よ?」

 「これ、どうしよう?」


 移動保冷庫といった荷車の中身に、ギュレイノスは呆れたような声を出した。

 「でかいな」

 こいつら、持ってきやがったという本音は口にしなかった。

 しかし、襲撃という修羅場を潜ったあとで、結構余裕じゃないかというのが、一部が解体された馬鹿でかい岩猪を見たギュレイノスの正直な感想だった。

 「せっかくの狩りの成果です。無駄にするのも惜しいですし、評価をいただく意味もあります」

 わりと現実的なローレイに、そういえばこれも授業の一環であることを思い出すものの、どこか呆れ気分で投げやりになっているギュレイノスに、ファルニアは苦笑いする。

 評価云々の方はオマケのつもりで、ローレイも付け足したのだろうと思う。

 「放置するには勿体ないか。確かに、食べでがありそうだ」

 「そういう問題か‥‥‥いや、そのとおりだが‥‥‥」

 狩った獲物は生徒の好きにして良いとなっていたが、そもそもは現地で調達した食糧として消費することを前提としていた。

 大物については、狩った班の合意のもと、業者に売りさばくことも、学校が買い取ることもできると言っておいたが、これほど大物が狩れることは滅多にない事態だ。

 「それでどうするつもりだ?」

 こちらは興味深そうにファルニアが、岩猪の処分方法を問いかけた。

 「解体屋に持ち込んで、売却するつもりです」

 素人が一部の肉をすでに切り取っていることから、評価額は落ちるだろうが、それは仕方ない。

 それでも解体料と差し引いて、魔石と素材と肉の売却益が見込まれる程の獲物である。

 獲物を売った利益は、班全員で均等に分けることになっているのだ。

 ルディはその場で肉を買い取ることを考えていたから、学校に売るよりもその方が望ましかったし、この場で学校に買い取りを希望しても先生が困るだろうと、ローレイも気を遣ったのだ。

 エルなどは、ルディが肉を手に入れれば、自分が食べる機会があるのではと期待もしていた。

 「だ、そうだ。ギュレイノス」

 ほぼ予想通りのローレイの返答に、ファルニアは担当のギュレイノスに無情に振る。

 「それは構わんが、コイツをどうやって運ぶつもりだ?」

 聞きたくはないが、聞くしかないと、ギュレイノスはローレイと、その後ろにいるルディを見た。

 「飛翔で浮かせて、伴走させようかと思ってます」

 普通に走らせては馬の速度についていけないからと、こともなげに言ってのけるルディに、ギュレイノスはその光景を想像して冷や汗をかいた。

 生徒の馬の一団の、後ろか横を飛ぶ荷車。

 とてつもなく目立つだろう。

 素直に嫌だと思う。目撃者に魔法学校の常識を疑われることは間違いない。

 「‥‥‥やめてくれ」

 だからといって、こちらで搬送を請け負うことも無理な話だ。馬車はあるが、自分達はまだここを離れられない。

 しかし、解体屋をここに呼ぶにしても、時間と費用が余計にかかるし、生物であるのだから時間が経てば経つほど価値が落ちる。自分達で運ぶというのに、止めるのもおかしい。

 「仕方あるまい。ルディシアール、空魔法で収納していけ」

 何故一般常識が当てはまらないと、苦悩するギュレイノスを見かねて、ファルニアが苦笑しながら空魔法の使用を許可する。

 「良いんですか?」

 「特別だ。王都から人も来るし、こちらでも手に余る」

 刺客はすべて死んでいるが、これから王宮の調べが入るのだ。特大の獲物に手間を割く余裕はなかった。

 「それじゃあ」

 ルディの言葉が終わらないうちに、忽然と荷車が消えた。

 「便利だな」

 この常識外れが!という本音は飲み込んで、ギュレイノスはポカンとした顔をした。


 昨夜焼いた肉の余りを軽く炙って温めパンにはさんだものと、干し肉とハーブのスープ、それにお茶という簡単な朝食を済ませ、荷物をまとめて馬に載せる。

 さて、これで後は帰途につくだけだという段になって、エルがローレイに少しだけ時間を取って欲しいと言いだした。

 「俺はお前をリーダーに選んだことは間違いじゃねぇと思ってる。けど、お前のとった手段は気にくわねぇ。理屈じゃわかっていてもな」

 ずっと、エルが何かを言いたげな目で自分を見ていたのに、ローレイは気づいていた。

 「だから、一発殴らせろとでも言いたいのかい?」

 「スッキリしねぇんだよ」

 「お断りだ」

 言い終わる前に、ローレイの拳がエルの腹に収まっていた。

 「ゲホッ‥‥‥てめぇ!」

 「黙って殴られる趣味はない」

 「上等だ」

 先制攻撃を仕掛けてきたローレイに、エルは獰猛な笑みを浮かべて殴りかかった。

 「ちょっと、エル!ローレイ君も」

 いきなり目の前で殴り合いを始めた二人に、ルディは止めるべきかと一歩踏み出しかけ、フローネに腕を引かれた。

 「やめておいた方がいいよ」

 引き止めたフローネも、若干渋い顔をしていたが、エルの性格からすれば止めて止まるものでもないと思ったのだ。下手にわだかまりをエルの心の奥に抱え込んでしまうより、表に出してしまう方がマシだとも考えた。

 それはルディにもわかる。受けて立ったローレイのプライドもだ。

 「いいわねぇ。思いっきりやんなさい」

 青春よねぇと、愉しそうな笑顔を浮かべたデューレイアが寄ってきた。

 「男って、馬鹿」

 「アンタ、良く言うわね」

 剣で会話する戦闘狂のネリーネに、言われたくないだろう。いや、騎士や兵士なんて人種は、多かれ少なかれ暴力で会話するといった一面がある。

 愉しそうに見物している時点で、デューレイアも同類だ。

 「何をやっている!」

 飛んできたギュレイノスが、まさかのローレイが殴り合いの片割れであるのに、目を丸くした。

 「訓練です」

 フローネがすっぱりと言い切った。

 「襲撃時の対応で、反省すべきことが多くありました。体術の練度不足もその一つです」

 ネルフィルがもっともらしい理由をでっちあげたのに、ルディはいろいろな意味で開き直った女の子にはかなわないと思う。

 明らかに私闘だが、なんとなく事情を察したギュレイノスを始めとした教師達も、訓練と言われれば仕方ないと見逃すことにした。

 殺し合いに発展したり、大怪我をする心配さえなければ、この程度は許容範囲だ。

 エルもローレイも腕が立つ者同士であるから、大人しく拳を受けることなく躱したり、腕でガードしたりしているが、いくつかは腹や顔にいいのを食らっている。

 放っておけば、どちらか、あるいは双方が倒れるまで終わらないだろう。

 しばらくは黙って見守っていたが、そろそろルディの我慢が限界だった。

 大体、殴り合いになった時点で、問題提起は終わっているのだ。気の済むまでやらせておくには、時間がおしている。

 「いい加減にしろ」

 間合いを計る二人の間に風球を割り込ませ、ルディが叫ぶ。ついでに、弾けさせれば、エルもローレイも蹈鞴を踏んで尻餅をつきかけた。

 「倒れるまでやる気?僕は治さないからね」

 ぷいと、背を向けて馬の方に歩き出したルディの後を、フローネとネルフィルも追う。

 「おいてくよ」

 フローネに言われて、二人とも慌てて後を追った。

 「なあルディ」

 ぼそりと、治して欲しいなぁという調子で、ルディの顔を覗き込むようにしたエルを無視する。

 「結構痛いんだけど」

 「好きで負った怪我まで面倒見切れないよ」

 「自業自得だ。我慢しよう」

 自身も痛みに表情を硬くしながら、ローレイはことさら平然を装った。

 喧嘩両成敗というわけで、ルディはどちらにも治癒魔法を使わない。

 女性二人も同じ意見らしく、取りなしてもらえず、エルもローレイも痛みに耐えながら馬に乗ることになった。

 「考えてみれば、治癒魔法なんて簡単に世話になれる代物じゃねーよな」

 魔法学校だからこそ、酷い怪我には治癒魔法をかけてもらえるのだ。こんな怪我では、治癒魔法など贅沢であり、ましてルディのように簡単に完治させるような治癒士などそうそういるものではない。

 甘えすぎだろうと、エルは猛反省した。

 だから、最初の休憩で移動に支障が出るのも困ると、二人に治癒をかけてくれたルディに、エルは素直に頭を下げた。

 「ローレイがリーダーだったから皆助かった。わかってんだ」

 腹が立つのは自分の力量不足の八つ当たりだ。みっともねぇとエルは呟いた。

 けれど、他人の力を認めるという器量がエルにはある。

 それもまた得がたい資質であった。




 ルディ達が魔法学校に帰校したのは、まだ日が高い時間帯であった。

 普通、帰途は疲れもあり行きよりも時間がかかる。それでいえば、一班が往路とほぼ変わらない程度の時間で帰ってこれたのは、やはりローレイのペース配分が絶妙であったからだ。

 自身の状態を客観的に把握したうえで、班全体の疲労度もあわせ、冷静に計算する手腕は、指揮官としての才能の片鱗を示すものだった。

 いろいろと、自身の力不足から来る苛立ちを含め、反発を覚えるエルでさえ、ローレイの指揮は文句をつけられないものだと思う。

 「天幕を返しておこう」

 彼等が借りた物は二張りの天幕と、調理器具一式くらいである。基本的には普段使っている手持ちの装備と、野営用に個人的に揃えた道具だ。

 それ以外で必要になった鍋などは、現地でルディが作った。覚えていると便利だからと、土魔法が使えるエルにも、鍋や竈の作り方を教えたのは余談だ。

 竈はともかく、鍋はまともに使える物は作れなかったが、エルはわりと真剣に覚えようと考えたらしい。

 魔導騎士を目指すエルは、攻撃力の優れた火魔法の習得に力を入れていたが、ルディのやっていることをみて、土魔法も使い方次第で非常に重宝できることを悟った。とにかく便利なのは確かだ。

 エルも魔力はかなり高い方であるが、ルディほどばかげた魔力があるわけではないから、日常に使えるものではないだろうが、いろいろと応用が利く技は覚えておいて損はない。

 せっかく二属性が使えるのだ。戦闘面においても、土魔法の有用性を見直すには良い機会となった。

 もちろん器用貧乏にならないよう、火魔法を中心に鍛えていく方針は変えないつもりだった。


 事務所に道具を返しに行ったとき、事務所前にいた三年次の一団に声をかけられた。

 男二人に女一人の三人組だ。

 「随分早く帰ってきたなぁ」

 感心したように言ったのは、技術科三年次の薄茶の髪をした背の高い男子生徒である。愛想の良い笑顔を浮かべてはいるが、どことなく値踏みをする視線を向けてきた。

 「初めましてになるか。俺は三年次技術科二組のセルデューク・ウルスラッド。よろしくな。こいつらは同級生で、同じ魔物加工研究同好会の仲間だ」

 「僕は」

 「ローレイ・キース・カレーズ君。軍務卿閣下のご子息で、二年次の総合首席。超有名人だ」

 自己紹介しようとしたローレイの先回りをして、セルデュークは彼を知っていることを告げた。

 「ねえ、やっぱり二年次じゃ無理でしょ」

 セルデュークの隣で、濃い金髪の巻き毛をリボンで両耳の上あたりでツインテールにした女子生徒が、ツンツンと彼の左袖を引っ張って囁くように言った。

 「まあ待てよ」

 セルデュークはぐるりとローレイ達を見回し、話を進める。

 「俺たちの魔物加工研究会ってのは、魔物の解体と加工の研究をしているんだ。そう言えばわかるだろう?」

 「僕達の狩った獲物ですか?」

 野営訓練から戻ってきたばかりの自分達に声をかけてきた目的を察して、ローレイは素直に答えた。

 「そうそう、持ち帰ってきたのがあったら譲ってもらえないだろうか」

 「昨日の組は、角兎狩れた班があったけど、食べてきちゃったらしくって、駄目だったのよねぇ」

 初めての野営訓練なのだから、お持ち帰りまで無理よねと、女生徒は屈託のない笑顔を浮かべた。

 「魔物の解体と加工って、そんな同好会もあるんだ」

 初めて聞いたと、ルディが独りごちた。

 「そりゃ、いろんな同好会があるからな。特に競技系の同好会や、魔導具系の同好会なんか、大きいのから小さいのまで。たしか四人いれば、届けを出せるんだったっけ?」

 エルが学校の課外活動に疎いルディに説明してやる。

 「ええ、学校の承認が得られれば、授業後の活動が認められますわ。わたしは何処にも所属していませんけど」

 「ネルフィルさんはクラス代表の仕事があるもんな。俺も、余裕なくってさ」

 実はネルフィルは一組の代表生徒として、クラス運営に関わっている。教師志望の彼女としては、学校組織と関われる役割は意味があるし、教師にも接する機会が多くなるため、いろいろな相談に乗ってもらえるというメリットがあるのだ。

 それに、内緒だが担任のスレイン先生とも、立場上話をしやすい。彼に憧れるネルフィルにとっては、とても美味しい役でもあったから、彼女は自ら代表生徒を買って出た。

 一方でエルは授業後は大体剣の練習に費やしているという。

 剣技に関する同好会もなくはないが、ローレイやフローネも、自主訓練として師範のレムドなどに教えを受けているため、同好会には参加していない。

 「剣技の同好会って、ちょっと癖があるんだよね。技とかにこだわっていたり、流派で固まっていたりするから、わたしにはあわないんだ」

 一年次のときにフローネも、いくつかの同好会から勧誘を受けたが、すべて断っていた。

 「そっか。でも魔物の解体と加工か。それってどんなことするんだろ」

 「解体の技術と、調理方法の研究さ。素材なんかは、欲しいっていう同好会に融通するんだ。俺たちは魔物肉の美味い食べ方をメインに研究してるんだ。興味あるなら、詳しく説明するぞ。それとも活動の見学するか?」

 興味のありそうなルディの言葉を耳にした、もう一人の技術科三年次の男子生徒が、ここぞとばかりに活動内容の説明と、勧誘を始めた。

 「魔物の調理の研究ですか」

 「おい、ルディ。お前な、同好会にクビ突っ込む余裕なんて、俺以上にないだろうが」

 魔物の食べ方と聞いて、途端に目を輝かせたルディの問いかけを、エルは途中でぶっちぎった。

 「うー‥‥それはそうだけど」

 「彼の言うとおりだ。興味があるのはわかるが、無理だとわかっているのに首を突っ込むのは感心しないね」

 特に君の立場ではと、ローレイはあえて口にしなかったが、ルディには伝わった。

 「大変申し訳ありませんが先輩方、勧誘については控えていただけないでしょうか」

 「せっかく興味を持ってもらったのに残念だ。けど、事情はわかるよ」

 いくら興味津々という態度を見せられたからといって、さすがにルディを同好会に誘うつもりはセルデュークにもなかった。

 なにしろローレイ以上に有名な銀の雛だ。下手に関わり合うにはやっかいすぎる重要人物である。銀の雛の歓心を得たい者も多いが、セルデュークはやっかいすぎる背景に関わり合いたくはなかったのだ。

 それに、今回声をかけたのは、勧誘ではなく、譲ってもらえる獲物を求めてである。

 「ありがとうございます。ですが、せっかく声をかけていただきましたが、お譲りできる獲物はありません」

 「そのようだね。まあ、最初の狩りだし、これからに期待というところかな」

 ローレイ達が獲物の類を持っていないことを見て取って、セルデュークは残念とも、獲物がなかったローレイ達の腕を見くびったとも取れることを口にした。

 「次はぜひ大きな獲物を狩ってきてね」

 期待してるからと、女生徒がにっこりと微笑みを浮かべるのに、ローレイは慇懃に黙礼を返す。

 彼等も、この先獲物が狩れたら、自分達の同好会に譲って欲しいというつもりで、皆に声をかけているのだろう。

 次に到着する班を待つ態勢にはいったセルデューク達と、さっさと距離を取り、ローレイ達は一旦寮に向かった。

 「なんか、面白くねぇな」

 エルは余り良い印象をセルデューク達に抱かなかったようだ。愛想は良かったのだが、値踏みされているような第一印象と最後のあれがいただけない。

 「そうだね。こいつら獲物持ってねぇぞって目で見てたよね」

 フローネの印象も良くなかったようだ。

 「そうは言っても、『彼等に譲る』獲物はないんだ」

 狩った獲物を見せびらかして、無用な軋轢を生む必要はないと、ローレイは言っているのだ。

 「岩猪の料理、楽しみにしているんだろう?」

 ルディはもとより、エルやフローネもだ。

 「美味しい肉だし、せっかくみんなで狩ってくれたんだ。譲るのはなしかな」

 解体屋から肉を買い取るつもりだったルディの考えは、ローレイには丸わかりだったようだ。

 「彼等(シロウト)にあの岩猪の適正価格が出せるとも思えないしね」

 ローレイの評価はシビアだ。そもそも、実習の獲物を求める時点で、買い叩く気が満々なのは明らかだった。

 魔物加工研究同好会の活動内容をとやかく言うつもりはないが、いくら実習で狩った獲物とはいえ、あれだけの大物を安く買い叩かれるのは好ましくない。

 「あそこに限らず、同好会の連中が狩りの実習の獲物狙ってるって聞いたことあるぜ。魔物を手に入れるには、自分たちで狩るか、実習の獲物を買い取るしかないもんな」

 その話を知っていたから、エルはルディが同好会に首を突っ込もうとしたのを止めたのだ。

 欲しければ自分たちで狩ってこいとまではいわないが、下級生の獲物を買い叩くような真似はするなと、エルは少々不機嫌な顔つきをしている。

 デューレイアたちがいるから、そうそうタカられることもないとは思うが、ルディの狩ってくる獲物など、連中は喉から手が出るほど欲しいだろう。

 「取引は取引だからね。僕らがとやかく言うことではないよ。ただ、僕らが彼等に売らないだけの話だからね」

 ルディと二人の時は珍しくないが、あまり人がいいとはいえない笑みを、ローレイは口許に掃いた。

 貴族のお坊ちゃんであるローレイにしてみれば、獲物の売却益など微々たるものである。特に解体屋に持ち込む手間暇を考えれば投げ売りしたところで、痛くもない。後は気分の問題だ。

 生徒の中には、煽てられ、自尊心をくすぐられ、気分良く唯同然で譲る者もいる。これもまた、駆け引きであるのだから、問題はないだろう。

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