買い物
ルディの幼馴染み達に会ったことは微塵も感じさせず、デューレイアはいつもと変わらない態度でブランの研究室に顔を出した。
「デューア姉さん、明後日って時間取れない?」
彼女の顔を見るなり、可愛い弟分の少年がデューレイアに聞いてきた。血のつながりはないが、リュレの養子となって親族の席に加わり、今では本当に弟といっても良い関係だ。
「明後日?」
「うん、学校休みだから、街に買い物に行きたくて」
ダメと言われてあの場は素直に引き下がったが、外出を諦めたわけではなかった。
これでわりとルディも強情なところがある。
一人では無理だというなら、付き添いがあれば良いと言うことだと、まずは「殲滅の紅焔」に聞いてみる。
「あらやだ、今日明日って言うんじゃないだけマシだけど、デートのお誘いはもうちょっと余裕をもってするべきよ」
女にはいろいろ準備が必要なのだと言って聞かせる。
「違う、買い物に付き合って欲しいだけなんだ」
何もそんな全力で否定しなくてもと、デューレイアはちょっとばかり気分がよろしくない。
「ルディ、貴方最近ブランに似てきたわね。わたしに対する態度が」
数少ない身内に入っているのだろうが、はっきり言って女扱いされていない。
自慢じゃないが、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる女として非常に魅力的な体をなんだと思ってるのだ、この男達は。顔の方は、こいつら相手に誇るのは虚しいから、デューレイアもあえて言わない。
朴念仁に教育された天然ほどタチの悪いものはないと思う。
ニッと、良いことを思いついたといった貌をしたデューレイアは、装備である胸当てをささっと外す。
「ね‥姉さん?」
実力行使と、悪戯心もあってデューレイアはルディの頭をぐいっと問答無用で抱き込んだ。
布越しに豊満な胸に顔を埋めることになったルディは、真っ赤になってジタバタと暴れるが、胸の谷間に絶妙にホールドされた頭は、却って肉の感触を思いっきり堪能するハメになった。
「何やってんだ、お前は」
呆れたように、とても楽しそうなデューレイアを見るブランは、どこまでも傍観者で、情けない教え子を助けようとはしなかった。
「教育よ、教育」
散々弄んでから解放したデューレイアは、真っ赤に染まった顔のまま地面にへたり込んだ男の子を、豊かな胸を揺らしながら、よしよしと満足気に見下ろす。
「うふふ、気持ち良かったでしょ。大きくなったらもっとイイコト、お姉さんとしましょうね」
調子に乗ったデューレイアの頭にブランの拳骨が振り下ろされた。
「馬鹿、ガキ相手に‥‥‥まったく」
「いーじゃない、このくらいの役得」
何か逆じゃないかと思うようなことを口走るデューレイアだったが、どう見ても大人のお姉さんが、幼気な男の子を弄んだとしか映らない構図だったのは事実だ。
「羨ましいなら、貴方もやってあげるわよ」
「いらん」
シャレにならないことになりかねないことを、実は半分本気で誘う気で言ったデューレイアは、素っ気ない一言のもとに玉砕した。
こういう男だってのはわかっていたものの、内心ではかなり落ち込む。あそこまで興味ない言い方は、これで自尊心がかなり痛いのだ。
自爆のダメージは大きいものの、立ち直りも早いデューレイアは気をとりなおして、胸当てを付け、まだ座り込んだままのルディに手をのばした。
「ほら、立ちなさいって。大丈夫よ、もうしないから」
一瞬ビクリと怯えられたのに苦笑しつつ、腕を掴んで引っ張り上げる。
こっちはまだまだ救いがありそうだ。師匠のように女を泣かせる朴念仁に育たないように、しっかり教育しようと思ったデューレイアだが、思春期前の純真な少年にそれが女の怖さを教え込みかねないことにまでは、気が回っていなかった。
「明後日はね、残念ながら仕事があって付き合えないわ」
「そうですか」
「何か特別な物でも欲しかったの?言ってくれればお店とか教えてあげるわよ」
かなりがっかりとした様子のルディに、一緒に行ってもらうならローレイにでも予定を聞いてみればどうかと言う。
現在のところは残念ながら、この子と友達付き合いできるのは、カレーズ侯爵家の三男坊くらいしかいないとデューレイアは認識している。
親しい者をつくることが許されない状況に置かれているルディが可哀想だとは思うが、こればかりは現在のところどうしてやることもできない。
不世出の空魔法を使う少年をめぐる情勢は、そのくらい不穏なのだ。
「外出許可が下りなかったんだ。先生かデューア姉さんが同行しないと駄目だって言われた」
ルディは一人で行くつもりで、今日の昼に事務所に外出許可の申請をしたのだが、その場で却下された。
それこそ、何言っているんだとけんもほろろな対応をされたそうだ。その上で、どうしても外出したければ、『黒の魔法殺し』か『殲滅の紅焔』に同行してもらえとまで言われた。
「あーそうか、そっちね」
学校内への出入りの目が厳しくなるなど、警備が強化されているが、来週、正式な体制が発足するまでは、人海戦術で穴を塞ぐつもりで人員がつぎ込まれている。その中で、当の警護対象が外出するなど、到底認められるものではないだろう。
「お前、このあいだ国王に謁見する形で披露目られたもんで、余計に王宮も面子がかかってるからな」
「リュレ様がまた派手にバラしたものね」
「中途半端にバレるより余程良い。最初からきっちり国を巻き込んで対応させた方が、ババアもいろいろとやりやすいんだろう」
何しろ『黄金の天秤操者』は存在自体が派手だ。裏で動くのも得意だが、裏表同時に動かした方が何かと都合が良いのだ。
「そうねぇ。王宮がやっぱりルディを城にでも閉じ込めるって言い出さないか、わたしも心配したわよ」
まだその可能性が残っているのだろうかと、顔色を白くさせたルディを見て、ブランがデューレイアに余計なことを言うなといった視線を向けた。
「転移魔法が使えるんだぞ。そんな事しても逃げるだろう。それに、城がここより安全とは限らん」
「ま、貴方が居るしね」
やりすぎて本人の不興を買うことも避けたいだろうし、今のところの安全との妥協点がこの状態ということだ。
「それで何が欲しいんだ?」
「日用品とか、食べる物。野菜とか買い置きしたいし、魔石も欲しい」
「魔石ならここにあるのを使えばいいだろう」
遠慮はいらないとブランは言う。ほとんどはブランが取ってきたものだが、ルディが裏の荒野や狩りで仕留めた魔物から採取した魔石もあるのだから。
「王宮に納める転移石や魔法鞄は、材料も下準備も全部用意してくれるけど、僕が個人で使う物は自分で用意しないといけないし。それに、流通している魔石も実際に店で見てみたいし、今回は正規の物でそろえたいんだ。」
空魔法を封じるなど、ルディでなくてはできないこと以外は、手配を含め王宮がすべて請け負っている。鞄など職人が製作すれば良い物は、王宮と魔法ギルドが作って、学校に持ち込むということだ。
ルディへの教授時に、鞄の設計や製作手順なども確認して、職人向けのマニュアルも作られている。
王宮へ納める物はそれで良いが、ルディとしては自身で使う魔導具は、別に手をかけたいと思っていた。
「いい心がけね。ルディが自分で買った物を使うなら、誰も文句つけられないもの」
「それで、ミスリル製で魔石を埋め込んだ指輪とか作ってもらおうかと思って。収納魔法の基点にするんだ。その方が楽だし、何かあっても維持出来るしね」
「ふうん、そうなんだ。でもミスリル製か、魔石も良いのでないと不味いし、結構高いわよ」
「大丈夫、転移石作ったときのお金、一杯貰ったから」
「あら、そう」
「うん。リュレ様が謁見した時、国王陛下に言ってくださって」
財務卿もその場には居たものの、モノがモノだけに金額がその場では決まらず保留になっていたのだが、転移石と魔法鞄については、他の魔導具に先んじて決定された。
それで、魔導士長が持ち込んだ三十個の魔石に転移魔法を込めた代金と、国王に謁見した時、献上したのとは別に、その時城で用意できた魔石に転移魔法を込めた代金をあわせて、先日かなりの金額を受け取ったのだ。
リュレが言うには、当然の報酬だから遠慮せずに受け取るべきだということらしい。
「それなりの代価を貰うルールがあれば、際限なく作らされることもなく、まだ取引として成立する。ババアが王宮に釘さしたんだな」
正当な評価を基に価格をつけ、買い叩くような真似をしなかったのは、王国としての見栄や、ルディと空魔法の魔導具の扱いに対する国の姿勢を、リュレや他国へ示すという思惑があるにせよ、一応は王宮としての誠意といって良い。
ちなみに幾ら貰ったのか聞いたデューレイアは、とんでもない金額に目眩がしたが、ブランは案外平気な顔をしていた。
現存する物が国宝級と言われるほど、今までは望んでも手に入れることが出来なかった代物だ。それから考えれば安い位だが、今後も作られることを踏まえた設定価格であるなら、妥当というところだろう。
口に出す愚は犯さなかったが、デューレイアは空魔法を使うルディの価値が、ものすごく具体的にわかった気がした。
「分かった。俺が付いていってやる。ルディ、そう言って外出許可とって来い」
「はいっ」
満面の笑顔を浮かべたルディに、デューレイアは思わず気の抜けた笑みを浮かべた。
「転移魔法をホイホイと使って。よっぽど嬉しかったのねぇ」
即行、文字通り姿を消したルディの喜びように、姉役の女性はしみじみと呟いた。
「うーん、状況そんなに悪いの?」
ルディが空魔法を使うことを王宮で披露したのが、先の休みの日だ。まだ正式な公表がなされていない時点で、もうかなり危険だというのは、事態が動くのが早すぎる気もする。
しかし、そのくらいの手配ができる情報網の持ち主が動くことは、すでに想定済みであった。
そうであれば、デューレイアは自分でも少し荷が重いくらいではないのかと聞いてみる。
仕事があるのは本当だが、デューレイアは自身の実力を過信してはいなかった。
「そのあたりも織り込み済みだ。これからずっと閉じ込めておくわけにもいかないしな」
ルディ自身が閉じ込められることを望まない。護られるのではなく、一人で立てるようになりたいと思っているのだ。
そのくらいの意地や矜持を、あの子供は持っている。
だからこそ、ブランやデューレイアの厳しい指導についていってもいるのだ。
「それで、わたしが誘っても買い物に一度も付き合ってくれない貴方が、二つ返事で引き受けたってわけね」
荒事は避けられないというブランの口ぶりに、デューレイアはやはりそうかと思う。
「女の買い物と一緒にするな」
女性の買い物に付き合うのは苦行だというのは、大抵の男が実感としていることだ。
「ケチ。でもまあ、こっそり転移で抜け出さないだけ、あの子も真面目よね」
転移魔法を使われたら、どんなに警戒したって脱走は防げない。
そういう意味では、ルディはこの男の教え子にしては品行方正だと思う。
しかし、デューレイアは知らなかった。
空魔法の練習と称して、すでにルディとブランが国のあちこちへ跳んでいるということを。厳密に言わなくても、無許可での外出だ。
今まで行ったことのある場所にしか行けないので、ルディが単独で跳べる所は限られている。しかし、そこにブランが加われば話は変わる。
ブランの記憶で一緒に跳ぶなんて荒技を、やらかしていたりするのだ。
転移石を使えば、他人を跳ばすこともできる。例えば、転移石を二個使い、一個でルディを跳ばし、もう一個で自身が跳ぶ。
では、魔石無しでそんなことができないかと、言いだしたのはルディだが、力業ともいえるやり方でやってのけたのは、ブランの反則的な力があってのことだ。
だからブラン以外とは不可能だし、もとより師への絶対的な信頼があるからこそできることである。
「魔法殺しっていう先生の固有魔法は、力の一面なんですね」
ブランの持つ力は、魔力に直接干渉する類のものだ。それは、まだわからないルディの固有魔法を最上位において、他の空魔法があるようなものではないかと思う。
要は力の使い方だと、そのことに気がついたルディに、ブランは僅かな笑みでもって応えた。当然のように口止めされるまでもなく、ルディは誰にも言わない。
また、無断外出だと気がついているのかも怪しいものである。
ブランの方は完全に確信犯だ。
そして、ルディも所詮はブランの教え子である。できるかやってみただけであったのが、少しばかり興が乗って繰り返した程度のつもりだった。
だからこそ、これが外出に該当するのだと、自覚しているのか疑わしい。
このことを知れば、もう少し羽目を外しても良いくらいだと思った自分を、デューレイアは思いっきり罵ったことだろう。
門を出て行く黒髪の青年と銀髪の少年の取り合わせを、兵士達は畏怖を込めた目で見送った。
王国の異名持ち「黒の魔法殺し」の名は知っていても、ここ十数年魔法学校に引きこもっていたこともあり、実際はたまに裏で動いていたが、姿を見るのは初めてという者がほとんどだったからだ。
異名持ちは例外なく美形だとの俗説を裏付けるように、彼はちょっとその辺りでは見かけない目を見張るような美青年だった。おまけに一緒にいるルディがこれまたとんでもない美少年なおかげで、この黒と銀の二人連れはとてつもなく目立っていた。
「魔石は魔法ギルドの直売店だな。迷宮で狩ってくるのが一番安くあげられるが、今回は仕方ない」
迷宮で採れた魔石は、そこの迷宮管理組合が買い上げ魔法ギルドに流れることになっている。
ブランのように自分で使うと申請した場合を除き、迷宮探索者達が迷宮内で狩った魔物から採取される魔石は、そこの迷宮管理組合に売る契約となっているからだ。
その場で適正価格で買い上げてくれ、即換金でき、手間が省けるため、探索者側もそれを受け入れている。
迷宮以外で採れる魔石も含め、余程良いルートを持っていない限り、直接売買するのは買い叩かれる恐れがあったり、手間と費用がかかるため、あえて闇で売る者は訳ありか少数派だ。
また魔石を購入する場合も、正規のルートが推奨されている。
定価と呼ばれる魔法ギルドの定めた適正価格での購入となるため割高だと思われるが、魔法ギルドの保障という信頼性は馬鹿に出来ない。
直売店以外の店では、相場を知った上で余程見る目がないとぼったくられたり、傷物を掴まされる危険性があるからだ。
それに、稀に掘り出し物があることはあるが、多くの品質の良い魔石は、買い叩かれる危険性を避け、正規ルートに売られることがほとんどである。
「研究室にあるのは、先生が狩ってきた物だって聞きましたけど」
「暇つぶしと運動がてらにな。お前も十五になったら、迷宮に連れて行ってやる」
迷宮は十五歳未満は入ることが禁止されている。
エール=シオンにおいて成人は十六歳だが、慣例的に十五歳で大人の仲間入りとみなされ、許可されるものも多い。迷宮に入るのも昔からの慣例で、十五歳でということになっていた。
もっとも、暇つぶしと運動などと危険性を度外視した台詞や、一番安くあげる方法が自分で採ってくるというのは、常識外れの存在であるブランだから言えることだ。
ちなみに、裏の荒野で狩った魔物の魔石も、できるだけ確保するようにはしている。最近では近場に魔物が寄ってこないので、収穫は少ないのだが。
「おや、珍しい。貴方がここに来るのは何年ぶりでしたかね」
魔石店の恰幅の良い女店主が、入ってきたブランを見て眼鏡をかけ直した。
「十年は経っていなかったと思うが。今日の客はコイツの方だ」
軽くお辞儀をしたルディを見て、店主が目を細める。綺麗に結い上げられた赤茶色の髪、その中に多い白髪が相応の年齢を表しているが、その分、経験を積んだ目は穏やかな裡に鋭いプロの色を湛えていた。
一口に魔石といっても大きく分けて三種類の状態がある。
人の手が加えられていない原石、原石を磨いただけの素の魔石、魔石に魔法を付与した魔導具である魔石だ。
ルディの元実家であるシエロ家は素の魔石も扱っているが、魔法を封じた魔石を、製造販売をしている店である。
余談ではあるが、そういった魔導具の一種である魔石は、魔導石、魔封石などといった呼び方もあるが、一般的には全部「魔石」と呼ばれることが多い。
そしてここは、原石および原石を磨いた状態の魔石を取り扱っている魔法ギルドの直売店だ。
いわば魔石の卸店である。
「その子が噂の貴方の弟子かね。生徒証を見せてくれれば学割もできるが、どんな石が欲しいのかい?」
「指輪にするので余り大きな物でなくて良いですけど、最高品質の物を一つと、後はこのクラスのを幾つかお願いします」
図書館でメモしてきた、収納の魔導具に使う魔石の大きさやランクが書かれた紙を、台の上に置く。
「最高品質ね」
値踏みをするような目でメモを見ていた店主が、奥に向かって魔石を持ってくるように声をかける。
「いや実は、王宮が最高級品の魔石を大量に購入していって、一時的な品薄になっていてね。何しろ最高品質はもともと数自体がないから、ウチでも在庫がなくって困っているんだよ」
「王宮がね」
他人事の顔で相槌を打つブランに、彼女は愚痴のような感じで話を続けた。
「相手が王宮じゃ買い占められても文句も言えないしねぇ。他にも中級の上といった売れ筋の杖に使われるクラスの魔石なんかも、大量に買い付けられていてね。ギルドじゃ他国から仕入れに動いているらしいんだよ」
貴方、どういうことか知らないかいと、女店主は在庫の苦しさを訴えながら、探るような目をブランに向けていた。
「‥‥‥王宮って、先生ひょっとして」
「そうだろうな」
間違いなく転移の魔石用と魔法鞄用だろう。大量ってどのくらいだろうと、ルディは自分のところに持ってこられる魔石の数を想像してぞっとする。
いくら一個の価格が高いからと言っても、相手は王宮で庶民の感覚と違う。無理にやらせないとカレーズ侯は約束したが、絶対嘘だとルディは思った。
嘘でなくても、向こうから見れば無理にはならないに違いない。
「お婆ちゃん、この箱で良かった?」
裏から魔石の入った小箱を持ってきた女の子が、ブランを見て固まった。顔を真っ赤にしてブランを凝視したまま立ち尽くした孫娘の手から、店主は箱を取り上げる。
「まったく‥‥‥孫娘を誘惑しないでくれないかい」
ブランにその気がないのは明白だったが、そこは孫可愛さの祖母である。冗談交じりとはいえ、不機嫌を装って念押しした。
「指輪ならこのくらいかい。坊やは指が細いからね。幸いこの大きさなら王宮の買い上げ対象から外れているから選べるよ。品質は最高クラスでも小さいから値段もそれなりだしね」
箱の中には、小さな真紅の魔石が三つ並んでいた。品質的にはどれも同じくらいだろう。ルディは自分の左手中指と比べてみる。
「んー、一番小さいのでもいいかなぁ。大きいと邪魔になるし」
「杖代わりの魔法発動体にするなら、大きい方が良いんじゃないのかい」
「指輪を外した時なんかに魔法を維持する魔力を入れておくだけだから、それ程大きくなくても良いんです」
店主のアドバイスもあったが、用途と自分の指の大きさから、ルディはやはり一番小さいのを選んだ。
「それで、こっちの魔石ですけど」
「こっちも上級品だからね。余り数はないが、ないことはないよ。ある程度店でも在庫を持っておかないと本当に困るから、大判振る舞いはできないけどね」
彼女が言うには、王宮の大量買い付けに乗っかって、それ以外のクラスの品質の良い魔石まで、品薄感に煽られ、魔術師や魔導具職人達が買いに走っているということだ。
「質のできるだけ良い物を、六個欲しいんですけど」
女店主は唸りつつブランを見て、仕方がないと腰を上げた。
「貴方の弟子じゃ仕様がない」
「ついでに言っておくが、コイツはババアの息子でもある」
誼を結んでおいて損はないぞと、さらに圧力をかけた。
「貴方も相変わらず命知らずだね。しかし、金の魔術師様の?」
さすがに本人に向かっては言わないとはいえ、リュレをババアと呼ぶのはブランくらいのものだろう。
「養子だ。まだ成り立てのほやほやだな」
「金の魔術師様のお気に入りの話は聞いてましたがね。そこまでとは」
ギルドの規定でおまけできないのが残念ですと、店主は合計七つの魔石を、学割価格でルディに売った。
「やれやれ、あの子もやはり普通じゃないってことかい」
安くない魔石を即金で買っていった少年とその師匠を見送った店主は、いつまで惚けているのかと、孫娘の頭を軽く叩く。
「お婆ちゃん、誰あれ?すっごい格好良い。そこらの男なんか目じゃないわ」
「なんて口を利くんだい、まったく。ありゃ黒のブランだよ」
うちの国の異名持ちで、お前なんかの相手になるような男じゃないと、店主は孫娘を一喝した。




