班分け
いろいろ挟むものを変えて作られたサンドイッチを、全種類制覇したあげく、特に気に入ったものを、更につまんだデューレイアはさすがに食べ過ぎたと腹をさする。
「うーー食べ過ぎたわ」
途中から加わったリステイルとカウルスが、呆れた目で見ていたが、彼らもきっちりと自分達の分は確保していた。ネリーネはたまたま所用で、今日は顔を出せないとのことだ。
ちょっと先に行って、腹ごなししてくると、デューレイアは昼食の片付けをしているルディをおいて、ブランを引っ張って裏に出た。
リステイルは片付けの手伝いをしているし、カウルスはデューレイアに頼まれたため、ルディを待って扉の前にいた。
「ねえ、騎士姫はいいの?」
王の居住空間である後宮を護る騎士団は、近衛の中でも特に女性が占める割合が多い。王妃や未婚の王女の側に仕えるのに、女性騎士が選ばれることが多いからだ。その女性騎士の中でも、騎士姫といえば、特にブランに曰くのある人物を指していた。
国王の姪でありスティーユ公爵令嬢であるオリディアナである。
デューレイアの問いかけに、ブランは酷薄とさえみえる笑みを浮かべた。
「それで?」
「それでって、騎士姫のことがあって、貴方」
デューレイアも伝聞でしか知らない。何しろ十数年前のことだ。ブランが引きこもる原因となった女性のことを、ここまで頓着しない態度を見せる理由も、彼女にはうかがい知れない。
「鬱陶しくなっただけだ。それ以上のもんじゃねぇ」
吐き捨てるかのような口調は、心底どうでも良いと思っているのだろう。
オリディアナのために王宮の職を辞し、ルディのために戻る。状況だけをみればそうなるのだろうが、ブランにとっては意味合いがまるで違う。
「デューア、あれとルディを一緒にするな」
いろいろ誤解があるようだが、実際のところブランのなかで彼女の存在は面倒という一言に集約される。いってしまえば、それだけのものだ。
わかっていたはずのブランの価値感を突きつけられ、デューレイアは息苦しい気分に襲われた。
この男にとって、魔法と心を許した同類以外は、切って捨てられる存在でしかないのだ。デューレイアはそれをまざまざと突きつけられた気がした。
自分もまた、そこに並ぶことはできないのだと。
「騎士姫は王家に連なる方よ」
オリディアナは形式上スティーユ公爵家を出て、今は一介の騎士として王宮に仕えている身ではある。
それでも、自分達の仕える王の血統に連なる女性であることに変わりはない。「あれ」扱いはどうかと思うのだ。
「だから面倒だというんだ。関わりたくない代表格だな」
貴族に生まれ、騎士となったデューレイアにとって王家は忠誠を捧げる相手だ。ブランにとっても、王は杖を捧げた相手で、この国は護るべきものだが、デューレイアとは根本が違う。王家の血筋というだけで、ブランが無条件で尊ぶことはない。
「貴方らしいとは思うけど、それでも慕ってくれた相手でしょう?」
面倒の一言で片付けるのは、少し酷くないかと、同じ女性であるデューレイアは思う。
「王の姪だから応えろとでもいうつもりか。大体、気のない相手を袖にするのは、お前だって同じだろうが」
デューレイアははっきり言ってもてる。身体目当ての男がほとんどだとはいえ、真剣に求愛してくる男もいないではない。しかし、それに応えるかというなら、別の話だ。
妙にしつこく絡むデューレイアに、お前にそこまでいわれるのは心外だという。
「貴方の好みじゃないのは知っているわ。でも、あれだけの美女に言い寄られて、貴方ってばホントに面倒の一言なの?」
ブランの彼女への対応が気になっていたのは事実だが、デューレイアとしてこだわりがあったのはそこだ。
すでに三十代の後半であるオリディアナだが、その美貌は未だに健在であった。近衛の騎士服を纏い、毅然としたその姿に憧れる女性も多いという。
「美女だと?ババアと並べて同じこと言ってみろ」
「貴方ね」
それをいうかと、デューレイアは脱力する。ブランにとってもとより別格な女性である、異名持ちにして絶世の美女たる金の魔術師を比較対象に持ってくるあたりで、間違っているとデューレイアは思った。
少なくとも、デューレイアにとっても、リュレの美貌は格が違うものだとの認識がある。
「とにかくあの女の件は問題じゃねえ。だからお前まで鬱陶しいことを蒸し返すな」
問題にならないように処理すれば良いと、カレーズ侯の言質をとっているとは、ブランは言わなかった。
目の前には自然のものでない吹雪が吹き荒れていた。ただし、一線を引いた範囲だけである。その周囲は炎が舞っていた。
威力が所によって変わるブランの炎を、互いに一線を越えないように維持しているのだ。威力と繊細な調整が必要なうえに、耐久力を求められる。
「俺がババアにこの国に引っ張ってこられた、というのは知っているな」
まだどこか気に病んでいるルディに、ブランはもう少し突っ込んだことを話す。
魔法の訓練の最中にというのも、集中力と精神的な動揺を魔法の制御に及ばさないための鍛錬になる。魔法は使い手の感情で影響が出やすいものだが、ルディのレベルでそれは許されない。
それと、周囲の轟音をよそに、会話できる空間を作り出してもいるこの状況は、あまり人に聞かれたくない話しをするのにも丁度いい。
「マルドナークの白の幻妖精を殺した俺を、エール=シオンが引き取った。おかげで、こうしていられるんだから、この国のために働けと言われても仕方ない話だ」
マルドナーク皇国にとっても国外での出来事だ。自国の異名持ちの方から手を出して、返り討ちにされたような状況でもあり、エール=シオンの取りなしで矛を収めざるを得なかった。
「俺はこの国の出じゃないし、魔法殺しなどという物騒な名をつけられるような力を持っている。国としても扱いには気を遣うだろう」
怖がられていると言ってもいいだろうと、ブランは自虐的なことを言う。魔法殺しの剣を、自国に突きつけられる恐怖は常にあるのだと。
「でも、先生はずっとこの国を護ってくださっていたんですよね」
「この国を嫌う理由もないし、自分の住むところを護るのは当然のことだからな。ルディ、俺の魔法殺しもお前が将来得る力も、俺たちにとってはただの魔法と変わりはない。力の延長だ。少しばかりでかくて、利用価値が高かったりするから問題になるだけだ」
「はい。僕の空魔法も、使い方次第だって」
「使い方次第で、国を滅ぼせる力だ。それを手にしている国は、自らに向けられないようにいろいろ考えるだろう」
「そんな、だって」
ブランにも自分にも、国に反逆する気は毛頭ない。
「そんな気はさらさらないといったところで、証明してみせなければ、要らん不安を抱く。そんなものだ」
だったら、望むものを与えてやれば良い。自分に納得出来るものであれば、構わないだろう。
「今まで俺の抑えはババアくらいのものだったのが、お前という存在が出てきた。国としては丁度良いと考えるだろうな」
「僕は先生の重荷になりたくありません」
「そういうわけじゃない。お前にとっての俺は重荷か?」
「いいえ」
ルディは勢いよく首を振った。何故そんなことを言うのかと。
自分にとってのブランは、かけがえのない存在だ。それを王宮も知っている。
「なら、俺も同じだ。二度と重荷などと思うな」
きつく言われて、ようやくルディは気がついた。
ブランにとっての自分は、同じだと言っているのだ。
「わかったか」
ブランにとって捨てられないものでなければ、王宮は抑えにできると考えたりしない。
胸が痛くなる思いとともに、ルディはその事実を受け止めた。
自分はこの人の隣に立ちたい。その背を守れるようになると誓った。
「それが連中にとって都合が良かったというだけだ。気分が悪かろうが、妥協できるものであれば、問題ない」
自分達にも国にも、どちらにとっても都合がいいと考えた方が利口だ。それはブランだけでなく、ルディにとってもだ。
生きて行くには多少の柵はあって当然である。
「仕方ないってことですか?」
ブランの言うように、我慢できるなら、問題にならないということだ。それは理解できる。
「そうだな。しかし、前にも言ったが、お前は少し、物わかりが良すぎるな」
デューレイアも気にしていたが、諦めが良すぎるのは、程度が過ぎれば考えものだ。
「そうでもないです」
絶対になくせないものがあって、執着するものが少ない。
それはブランも同じようなものなのだが、人のことは余計に感じるのだろう。
その分、譲れないものには頑なになるところがあるなど、この師弟はよく似ているといえた。
「野営訓練の参加許可が出たのは知っているな。何かあったら、直ぐに俺のところに転移して来い」
万一の時には、即座に逃げてこいというそれは、王宮の命でもあった。まして、ブランに言われれば、ルディは従うしかない。
「不服そうだな」
了解はしたものの、教え子は晴れない顔をしていた。
「お前、自分で何とかできるとか自惚れてんじゃねぇだろうな」
少しくらい魔法の腕が上がったくらいで、襲ってくる刺客に対抗出来るとか、自惚れるなと、ブランは釘を刺す。
「済みません」
「わかれば良い。お前の無事が第一だ。それが守れるなら、煩いことは言わねぇ」
「先生?」
「やるなら殲滅しろ。それができなければ退け。当面、森での迎撃を想定した訓練をしてやる」
自分の力量を把握した上で、安全が確保できるなら構わないと、ブランは言っているのだ。自身の行動に責任を持てと。
「はい」
ブランの信頼を感じて、ルディは今度こそ迷いなく返事をした。
「いいか、お前の無事が一番だと言うことは、忘れるな」
その上でなら、王宮も黙らせられる。ルディの力を示すことは、今後の襲撃の抑止につながるのだ。
できると考えたから、ブランはルディを籠から出してみることにしたのだ。
炎に照らされるルディの白銀の髪を、ブランは指で軽く掬う。
「お前の髪は特に夜目に目立つ。気を付けろ」
容姿でも目立つルディだが、闇の中で白銀は悪目立ちする。気にかけておくようにと、改めてブランは注意を促した。
教壇に立っているのはファルニアとギュレイノスである。実技に関しては、今まで同様この二人が主な指導にあたることになる。
今回の校外学習には、その他にも二年次の教員が中心になり、魔法学校の職員がバックアップに付くことになっていた。学年主任のクラウディウスが調整にあたり、スレインは主に裏方の担当だ。
「おーしっそれじゃ校外学習の班分けを発表するぞ」
ギュレイノスが今回の班分けを発表する。
二十名の二年次一組を五名ずつ四班に。それに治癒科の生徒を各一人ずつ振り分ける形になっている。
「一班はローレイ、フロアリュネ、エルトリード、ネルフィル、ルディシアール」
真っ先にこの班分けがギュレイノスの口から発表されたときには、生徒達から様々な声が上がった。
「あれ?一班の治癒科は?」
「その前に一班ってあれないだろ」
「ルディシアール参加するのかよ」
「いくら何でもバランス悪くねぇか」
今回の試験の総合で、学年首席のローレイ、次席のフロアリュネという文武両道のトップ二人は言うに及ばない。エルトリードとネルフィルも、筆記試験の上位者であると同時に、実技においても四属性のウェリン、それにサルーディとナイルカリアスという攻撃型二人と競りながら、今回は一歩譲ったものの、決して負けていない実力者である。
また人望もあり頭も回るため、それぞれがリーダーを務められる者としての認識がクラスにあった。つまるところ、誰が見ても事実上の上位陣が一班に集中しているということだ。
他の班もギュレイノスが名前を読み上げ、その結果に教室がざわめく。なにより、一班のメンバーに不満の声が噴出するなか、ギュレイノスの横に控えていたファルニアがカツンと、前に出る。
「今回の班分けは決定だ。いいか、この組にいるってことは、全員が二年次戦闘科トップクラスの実力があるってことだ。他の班がどうこう言う前に、自分達がどうするか考えろ」
文句が出ることは承知の上の班分けである。グダグダ言うなと、ファルニアは強権で黙らせる。一班のメンバーがアレなだけで、他の班も一応能力的なバランスを考えて構成してあるのだ。
「それから、二班から四班の治癒科からの参加者とは、この授業が終わったら、あっちの教室へ言って、顔合わせしておくように」
「これから班別で準備を進めていくが、それも課題だ。こっちから指示はださん。学校で借りる物については、各班で今週中に申請書を出して、借りておけ。それからルディシアール、お前は基本、治癒担当だ。緊急時以外は空魔法は禁止、いいな」
「えっ?」
ギュレイノスの言うことに、ルディは首を傾げた。
「一班に治癒科は入れない。中級治癒魔法が使えるお前がいるんだ。他に治癒士は要らん。あと、空魔法の禁止は、説明いるか?」
「あの、魔法鞄も駄目ですか?」
「駄目に決まってるだろうが!あるなら貸して欲しいくらいだ。‥‥ってのは冗談だが」
うっかり本音がぽろりと出たのは誤魔化して、ギュレイノスは問題児の悪気のない質問に頭が痛くなった。本人がいたって真面目に質問しているだけに、余計タチが悪い。
「ローレイ、後でそいつに今回の野営訓練の目的についてなんか、ちょっと再確認な」
つい押しつけてしまったが、ギュレイノスの気持ちはわかるので、ファルニアも苦笑いしながら黙認するし、ローレイもそこは文句を言わずに了承した。
別にルディは先生達を困らせようとしたわけではない。単なる確認のつもりだったことは、ローレイにもわかっていた。
「空魔法は君にとっては、使って当たり前のものだからね」
あくまでルディにとってはだというローレイの言っていることは、理解できる。
「皆と同じ条件で、ってことだろ」
野外活動の基礎訓練だ。空魔法の道具も、普通はないのが当たり前の条件で行うべきだろう。それはルディも納得出来るし、異論はない。
「そういうことだね。それじゃ、その他について確認しておこう」
他の班が治癒科の教室へ行っている時に、一班は早速打ち合わせに入った。午後は別行動となるルディの都合もあり、時間を無駄にはできないからだ。
班のリーダーをローレイに任せるのは、全員一致で決まった。
「リーダー?ローレイでいいだろ」
自分もできないとは言わないが、もっと相応しいヤツがいるのだから押しつけてしまえという、エルのあからさまな推薦に、誰一人文句を言わなかったのだ。
おそらく、一班の誰でもリーダーは務まるだろうが、その中でもローレイが指揮を執るのが面倒がなくて良いという安直な考えに、皆賛同したともいえる。
「天幕は四人用を二張り借りる。できれば今日借り受けて、授業後に一度張ってみよう」
「一張りでよくねえか?交代で見張りもするし、一度に五人一緒に寝ることはないしさ」
荷物は少ない方が良いというエルに、ローレイは二張りと言った理由を述べた。
「一張りは予備にしても良い。携行食糧も最低でも三日分は用意していきたいね。移動は馬だし、多少の荷物の増加は問題ない。それより想定外の事態に備え、大きな負担にならない程度の備えはしておくべきだ」
今回は、王都から馬で半日ほどの学校管理の森で、比較的安全が保障されているとはいえ、予定外の事態を想定して準備を整えるのは無駄にはならない。
これは訓練だ。野営で想定されるであろう事態に備える心構えを養うことからも、準備段階から手は抜けない。
「ええ、確かにローレイ君の言うとおりだわ。天幕も問題がないか確認するのも含めてね」
ネルフィルが、代表してローレイの意見を支持する。いざ現場で使おうと思って、不備があってはたまらない。学校側が貸し出す用具に、わざと細工をするとまでは考えすぎだが、確認を怠ればツケは自分に返ってくるのだ。
「僕、天幕を張るの初めてなんだ」
だから前もって、張ってみたいというルディに、エルはあれと思う。
「お前、泊まりで狩りに行ってるだろ。野営しなかったのか?」
「したよ。土魔法で簡単な小屋みたいの作って、結界張った」
「それじゃ、申請は僕がやるから、他に必要と思われる道具の洗い出しをしよう」
思いっきり流してしまったローレイに、ネルフィルは何か言いたげな視線を向けるが、エルも質問自体をなかったことにしたようだ。
「ルディ、お前授業後時間空けられるのか?」
「う‥‥頑張る」
基本的に準備の時間は授業ではとらない。各自で相談し、時間を作ってするため、必然的に休み時間や授業後が潰れることになる。
授業が終わった教室の一角で、治癒科から組み入れられたラルカスを加え、校外学習の計画を立てている班があった。
他の班は、ローレイ達のように用具の貸し出しの申請に行ったり、図書館で調べ物をしながら打ち合わせをしていたり、ギュレイノスに助言を求めに行っているなど、たまたま教室は使用していない。
「あれは絶対ルディシアールのための班分けだよな」
贔屓もいきすぎだろうというアルヴァーンに、同じ班になったクリセルディアも頷く。
リーダーに推されたアルヴァーンは男爵家の長男である。他のメンバーは騎士爵家の次男であるクリセルディア、王都の警邏隊員の息子カールス、ユルマルヌの子爵令嬢のウェリン、父親が某公爵家に私兵として仕えているハーティリア、そして狩人の息子である治癒科のラルカスの男四名、女二名の六人組だ。
「あら、不満なのかしら?」
気に入らないという感情を赤裸々に表すアルヴァーンに、ウェリンは特に感情を表すことなく目を向けた。
「そもそもルディシアールが参加することが問題だっていうんだ」
アルヴァーンはバンと、机を手のひらで叩く。
「僕もルディシアールに狩りの訓練なんて必要ないと思う」
去年の長期休暇で、ルディの規格外の戦闘力を見せつけられたラルカスは、余り関わりたくないと思いつつ、そんなことを口にした。
「普段実技の授業に出てないんだ、野外訓練するなら、アイツだけ騎士とでもやればいいだろ」
「アルの言うことはわかるけど、他の班のことだから良いじゃないか。先生も言っただろう。自分達のことを考えようぜ」
アルヴァーンに賛同しつつも、カールスは現実的なことを考えようと、紙に書き出した必要物品を睨んでいた。
「でも、ルディシアール君はお城で護って欲しいって思わない?だって、学校にいるより、その方が安全だもん」
「ハーティリアさんの言うとおりだよ。僕らにとばっちりきたら困る」
以前、侵入してきた刺客が、寮に夜襲をかけてきたことがあった。後からそれを知ったクリセルディアは、かなり驚き、不安を抱いた。
「お前、それはさすがに情けねぇだろ。技術科ならともかく、俺たちは戦闘科一組だぞ」
治癒科のラルカスが言うならともかく、仮にも戦闘科一組のクリセルディアが言うことではないだろうと、そこはプライドを持ちたいアルヴァーンは、クリセルディアの気弱さを蹴飛ばす。
しかし、実のところ、ハーティリアやクリセルディアのように思っている生徒も少なくはなかった。なまじルディの魔法が、生徒のレベルではないだけに、彼が学校で学ぶこと自体を疑問視する者は珍しくないのだ。
「そこまでになさったら。少なくとも、わたくしは彼のことを話していたから準備が遅れたと、言い訳したくはありませんわ」
苛立った内心を抑えつつも、若干のトゲがあるウェリンの皮肉に、クリセルディアは口をつぐみ、他のメンバーの顔色を伺った。
「もっともだ。ラルカス、狩りについては君が一番詳しいだろう。他に必要な物があったら教えてくれ」
建設的な方向に舵をきり直したアルヴァーンに、意見を求められたラルカスは、乗りだして書き出された用紙を改めて見た。
「僕のとこは草原だから、森とは条件が違うけど」
話し合いに耳を傾けつつも、ウェリンは先程まで話題になっていた一班のメンバーについて思いを巡らせていた。
自身で王宮側の人間であると口にしているローレイ・キース・カレーズを、ルディシアールと同じ班に配した理由は、改めていうまでもない。
ネルフィル・カリシエド・ノードリスも武門の伯爵家の出であると聞いている。多少の危険があるにせよ、ルディシアールの側に置いておくには、丁度良いと、考える者もいるだろう。
ノードリス伯爵も、娘を空魔法の使い手の側に配置することを要請されれば、断らない立場にあるはずだ。
祖国の大使が自分に要請したことである。エール=シオンや他国の者が同じことを考えないはずもないと、ウェリンは考えた。
美人で伯爵家の令嬢であるネルフィルは、幼馴染みの少女とともに、ルディシアールの側に置くことで、他国への牽制になり得るし、彼の気を引けるなら更に言うことはないのだろう。
それから、エルトリードとフロアリュネについては、ルディシアールの最も近しい友人である。実力があり、万一の危険も織り込み済みで、動かしやすい人材だ。
それらが、成績で言えば、彼等と同じレベルにいながら、外国の貴族である自分が選ばれなかった理由でもあると、ウェリンは思っていた。
ルディシアールに対する嫉妬とこだわりが、ウェリンからなくなったとは言わない。
他の生徒達がルディシアールを特別だと考えることで、ライバルの枠から外しているのに、ウェリンは自身に異名持ちの可能性を見ていたからこそ、未だに彼と自身を比べる意識があるのだ。
異名持ちは妬む対象とするには、もてる力の次元が違いすぎる。
それはほぼすべての魔術師が持つ普通の意識だった。
彼等は化け物であり、自分達とは存在自体が違うのだと考えることで、魔術師達はプライドを保ち、無意味な妬心で身を滅ぼすことを避けているのだ。
それをこの学校でも、生徒達はルディシアールに適用している。
ウェリンは、それを悪いことだとは思わない。自分もそうするべきなのだと言うことは、理屈ではわかっているのだ。その方が楽だと。
それが彼女の心になかなか定着しないのは、ウェリンに原因のすべてがあるわけではなかったが、そこまで彼女にはわからないから、苛立ちが消えない。
ルディシアール自身が、未だ未熟な雛であるからだ。隔絶した存在となるべきものでありながら、多感な年頃の少年として学校という社会の中に混ざっている。線引きはされていても、互いの距離が近い。
異名持ちの雛として認識するより先に、同じ歳の生徒として出会ってしまったから、彼女はこうして悩んでいるのだった。




