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披露目

 慣習として行われる継嗣の謁見は、本人が未成年であれば、建前として非公式なものとされている。役職を得て、王宮に上がるわけではないからだ。

 未成年でも後見人を置くことで爵位を継ぐことはできるが、あくまでも爵位の継承だけであり、役職を得るわけではない。

 だが、実際には有力な貴族家の跡継ぎ問題は、王宮にいるものであれば無関心ではいられない。非公式は本当に建前で、現実は継嗣の披露目であるのだ。

 そして今回は、同時に黒の魔術師に対する任命式が行われることで、異名持ちとその雛が勢揃いする。

 長らく隠棲していた黒の魔法殺しと、いずれ異名持ちになる空魔法の少年の顔を見ようと、立ち会うことを許された身分の者が大挙して集うのは無理のないことであった。

 「殿下」

 王太子妃が、王座に座る国王夫妻から少し離れた位置に立っていた王太子の元に歩み寄る。

 「いかがであった?」

 「遅すぎることはなかったようです」

 「そうか。足労をかけたな」

 固有名詞を付けずに、和やかな表情を意識して言葉を交わす。仲の良い夫婦の会話と周囲には映るように。

 「お気遣いには及びませんわ。良い目の保養になりましたもの」

 「では楽しみだな」

 「はい」

 穏やかに微笑む王太子妃に、よくできた女だと王太子は思った。

 華やかな美貌ではないが、知性に裏打ちされたしっとりとした美しさが王太子妃にはある。

 エディアリーヌは自身を可愛くない女だと言っているが、いずれ王妃となる身である。可愛いだけでは務まらぬ地位だ。

 それに、妻への欲目と言われようと、幼馴染みでもある彼女は、十分可愛いところもあると思う。


 それから間もなく、非公式という継嗣の披露目である謁見の始まりが告げられると、王太子夫妻は王族の位置に並んで立った。

 広い謁見の間には諸侯、貴族や諸国の主に外交に携わる高位の者たちが集まり、大層な賑わいを見せている。

 非公式を謳っていることもあり、この場に立ち会う許可は、王へのお目見えが許される身分であれば余程の支障がなければ下りるものだ。それでも普段、継嗣の謁見ではこれ程の人は集まらない。

 いずれ異名持ちとなる空魔法の銀の雛に対する関心が、それ程に高いと言うことだ。

 加えて、滅多に表に出ることのなかった黒の魔法殺しが、黄金の天秤操者とともに出てくるとあって、興味に拍車がかかったのだろう。


 最初に継嗣の謁見をした伯爵家は、リュレの実家であるヴェーア伯爵家にも匹敵する伝統ある大身であった。

 もう一つの伯爵家は、男子に恵まれず、結局長女が婿を取って継ぐことになったそうだ。

 そして、集まった人々の関心が向かう本命である三人が、揃って謁見の間に姿を見せた。

 「あれが黒の‥‥‥」

 「火竜に騎乗してくるなど、力を誇示しているとしか思えぬ」

 「いやいや、それも我が国の力ではないか。すべては陛下のご威光よ」

 「しかし、銀の雛はまた、噂通りの」

 「さよう、あれでは金の魔術師殿が気に入られるのも無理はない」

 金と銀と黒。それぞれが力を持った存在である。エール=シオン王国の切り札ともいえる力だ。

 右側にリュレ、左にブラン、ルディは二人に挟まれた真ん中である。

 金の縁取りのある紫のローブを纏ったリュレに、淡い青の礼装を着たルディシアールが従う。黒一色の上下に紫のマントという正装のブランもだが、いずれも品は良いが、装飾は最低限に抑えられていた。

 一見すると地味に見える出で立ちだが、それは着る者の美貌が如何なる装飾にも勝るからである。三人の衣装を仕立てた彼の店主が、まさに狙ったとおりの清楚な美の絶妙なるバランスだ。

 三人を見る者達の口から、賞賛のため息が零れるのも無理からぬものだった。

 玉座の前まで進むと、リュレは膝を折って深く礼を取り、ブランとルディシアールは片膝を付いて頭を下げる。

 王国の守護者といわれる黄金の天秤操者、不世出の空魔法の使い手である銀の雛、火竜をも従える最強の剣である黒の魔法殺し。そのすべてが臣下の礼をとることで、王のものであると、万人の前に示されたのだ。

 「頭を上げよ」

 意識した満足げな笑みを持って、王が声をかける。

 「此度はリュレ殿にも良き継嗣を得られ、予も嬉しく思う」

 「すべては陛下の思し召しの賜でございます」

 ほぼ型どおりの受け答えが、王とリュレの間でなされてから、視線がルディに向かう。

 「クリシス伯爵家継嗣ルディシアール」

 「はい」

 「リュレ殿に倣い、我が良き力となるよう期待している」

 伯爵家を継ぐ身としてとは、王は言わなかった。この少年は、いずれ別の名でも王に仕えることを期待されているからだ。

 「非才なる身でございますが、身命を惜しまず王と王国にお仕えいたします」

 「うむ。励めよ」

 緊張しまくっている内心はともかく、ローレイに特訓された甲斐があってか、ルディは見た目には落ち着いた振る舞いができていた。両側にリュレとブランがいてくれることも大きい。

 「黒の魔法殺しブラン・アルダシール子爵」

 「はっ」

 「准将軍として王国軍への復帰を命ずる。其方は我が剣である。軍務卿とともに王国を護る力であれ」

 「謹んで御命に従います。我が身の不徳により、長く御前を離れましたこと、深くお詫びいたします」

 「これよりは再び玉座の下にて、その剣を振るうが良い」

 「我が杖と剣を捧げし王の御命に従い、身命を賭してお仕え申し上げます」

 この場で必要なのは、ブランが王に忠誠を誓っているという姿を示すことだ。黒の魔法殺しの名と力に脅威を覚える者たちに、王が彼を御していると思わせなくてはならない。

 実際、ブランは自身とルディに対して余程理不尽でない限り、王の命に違うつもりはなかった。リュレの取りなしや思惑があったにせよ、自分を迎え入れてくれた国なのだ。

 自分のためにも、ルディのためにも、この国を護るために力を尽くしたいと思っている。

 玉座にある王は深く頷く。

 彼等の力はすなわち王の力でもある。

 王の権威を強化するものであり、諸侯を抑え、王国の安定にもつながるのだ。それはそのまま、諸外国に対する王国の力を示すことにもなる。

 軍務卿の狙ったとおり、この場に集う諸侯、諸外国の使者たちも、それを深く印象に刻んだことだろう。

 強すぎる力は反発も生むが、なまじな国ではなく三大国の一角たるエール=シオンだ。侮られるより余程望ましい。




 結界の手前で足を止め、ルディは起き上がった火竜を見上げた。

 火竜は、属性を持つ竜の中で最強の戦闘力を持つ種だ。その性質は極めて獰猛であり、戦いとなれば敵を灼き尽くす。

 西方諸国の過去においても、火竜の襲来によって国が滅びるなど、甚大な被害をもたらした記録がある。

 また、討伐されるべき敵として、あるいは伝説の騎士の騎竜などとして、幾多の物語にも登場していた。

 「すごい」

 紅玉の色をした鱗に引き締まった肢体は、物語の竜そのままに力に満ち美しい。朱金の瞳は燃えるように輝いている。

 ルディはその力強い姿に感嘆の声を上げた。

 今の自分では戦って負けるとは思わないが、確実に勝てるとまでは言えない。ブランのように、殺さずに服従させるなど、絶対に無理だ。

 「ルディ(こいつ)に手を出したら、殺すからな」

 自身の縄張りに入ってきた強者に戦いを挑む竜の性質に先んじ、ブランが結界を解除して、火竜に向かって釘を刺す。

 「会話ができるんですか?」

 「まさか。物語の竜でもあるまいし」

 そもそも竜の発声器官で言葉を発することなど不可能だし、知能は高くても、人の言葉を習得する機会もなければ、理解する気もないだろう。

 「魔力に意思をのせることで、感情や概念を伝えられる程度だ。逆も然りだな」

 「僕でもできますか?」

 期待に満ちた瞳を向ける教え子に、ブランは苦笑する。

 「お前なら大丈夫だろうが、練習次第だな。今はやめておけ」

 暴力的ともいえる火竜の魔力を並の人間がぶつけられたら、失神するか、下手をすれば狂死しかねない。

 ルディならその心配はないだろうが、それでも人と違う野生の竜の荒々しい魔力とのやり取りは、慣れないとなかなかきついものがある。

 「乗るぞ。お前は何もするな」

 ルディに魔法を使うなと命じて、腕を取り、自分もろとも火竜の上に飛翔で上がって、背に降りた。ルディを前に置き、風魔法で自分達を取り囲んで、位置を定める。

 鞍も手綱もない。それらは目に見えぬ風魔法で作られているようなものだ。

 「飛べ」

 先に空に上がったカウルスの騎乗する騎竜を追って、翼を広げた火竜が一羽ばたきで宙に舞い上がった。

 竜はその皮膜ある翼の羽ばたきで飛んでいるわけではない。魔力で飛んでいるのだが、だからといって翼がなければ魔力のバランスが崩れ、飛ぶことはできなくなる。翼が飛翔の魔力を使う器官だと考えることができるだろう。

 「うわぁ‥‥‥すごいっ」

 考えてみれば王都の上を飛ぶのは、ルディには初めての経験である。

 学校の外の荒野でこそ飛翔の魔法を使いまくっているが、王都の上空は許可なく飛ぶことを禁じられているのだ。

 王都エリオンは、大河リュージアとそこから引かれた運河が網の目のように巡っている水の都でもある。陽光に輝く水面と歴史ある王城のそびえる古き都。

 王城から魔法学校までは、竜の翼ではほんのわずかな飛行であったが、ルディは歓声をあげて喜んだ。何しろ敬愛する師の駆る、火竜に乗ったのだから、忘れられない記憶となった。

 もちろん後でエルやフローネに、ものすごく羨ましがられたのはいうまでもない。




 研究室裏の荒野、いつも訓練をするところで火竜から降りる。

 火竜はそのまま住処である天地の壁の峰へと飛んでいった。

 「‥‥‥はあ‥‥‥‥‥‥」

 今になって気疲れがどっと襲ってきたルディは、肩を落として息を吐いた。

 「お帰りなさい」

 留守番をしていたデューレイアが、ひらひらと手を振って出迎えてくれた。彼女は彼女で、間近に舞い降りてきた火竜に息を飲んだものだが、今のニコニコした表情はいつもの二割増し輝いていた。

 「ただいま、姉さん」

 「うふふ、礼装、よく似合ってるわよ。ブランも‥‥‥やっぱり見応えあるわね」

 普段あまり着る物に頓着しないブランだけに、正装姿は貴重なのだ。それに火竜がついた。彼女としては眼福の一言だった。

 腰に手を当て、仁王立ちで美形二人を凝視するデューレイアに、飛竜から降りたカウルスがやれやれとつぶやく。

 「俺のことも、少しは労って欲しいもんだ」

 火竜の先導などという、滅多にない体験をしてしまった竜騎士は、果たしてデューレイアの視界に入っているのかと、差別感をここぞとばかりに味わっていた。

 「お疲れ様でした、先輩」

 自分で済みませんと、リステイルが同情混じりにカウルスに声をかける。

 「まったく、こんなに緊張して飛んだのは久しぶりだ」

 格上の火竜に怯える愛騎を宥めながらの飛行は、竜騎士の気力をごっそりと奪ったものだ。

 黒の魔術師が火竜の気を抑えてくれていなければ、とても一緒に飛べなかっただろう。

 火竜が天地の壁へと飛び去ったのを確認して、王宮への報告にとんぼ返りしていく同僚の飛竜を目で追いつつ、カウルスは心底から疲れたと愛騎の身体を軽く叩く。

 こいつも厩舎に戻して、休ませてやろうと思う。


 昼食は、ルディがさすがに作る気力も時間もなかったので、収納庫から作り置きを出した。

 にもかかわらず、午後から行われた訓練は、いつもの通りの厳しさだった。

 普通でないときこそ、身になる訓練ができるというのはわからなくもないが、寮に帰るルディの足取りはぐったりとして重かった。

 「ほら、しっかりしなさい」

 もう疲れた、眠いと、ぶつぶつ言いながら、デューレイアに引っ張られるようにして寮に戻ってきたルディは、部屋に入るとベッドに突っ伏した。

 「ああ、帰っていたのかい」

 「ローレイ君‥‥‥お帰り」

 そのまま少し眠ってしまったのだろう、ルディはローレイが帰ってきた気配に目を覚まし、無意識にたぐり寄せていたのだろう毛布をのけながら身体を起こした。

 「眠るのなら、着替えた方がいいよ」

 「うん。‥‥‥あ、ローレイ君、ありがとう」

 着替えを取り出し、ルディは荷物の整理を始めたローレイに礼を言った。

 「今日、披露目の謁見があったんだ。礼法を教えてもらってたから、すごく助かった」

 「どういたしまして。僕も習い直せたから、逆に君には礼を言うべきかもしれない。これでも侯爵家の生まれだからね。完璧だと思っていたんだけど、人に教えるとなると、やはり足りないことがわかったよ」

 これはネルフィルも言っていたことだ。それに、儀式については、習ったとはいえ体験したものばかりではなく、むしろ机上で通り一遍教わったものがほとんどである。

 「継続は力だからね。これからもしっかりやろう」

 「う‥うん‥‥よろしく。‥‥‥えっと、お手柔らかに」

 必要なのも、ありがたいのも確かだ。しかし、ローレイの指導は厳しい。思わず顔が引きつってしまうのは、どうにもならなかった。






 ルディをブランと帰してから、リュレは王太子妃によばれ、王城の東の庭園に面した一室を訪れていた。

 「ようこそ、リュレ様。お約束もないのにお呼びして、ご迷惑ではございませんでしたか?」

 突然の招待を詫びる王太子妃に、リュレは頭を振る。

 「エディアリーヌ様とこのようにお話しするのは、久方ぶりだ」

 「本当に。ここしばらく立て込んでいらしたのですから、仕方ありませんわ」

 机を挟み、向かい合って椅子にかけると、贅沢ではないが手のかかった上品な昼食が運ばれてきた。

 「勝手ですが食事を用意させました。お口に合えばよろしいのですけど」

 考えてみれば遅い昼食の時間にもなる。エディアリーヌの心遣いにリュレは礼を言う。

 「せっかくお誘いいただいたのだ。ありがたくいただこう」

 ここはプライベートな場であるからと、リュレもエディアリーヌも親しげに言葉を交わす。

 エディアリーヌによって、侍従や女官が下げられ、部屋には二人きりとなる。扉の外には護衛がいるにせよ、後宮ならぬ表の王城でこのように人払いをするのは、あまり望ましいことではない。王太子妃の相手がリュレであったからこそ、誰もなにも言わなかったのだ。

 「ごめんなさい。少し愚痴を溢したくなったのですわ」

 余人の耳には入れられないからと、エディアリーヌはリュレに詫びる。

 「今日はエディアリーヌ様にはお世話をかけたことだし、わたしも礼を言わねばと思っていたところだ」

 控え室の一件を出したリュレに、お見通しですわねと、エディアリーヌは微笑んだ。

 「あれはたまたま、わたくししか手が空いていなかったものですから。‥‥‥王妃様がご心配なさっていらしたのですけど、本当に‥‥‥」

 困ったものですとの言葉は、飲み込んだ。

 「物語のような恋は、憧れに止めておくべきですわ。貴族ならまだしも、王族であれば、身勝手は許されぬものですもの」

 こんなことを言うから、可愛くない女だと思われるのだとエディアリーヌは自嘲するが、恋におぼれて、国に不利益を与えるような真似など、どうしても許せなかった。

 「女が男を恋い慕うことを責めるわけにはいくまい。むろん、そのあり方が問題であるとは、言うまでもないことだが」

 やんわりとはぐらかすように、けれどリュレはエディアリーヌの言い分を否定はしない。世間一般の人々とは違い、国を担うものとすれば、それは真っ当な感覚である。

 「正直に言うが、わたしほど恋愛に関わる相談に向かぬ女もおらぬ。魔法に勝るものを持たぬゆえにな」

 激情に捕らわれ、魔力を暴走させることがないように、生まれついているのだ。女の身に生まれても、女が恋に捧げる激情を、リュレは知ることがなかった。

 「異名持ちの方は、皆そうなのでしょうか?」

 「ブランはそうだな。ルディシアールも自覚していよう。考えてみれば、オリディアナ殿もあのような男に惚れることになって、運が悪かったのだろう。異名持ちほど、恋愛対象に向かぬ者もそうはおらぬ」

 「困難であればこそ、より恋心は募るものだという者もおりますわ」

 わかっていても抑えられないものが恋だと、古来からいわれている。本当にやっかいな感情だ。

 「そこを差し引いても、ブランは少々鈍すぎる。あれに女の扱いを期待するのは、馬鹿のすることだ」

 随分と酷い言い様にエディアリーヌは、思わず目を見張って笑みが零れるのを抑えきれなかった。

 「オリディアナ殿にブランが靡くことはあり得ぬ」

 異名持ちの性質以前に、彼女のような女性はブランの好みではないというリュレに、エディアリーヌは頷く。

 恋愛に不慣れであったのは、オリディアナも同じだ。

 あるいはデューレイアのように、相手と自身の想いに折り合いをつけられるような猶予があれば、もっと違う形に落ち着いたかもしれない。

 だが、結果として不器用な者同士が、互いにすれ違った想いをぶつけるだけで、うまく収めることができなかった。

 「ええ、ですが、今となっては問題はそこではありませんわ」

 「エディアリーヌ様にもおわかりになられたか」

 オリディアナの恋が成就しないことは明らかであり、彼女自身が一番良くわかっていることだ。

 だから問題は、ブランにとってかけがえのない存在ができたということである。

 「ルディシアールに刃を向ければ、あれは躊躇わず排除を選択する」

 もとより興味の外にあった存在と、真っ直ぐに心に入ってきたもの。

 心を預けた存在を喪うことを、ブランは二度と許さないだろう。

 そもそも今日の、火竜を駆って登城するなどという、ブランらしからぬ派手な行為は、軍務卿へのあてつけだけではないのだ。

 皆の興味を己に引きつけることで、ルディシアールの盾となるためだと、リュレは読んでいた。

 ルディシアールが知れば、師にそこまでさせる己のふがいなさを思い、心を痛めるだろう。あの少年は、護られるだけの位置にいることに、甘んじるような性格をしていない。

 ブランの背を護れるようになりたいと、望んでいるのだ。

 だが一方で、ブランはルディシアールを喪うことに怯えている。琥珀に一度奪われかけたことも、過去の傷を呼び起こした。

 ブランは滅多に心を許すことはしない。しかし、一旦懐に入れたものは、どんなことをしてでも守り抜こうとする。

 「それは‥‥‥彼女には受け入れがたいことですわ」

 「まさに、貴女のいわれるとおり問題はそこだ、エディアリーヌ様」

 きれい事を言うつもりはない。万一の時、王宮はオリディアナとルディシアールを天秤にかけ、どちらに重きを置くのかを迫られることになる。

 「あってはならぬ選択を、陛下がなされることは避けねばならぬ」

 「仰るとおりですわ」

 オリディアナもそれがわからぬほど、愚かな女ではない。

 公爵家を出、一介の騎士となっても、王の姪であるという己が血筋の持つ意味を、理解しているはずだ。

 けれど、不安はつきない。

 思い過ごしであれば良いと、唯願うだけでいられる立場に、エディアリーヌはいないのだから。

 「申し訳ない、エディアリーヌ様」

 自分はブランの師であり、ルディシアールの養母だ。オリディアナの目には、どうしても偏りのある立場にしか映らないだろう。

 オリディアナを諫められる女性は多くはいないのだ。

 心苦しくとも、王太子妃であるエディアリーヌに頼らなくてはならなかった。

 「いいえ。他でもないリュレ様のお力になれるのは、わたくしも本意とするところです。それに、王族の出であった彼女の引き起こしたことですもの。奔走せねばならぬのは、あたりまえですわ」

 エディアリーヌも公爵家の出であり、彼女にも王族の血が混じっている。そういう意味では、身内の不祥事であるのだ。

 まったくリュレに頼まれるまでもない。

 その後は、食事をしつつ、他愛ない話題も含め、和やかな会話が弾んだ。

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