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ある魔法剣士の憂鬱 恐怖体験

ハーフエルフの魔法剣士グレンは勇者一行の中で一番の新参者だ。

彼は度重なる魔物との戦闘の中で重要なことに気づいた。


このパーティー、変人ぞろいだが戦闘においても異様である。


勇者一行は戦力と言う意味ではかなり恵まれている。

何しろ全員が魔法の使い手だ。

レベルの差はあれど、攻撃魔法から治癒魔法までそれぞれが使いこなす。

勇者と魔法剣士たる自分は当然ながら、歴戦の僧兵であるルクスもメイスを自在に操り前衛で活躍出来る。

そして残り一人の魔法使い。

まだ子どもではあるが魔族とエルフのハーフと言う、なにやら珍しいハーフエルフであり非常に優れた魔力を持っている。


そう、この魔法使いこそが問題なのだ。



ある日一行は森の中を進んでいた。

そして沼にさしかかったところで、ヘルフロッグの群れに襲われたのだ。

ヘルフロッグは大人の男の腰辺り位まである大きさの蛙の魔物だ。

その凄まじい脚力で飛び跳ね、蹴り、敵を襲う。

人を丸呑み出来そうなほど大きな口から飛び出す舌も強靭で恐ろしい凶器である。

その毒々しい色から察せられるように猛毒も持っている。

個体により色が微妙に違うのも特色だ。


グレンはヘルフロッグの攻撃を軽やかな身のこなしで避けながら叫んだ。


「ちょっと、僕、爬虫類嫌いなんだけど!」


勇者シェイドは剣で一匹のヘルフロッグを斬り裂き、少し離れた所で戦うグレンへ叫ぶ。


「蛙は爬虫類じゃない!両生類だ!」

「そんなのどうでもいいよ!似たようなもんじゃないか!」


あのヌルヌルしてそうな表皮。

もうそれだけでその存在は罪だ。


「蛙の肉は鳥の肉に似て、なかなか美味だぞ」


ルクスはメイスでヘルフロッグの頭を叩き潰し、とどめに聖魔法を撃ち込む。

蛙なんて食べたくもない。

グレンはそう思い、鳥肌がたった。


「フィア、この黄色と黒の水玉がいい」


いいって何が?

食べるならってこと?

それともカラーリングの事か?


グレンは疑問に思い、声のした方を向く。

本来、魔法使いとは後方から魔法で攻撃する存在だ。

だから彼女も後方にいるはずなのだ。本来は。

だが何故か幼い魔法使いは魔物達の中、まさに前衛にいる。

そして持っている杖でヘルフロッグをタコ殴りにしていた。

ボコボコにされたヘルフロッグの頭が爆ぜるのを見て、グレンは思った。


またか、と。



その日の夜。一行は森の先にあった小さな村に泊まった。

宿はなかったが、村長が泊めてくれたのである。

明日からの道程を相談する為、四人は部屋に集まった。

これは良い機会だ。

一度はっきり言わねばならない。

グレンはそう決意すると三人を見渡す。


「戦闘のことなんだけどさ……」

「どうした、グレン?」


不思議そうな勇者にグレンは呆れる。これは自分が言わねば。


「あのね……フィア、前衛に出過ぎ!

君は魔法使いだろ?」


幼い魔法使いは不思議そうな顔でグレンを見た。


「魔法使いだけど、なに?」

「だーかーら!魔法使いは後方から前衛の戦士を援護するもんなの!

君みたいに前衛までトコトコ出て来て、杖で敵をタコ殴りにしたりしないの!」


フィアレインは驚いている。

グレンは今日だけでなく以前の戦闘も思い出して、更に諭した。


「だいたい危ないじゃないか。

この前なんて敵から腹に大きな風穴を開けられてたでしょ!

内臓こぼれるんじゃないかと気が気じゃなかったよ。

しかも君、それを治癒せずに敵をタコ殴りしてるし……」

「別に平気だもん。それくらい」


グレンはちらりと勇者を見やる。

これははっきり言わねば。


「君は内臓がこぼれても、腸を引きずって歩いても平気かもしれないけど……見てる側はそうじゃないの」


そんな恐怖の光景、誰も見たくない。

グレンはその後しばらく懇々と言い聞かせた。

何故なら彼にはそうしなければならない理由がある。

彼の安らかな眠りを守るのだ。




***

それは森に入る前の話だ。

戦闘中、やはり前衛にまで出て来ていたフィアレインの首がはね飛ばされた。

あっと思う間もない出来事だった。

流石のグレンも慌てた位である。

だが三人はそれぞれ敵の相手をしており、駆け寄れない。

一番近い者が治癒魔法をかけるべきなのだろうが……。

三人は悩んだのだ。

人間ならば即死だ。だからこう言う場合は治癒魔法でなく蘇生魔法を使う。

だが彼女には蘇生魔法は効かない。

本人の話では、生命の構造が違うからと言うのだ。

エルフや高位魔族がそうである。

では治癒魔法だろうか?そもそも治癒出来るのかと言う問題がある。

いち早くシェイドが敵を倒し、倒れこんだフィアレインへ駆け寄った。

その時の事である。

突然、首を失ったフィアレインの胴体が立ち上がった。


『ひっ』


とても勇者と思えない情けない声をだして、シェイドは腰を抜かす。

立ち上がった胴体はそのままトコトコとはね飛ばされた首の元へ歩いていく。

そしてしゃがみ込み、その手で首を拾い上げ、切断面へ当てがった。

治癒魔法が発動する。

フィアレインは全員が息を呑み見守る中で首を右へ左へと回している。

そして納得したように頷いて、三人を不思議そうに眺めた。


そしてその夜の事だ。

その日グレンとシェイドは宿で同室となった。

寝静まる深夜、グレンは突然身体を揺さぶられ無理やり起こされる。

嫌々目を開けば、何やらシェイドが自分を覗き込んでいるではないか。


『何……?』


いい気分で寝ていたのだ。流石に機嫌が悪くなる。


『グレン。頼みがある』


神妙なシェイドの様子にただ事でないと思わず起き上がる。


『何があったのさ』

『厠に行きたいが恐ろしくて一人で行けない。ついて来てくれ!』

『……は?』


あまりに突拍子もない頼みにあぜんとする。

今、何と言った?厠?

夜中に一人で用を足しにも行けないなんて大丈夫か、勇者よ。

この勇者は幾つだったか、と悩むグレンへシェイドが追い打ちをかける。


『夢を見たんだ……』

『一応聞いてあげるけど……どんな夢?』


シェイドは身を乗り出す。

そしてガシっとグレンの両腕を掴んだ。

はっきり言って痛い。やめて欲しい。

いやもっと言うなら、もう寝かせてくれ。


『首をはねられたフィアが……。

首を前後間違って付けてしまったから、また首をはねてくれって俺を追いかけてくるんだ!

首が前後逆にくっついた状態で!』

『それは……恐ろしいね』


確かこの勇者は19かそこらだった気がする。

まあ昼のあの光景は確かに恐ろしかったが。

無視しても朝までしつこく枕元で喚かれそうだとグレンは諦める。

そして立ち上がり、シェイドに付き添って厠まで行ったのだ。

厠に入る時もビクビクしながら何度もグレンを振り返る有様である。

用を足した後もグレンの腕を掴んで離さないシェイドを何とか引きずるように部屋へ連れて帰り、眠ることが出来たのだ。


そして翌朝。

生臭坊主が余計な事を言ったのだ。


『そういえばフィア。

切り離された身体の一部は残っていれば付けられると言ったが……。

首と胴体だと、どちらが本体として扱われるのだ?』


フィアレインは首を傾げる。


『試したことないからわかんないけど……』


試したことあったら怖い。


『また別に再生も出来ると過去に聞いたであろう。

となると、頭から胴体が生えてくるのか……はたまた胴体から頭が生えてくるのか……』


フィアレインとルクスが二人で難しい顔をする。

シェイドの顔はもう真っ青だ。

どうやらその場面を想像したらしい。

もしかしたら再生は一瞬なのかもしれないが、シェイドは切断面から肉が盛り上がり頭や胴体が徐々に再生されるのを想像したに違いない。

フィアレインが何か良いことを思いついたように立ち上がる。

グレンは嫌な予感がした。


『気になるから試し……』

『さあさあ!今日は森抜ける予定だから、もう出発するよ!』


グレンは最後まで言わせず立ち上がり手を叩く。

余計な事をされては毎晩シェイドに叩き起こされる。

いっそシェイドと生臭坊主かフィアレインを同室にしてやろうか……。

グレンはそんな事を考えながら出発の準備をした。




***

一連の事を思い出してグレンは語る。

シェイドも恐怖の光景を思い出したのか、なるべく後方にいて欲しいと諭した。

長々と話した末、フィアレインはやっと頷いてくれ一安心である。

そこで話が終わってくれれば良かったのだが。

突然フィアレインはグレンの方を瞳を輝かせながら見た。


「ねえねえ。グレンもやっぱり首が取れてもくっつくの?」


全員がグレンに注目する。

グレンは思わず自分の首に手をやった。

どうだろう。

そもそも首が取れるような経験をした試しがない。

確かに自分もハーフエルフではあるが……。

その半身は人間であり、彼女とも違い寿命だってあるのだ。

はっと顔をあげる。

ジリジリとフィアレインがにじり寄って来てるではないか。

嫌だ、これは何か怖い。


「せっかくだから、ためし……」

「さあ!明日も早いから寝よう!」


グレンは勢いよく立ち上がる。

とんでもないことを言われる前に。



その後彼女が前衛に出てくる事は激減したが、何やら背後から見つめる視線に冷や汗を流すグレンであった。

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