護衛騎士
飛翔で宙に上がった小柄な身体が、叩き付けられた火槍を風楯で受け流しつつ、後方へと滑るように移動する。
反撃で撃たれた複数の風刃を、軽く捌く黒髪の魔術師は、同様に宙にあって、銀の髪の少年を包囲するように幾つもの雷球を生み出した。
目の前で繰り広げられる戦闘訓練に、魔導騎士であるリステイルが上位者であり、同じ護衛任務についている竜騎士に向かい、顔色を白くしながら話しかけた。
「先輩、自分達があの子を護衛する意味があるんでしょうか」
その気持ちはカウルスにもものすごく良くわかる。
雷撃に吹っ飛ばされて、危うく地に墜ちるところを、少年はかろうじて減速して転げるように着地した。
手加減されてなお一方的にやられているものの、相手は黒の魔法殺しだ。自分が今のと同じ攻撃を受ければ、最初の火槍の一撃はなんとかしのげても、それが精一杯だろう。とても反撃などできないし、あの子供のレベルで戦えるかといえば、全力で否定するしかない。
そもそも、飛翔と防御魔法、攻撃魔法を容易く同時になど扱えるものではないのだ。しかも、彼等は無詠唱で魔法を使う。
いずれあの子供は異名持ちに成長すると聞いているが、いまでも十分人外ではないかとさえ思う。
「そう言うな。魔法はともかく、中身は十三歳のガキだ。実際殺されかけたことだってあるしな」
「‥‥‥相手は琥珀だって聞きましたが」
知っていやがったかと、カウルスは嘆息する。
それでもあの時、黒の魔術師に助けられて、落ち着いていたように見えても、その瞳が師を追っていたことにカウルスは気づいていた。
多分、あの場に絶対的な信頼を寄せるブランが居たからこそ、ルディは恐怖に心を閉ざしたりすることなく、取り乱さずにいられたのだろう。
「ガキはガキだ。必要だから俺たちがつけられたってことを忘れるなよ」
実戦紛いの模擬戦をこなしても、殺し合いは話が違う。いくら魔法が使えても、彼は未だ十三の少年だ。しかも、あの子の敵手と想定されているのは魔物ではなく、人間である。
「わかってますよ。でも、あの、先輩?」
「なんだ?」
「あの訓練、自分達にも混ざれなんて言われませんよね」
目下のところ、一番の心配事だとリステイルが声を小さくして聞いた。
「‥‥‥聞くな。事実にしたいのか」
怖いことを聞くなと、カウルスは目の前の暴竜嵐同士のぶつかり合いに首を竦める。
琥珀の魔術師と目の前の黒髪の魔術師が、ぶつかり合った現場に居合わせたカウルスだ。
あの時は手加減していると言われても信じられなかったが、二人の異名持ちは確かに手加減していたのだと今ならわかる。
威力と精度がとんでもないにせよ、基本は初級魔法の打ち消し合いという戦い方を選択したこと自体が手加減だ。所々で上級魔法も飛び出したが、威力が抑えられていたあたり、愛嬌といったところか。
彼等が本気で殲滅魔法を撃ち合えば、王都はひとたまりもなく壊滅していただろう。
なにしろ目の前の異名持ちの卵に合わせた威力の魔法でも、小さな村落あたりなら一発で吹き飛ぶような代物なのだ。
「‥‥‥はあ‥‥‥‥」
思わずため息の一つもでてしまう。何の因果だろうと、カウルスは自分の巡り合わせに、つくづく運命の神の作為のようなものを感じていた。
そもそもは公開練習試合からだ。あのとき、この銀髪の子供がやらかしたことに取り乱した自分は正常だと思う。
その後、この少年の誘拐現場に居合わせ、琥珀と黒がやり合うのを目の当たりにした。
そして今度は、空魔法を使えることが明かされた少年の護衛を命じられたのだ。
これからもこの縁がついて回る予感がしてたまらない。
常識を捨ててしまえという囁きに、耳を傾ければ良いものを、自分がしぶとく常識の範疇にとどまろうと悪あがきする種類の人間であると、なんとなくカウルスは悟っていた。実に、不幸なことにだ。
「頼むから、普通って言葉に居場所をつくってやれよ」
切実に、カウルスは彼方に向かって訴える。黒の魔法殺しに、直接言えるほどの度胸はないので。
今日は剣を教えるデューレイアが来れないということで、素振りと、リステイルを相手にした軽い打ち込みだけになった。
「よしルディ、今日は弓をみてやる」
「はいっ」
黒の魔術師に嬉しそうに返事をするルディを前に、カウルスとリステイルは聞き違えたのかと顔を見合わせる。
「先輩、弓って言いましたよね?」
「お前も弓と聞こえたか」
どうやら聞き違いでないとわかったのは、ルディが宙から弓矢を取り出したからだ。
魔術師が弓を使うのは珍しい。皆無とはいわないが、エール=シオンではあまりいない。いても、攻撃魔法を使えないような治癒士などの支援役くらいだ。
他国の軍では、遠距離攻撃専門の魔術師が、魔法を撃てないときには弓を使うことになっていると聞いたことがあるが、少なくとも此奴等のように殲滅魔法を連発して平然としている魔術師には、どう考えても不似合いだった。
しかもこいつがなかなか巧い。
的としてブランが作った薄い素焼きの皿を宙に投げれば、半分以上を射貫いてみせたのだ。魔法抜きの、弓の腕のみでである。
「あれ、ウチの弓術士に負けてないんじゃ」
リステイルが感心したように口にするのに、カウルスも異存はない。
まだ筋力がないから強い弓は引けないが、それでも射程は実戦で使い物になる距離で、命中率は相当なものだ。このまま伸びれば、一流の弓術士になれるに違いないと、カウルスも思う。
この少年が将来異名持ちとなる魔法の使い手でなければ、だ。
才能の無駄遣い。
厳密には違うかもしれないが、カウルスはそう思ってしまった。
図書館の閉館時間まで粘っていたローレイが戻って来た部屋に、明かりが灯っていた。
魔法学校の寮には、光球を使った照明の魔導具が備え付けられている。光魔法の使い手は決して多くはないが、必要な魔法が初級の光球であり難易度も低いため、王都の少し裕福な家庭でも使われている魔導具だ。
魔法学校ではランプもあるが、照明の魔導具もいたるところで使われている。
もっとも魔法学校であるから、寮の部屋にある魔導具への魔力の補充は、基本的に生徒が自分でやらなくてはならない。そのため一年次生徒など、魔力に余裕がない場合に明かりの魔導具を使いたければ、知己の先輩などに頼んだり、補充用の魔石を購入することになる。
明かりの魔導具に必要な魔力はもともと大したことがない。この部屋の住人は片方は問題外で、もう片方もその程度の魔力には不自由していないため、切れたときには気づいた方が魔力の補充をしていた。
しかし、この時間にローレイが帰って来た時に、明かりが灯っていることは珍しい。
ローレイは遅くまで自主練習に励んだり、それでなければ図書館で勉強をしていて、よく寮の門限ギリギリに戻ってくる。ルディは毎日授業の厳しさに疲れ切って帰ってくるため、その時間には、すでに寝ていることがほとんどだからだ。
「おかえり」
「ああ、ただいま。試験勉強かい?」
「うん。勉強遅れてるから」
このところ空魔法の関係でほとんど授業に出ていないため、試験が心配だとルディは教科書を広げていた。
「君は真面目だね。ナイルカリアスやサルーディに見習わせたいところだよ」
「実技は免除してもらっているから、筆記試験はね。でも、あんまりはかどらなくて」
「呪文体系と、こっちは魔物の特性と対処法か」
机を覗き込んだローレイは、広げられている教科書と、ノートの内容を素早く読みとった。
「構成とかは視ればわかるし、呪文使ってないから、覚えてなくて」
「ああ、そういうことか」
無詠唱で魔法を使うルディである。魔石作りで再勉強はしたものの、一言一句正確に覚えている呪文はそう多いとはいえなかった。
基本は抑えてあるが、細かいところまで手が回っていない。ただ、使えと言われれば、ルディは二年次レベルの魔法など容易く使いこなすことがわかっているので、ある意味教師泣かせである。
「魔物関係は実地で先生が教えてくれてるけど、遭遇したことないのも多いしね。薬学は隣の研究室のお姉さんに教えてもらってるし、魔導具関係も大丈夫だと思うんだけど」
さすがにあれもこれも習得するのは無理だ。主に時間的な問題で。
「まだ授業に出るのは無理そうかい?」
「研究室の立ち上げするのに、魔導具の理論検証も同時進行してるから、外させてくれなくて。外部の研究者がアプローチかけてくる前に、校内で基本を抑えておきたいらしいんだ。それに、僕も空魔法の勉強になるし、魔導具弄るの楽しいから、そっちを優先させちゃって」
試験あるし、授業もでなきゃダメだってのはわかっているんだけどと、ばつの悪そうな顔をする。
今週の初めに、魔法学校はルディの空魔法を公表し、王宮から警護の騎士が入ることに伴う警備体制の全面的な変更を全校に通達した。
空魔法の工房兼研究室も、研究棟の一角に作られたため、ルディがそこに詰めることになるのは仕方ない。
しかし、ルディは魔窟での実技授業だけは断固として譲らなかった。そのため、午前中の大部分と授業後は、魔導具の研究と製作に時間を費やされることになっているのだ。
実際、先週に二日間だけ一時限目の授業を受けられただけで、今週になってから午前中の授業には出席できていない。
「無理は駄目だよ。勉強の方は、よければ僕が見てあげようか」
「え、いいの?」
「これでも一応学年首席だからね。試験前は授業後は大体図書館にいるから、時間ができたらくるといい」
「ありがとう。すごく助かる」
「よし。それなら今日はもう休みたまえ」
実際、疲れているのだろう。ルディの顔色は良いとはいえなかった。
「でも」
「いいから。無理は駄目だといっただろう」
ローレイは強引に教科書を閉じて、仕舞ってしまう。
「君、この頃あまり眠れていないんじゃないのかい」
さりげなく図星を突かれたルディは、曖昧な返事で誤魔化そうとしたが、ローレイは正解を読み取っていた。
「余り考え込まない方が良いと思う。これは僕の体験だけどね」
ルディをベッドに追いやり、自身は明日の準備をしながら一方的に話を始めた。
「父が軍務卿ということもあって、我が家には敵が多い。それなりにね。僕自身、何度かその手の賊に襲われかけたこともあるんだ」
つとめて重くならないように話すローレイを、ベッドに腰掛けたままルディは目で追った。
彼が何を言いたいのか、なんとなく見当がついたからだ。
「ローレイ君は、僕のこと」
「監視対象のことは、ある程度知っておく必要があるからね」
つまり、この間の休日の出来事を知っているということだろう。
ルディが暗殺者に襲われ、その手で返り討ちにしたことも。
「命を狙ってきたんだ。反対に殺されたって文句なんかいえないだろう。僕は自分の身を守っただけなんだって、そう思ったよ」
「それは」
ルディのことではない、ローレイは自分のことを言っているのだと気づいた。
ローレイもまた、身を守るために誰かを殺したと言っているのだ。
「そのくせ、その日は眠れなかったよ。不思議なもんだよね。別に何とも思ってないつもりなのに」
「僕も、返り討ちにしたことは仕方ないって思ってる」
「うん。僕はこんな性格だしね、翌日には完全に精神的な切り替えもできたんだ。ただ、人それぞれだし、あんまり気にしすぎない方が良いというくらいしか、言ってあげられないけど」
「ありがとう。でも大丈夫。僕も死にたくないから」
「大人なら酒飲んで寝てしまえって言うところなんだけどって。家の私兵の台詞だけどね」
結局時間が解決することだと、ローレイは言った。
「だから無理にでも寝ろって?」
「そういうことになるかな。しかし、考えてみれば、いわば被害者である僕達が気に病むのも理不尽な話だと思わないかい?」
極論だが、説得力はある。そういう考え方もあるのだと、ルディはローレイの気遣いに少しだけ気分が軽くなった気がした。
「それは、そうかも」
「当たり前の話だろう。殺されたくなければ手を出してこなければいいんだ」
ことさら冷淡に呟いたローレイの本音に、ルディは彼の影に暗い笑みを見た気がする。そして、その違和感のなさに妙に納得した感じがした。
「俺はそこまでして、あの人と戦いたいとは思わんぞ」
カウルスが正直、呆れながら目の前に座り込んでいる第一師団の騎士、兵士達を見れば、自分もですと、リステイルも同意する。
校外授業のためのルディシアールの外出許可が申請されたのが三日前のこと。行き先は第一師団の駐屯地だ。さすがに行き先が行き先なので許可は出た。
加えて黒の魔法殺しの引率だ。
その黒の魔術師とカウルス、リステイル、そして隣の研究室の主、リリータイアの四人を連れて、ルディは軽々と第一師団の駐屯地へ転移した。
時間を有効に使うためと、転移の実践訓練のためだ。
カウルス達にとっては転移の初体験である。構えていたもののやはり一瞬で変わった目の前の光景に、驚愕を隠せないカウルスだったが、慣れた感じで挨拶するデューレイアの存在に我に返る。
朱金の髪をした女性魔導騎士と、彼女の背後に連なった騎士、兵士の一団が、転移先に待ち構えていた。
「デューア、五人で良いと言ったはずだが」
ざっと数えて二十人近くがそこにはいた。
ブランが対戦相手として揃えておくように、デューレイアに頼んだのは五人だ。
「後ろにいるのはいつもの通り見学者よ。もっとも、余裕があれば相手してもらえるんじゃないかって、狙ってるんでしょうけどね」
第一師団内で行われた予選を勝ち抜き、対戦資格を得た五人は、優越感と緊張感を持って、最前列にいた。
槍が三名、剣が二名だ。
「さて、誰からだ」
黒の魔術師が前へ出たのに、カウルスとリステイルが訳がわからないといった顔をする。
まして、試合用の刃を潰した長槍を持って進み出た騎士に対し、ブランがデューレイアから同じく試合用の長槍を受け取ったのに、まさかと思う。
更に槍を軽く振り回し、ウォーミングアップをしたブランが、静かな闘気を纏い、構えの形をとったのには、目を疑った。
いや、確かに出かける前に、ブランも防御のための胸あてや籠手など、簡易な鎧の装備を身につけてはいたが、まさか対戦のためとは思わなかったのだ。
開始の合図とともに、激しい打ち合いが始まる。
長槍を変幻自在に操り、時に鋭い突きを、時に柄で受けていなすなど、竜騎士のカウルスが見て、一級の対戦が繰り広げられた。
第一師団の騎士だけあって、対戦相手の技量もすごいが、黒の魔術師はその上を行く。
「あっ‥‥マズイ」
息を止めて見入っていたカウルスだったが、それは誘いだと思わず声が出た。観戦している第三者であるから指摘できたが、相対していたら、自分でも手を出していただろう。
いや、出さざるを得ないように、流れを作られている。
相手の腕次第では堪えられただろうが、これは無理だ。そしてそこで勝負が決した。
体勢を崩した対戦者の喉元に、ブランの槍が突きつけられている。
「はい、そこまで」
デューレイアの判定の声に、対戦者はブランと礼を交わした。
そのあと、清々しい中に、悲壮な覚悟を秘めたような顔をして、笑顔のリリータイアの前に行く。彼女に負傷箇所を示し、少々の会話をしつつ、小さな瓶を受け取った。
「‥‥う‥‥む‥‥‥‥」
僅かな躊躇の末、彼はぐっと瓶の中の液体を一気に呷る。
周囲の兵士達からは、同情と賞賛の目が、彼に向けられていた。
一方、口元を抑え、少しばかり前屈みになったその様は、瓶の中身が毒薬だったのではないかと疑うような代物だ。
「えーと、あれは?」
丁度側にいたルディに、リステイルが聞いてみた。
「お姉さんが作り出した回復薬です。今日のは、別の人が作った物で、その効果を確かめたいって言っていました」
ルディの言う「お姉さん」が、隣の研究室の老薬師であることは知っている。
美少年に「お姉さん」と呼ばせるとは、最初聞いた時は、カウルスもマジかと思ったものだ。
しかし、ルディの説明をリステイルの横で聞きながら、口に出さなくて本当に良かったと、カウルスは今になってしみじみと胸を撫で下ろした。
薬を飲んだ騎士の腕に負った掠り傷が、じわじわと塞がっていき、痕を残すことなく治ってしまったのに、リリータイアが満足そうに頷く。
そしてブランは、その後も次々と、挑戦者達を撃破していった。
「先輩、あの方、魔法剣士じゃないですよね」
しみじみと、日光に輝く派手な金髪を持つ魔導騎士が、平坦な口調で先輩騎士に確認を求める。黄金の天秤操者の異名の通り、リュレの髪は豪奢な金髪であるが、癖が強く後ろで括っているリステイルの髪も、それに近い見事な金色であった。
「魔術師だな。異名持ちで宮廷魔術師だ」
魔術師の最高峰だと、カウルスは答えた。他に何を言えというのか。
リステイルの言いたいことはわかる。いや、単に異名持ちの範疇に魔法剣士がないだけともいえる。
何故と言うなかれだ。無詠唱で剣に劣らぬ速さで魔法を使い、人外の魔力を有する魔術師が、槍や剣を振るう必要がどこにあるだろう。
しかし、現実は現実として目の前に存在していた。
「‥‥‥師匠がこれか‥‥‥‥‥おとなしく魔術師をやっててくれ。可哀想だろ、周りが」
そういえば、この黒の魔術師は傭兵に扮したマルドナークの魔法剣士二人を、あっさりと斬り殺していたと、カウルスは思い出していた。
それにしても、まさか槍まで遣えるとは知らなかった。しかも、本職に引けを取らないどころか、圧倒しているのだから、何を言えるだろうか。
槍と剣で第一師団の猛者を相手に五連勝してのけた黒の魔術師には、カウルスは戦慄しつつも、呆れかえった。
「ブランが後れを取ったのは、ディケドクルス殿だけよ」
カウルスの独り言を聞いていたデューレイアが、過去のブランの戦績を教える。
エール=シオン随一の槍術士にして、魔槍の使い手、轟槍のディケドクルスといえば、世界に鳴り響く槍の名手だ。
さすがに、純粋な槍のみの対戦で、彼にはブランも激闘の末勝ちを譲った。
当のディケドクルスも、勝ったものの自分にサシでこれほど迫る相手とは、めったにやり合えないと、ブランの腕を絶賛していたという。
「弟子は弟子で、今でも下手な弓術士よりよっぽど良い腕してるし、料理もいける」
昼食の相伴に預かる機会のあったカウルスは、ルディの料理がそこらの食堂より美味いと賞賛したものだ。
「わたしはとっくに、あいつ等に常識を求めることはやめたわ」
デューレイアの言葉に、さもありなんとカウルスは頷く。
そして、リリータイアの回復薬の臨床試験に協力し、疲労回復の効果と傷は治ったものの、あまりの味に顔を崩したままへたり込む対戦者達を見やった。
この罰ゲームがついていてなお、黒の魔術師との対戦を望むバカ共には感心するやら呆れるやらだ。
「この後、ルディの模擬戦をやるからもう少しつきあってちょうだい」
「模擬戦やるんですか?」
思わず聞き返したリステイルの気持ちはわかる。
カウルスも一連の成り行きに、校外授業はてっきり口実だとばかり思い込んでいたからだ。
「そうよ。今日は五対一ね。魔法解禁でやるから、これでもこっちに勝ち目がないんだけど」
もっとも魔法無しでは逆に一対一でも、あの子の方に勝ち目はないとデューレイアは言う。
「ああ、黒の魔法殺しがいるから魔法も寸止めが利くのか」
あの子の相手をする奴も気の毒にと、カウルスは他人事のように思っていた。
彼は先週から、ルディとブランの戦闘訓練を目の当たりにしているのだ。それでなくても、ルディの魔法がすでに常識外の域に達していることを知っている。
「あら、貴方はやらないの?」
「やめてくれ。任務中にそんなことで壊れたら、目も当てられん」
「まあ、言い訳としては十分ね」
もちろん、カウルスの本音など誰が見ても明らかだった。




